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ふわもこ召喚獣  作者: はるのひ
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 光苔ひかりごけが生える仄暗い洞窟の中を青年が息急き切って駆けていた。後方から群れをなした狼たちが、よだれを垂らしながら猛追している。


 激しく揺れる腰袋から紙に包まれた小さな玉を取り出し、後ろに投げ入れた瞬間、それは炸裂した。


 血臭を含んだ爆風が青年を襲う。耐えきれず転倒するも、すぐさま体を起こして走り始めた。その最中、身を隠せる横道を発見して、そこへ滑り込んだみ、やっと一息つけると青年はずるずると地面に尻をつけた。


 狼の先頭集団は今ので仕留められたかもしれないが、残存数は多い。今は仲間の血と爆薬の臭いで狼たちの鼻を麻痺させられているけれど、回復すればここを見つけられてしまう。狼たちの嗅覚は鋭い。きっと僅かな時間しか稼げなれないだろう。かと言って、闇雲に走るわけにもいかない。体力をいたずらに消耗するだけであるし、最悪なことに唯一の出口に繋がる道は、狼たちの向こう側だ。結局、一度は対峙しなければならない。まずは状況を正しく整理しようと、腰袋に手を回し、手札を確認した。


 手持ちは、愛剣に予備のダガー、ランタン代わりの照光石しょうこうせきが二つ、自作の回復薬とそれに秘蔵の聖水。


 あの群れ相手には、どうにも心細い品揃えである。青年は思わず嘆息した。今回の依頼は、デリク晶石を取ってくるだけの簡単なものだったはずなのに、何故こんなことになったのかと。通常、デリク晶石は洞窟ダンジョンの比較的上層に生えているので、簡素な装備のみで達成できる依頼なのだ。実際、採取自体はすぐに終わった。しかし、帰路に立とうとした矢先に、あの狼、ケイヴウルフの群れに強襲を受け、応戦しながらどうにか逃げて、今に至る。


 他の冒険者がくれば助かるだろうが、そこまで楽観的ではない。むしろ逃走中に他の魔物に出遭わなかったことが幸運といえる。いや、必然かもしれない。ケイヴウルフは本来ならもっとダンジョンの下層にしかいないはずの魔物だ。もともとこの階層にいる魔物たちよりもかなり強い。この階層の魔物に遭遇しなかったのは、ケイヴウルフに怯えて潜んでいるからに違いなかった。


 脱出するためにケイヴウルフたちとやり合うにしても、真っ向勝負では分が悪すぎる。囲まれてジ・エンドである。青年は不吉な想像を消すように頭を振ると、辺りを見回した。では、ここは? この入り口が狭い空間なら、あの図体、入ってこれてもせいぜい一匹か二匹。中は、剣が振える高さと幅もある。入ってきたケイヴウルフを少しずつ確実に始末できるかもしれない。青年はわずかな光明を見いだして、立ち上がった。


 ケイヴウルフたちがすぐそこまで来ている。足音は聞こえないが、獲物を狙う独特の緊張がこちらに伝わってきた。薄闇を睨んでみれば、幾対もの目が光っていた。照光石を足元に転がし、呼吸を整える。荒れていた血流が正常に巡りだしたのを確認すると、愛剣の柄を力強く握り、照光石を踏み砕いた。


 青年が逃げ込んだ隙間から光が漏れ出してきたのを引き金に、ケイヴウルフたちが一斉に襲い掛かった。しかし、その場所は狭く、思うように狩りが行えない。一番初めに突っ込んでいったケイヴウルフが悲鳴をあげて退いてきた。鼻のあたりがごっそりとない。再び悲鳴が反響する。次々に反撃をされているのを感じて、群れの中でひときわ大きいケイヴウルフが咆哮をあげた。


 息をつく間もなく猛攻してくるケイヴウルフを青年は斬って捨てた。入り口付近ではケイヴウルフの死体が溜まっていっている。死に絶えた仲間も生きた仲間さえも踏み台にして襲ってこようする個体がいるのは想定外だった。だんだんと後退させられているのがわかる。それに、何とか凌いでいるが体力の消耗が激しい。


 一体全体、あと何頭いるのか。先刻のひと吠えは、この群れのリーダーのものだろうが、まさか仲間を呼んだのか。ケイヴウルフの牙と爪を避けながら、その後方に目を走らせ、瞠目した。入り口を齧るいくつもの牙や爪が見えたのだ。あれは仲間を呼んだのではない。入り口を広げるように指示したものだったのだ。粗方削れたのか、今度は入り口付近の壁に体当たりをし始めた。振動が伝わり、天井からパラパラと砂が落ちてくる。青年の意識が目の前から逸れたのを敵は見逃さなかった。隙を狙ったケイヴウルフが、青年の剣筋を躱し飛びかかる。青年は倒れながらも剣帯からダガーを引き抜いて、間一髪で牙を跳ね返した。仰向けになった青年に再び天井から砂が溢れて反射的に目を瞑った刹那、うなじに鈍い痛みが走り目蓋の向こう側が強烈に白く染まった。


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