第3話 テレポートした先は..
蓮がテレポートを発動し、馬車ごと移動した4人は気がつくととある森の入り口にワープしていた。
行商人のコーンズは驚愕しながら、
「えっとー 私たちは確か王都のルーデンス王の宮殿にいたはずじゃ.. 」
彼は慌てて地図を確認する。
「えっとー こっ、ここは迷いの森、 ロストーの森の入り口じゃないですか!? どっどうしていきなりこんな場所に? ってかさっきの青い光はいったい? 」
喋るのを止めないルーデンスにモルテムは軽くコーンズの右肩を叩く。モルテムが叩くと同時にコーンズは気絶した。
「蓮さん、あまりテレポーテーションのようないきなりワープする技をいきなり使わないでください。この世界の人たちはあまりワープに慣れていないので。あと彼は少し騒がしかったので気絶させました。」
そこに章介は質問する。
「えっと、僕たちは今どこにいるんですか? 」
モルテムはコーンズの持っていた地図を取り、現在地を確認する。
蓮がテレポートした先はちょうど王都モントーとメルーイ村の間にあるロストーの森の入り口付近にいるようだ。ロストーの森方面は木々が生い茂っているが反対側の景色は草花一つ見当たらない荒野がつづいていた。
蓮は不満げに、
「ちぇっつ、ここメルーイ村じゃねのかよ。距離的には半分ってところかあ。でもテレポート使えなきゃ結構移動だるいぜ。」
モルテムは彼に、
「確かにこの場所はワープした意味は微妙でしょう。ですが、この先のロストーの森に妙な気配を感じます。」
「俺もなんかいると思う。なんかよくわかんねーけど、胸がゾワゾワってする感じ。章介もなんか感じるか? 」
何かを感じる2人だが章介は全くその妙な気配を感じない。
話し合いの結果、章介とモルテムがロストーの森に行くことになりその間蓮は気絶したコーンズと馬車を見張るために入り口で待つことになった。
モルテムが馬車にあった茶色の革製のローブを章介に渡し、章介はそのローブを自分の服の上から羽織った。ローブを羽織ると、モルテムは彼に護身用の短剣、水、回復のポーションを渡す。
「章介様、万が一敵に遭遇した場合私が戦いますが、念のために短剣を渡しておきます。」
「短剣かあ、正直蓮みたいな長い剣がよかったなあ。」
「章介様はまだそのような剣の扱いは難しいかと。」
そんなたわいもない会話をしながら章介とモルテムはロストーの森に入っていく。時刻はまだ昼時あたりだが木々の影に日の光が当たらなくなる。森の中には特にモンスターや魔物の気配はなくむしろ小鳥などの小動物がいるぐらいだ。
さっきの行商人のコーンズが言っていた迷いの森とはいったい何の意味だったのだろうか。
森の中を歩いているとモルテムが突然立ち止まった。
「章介殿、このあたりにまた妙な気配を感じます。いや先ほどから奴は我々をずっと監視している。」
モルテムは右手で灰色の結晶をだし、章介の左側の木々にその結晶を投げつける。いきなりモルテムが攻撃をしたことに章介は驚くがそれと同時に声高い女性の悲鳴が森中に響き渡る。そして2人の前に高身長の女性が現れる。
「ちょっと、そこのじじい! いきなり何すんの! いきなり攻撃するなんて卑怯じゃない! 」
「暗い紫の長い髪に、黄色の瞳、.. 」
モルテムは
「章介様、あちらの方はおそらく魔王幹部のフェミーニですね。私の後ろに少し下がっていてください。」
「へえ、そこのおじいちゃん私のこと知ってるんだ。そう私が魔王幹部の1人、フェミーニよ。」
しかし、フェミーニは自身の人差し指をたて、
「でもね、私いまあなたたちと戦える状況じゃないの。」
「でもなんで、俺たちをずっとつけてきたんだ? 」
章介は彼女に聞く。
「別にいいじゃないあなたたちについて行ったって。」
「質問の答えになってませんね。また先ほどの技をうけたいようですね。」
モルテムはそう言いながらまた右手から灰色の結晶を出す。
「ちょっと! それ結構痛いんだから止めてよ! それに人の話きいてた? 私今戦える状況じゃないの! それにそこのおじいちゃん! 紳士っぽい見た目なのに全然親切じゃないじゃん! 」
彼女の状況を聞き出すのに少し手間取ったが彼女が戦えない理由については理解できた。フェミーニは自身の拠点としてこのロストーの森を選んだ。彼女ははじまりのメルーイ村に近いこのロストーの森なら誰もここに魔王幹部の拠点があるとは思わないと思ったそうだ。拠点を選んだのはいいが、彼女はこの迷いの森とよばれるロストーの森に3ヶ月ほど彷徨っていた。
蓮とモルテムが感じた妙な気配の正体は彼女だったが、彼女にとって今は戦うことではなくこの森を脱出することが最優先だった。モルテムもフェミーニが本当に戦う気がないことを理解し、一時休戦する。
「魔王とかよく分からないけど、魔王幹部のフェミーニさんでも迷子になるんですね。」
章介に指摘されたフェミーニは顔を少し赤くし、
「この森が迷いの森ってことは知ってたけど、まさかこの私まで迷子になるとは思わなかったわ。」
「でもなんでこの森が迷いの森って呼ばれてるんだ? 」
「これはあくまでも噂だけど、この森には ウッドゥンデビー ていう大木の魔獣がいて、そいつがロストーの森の木々を動かして道を変えているの。この森に入ったら二度と出られないって。幸い私はあなたたちの気配を感じて見つけることはできたけど.. 」
「もしかして俺たちもこの森から出られないってこと!? 蓮がいたらテレポートで出られたのに。」
「テレポートってのは知らないけど、私も方法はいくつか試したわ。この森の木々を切り倒したり火炎魔法で燃やしたりしたけど、切っても木はすぐ再生するし、火をつけても急に雨が降ってすぐに火が消えちゃうし.. 」
2人の会話を黙って聞いていたモルテムが、
「つまりその魔獣を倒さないとこの森からは出られないと。まずはその魔獣の位置を割り出さねば。」
微かに臭う魔獣の匂いで位置を探るモルテム。
「私アンデッドだから他の魔獣とかの匂いは分からないの。(他のアンデッドは分かるかもしれないけど..) 」
魔獣の匂いを頼って進む3人、すると隠れていた日がだんだん当たってくる。森の道を進むと大木が見えてきた。大木の周りにはすこし草原が広がっている。
すると3人が歩いていると突然大きな地震が起きた。大木の根っ子が地面から突き抜け、根っ子が3人に目掛けてやってくる。
モルテムは章介を抱え高く飛んだ。
フェミーニは迫ってくる根っ子に火炎魔法を撃つ。
「フレイムウェイブ! 」
モルテムは上空から先ほどの灰色の結晶を大木にぶつけ続ける。
攻撃を続けていると大木に顔が現れた。
フェミーニは続けて他の火炎魔法を大木に撃つ。
「フレイム! 」
「ちょっと、そこの坊やも抱えられてないで攻撃しなさいよ。」
章介には一切魔法が使えない。それに彼にとっては初の戦闘イベントだった。
「章介様、先ほどの短剣を使ってください。実はこの短剣、味方の魔法を吸収し魔法剣にもなります。」
地上に戻り、フェミーニに近く。
「フェミーニさん、この短剣に火炎魔法を打ってください。」
フェミーニは先ほどの火炎魔法フレイムを章介の短剣に打ち込む。
すると、短剣は炎の魔剣へと早変わりした。
「そいつで上から木を叩きこんでやりな。」
フェミーニは章介を大木の天辺目掛けて投げ飛ばす。
高く投げ飛ばされた章介は気絶しそうになるが、魔剣を高く持ち上げる。
上空からの急降下と同時に魔獣ウッドゥンデビーの大木を切りこんでいく。
巨大な大木が真っ二つに割れた。
「爺ちゃん! とどめの魔法撃つから章介をつれて木から離れて! 」
フェミーニの指示を聞いたモルテムは章介をつれて一気に大木から離れる。
「バースト! 」
フェミーニの放った火炎魔法は真っ二つに割れた大木の間に直撃する。
森中一体に爆発音が鳴り響いた。
魔獣ウッドゥンデビーを討伐された森はまた大きな揺れとともに地形がまた変化した。
魔獣を倒した3人はあたりを見渡す。森に入った時にはなかった道が1本続いていた。3人はまっすぐに伸びた1本道を進む。
「フェミーニ殿先ほどの火炎魔法バーストはお見事でした。」
「ありがとう、でも章介の一撃がなかったら倒せなかったよ。ありがとう、章介。」
照れながら章介に礼を言うフェミー二、しかし上空から一気に落下した章介は気絶していた。
道を進んでいると先ほどのロストーの森の入り口に着く。3ヶ月ぶりに森を出ることができたフェミーニは腕を高く伸ばし青空を見つめる。
「うーーん! やっと森からでられたあー! 」
フェミーニの大声で章介は目を覚ます。章介も無事に魔獣を倒せたことそして森から出られたことに安堵する。
目が覚めた章介に気づいたフェミーニは、
「魔王幹部の私が言うことじゃないけど、章介、あなた勇者の資格はあるんじゃない? 次会った時は敵対関係かもしれないけど。」
「ありがとう、フェミーニ! 少しの間だったけど色々と世話になったよ! 」
モルテムが、
「フェミーニさん、どうやらあちらにお迎えの方がいらっしゃるようですよ。」
3人の前に膨大な魔力を保つ者が現れる。