だい5わ 『日本を取り戻(モロ)す』
「ふう、ゴミはあらかた片づけたな……ふう」
パンパンと ほこりをはらいながら 彼女はまんぞくげに 言いました。
「――貴様もよかったな、日本人の誇りまで奪われずにすんで」
うでをくみながら ぼくをみつめて フソウさんは しんけんなかおで そういいます。
そのさわやかさ 日本人 を ぶん投げた 人間とは おもえません。
「き、君は……何者?」
おそるおそる 日本語で 聞きます。
「ただの転校生だ、今日からこの学校で勉強することになった……よろしく頼むよ」
ただのてんこうせいは てんこうしょにちに らんとうさわぎを おこさないと思うんだけど。
「ところで……貴様の名前は?」
くびをかしげる フソウさん。
「え?僕は……グエン――」
「違う、貴様の……本当の名だ、日本人としての名だ」
ああ そうか。
僕は グエンだと 自分に いいきかせていた。
だけどちがう。
それは生きるために しかたなく おやがつけてくれた なまえ。
僕のほんとうの なまえは――
「僕の名は大和武命、日本の昔の神様の名前からつけたんだって」
いっしゅん かたまるフソウさん。
「ふははははははははははははっ!き、貴様がヤマトタケル?同胞に石を投げようとした男が!ヤマトタケルだと!これは酷い冗談だ!ハハハハハッ!」
そのご だいばくしょう。
「ふはははっ!ふはっ!す、すまない……い、いやはや、すまんな、ハハハッ」
ひどい ぼくだってこの名前は だいそれてるとおもってたのに。
「と、ところで……フソウさん、この学校に通うのは……日本人を隠さないと無理だよ」
名前をからかわれたから マウントをとりたいわけじゃないが 僕はそう言っていた。
「なぜじゃ、ここは日本の学校だろうが」
まあ 普通はそう思うよね。
でも それが しんじつ。
このせかいの くつがえしようのない げんじつ。
「ふ、フソウさんだって知ってるでしょ?日本はもう無いの……二つに分断されて、今この場所は大陸の土地なん――」
「違うぞ、タケル」
きっぱりと 言いきる フソウさん。
「この私が立っている場所が『日本』だ――私が滅びぬ限り、日本は蘇る」
ズン と 立ち。
「私は――日本を取り戻す」
少女は そう せんげんすると。
「……すまぬ、噛んだ」
すこし かおを あかくさせて。
僕に せを むけた。
「大和の名を持つものだが、貴様は弱い……せいぜい隠れて生きていてくれ、私に構うな」
ぼくは そのせに たいようの光を 見た。
「……ちょっ!ちょっと待って!フソウさんってば!」
おもわず おいかけていた。
僕は みてしまったというのだろうか。
彼女の そのすがたに 日本の ふっこうした すがたを。
日本が 日本人が 日本人として ふつうに いきていけるせかいを――