表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/32

第五話 馬鹿じゃないの!

「お前、さっきからついてきてるだろ? 姿を見せたらどうだ?」


――シーーーーーーン。


 俺が振り返って呼びかけると、誰も出てこなかった。凄まじいばかりの沈黙である。


「プッ、テム、カッくわるぅうい」

「う、うるさい!」


 何か、ぷ~くすくす、とコウンにすごく笑われた。だが、俺は本気で間違ったとは思ってない。一瞬恥ずかしかったけど、間違ってないのだ!


「もう一度いう、が、その前に、もし出てこないようならこの辺一帯を全て焼き払うからそのつもりでいるように」

「ちょ! 冗談じゃないわよ! 何それ頭おかしいんじゃないの!」

「あ、本当に出てきた~」


 そら見たことか。俺の気配を察せる力に間違いはない。何百年経とうが変わりなく半径数千キロ以内の気配を感知し続けている魔物ジプスの大千理眼も取得しているからな。


 ちなみに下位スキルに千里眼というものもあるが、千理眼とは別物だ。千里眼はただ遠くが見えるだけだが千理眼はあらゆる理を見通す上、その上を行く大千理眼だからな。


「それで、何故俺をつけてきたんだ? ストーカーか?」

「ち、違うわよ! 馬鹿じゃないの!」


 口の悪い女だな。ただ見た目はかなりいいほうなのだろう。髪はピンク色で胸元まで伸びた内巻き仕様。先端はシャープに刈られている。

 

 背は俺より頭一つ分低いか。顔は整っており、パッチリとした紫瞳は吊り上がり気味のキツめな感じ。とはいえそこがまたいいと思う男なんかも多いだろうな。全体的に整っていて見た目だけで判断するなら美少女と言って差し支えない。


 それでいてスタイルはかなりよい。着ているドレスからして露出度がかなり高く、これ見よがしに豊満な胸の谷間が顕になっている。


 全身からフェロモンが溢れ出してそうな女だ。それにしても上手く偽装(・・)してるな。


「ねぇねぇお姉さんって痴女なの?」

「は? な、なんでスライムにそんなこと、て、え! スライムが喋ってる~~~~!」

「えっへん」


 今更だな。そしてコウンはドヤ顔だ。


「それで、ストーカーじゃないなら俺に何のようだ?」

「そ、それが、実は私今困ったことが起きていて」


 急にもじもじして、俺のことをチラッと覗いながら縋るように言ってきてる。やれやれそういうことか。


「トイレならそのへんの茂みですればいいだろ? 別に俺は気にしないぞ」

「なんでよ! なんで私がわざわざあんたの前に姿を晒して下の相談をするのよ! バッカじゃないの!」

「お前、ノリがいいな」

「ちゃんとツッコミで返してくれるんだねぇ~」

「くっ! 何これ? 凄い悔しい!」


 その後、女は胸に手を当ててす~は~と息を整えた。


「実は、悪い人に追われていて、それで助けてもらいたいと思って貴方を追っていたのです」

「ほう。それで何故俺を?」

「途中で戦っている姿を拝見して、とても強い方だなと。ですから――」

 

 そこまで言うと女はつかつかと俺に近づき、両手を取って見つめてきた。


「どうか、どうか私の、私の物になりなさい!」


 そして俺と視線を合わせた女の目が怪しく光る。ふむ――


「アハッ! 成功よ! 私の魅了眼(チャームアイ)が決まったわ! これで貴方は私の物! そう、今後は私が貴方のご主人様よ!」

「ほう、俺がお前の物にか」

「え! そうなの! テムってば彼女の肉人形になっちゃったの!?」

「……何か引っかかるわねその言い方」

「ねぇねぇ、そしたら僕はどうなるの? コウンはコウンコウンはどうなるの?」

「……その名前って、ま、まぁいいわ。貴方は好きにしたらいいわ。どうせ魔物使いの手で強制的に従魔にされたんでしょ? 私が解除してあげるわよ」

「う~ん、もしかしてお姉ちゃんって頭悪い?」

「なんでよ! なんでそうなるのよ!」

「どうでもいいが、コウンは解除なんて出来ないぞ」

 

 しばらくふたりのやり取りを聞いていた俺だが、やれやれこんなところでずっと漫才を聞いていても仕方ないしな。


「アハッ、何いっちゃってるわけ? 言っておくけど、もうあんたは私のもの。奴隷同然なんだから、口答えなんて許さないわよ! さぁ、私にいますぐ跪きなさい!」


――シ~ン……。


「プッ、偉そうに言ったのに、ププッ」

「ちょ、何笑ってるのよ! それに、どうして貴方、私の前に跪かないのよ!」


 指をビシッと突き出してわめき出したが、そう言われてもな。


「言っておくが俺にサキュバスのチャームは効かないぞ」


 俺が忠告すると目の前の女がギョッとした。


「……はい? え? ちょっと待って? なんで、私、正体なんて明かしてないわよね?」

「そんなもの見れば判る。知らないのか? 俺は世界最強の魔物使いを目指す男だ。つまりあらゆる魔物に精通している。だからお前が偽装していることも、お前の正体もひと目見たときからバレバレだったぞ?」

「――ッ!?」


 びっくり仰天といった顔をサキュバスが見せた。そして、くっ、と短く唸ったかと思えば突如煙に巻かれ、そして真の姿をさらけ出す。


「よく見破ったわね! でも、お前はこの後こう思うのよ! 素直に私にチャームされておけばよかったってね!」

「ふむ、なるほど。それにしても驚きだな」

「ふふっ、そうでしょう? 例え私がサキュバスだと判っていたとしても、実物を見たのは初めてでしょうから――」

「お前、露出狂だったんだな」

「て、はぁあああっぁああぁああ!?」


 叫んだその肢体が赤味を増してゆく。なんだこいつ? 自覚なかったのか?


 サキュバスの正体を知らないなんてことはない。今この女が見せたように、背中から蝙蝠の羽を生やし、おしりからは黒くて細くて先端が鏃のようになった尻尾が生えてくる。


 しかし、ただそれだけだ。ソレ以外の見た目に関しては変化はない。だから別にそれをみて怖いと思うことはないし、人によってはより愛らしいと思うこともあるかもしれない。


 ただ、問題はそこではない。重要なのは、服装が大きく変わっているという点だ。


「全く、ドレスのときから随分と破廉恥だなとは思っていたが、まさか今度は下着姿を自ら晒すとは恐れ入ったぞ。これが痴女や露出狂の類でなくて一体なんだというのか?」

 

 何せどうみても黒のブラとショーツだけといった様相だ。下に関しては角度も際どい。


「そっか~お姉ちゃん露出狂だったんだねぇ。とんだほしがりさんだったんだねぇ」

「違うわよ! 大体なんでスライムにそんなことを言われなきゃ駄目なのよ!」

「え~? それってスライム差別だよねぇ?」

「うっさい! とにかく、この格好は変身する上で仕方ないのよ! 羽とか尻尾があるんだから、ドレスなんて着ていられないのよ!」


 なるほど。そう言われてみれば納得できなくもない。しっぽに関してはショーツでも変わらない気もしたが、しかしそこはしっかり尻尾が通るように工夫されていた。


「とにかく! この姿を見せた以上、実力で貴方を服従させてみせるわ!」

「実力で?」

「そうよ! チャームが通用しないなら腕ずくでいくしかないからね!」

「ほぅ、それは面白い。ならば俺もそれ相応の手を取らせてもらうか」

「ふ、ふん。何をしてくるつもりか知らないけど、私の身体能力舐めないでよね! ハッ!」


 サキュバスが地面を蹴り、かと思えば木から木へと飛び回り始めた。


「アハハハ! どう? この速さについてこれるかしら!」

 

 ふむなるほど。見た目のわりにやっていることはまるで猿だな。


 まぁいっか。せっかくだ向こうが最初魅了眼で来たのだから俺もお返しに魔眼系で決めよう。


「――支配眼(ギアスアイズ)


――シュルシュルシュル。


「え? きゃっ、ちょ、何よこれ!」


 サキュバスが騒ぎ出す。縦横無尽に飛び回っていた彼女だが、俺のスキルによってその動きが封じられたからだ。


「すっご~い。蔦が生き物みたいに絡みついていくね~」

「あぁ、自然の力は偉大だ」

「な、何言ってるのよ! ちょ、放して! 何よこれ、何したのよ!」

「別に大したことはしていない。お前の魅了眼に対してのちょっとした意趣返しだ。尤も、俺の場合は支配眼だがな」

「し、支配眼ですって!」

「そうだ。それで今この森の植物を操っている」


 支配眼はあらゆる物を支配する眼だからな。だから飛び回っていたサキュバスを蔦で捕まえて身動きを封じ込めるのも楽勝なのだ。


「くっ、こんな辱めを、絶対に許せないんだから!」

「辱めとはまた酷い言われようだな」


 ただ植物を使って四肢を拘束し、大の字にして縛めているだけだというのに。


「こ、こんな格好させて、さては貴方! 私にエッチなことをするつもりでしょう! 薄い本みたいに!」


 薄い本というのは主に女性のあられもない姿が描かれた本のことだ。基本、本というのは高いものだがとかく男性はそういった物が好きなものである。そこで出来るだけ実用的かつコストが抑えられるように薄くして売り始めた商人がいた。それをキッカケに現在では薄い本と称されている。


「エッチなことかどうかはともかく、それ相応のお返しはさせてもらうぞ」


 俺の支配下にある植物がニョロニョロと蠢き出す。サキュバスが、ヒッ、と顔をひきつらせたが俺はかまうこと無く蔦を彼女の肢体に這わせ。そして――


「コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ~」

「きゃははっははははあ、い、いやだ、ちょ、なにして、ヒッ、くすぐった、い、いやぁああ、あ、ああぁ、ん、は、あは、あはははははあっはははあはああぁ――」


 くすぐり攻撃は効果てきめんだったようだ。本当に面白いように笑ってくれる。


「う~ん、なんとなくだけど今テムはすごい数の何かを敵に回した気がするよ~」

「うん? なぜだ?」

「なんとなく~」


 コウンもたまにおかしなことを言うな。


「さて、どうだ? 参ったか?」

「はぁ、はぁ、じょ、冗談じゃないわよ。この程度のことで、だ、だいたい、たかが擽りじゃない。命まで取られるわけじゃないし」

「……何だ命を取られたいのか?」

「――ふん、何馬鹿なことを言ってるの? どうせとれないんでしょ。擽りなんかで満足している程度のお子様ですものね。殺す度胸もどうせないんでしょ?」

「勘違いするなよ――」

 

 威圧を込める。サキュバスの顔色に変化が見られるが、どうやらまだ足りないようだな。


「言っておくがこの支配眼はあらゆる物を支配できる。つまり、やろうと思えば貴様の細胞も自由自在に操れるということだ」

「……え?」

「その上で、そこまで言うのなら仕方ない。せめて死に方は選ばせてやろう。どう死にたい? 高速で細胞を老化させ、骨と皮だけにして惨めな姿をさらけ出して死ぬか? それとも全身の水分を根こそぎ奪ってからからに乾いた状態で死ぬか? なんなら体中の成分を毒に変えることも可能だぞ? 全身毒化して徐々に蝕まれて死ぬか?」

「ちょ、冗談だよ、ね?」

「なんだ決められないのか? 全く仕方のないやつだ。ならば仕方ない俺が決めてやろう。よし、全身の血液を今から沸騰させて内側から煮込んでやる。覚悟は良いか?」

「ま、待って! ちょっとそんな本気じゃ!」

「さぁ全身の細胞よ俺に答えろ! そして血液を沸騰させ内側から破壊するのだ。さぁ! トドメだ!」

「ひいぃいいぃいいぃいぃいぃいぃいい!?」


――ジョワァアアアァアアァアアァアア。


「……ふむ。参ったな実際は本当にただの脅しのつもりだったのだが」

「あ~あ、やっちゃったね~」

「うむ――」


 いやはやそれにしても――まさか気絶してそのまま失禁してしまうとはな……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ