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第三話 心の友とかいて心友

「それでコウン、友だちになったということで早速頼みがあるんだけどいいかな?」

「なに~?」

 

 ピョンピョンっと跳ねて聞いてくる。普通に見ている分には可愛らしいんだけどな。


「実は俺は魔物使いでね」

「おお~~~~! 魔物使い、カックイイ!」

「そ、そうか? 判るかコウンにも! 魔物使いのかっこよさが!」

「うん、わかるわかる」

「……いや、本当か?」


 跳ねなくなったし、急に態度が投げやりになった気がするぞ。


「まぁ、いいか。とにかくそういうことだから、俺にティムさせてくれ」

「えぇええええええええええええええぇえええぇええええぇええええええええええええええええええええええええええええええ!」


 うぉ! なんだ突然! 目玉飛び出んばかりに、というか今飛び出てなかったか?

 とにかくそれぐらいの勢いで驚き出したぞ。


「いや、ティムだぞ? 知らないのかティム?」

「知ってるよ! 酷いよテム!」


 うん? 酷い?


「酷いって……何がだ?」

「だって! ぼくたちもう友達なんだよね?」」

「あ、あぁ」

「心の友とかいて心友だよね!」

「いや、だからそこまでじゃないぞ」

「それなのにティムなんて酷いよ!」

「おま、コウン、都合の悪いことは聞かないんだな……」


 それにしてもティムが酷いとか、そんなロクでなしみたいな言われ方するとは思わなかった。


「一体何が気に食わないんだ?」

「だって! ティムって魔物を強制的に奴隷にするスキルだよね!」

「え? いや、従魔として契約するためのスキルなんだが」

「でも! それでぼくはテムの言うことを聞かないといけなくなるんでしょ!」


 う~ん、まぁ確かに従属関係を結んだ場合、ある程度は命令に強制力は働くようになるが……。


「それってつまり奴隷と一緒だよね!」

「いや、そこまでの扱いにはならないししないが」

「奴隷にしてぼくの事を弄ぶって事だよね! エロ調教師みたいに!」


 なんだその調教師……そもそもヒトにあったことがない筈なのに妙に人間社会に詳しいなコイツ。


「心友なのに酷いよ! 心友なのに!」

「いや、だから友達な?」

「ねぇテム、普通は心友を奴隷扱いなんてしないよね?」

「いや、だから友だ……」

「テムはティムなんてしないよね? コウン、コウンは心の友だよね!」

「…………」


 何か凄い目をうるうるさせて言われてしまった。そこまで言われると非常にティムし辛い。

 だいたい、俺は相手の意志を尊重するタイプだ。魔物をティムするには納得してもらった上でティムさせてほしい。


 そう考えると……。


「ふぅ、判ったティムは諦めるよ」

「本当?」

「あぁ」

「わ~いわ~い、だからテム大好きだよ~コウン、コウンはテムが大好きさ!」

「うん、だから出来るだけ名前は繰り返さないようにね?」


 まぁ、でもどっちにしろそうなると……。


「仕方ない、コウンともここでお別れか」

「ぎぃええぇえええぇえええぇえええええぇええええぇええええええぇええええええええぇええええぇええええええぇええええええぇえええ!」


 うぉ! なんだ今度は、スライムが大好物のドラゴンにでも出くわしたような断末魔に近い絶叫だったぞ!


「なんだなんだどうした?」

「どうしたじゃないよ! どうして、どうしてそうなるのさ!」

「え? だってティムはさせてくれないんだよな?」

「しないよ!」

「だったら、ここでお別れだよな?」

「なんでさ! 僕たち心友だよね! 名前だってつけてくれたのに! コウンなんてかっこいい名前まで付けてくれたのに、ここでお別れとはテムは酷いやつだよ! ぼくの心をかき乱すだけかき乱して一体何が楽しいのさ! このスライムたらし!」


 まさか魔物使いになってスライムたらしと呼ばれるようになるとは思わなかったぞ。


「……もしかしてコウン、ついてくる気はあるのか?」

「あたりまえだよ! 心友だもの!」


 これは驚いた。俺の中では魔物がついてくるのはティムさせてからって認識だったから、まさか従魔としての契約も結ばずに友だちとしてついてくるなんてね。


「それじゃあ、とりあえずうちにくるか?」

「いくよ! いくいく~!」


 そしてコウンはぴょんっと跳ねて俺の頭の上に乗った。大きさ的に確かに頭に乗れるぐらいではあるけどさ。


「コウン、コウンはテムの家に行くよ!」

「……頭の上でその名前連呼はやめてもらっていいか?」

「え~? どうして~?」


 どうしてって……いやだって、スライムじゃないのを乗せてるような気分になるからな。


「さて、家に戻るといったが、コウン以外の魔物は出来るだけティムしたいからな。魔物を探しながら行くぞ」

「わかった~ぼくも見つけたら教えるよ~」


 うん、それは助かるが、まぁ俺の感知能力があれば見つけるのは楽なんだがな。





 そして山を降りたわけだが……。


「結局一体もティム出来なかった」

「あはは~あれじゃ無理だよね~」

「むぅ、なんでコウンにそんな事わかるんだ?」

「ぼくは逆にどうしてわからないのかが不思議だよ~」 

 

 解せんな。モグラビットを相手にし、モグラビットが得意な穴掘りで認めさせようと思ってついマントルまで掘り進めたりはしたけど、その程度は許容範囲だろ。

  

 まぁなぜかお漏らしして気絶してたけど。


「そもそもこのあたりの魔物は揃いも揃って下がゆるすぎるぞ。どれだけ森をビチョビチョにしたら気が済むんだ」

「テムのやり方だとドラゴンでもビチョビチョだと思うけどね~」

「そんな筈があるか」


 古代種とはいえスライム、しかも世間知らずなようだしな。どうも常識に少し欠けているところがあるようだ。






◇◆◇


「きゃ~~! 可愛い!」


 コウンを連れて帰ったら早速妹が食い付いた。正直結果的にこのインテリスライムのコウンだけ、しかもティムは出来ず友だちとして連れてきただけだからな。


 飽きられるんじゃないかと不安に思ったが、妹は喜んでくれているようだ。


「この子がテムの妹ちゃんなの~?」

「しゃべった~~~~!」

「あぁ、妹のラムだ」

「ラム~よろしくね~」

「凄い! しゃべった、賢い~」

「えっへん」


 コウンが胸を張って、胸なのか? とにかくゼリー状の体を反らせながら得意がる。


「こいつ、しゃべるのか……」

「あらあら、しゃべるスライムなんて珍しいわね。なんというスライムかしら?」

「インテリスライムだな」

「「インテリスライムーーーー!」」


 父と母が声を揃えて驚いた。まぁ珍しいスライムだからな。


「おいおい、それってかなり珍しいんじゃないのか?」

「珍しいどころか古代に絶滅したとされる種よ。現代では幻とされるぐらいなのに……間違いないのテム?」

「鑑定眼を使ったからな」

「お前、鑑定眼を使えたのか……」

「この世界にいる魔物のスキルは一通り使えるようにしたからな」


 尤もインテリスライムのスキルは資料も残っていないから無理だけどな。

 で、コウンを鑑定した結果がこれだ。


コウン

インテリスライム

種別:スライム

捕獲ランク:???



 面白いことに名前がコウンにきまっている。本人が受け入れたからだろう。

 その下は固有の名称。種族はまぁそのまんまだ。捕獲ランクは捕獲出来る難易度を示していて最低がGで最大がSSSなんだが、???とはな。

 よほど珍しいということなんだろう。


「ふむ、それにしてもこのスライム、え~と、名前はあるのか?」

「うん! ぼくコウンだよ! テムがつけてくれたんだ!」

「うむ、コウンか。こ、うん?」

「コウンちゃんね」

「コウンちゃん! 可愛い!」

「そう! ぼくの名前はコウン、コウンだよ! 覚えてね~」

「「…………」」

「コウンちゃんか~」


 妹のラムはコウンの頭をなでて喜んでるが、父と母は何だか微妙な顔だ。


「テム、本当にそれで良かったのか?」

「よかったも何も、本人が喜んでるからな」

「うん! ぼく、かっこいいコウンって名前が大好きだよ! コウンコウン! かっくい~」

「かっくい~コウン、コウンちゃんだ~」

「ラム、名前を繰り返すのは止めなさい。コウンちゃんもね」

「どうして~?」

「どうして~?」


 そろって不思議顔だ。


「ふぅ、まぁそれはいいとしていきなりインテリスライムをティムしてしまうなんて、うむ、流石私達の息子だな!」

「本当ね。例え一匹でも古代種のインテリスライムを従魔にするのだから大したものよ」

「いや、それがティムもしてなければ従魔にもしてないんだ」

「「はい?」」


 ふたりが目を丸くさせた。まぁ判らないでもないけどな。


「そうだよ~ぼくとテムは心友、心の友とかいてしんゆうだからね! ティムなんてする必要がないんだよ!」

「凄い! 心友とかいてともとよぶ盃をかわしたんだね!」

「うん、そうだよ!」

「いや、かわしてないぞ」

「ぎきょうだいのちぎりをかわしたんだね!」

「そうだよ!」

「だからかわしてないぞ」


 それ以前になぜラムはそんな言葉を知っているんだ……おかしい、愛らしい妹がそんな漢臭い台詞を知ってるなんて。


「母さん、だからまだラムには武将×武将物は早いと……」

「あら、別にいいじゃない。折角興味を持ったんだから」


 犯人はあんたか母さん。


「それにしても、テム、従魔契約もなしに懐かれるなんて一周回って逆にすごいぞテム」

「伊達に全方位世界一周はしてないからな」

(全方位世界一周って何かしら……)


 何か母さんが小首をかしげているがここは納得してもらう他ないだろう。


 まぁとにかくだ。その日は新しくメンバーに加わったコウンも含めて、夕食を食べた。コウンが人間と同じものを食べるのは昼食の件でわかっていたが随分と美味しそうにたべていたな。


 そして部屋に戻り、今度は俺からコウンに質問した。


「なぁコウン。俺と一緒にいてくれるなら学園にいくまでの旅にも付き合ってもらうことになると思うんだが、何か戦える力はあるのか?」

「う~ん、どんなの~?」

「酸を飛ばすとかかなスライムだと」

「え~ぼく酸なんて飛ばせないよ~」

「ビュッビュッて出来ないのか?」

「何それ? 出来ないよ~」


 ビュッビュッ出来ないのか。まぁ鑑定でもスキルに表記がなかったしそんな気はしてたが。


「じゃあどんな方法があるんだ? これまではどうしてたんだ?」

「え~とね、サンダースプラッシュ~」


 するとコウンの体から電撃が迸り始めた。


「これは、雷の魔法か……」

「そだよ~」

「他にも使えるのか?」

「サンダーボルトも撃てるけど試す~?」

「いや、いい」


 部屋の中でそれを使われてもめちゃめちゃになるしな。


「それは最初から使えるのか?」

「違うよ~覚えたの~」

「覚えた?」

「うん、落ちてた魔導書をね、取り込んだら頭の中に入ってきたんだ~」


 なるほど。つまりインテリスライムは魔導書を取り込むことで新しい魔法が使えるようになるのか。


 俺は早速母さんの部屋に行き、いらなくなった魔導書をもらうことにした。


「この辺は間違って買ったり、もう読んで覚えたから今度捨てようと思っていたんだけど」

「ならちょうどいい貰っておくよ」

「でも、そんなものどうするの?」

「コウンに食べさせるんだ」

「え?」


 そんなわけでコウンに魔導書を取り込んでもらった。これで土魔法、風魔法、火魔法、雷魔法、聖魔法、神魔法、更にちょっとした次元収納魔法も覚えさせることが出来た。


 尤も次元収納系は俺もパンドラという魔物のスキルである時空操作が使えるから再現可能だけど、コウンで出来るようになるならコウンにまかせてもいいだろう。


 こうしてコウンにも魔法を覚えさせ、俺も色々と準備が整った。


 さぁ、いよいよ旅立ちの時だな!

これにて序章は完結となります。次はサキュバス編です。



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