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第三十話 真の決着

「あ~くさんだ~あいあんれい~ん、ひ~とうぇいぶ~、がいあくらいしす~」

「「「「ぎゃ、ぎゃぁあああぁあああぁあ!」」」」

「ふむ、コウンは上手くやってくれてるようだな」

「が、な、なんなんだテメェらは一体!」


 赤龍王などという大層な二つ名持ちのレッドが引きつった顔で問うてきた。

 コウンの魔法でバンバン数が減っていく有様に仰天しているってところか。


「さっきも言っただろう? 俺はしがないただの魔物使いだ」

「ふ、ふざけるな! あんなわけのわかんない魔物を使役してるただの魔物使いがいてたまるか!」


 そう言われてもな。大体からして――


「言っておくがコウンは俺の従魔ではないぞ? 俺の旅に同行してくれてはいるが、ティムすらしてない」

「な!? 馬鹿な! ふざけたこと抜かすな! ティムもせずなんで魔物がついてくるんだ! 大体あの女だってあの見た目、サキュバスだろ! そんなのまで使役してる分際で!」

「いや、あれこそ勝手についてきたんだがな」

「ウソつけ! くそが! ま、まぁいい。どっちにしろ、魔物使いなんて魔物さえいなければただの一般人とかわんねぇ!」

「あぁ、そのとおりだな。だからチャンスだぞ? 今の俺は一人だ。またとないチャンスだろ? さぁやれるものならやってみろ」

「調子に乗りやがって! 言われなくてもやってやらぁ! 喰らえ! 爆龍弾!」

 

 やれやれまたその技か。眼の前でちょっとした花火が打ち上がったが、花火なら花火でもう少し綺麗に見せてもらいたいものだ。


「どうだ! これでバラバラに、バラバラ、に……」

「お前、真面目にやる気あるのか? こんな出来損ないの魔導爆弾みたいなのを使われてもマッサージにすらならんぞ?」


 レッドが随分と間の抜けた顔で顎が外れたように大口を開けている。間抜けな顔がより一層間抜けになったぞ。


「どうした? お前はまがりなりにも赤龍会とやらのトップなんだろ? 赤龍王などという偉そうな肩書まで持っていてこの程度じゃ、門下生が泣くぞ?」

「く、くそが! 舐めやがって! だったら赤龍の炎鱗! からの、赤龍爆裂拳~~~~~~!」


 接近してきてからやたらめったらと殴りつけてきた。その度に小さな爆発が起きるが、何の感慨もわきやしない。


 ウルフの魔拳道の方がよほど心に響くものがあったぞ。全くくだらん。


「これでとどめだ! 赤龍炎尾脚!」


 炎を纏っての蹴りだ。これも爆発付きだがそもそもこの爆発に無駄が多い。もっと衝撃を集約させないと威力が無駄に拡散されるだけだ。


「な、なな、これでも、ダメージがゼロ、だと?」

「今からお前を殴るぞ。いいな?」

「は? ば、馬鹿が! 俺の体は触れたら爆発する! パンチなんてしたら!」

「ただの魔物使いの、パーンチ――」

――ズドオオオオオオオオォオオォオオォオオオオオオオオオン!


 ふむ、見事に吹っ飛んだな。壁も壊れた。これでも随分と軽くやったんだがな。


 あぁ、そういえば爆発がどうとか言ってたが、こんな爆発、モアリュシオルという巨大な蛍のような魔物の尻の光よりたいしたことないからな。


「全く派手にやってくれるわね」

「はは、本当強すぎっす」

「ガウ……」

「ぴ~」

「テム~コウン、コウンね! 全員魔法でやっつけたんだよ~」


 おっとそうこうしてる間に全員片がついたみたいだな。尤も、ムゲンヘッドという魔物の持つ多重並列思考のおかげで、レッドと戦いながらも全員の戦いぶりはしっかり認識できていたが。


「ローシーには言われたくないものだ。全くエグいやり方だな。あの女の下まで緩くなってたじゃないか」

「う、うるさいわね! 乳臭い言われたから意趣返しよ意趣返し!」


 返済が大きすぎだろ。


 他の皆も大したものだ。ルズとピーに関しては念話で助言したけどな。あのスケイルは皮膚を硬くさせるのが特徴なわけだが、レッドドレインバットには超音波に魔力を乗せて放つ超音魔波というスキルがある。


 それであれば超音波より更に効果が高く、相手は目眩や激しい頭痛に悩まされることになる。あの男の赤龍鱗皮は集中していないと効果が保てないようだからな。


 スキルで意識を途切れさせれば効果も消える。そこへルズのスキルであるシルバーファングを決めれば一溜まりもない。


 尤も、助言だけでそれをすぐに実行できるのは中々のセンスだ。


 ウルフにしてもあれだけの怪我を負った状態で赤龍の尾を自称するあの男に勝ってしまうのだからな。


 しかも俺との戦いで見たヤマタノオロチの技も再現していた。尤も俺のように次元速まで達するのはむりなようで、腕はとにかく高速に動かすことでそれっぽく見せていたようだが。


「でも、これで師匠の仇は取れたっすね――」

「くぅ~ん」


 ウルフがふっと薄い笑みを浮かべて言ったが、あまり嬉しそうには見えない。ルズもどこか慰めるように頬をペロペロ舐めているが。


「馬鹿言うな。まだ決着はついていないだろう」

「……へ?」


 きょとんとするウルフを尻目に、俺は痙攣して気絶しているレッドの元へサクッと近寄り、意識を引きずりあげた。


「ひ、ひぃいいいぃい! な、なんだ! まだ何かあるのか! た、頼む! 土下座でもなんでもするから殺さないでくれ!」


 全く今さっきまで随分とデカいことを言っていたかと思えばこの体たらく。情けない男だ。


「いいから来い」

「ちょ、やめ、腕とか脚とか折れてるから!」


 ぎゃーぎゃうるさいからとにかくズルズル引きずってウルフの前に突き出してやった。


「お前、今からウルフとまた戦え」

「は?」

「え? お、俺とっすか?」

「そうだ。正直俺の中ではウルフの勝利で間違いないが、それだと肝心のウルフが納得出来ないだろう? だから決着をつけよう」

「じょ、冗談じゃない! 大体こっちは腕だって脚だって折れてんだ! 勝負なんて出来るか!」

「それなら大丈夫だ。ほら、これを飲め」

「な、なんだそれ! ふざけるな絶対そんな怪しい薬のま――」

「いいから飲め」


 俺はレッドの口をこじ開けて瓶に溜めておいたソレを注ぎ込んだ。器官に入ったのかやたら咳き込んでるがまぁどうでもいい。


「テム、それ一体何を飲ませたの?」

「別に大したもんじゃない。ただのエリクサーだ」

「いや、エリクサーってそれすごく希少な薬じゃない……伝説の霊薬とまで言われてるのよ? そんなのをこんなやつに……」

「そう言われてもな。別にあとでまた作ればいいことだからな」

「は? エリクサーを作る? え? ちょ、テム頭大丈夫?」


 失礼なやつだ。俺の頭ほど大丈夫かつ安心出来るものは無いというのに。


「全く。魔物のくせに知らないのか? ガオケレナのことを」

「ガオケレナって……神樹ともされる巨大な樹木よね? 確か三百年に一度エリクシアの実がなって、それを材料にエリクサーが作られるって」

「何だ知ってるじゃないか」

「いや、だからこそ貴重だって話なんだけど……」

「まぁ確かに本家から取れる実は貴重だけどな。だがガオケレナはあれでも魔物だからな。SSS級ではあるがようは魔物の大樹で、エリクシアの実もスキルで生み出されてる」

「……あんたまさか」

「そうだ。スキルで出来るものなら、魔物使いなら再現できて当たり前だろ? だから俺がそれを再現した」

「常識はずれもいいとこね……大体再現したって、それでも三百年は作るのにかかるのよね?」

「本来ならそうだが、それだと不便だしな。だから三日に一度作れるように改良した」

「――は? え? 改良? え? あの、ごめん、ちょっと頭痛くなってきた」

「本当テムって非常識だよね」

「なんでだよ」


 全く。大体取得したスキルをそのまま変化もさせず使うだけならただのものまねだ。改良できる余地ががあれば創意と工夫で改善していく。


 それが魔物使いというものだろう。


「何かまた絶対斜め上のこと考えてるわね」

「常識的なことだ。とにかく、これでレッドの怪我も」

「あぁ、そうだ! 確かにそのエリクサーのおかげで俺は完全回復できたぞ! なんなら前より調子がいいぐらいだ! 今なら小僧! 貴様にだって負ける気は!」

「いいから少し黙ってろ」

「ヒッ!」


 全く、少し怪我が治ったからと調子に乗りすぎだ。まぁ威圧で黙らせたけどな。


「さぁ、ウルフもエリクサーを飲むといい」

「……ありがとうっす。でも、その気持ちだけ頂いておくっす」

「む? 何故だ?」

「はは、ただの馬鹿な魔物の安いプライドっす……」


 そう言ってウルフは立ち上がり。


「レッド、怪我も完治したようだし決着をつけるっす。俺はこのままでいいっす。自分で決めたとは言え、俺はテムさんに手を出させてしまったっす。でも、やっぱそれじゃあ納得いかないっす。だから、俺はさっきと変わらないまま、お前を倒してみせるっす」

「……何だそりゃ? 俺も舐められたもんだ。そっちの化物ならともかく、お前程度なら例えお前が全快でも倒してみせるぜ俺は? エリクサーのおかげで力もさらについた気がするからな」

 

 エリクサーは瞬時にどんな怪我でも全快させる霊薬だ。例え部位欠損でもたちどころに治してしまう。


 それ故に、戦いで傷ついた細胞も当然治すが、その際についでに超回復まで促すことがある。怪我の程度やどれだけ肉体を酷使したかにもよるが、あいつはウルフや俺との戦いでその条件をクリアーしたってことだろう。


 その結果、回復前より力がついたってことだ。


「さっきまでの俺のレベルは32程度だったんだがな。今は40を超えている。もう負ける気がしないぜ」

「そうっすか。でもなぜか、今のお前には全く負ける気がしないっすよ」

「はは、言ってろ。おい! 念の為確認だが、これに勝てれば、赤龍会の勝利ってことでいいんだな?」

「もともとはウルフの仇討ちがあって始めたことだ。ウルフが万が一でも負けたなら仕方ないだろう」

「それを聞いて安心したぜ」


 ニヤリと勝ち誇ったような笑みを浮かべる。だが、俺は万が一でも勝てたらといったのだがな。


「だったらまずは赤龍の炎鱗!」

 

 早速それか。


「ふふ、これで接近しての攻撃は封じ込めた。後はさっき見せてきた飛び道具だが、さっき喰らってわかったぜ。あの威力なら今の俺なら問題はねぇとな」

 

 確かにあの光線は一発一発の威力は高くない。


「つまりテメェには俺を倒す手立てがないってことだ」

「一発っす」

「あん?」

「お前をこの一発で倒すっす。というより、もしこれで倒せなかったら俺はもう動ける自信がないっす」

「は? お前馬鹿か? そんなこと宣言して一体誰が当たるか――」

「また技を借りるっす! ハンマの型!」


 ふむ、なるほど。アレを再現するか。


「は、ハンマの型だと? それに何だ、お前の背後に浮かんでる鬼みたいなもんは?」


 鬼だな。俺のに比べると小さいが、それでもかなりの威圧を放っている。


「さぁ行くっす――かわせるものなら、躱してみるっす!」

「ちょ、待て! そんな技、きいてな――」

「問答無用! 喰らえ! 鬼相天壊(きそうてんがい)!」

「グギャアァアアァアアァアアァアアア!」

「はぁ、はぁ、やったっす! 師匠! 俺はやったっすよ!」

「ガウガウ、アオォオオオォオン!」


 ふむ、見事にウルフの手でぶっ飛ばされたなあの赤龍王。どうやら、エリクサーで回復したのも無駄に終わったようだな。それにしてもあれだけの怪我をした相手に宣言通り一撃でやられるとは。


 ま、所詮は人質もとい魔物質でもとらないと勝負にならないような連中だ。この程度なのも納得というものだろうさ。


 とにもかくにもこれで勝負は決まった。ウルフも仇討ちが出来たし、赤龍会をここから追い出すことも可能――


「たのもー!」


 と、そう思っていた矢先、道場の入り口から何者かの声が鳴り響いた。


 振り返ると、そこにはあのレッドと同じ赤い髪の何者かが立っていた。見たところ年はかなり若そうだ。髪型はキノコのようで、ボブカットと言うんだったな。


 格好はズボンにベスト。見た目には中性的だな。目つきはきつめだが、さて、一体誰なのだろうな。


「え~と、何者っすか?」

「……これは失礼した。私の名前はウォン・ドラゴ。ここに兄がいると聞いてやってきたのだが――」


 なるほど。つまりこのウオンという男が、このあたりを収める領主というわけか――

退院しました。まだ本調子ではないですが頑張ります。

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