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第二話 しゃべるスライム現る

「ジュルジュル」

「ふぇぇええぇええん」


 草木をかきわけて進んだ先で俺は随分と珍しいものを見た。

 それはスライムとスライムイーターの組み合わせであった。

 

 スライムイーターというのはスライムを主食とする魔物で、見た目はアリクイに近い。その細長い口を利用して、スライムの体をチュルチュルと吸い込んでしまう。


 スライムにとってはまさに天敵とも言える魔物だが、珍しいというのは別にこのスライムイーターの事ではない。


 どちらかといえば今まさに捕食されようとしているスライムの方に俺の興味は向いていた。

 なぜなら、たすけて~と叫んでいたのはまさにこのスライムだからだ。


 つまりこのスライムは人語を理解して話せるという事になる。何よりこのスライム、他のスライムと明らかに異なる点がある。


 なんと目と口があるのだ。世界中を旅し、数多の魔物を観察し続けた俺も、このスライムを見たのは初めてだ。


 尤も見るのは初めてと言うだけでそういった伝説が残っているのは知っていた。古代にはインテリスライムという知能を有したスライムがいたという記録だ。


 このスライムがその伝説の存在なのだろうか? 今すぐ知る方法がないでもないが、それはまぁ後回しだ。


 魔物使いを目指す身としては、やはりこの状況を放ってはおけない。


「そこまでだ」


 なので、俺はスライムとスライムイーターの間に割って入る。


「え? 誰! 誰! あ、ヒトだね、ヒトヒト~ヒトヒト~」


 後ろでスライムがぴょんとぴょんと飛び跳ねた。なんだろう? 困ってると思ったから間に入ったんだが、妙に緊張感がない。


「ジュルルルルルルルゥ!」

 

 だが、スライムイーターに関しては話は別だ。やはり食事を邪魔されて相当腹が立っているようである。


 だけど、これはチャンスだ。うまくやれば魔物を同時に二体、ティム出来るかもしれない!


 スライムイーターが俺に向かって突っかかって来た。だが、向こうからやってくるなら好都合。


「ブウォオオオオォオォオオオ!」

「ジュルァッ!?」

 

 俺はその場で思いっきり息を吸い込んだ。そう、スライムイータはスライムを吸う、つまり吸引力に自信がある魔物だ。 

 

 だからこそ俺はそのお株を奪うべく、最強の吸引力を見せつける。

 ワールドイーターという魔物がいる。この魔物は世界そのものを瞬時に吸引してしまうと言われているとんでもない存在だが――当然だが俺はそのスキルも取得済みだ。


 尤もそこまでするとこの辺り周辺が俺の胃の中に消えてしまうことになるので調整をし――スポンッ! とスライムイーターの肢体の殆どが俺の口に収まった。


 後肢だけが残り、必死にバタバタさせているが、そんな事で抜けられるわけもない。


「もごもごもごもご(どうだ? 参ったかな?)」

「~~~~~~~~ッ!?(ジョボボボボボボボボボボボボボボボボッ――)」


 むぅ、何ということだ。スライムイーターは俺の口に収まったまま噴出してしまった。まぁ基本スライムだけを食べているこの魔物の分泌物は無味無臭で綺麗なものだから問題ないがな。


 まぁとりあえず、もう抵抗する気もなさそうだしペッとスライムイーターを吐き出した。

 ドサッという音とバシャン! という音を残し、仰向けに倒れる魔物とビチャビチャになった地面が残る。


「さて、これで俺の勝ちだな。よし! これでお前も今日から俺の――」

「ジュルジュルジュルジュルジュルジュルジュルァアアア!(ジョボジョボジョボジョボジョボボボボボボオォオォオ!)


――また、逃げられてしまった。しかも今回も地面を濡らしながらだ。何故なのだろう? 全く納得が出来ない。


「俺はこんなにも魔物をティムしたいと思っているのに……」

「すご~い!」

「うん?」

「すごい、すごいよ~~! わーいヒトに助けてもらったワーイワーイ♪」


 俺が振り返るとそこには今助けたばかりのしゃべるスライムの姿。どうやらかなり喜んでくれているらしい。


「……お前、逃げないのか?」

「え~? どうして~? 僕を助けてくれたんでしょ?」

「あ、あぁそうだな」


 俺が答えると、またぴょんぴょん跳ね回ってわ~いわ~いと喜び始めた。何かちょっとかわいい。


「ありがとう、おまえ~」

「……うん?」

「でも凄いよね~おまえ~」

「……ちょっと待て。おまえって俺のことか?」

「うん、そうだよおまえ~」

「…………」


 なんだろうか? 何故か急に可愛くみえなくなったぞ。


「何で、おまえって呼ぶんだ?」

「え~? だってさっきおまえも僕のことおまえって呼んだよね~?」

「……お、おう――」


 言われてみれば確かにそう言ったな。うん、俺がおまえと言ってるのに、言われてむっとするのは大人気ないが。


「わかった。俺はもうお前とは呼ばないからそこは改めよう」

「わかった~」


 ぴょんぴょんっと跳ねて納得してくれた。素直は素直なんだな。


「じゃあなんて呼べばいいの?」

「う~ん、きみ、とかか?」

「わかったよ、きみ~」

「…………」

「よく頑張ったな、きみ~」

「ちょっと待て」

「なにかな? きみ~?」

「いや、おかしくないか? 何で突然上からっぽくなってるんだ?」

「え~? そうかな~きみ~」

「テムだ」

「え?」

「俺の名前。テム、それが名前だ。もうそれで呼んでくれ」

「うん、判ったよテム~」


 うむ、これなら問題ない。最初からこうすればよかった。


「でもぼく嬉しいよ~良い人間にあったの初めてだもんね~」

「……良い、人間か」


 スパイアイという魔物のスキルに鑑定眼がある。それを行使してみたが、やはりインテリスライムであることに間違いなさそうだ。


 つまり、これまで出会った人間はそういうことなのだろう。


「大変だったな」

「え? どうして~?」

「いや、だって狙われてきたんだろ? 俺以外の人間からは常に」

「え~? ヒトと会ったのは今日が初めてだよ~」

「……」


 なんだこれ? 俺、からかわれているのか?


「それよりもテム~ぼくお願いがあるんだ~」

「お願い?」

「うん! ぼくねもっとヒトのことを知りたいんだ。だからこれもなにかの縁だよね? 運命(さだめ)だよね?」

「お、おう……」

「じゃあ~テム、ぼくと友達になってよ!」


 なにかいつもと違ってグイグイ来るものだから逆に戸惑ったけど、友達か……悪くないな。

 

 まさかここにきて、こんなトントン拍子で従魔が出来るとは思わなかったが。


「ねぇ、ぼくとも、ダチンコになってよ!」

「あ、あぁ。そこは言い直さなくてもしっかり聞こえてるぞ。というかその言い方だと何かおかしなことになってる気がするが……とにかく判った、友達になろう」

「やった! わ~いわ~い、はじめてのヒトの友達だ~わ~いわ~い」


 ピョンピョンっと飛び跳ねて喜びを表現するスライム。何とも無邪気だな。


「わ~い、これでぼくとテムは無二のしんゆうだね!」

「……え?」

「心の友と書いて、心友だね!」

「――いや、悪い初対面で流石にそこまでは……

「え~?」


 スライムは不満そうだが、親友やましてや心友などというものは一朝一夕でなれるものではないのだ。


「ところで、名前とかあるのか?」

「うん! あるよ~ぼくの名前は、ガウンコーランマーラウンコーネリアスライウンコーディーアンドレアスアウンコデリッチキンバリーダーウンコスルカッチンコッチン……」

「ちょっと待て」

「なに~?」


 不思議そうにしているが流石に長すぎだ。思わず止めてしまった。


「いや、その名前、両親がつけたのか?」

「違うよ~ぼくがカッコいいと思ったものをつなげたんだよ~」


 違うのか。それにしてもカッコいいと思うものって、間にだいぶウンコが挟まっていたんだが。


「ちょっと長いな。俺が決めてもいいか?」

「本当! わ~いわ~い、心友のテムに名前をつけてもらえる~」

「いや、だから心友って……まぁいいか。じゃあ名前だが、ウンコでいいか?」


「…………」


 おい、突然飛び跳ねるのをやめてズシーンという効果音がなりそうな澱んだ空気を発しながら落ち込みだしたぞ。


「テム、流石にウンコは酷いよ。心友としてありえないよ……」


 駄目なのか……あんなにカッコいいと思う名前のあいだに挟み込んでおいて、嫌だったのかこいつ。


「……じゃあ、コウンでどうだ?」

「え? コウン!」

「そう、コウンだ」

「コウン……かっこいい!」


 かっこいいのか。


「やった~わ~いわ~い、ぼくの名前はコウン、コウンだ! コウンコウン、かっこいい~」

「うん、とりあえずアレだ。あまり連呼はしないほうがいいぞ」

「えぇ~? どうして~? こんなにカッコいいのに~!」

「……まぁ、コウンがいいならそれでいいんだけどな」


 本人が気に入っているならそれでいいか。

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