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第二十七話 ウルフの魔拳道

「大蛇の型っす!」


 ウルフが件の構えで、両腕を牙に見立てレッドとの距離を詰めた。


「砕牙!」


 俺との戦いでも見せた上下からの同時攻撃。ただ、変化はあった。前は振りが大きく避けられやすかったのが欠点だが、脇をできるだけ締め、コンパクトな動きになっている。


 しかしかといって威力が落ちたかと言えばそんなこともなく、むしろその分全身の回転数を上げ、より靭やかな動きになったことで鋭さが増していた。


「生意気なやつだ!」


 半身を逸らすレッドだったが、ウルフの牙に見立てた爪は見事にその肩に喰らいついた。だが、浅いか。


 とは言えウルフの大蛇はこれで終わりではないからな。俺の時と同じように大蛇旋尾の追撃。しかも前よりも鋭い旋風の蹴りだ。


 レッドが胴体で蹴りを受け止める。かなり強烈だが、頑丈さには自信があるのか、全く痛がる様子も見せずウルフの足を取った。


「オラオラオラオラ!」


 そのままウルフをブンブンっと振り回す。中々の腕力だが、振り回しているレッドの顔や体に傷が刻まれていた。


 ウルフが蛇腹拳で振り回されながらも反撃していたからだ。レッドはこのままでは遠心力が逆に仇になる。


「こ、この野郎が!」


 手を放し、ウルフが勢いよく飛ばされたが、空中で回転して軽やかに着地する。あの様子だとダメージはないな。


「ウルフの奴、やるじゃない!」

「かっくい~よね~」

「ガウガウ!」

「ぴー」


 横から見ていても、優勢なのがウルフなのがわかる。ローシーもコウンも興奮気味でルズは自分のことのように得意がっていた。

 

 ピーも感心している。


「俺は赤龍会のドン赤龍王様だ! テメェなんざに負けるわけがねぇんだよ! 喰らえ! 赤龍の火吹!」

「うわっと!」

「おお! かっくい~!」

「いや、コウン、相手は敵よ?」


 ローシーが呆れているが、コウンからすれば意外に見えたのかもな。

 レッドが勢いよく口から火を吐いたのだから。尤も赤龍王を名乗る程だ。ブレスぐらいは吐けて当然とも言える。


 ウルフも目を丸くしているが、射程は五、六メートルといったところか。十分躱せる距離だ。大体あれで龍の息吹というのも烏滸がましい。


 例えばAランクには紅龍という宝石のように美しい紅色の鱗が特徴的な魔物がいる。その紅龍が行使する紅焔の息吹でさえ森の二つ三つは一息で灰燼にしてしまう。

 

 それに比べたらあんなのは種火みたいなもんだ。ウルフも軽く躱してるしな。


「まだまだ! 喰らえ! 龍火弾!」


 今度は口の中で炎を塊にし吐き出してきたな。ふむ、その分飛距離が伸びて大体十五メートル程度といったところか。


 だが弾速が遅い。トウテキングの投げるジャイロストライクでももっと速いぞ。なにせ飛んでいく衝撃で軌道上の丘が吹っ飛ぶほどだ。


 それに比べたら亀が石を投げてるのと変わらん。当然ウルフはこれもあっさり躱す。


「くそ! ちょこまかと逃げてばかりか!」

「なら覚えたての技を見せるっす! テムさん技を借りるっす! 忍天狼の型――影分身!」


 ほぉ、あれをひと目見ただけで再現するとはやるな。尤も俺は十二体の分身を出したものだが、ウルフは完全再現には至っておらず、生み出したのは二体だ。


 それでも初めてにしては上出来だろう。ちなみにあの時はとりあえず十二体出したが俺は出そうと思えば一万体程度なら軽くいけるけどな。

 

「チッ、この程度の残像! 龍火連弾!」


 今度は火炎弾を連射してきたか。数打てば当たると思っているのかもだが、そんなんじゃ分身すら捉えられないだろう。


「こんなことじゃやられないっす! いくっす!」

「むぐぅ! 全部実態だと!?」


 ウルフ本体もあわせた三位一体の攻撃がレッドに降り注ぐ。状況は圧倒的にウルフが優勢だ。


「これで決めるっす!」

 

 更にウルフが追い詰めにかかる。だが、不敵な笑い。


「馬鹿め! この距離ならもうかわせまい! 爆龍弾!」

 

――ドゴオォオオオオォオオン!


 ほう、口から飛ばせる炎はそこそこ多彩そうだな。ここまでの爆発を引き起こすなんてな。尤も、それでもバルゴドード(爆竜皇)が使用する爆滅咆に比べれば屁みたいなものだけどな。


 とはいえまともにあたれば人狼でもただではすまないだろう。尤もまともに当たっていればだけどな。


「はは、これでこの狼も黒焦げに、いや、四散して元が何だったかも判別つかんかもしれん――」

「ふぅ、今のはちょっとだけヒヤッとしたっす」

「な、なんだとおぉおおおぉおお!」


 正面で両腕を交差させた状態で立ち続けているウルフの姿に随分と驚いているようだ。尤も流石に影分身の一体は消えたようだが。


「なぜだ! まともに喰らってなぜ!」

「五獣の型、そのうちの玄武の甲羅っす。絶対防御の型っす。どんな攻撃も防いでみせるっす」


 Sランクの五獣、それを体現した型ってわけだな。玄武は大亀のような魔物で、非常に固い甲羅はどんな攻撃も通さないと噂されるほどだ。


 ウルフはそれを氣を組み合わせることで再現している。練度も高いし、あの防御はそう簡単に崩せないだろうな。


「まさか、ここまでとはな……」

「俺は少々がっかりっす。この程度の相手に師匠は……だけど、これで終わり「龍刃爪!」な!」


 勝負はほぼ決したように思えた。だが、そこへ割り込む鋭い爪。赤龍会で唯一の女、赤龍の爪を名乗るクロウが割り込んだからだ。


「一体なんのつもりっすか!」

「こういうつもりよ! 龍鱗頭突撃!」


 今度はウルフの真上からスケイルがあの頭突きで降ってきた。ウルフが立っていた地点に衝撃が走る。


 爆轟とちょっとした揺れ。地面は陥没し、もくもくと煙が立ち込めていた。


「くそ! これも避けるか!」


 とは言え、この程度の攻撃を喰らうウルフでもない。スケイルが苦虫を噛み潰したような顔を見せる。


「ちょっとあんたら卑怯よ! 一対一の戦いじゃなかったの!」

「はん、何言ってるのかしら。これだから乳臭い女は」

「な! また乳臭いって言ったわね!」

「ローシーは乳臭いの?」

「臭くないわよ!」

「ぴー! ぴー!」


 コウン、そこに反応するか。まぁサキュバスの中ではおこちゃまらしいしな。ぴーは臭くない! と擁護してるけど。


「クロウの言う通り。大体、最初に全員でかかってこいと言ったのはそこの人狼だ。いくぞ! 龍尾旋風!」


 編み込み頭のテールの脚が迫る。何度も回転しながらの蹴りだ。まさに龍の尻尾の如くといったところか。


「くぅ!」


 ウルフは背後からの攻撃をまともに食らい横に吹っ飛んだ。不意打ちをまともに受けた形だな。


「ちょっとテム! こんなのもう見てられないわ! 加勢しましょう!」

「……いや、まだ駄目だ」

 

 ローシーはどうして? という目を見せるが、肝心のウルフの目がまだ死んでない。 

 ウルフは一旦地面に伏せるような姿勢で着地した後、野生の狼の如く鋭い瞳で睥睨し、唸り声を上げた。


「グルルルゥ、ふぅ、なるほど、確かに俺は言ったっす。全員で掛かってこいと。だから、お前らのやってることに文句を言うつもりはないっす!」

「ほぅ、いい心がけだな」


 随分と偉そうにレッドが言った。もう勝った気でいるようだがそれは流石に甘いだろう。


「だけど、あまり俺を舐めるなっす! いけ影分身!」


 そう、影分身は一体こそ消えたがもう一体残っていた。気配を消しながら、機会を伺わせていたのだろう。

 

 それが迫り、大蛇の構えからの砕牙で襲いかかる。


 だが、影分身の攻撃がレッドにあたった瞬間、分身が爆発し消滅した。


「見たか! これこそが俺の必殺奥義、赤龍の炎鱗! 触れたもの皆爆発させる攻防一体の技だ!」

「な、触れたものが爆発するだって?」


 なるほど。どうやら氣を変化させ纏うことで触れることで爆発する仕組みにしているようだ。影分身は実体はあれど基本的には一撃でも攻撃を受ければ消える程度に脆いのが欠点でもある。


 それに、あの状態なら接近戦を挑むのはキツくなる。触れたら爆発するわけだからな。まぁあくまで常識レベルならだが。


 そもそも攻防一体の技なんてものは高位のドラゴンなら当たり前のように持ってるものだ。常に全身から放電しているライドラン(雷迸竜)や、風と氷で守られているヒエリアルドラゴンなんてものもいる。


 火属性で言えばマグマード(溶岩竜)など表皮がマグマで覆われているからな。


 正直そこまで威張れたものじゃないわけだが――


「龍尾剛縛!」

「ぐっ!」


 すると、今度はテールという男が編み込んだ髪を伸ばし、ウルフの動きを封じ込めに入った。

 あの男の尾はどうやら脚だけをあらわしてるわけじゃなかったようだな。

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