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第二十五話 シルバーウルフのルズ

 俺たちはウルフの案内で元の道場へと向かっていた。梁泊山の頂近くにあるようだが、しかし、なかなかに険しい道だ。俺はともかく、ローシーは引っかかる枝などに辟易としているようでもある。


「その道場に向かうちゃんとした道はないわけ?」

「師匠は日常生活から修行を意識していたっす。だからこそ途中の道もあえて険しくなる場所に道場を建てたっす」

「なるほどな。赤龍会がわざわざ町にまで姉妹道場とやらを作るわけだ。この道を毎回往復していては大変だろうからな」

「修行のためならそれぐらい仕方ないと普通は考えるっすが、連中は町を支配下に置くのが目的でしたからね」


 その手の理由なら当然、町中に監視役をおける状況にしておいた方がいいというわけだ。もっともその道場は俺たちで潰してしまったが。


「でも、それなら町に道場を移せばよかったんじゃないの? どうしてウルフの師匠がいた道場にこだわるのかしら?」

「そんなのは決まってる。もともとあの町はブルー殿の道場で平和を保たれていた。だがそれを赤龍会のレッドが下したんだ。だからこそ道場を手中に収め、自分たちの方が上だと見せつけたいんだろう。だからたとえ不便でも道場を離れるわけにはいかないってわけさ」

「全くもって忌々しい連中っす。あの戦いだって奴らは実力で師匠に勝ったわけじゃないっす。ただ、俺が未熟だっただけなのです。俺が、俺が不甲斐ないばかりに……」

「キュ~ン」


 落ち込むウルフにすり寄るルズ。結果としてみればウルフが奴らに捕まった為に彼の師匠は命を取られることとなった。

 

 だが過ぎたことをくやみ続けていても仕方ない。師匠とてそんなことは望んでいないだろう。


「過去のことでくよくよしていても何も解決はしないだろう。大事なのはこれから何を成すべきかだ」

「……確かにそうっすね! 師匠の仇は必ず俺が討つっす!」

「ワン! ワン! アォオォオオオン!」


 ルズも遠吠えを上げてずいぶんと張り切ってるな。


「ところでそのルズも師匠の従魔だったの?」

「え? 違うっすよ。そもそも師匠に従魔はいなかったっす」

「へ?」


 ローシーが目を白黒させた。ふむ、それにしても従魔がいなかったとはな。


「師匠も魔物使いだったんだよね~? ウルフも従魔だったんでしょ~?」

「そんな! 俺が師匠の従魔なんて恐れ多いっす! そんな資格なかったっすから従魔については丁重にお断りしてたっす!」


 お断りしてたのか。


「師匠は奇特な方で、どれだけの魔物を倒しても決して従魔にしなかったっす。その度にまたティムできなかったとぼやいてたっすけど、あれがわざとなのは俺には判っていたっす!」

「何かすごく誰かさんと同じ匂いが感じられるわね」

「テムが尊敬するのもわかる気がするよ~」

「どういう意味だ」


 全く。とはいえ、どこか他人な気がしないのも確かだ。むしろ今のでより親近感が湧いたぞ。


「でもそれならルズはどうしたの?」

「ルズは山籠りを始めてから出会ったっす。罠に掛かっていたのを助けたらついてくるようになったっす」

「罠にかかっていたのか……」

「あれれ~? そういえばそのルズは?」

 

 うん? そういえば姿が見えないな?


「キャンキャンキャンキャン!」

「ぴ~ぴ~!」

「あ、ピーちゃんが!」


 ピーが鳴いている方へ行くとルズが落とし穴に嵌って鳴いていた。


「ルズ大丈夫っすか?」

「く~ん……」


 ウルフが引き上げてやると、ひしっとウルフにひっついてぷるぷると震えていた。それにしても……。


「ルズ、この辺りは赤龍会が勝手に縄張りにしてるっすが、そのせいで狩猟用の罠も結構はってるっす。気をつけるっす」

「アン! アン! クゥ~ん」


 鳴いたり甘えたりと忙しい狼だ。


「どうでもいいが、本来狼、しかも狼の魔物は警戒心が強いはずなんだがな」


 当然、罠にもかからない。それどころか、魔物使いには狼タイプの魔物で周囲の罠を調べさせることだってあるほどだ。


「ルズは戦闘に特化してるタイプっすから、警戒心が低いっす」

「ガウ!」

「いいのかそれで?」

「狼としては致命的じゃないかしら?」

「ぴ~……」

 

 見ろ、ピーにまで呆れられてるぞ。

 

「る、ルズは出来る子っす! 今はちょっと注意力が散漫なだけっす!」

「ワン! ワンワン! アオーーン!」


 ルズが何か吠えあげて駆けていった。自分だってやれば出来るんだ! 先頭は任せておけといわんばかりだ。


「キャン! キャンキャンキャン!」

「……何かまた鳴いてるわよ」

「ぴ~……」


 ピーが全く仕方ないなぁ、といった様子でルズの後を追った。俺たちもそれに続く。


「くぅ~ん、くぅ~ん」

「また罠っすか! 大丈夫っすかルズ!」

 

 向かった先でルズは足を縄に縛られたまま木の枝に吊り下げられ振り子のように揺れていた。

 足を踏み入れると縄が締まってそのまま宙吊りにされる仕掛けなようだ。

 

 それにしても無駄に大掛かりで、作りが非常に雑だ。見ただけでここに罠があるとわかるものだ。


 おそらく人間でもよほど間の抜けた奴以外は引っかかりはしないだろう。それぐらいわかりやすい仕掛けだが、見事にルズはこれに引っかかったようだ。


「このあたりの罠はすべて食料確保の為に仕掛けられてるようだな。だから食材が傷つかないよう殺傷力は低い。おかげで助かったな」

「アン!」

「いや、そこ多分喜ぶところじゃないわよ」

「ぴ~」

「もう少し警戒心を持ったほうがいいよね~」

「くぅ~ん……」


 ルズがしょんぼりしているが、正直反省はしてもらう必要あるな。下手な罠に掛かって赤龍会に見つかったら面倒だ。


「ルズ、今後は気をつけるっすよ?」

「アン!」

「とりあえず、先頭は俺が引き受けるから、ルズも含めて皆はとにかく俺の歩いた後をついてきてくれ」


 これだけ罠がかけられてるならもうその方が早いからな。大千理眼があれば罠なんてあってないようなものだ。


「ルズ、その横にぶら下がってる骨は罠だからかぶりつくなよ」

「が、がう……」


 案の定噛む気まんまんだったな。本当に警戒心がゆるゆるだなこのシルバーウルフは。


「見えたっす! あそこが道場っす!」


 ウルフが指で示した方向に道場が建っていた。俺たちの頭上に位置するわけだが。


「や、やっとついたのね。本当、山道を抜けたと思ったら、と、どんでもない階段をのぼらされてやっとよ」

「そうか? たかが二万五千段程度だろ? 大したことないだろ」

「そうっすね。この程度なら毎日上り下りしてたっすよ」

「あんたらの頭がおかしいのよ……」


 ぜ~ぜ~と荒い息を吐きながらローシーが文句を言う。ちなみにコウンは途中から俺の頭の上にいた。


「ガフゥ~ガフゥ~ガフゥ~」

「ルズもまだまだっすね」

 

 シルバーウルフのルズも相当お疲れなようだ。戦闘タイプなわりに情けないな。ただの魔物使いな俺でも上れたというのに。


「そもそもローシーは翼があるんだからピーみたいに飛んでくればよかったんじゃないか?」

「……あ」

「ぴ~……」


 気がついてなかったのか……ピーもどこか呆れ顔だぞ。全く残念サキュバスだな。


「とにかく早速いくっす! たのもーーーー!」

「アォオォオオオン!」

「ちょっ! そんな正面から堂々といくわけ?」

「男だな」

「かっくいー!」

「ぴ~」


 ウルフは特にこれといった作戦を考えることもなく、正面の大きな門を勢いよく開けて、声を上げ道場の中へと入っていった。


 正々堂々としたものである。まぁ、特に何も考えてないという可能性も無きにしろあらずだが。


「このクソがぁあああぁああぁあ!」

「「「「「「ぎゃぁああああああぁああ!」」」」」」


 すると、俺たちが門を開けて中に入るとほぼ同時に、奥の方から大声が響き渡り、悲鳴を上げながら赤い塊が飛んできた。


 ふむ、どうやら武道着を纏った男どものようだ。数人が正面から勢いよく飛んできたがそれは左右に散って避ける。

 

 悲鳴が更に続いた階段を転げ落ちる音も聞こえてきたな。他の連中は門の横の塀にぶち当たってそのままめり込んだ。

 

 正直あまりセンスのいいオブジェとは言えないな。


「ふぅ、全くこんなんじゃ全く苛々が収まらないぜ。て、あん? なんだテメェらは?」

「あ! 赤龍王! こいつらです! 俺たちの姉妹道場に乗り込んできて好き勝手やった連中は!」

「……ほぅ――」


 俺たちに指を向けてきたのは、姉妹道場にいたあのハゲだ。名前はスケイルといったか。赤龍の鱗なんて偉そうな事を言ってた奴だが――ふむ、この話しぶりからして真ん中でふんぞり返っているのが赤龍会の頭で間違いなさそうだな。

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