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第二十四話 御墓にて

 明朝、ウルフに先導してもらい彼の師匠の墓へと向かった。アーツの町が好きだった師匠の為、町が望める小高い丘の上に埋葬して上げたようだ。


「墓と言っても、赤龍会のことがあったのであまりちゃんとしたものは作れなかったんっすが……」

「そうか……だがそういうのは気持ちが大事だからな。どんな形であれ心をこめて埋葬したのであればその気持ちは通じているだろう」

 

 実際選んだ場所は亡き師匠を思ってのことなのだろう。そういう気持ちがあれば誰も咎めたりはしないだろう。


「……そういって貰えると嬉しいっす。でも、いずれはちゃんとした墓を建ててあげたいっすね」

「そうだな。そういった目標を持つのも大事なことだろう」

「う~ん、何かテムにしてはいいことを言った感じよね」

「何か悪いものでも食べた~?」

「お前ら俺のこと何だと思っているんだ?」


 全く、俺にだって相手を敬う気持ちもあれば、真面目に考えることだってあるっていうのに。


「さぁ、もうすぐそこですよ。そこの見晴らしのいいところに、あぁ!」

「ガウ!?」


 ウルフが指を差すが、自らがその位置を確認した瞬間、当惑の含まれた驚きの声を上げ弾かれたように飛び出した。


 ルズもその後を追いかける。当然俺たちも後に続いた。


「そんな、どうして……」

「がぅ、くぅ~ん」


 ウルフの肩が小刻みに震えていた。顔は狼だが、それでもその表情に落胆の色が滲んでいることは理解できた。


「テム、すごい荒らされてる……」

「……酷い――」

「ぴ~……」


 コウン、ローシー、ピーも悲しそうだ。

 ウルフが悔しがる気持ちはよくわかる。彼が師匠の為に作った墓標――事前に言っていたように木材を十字架に組み上げ、それを地面に突き立てただけのものだ。地面に向ける側の先端は杭のようになっていたのだろう。


 だが、そんな簡単な作りの墓標でも、ウルフが師匠のことを思って建てられていた事がよくわかる。たとえば使用している木材はこの辺りでもそれほど数は多くない白天樹を利用している。


 白天樹は枯死する直前に樹木の一部が肥大化し、まるで翼のような形状になることで知られる木だ。白木ということもあり、色と肥大化した形が翼に似ていることからまるで天使のようだと崇められており、棺の材料に使われることもある。ただ数が少ないためかその価格は高価だ。


 この近くの森には僅かではあるがこの白天樹が存在する。ウルフはただでさえ貴重なこの樹木の更に枯れ木を探してまわり墓標として利用したのだろう。かなりの労力を要したに違いない。


 だが、その墓標も今は無残に叩き折られ地面に転がされていた。そればかりが地面も散々に荒らされている。一瞬墓荒らしを思い浮かべたが、墓地ならともかく、わざわざここまできて墓を荒らすものはいないだろう。


 それにウルフの話を聞く限り墓荒らしが狙うようなものを埋めていたとは思えない。そもそも遺体を掘り起こす目的ではないのは明らかだ。


 どちらかと言うと墓周辺を踏み荒らしたといった印象の方が大きい。ただ、やっていることが死者への冒涜なことに変わりはないが。


「だれだ、一体誰がこんなことを!」

「ガルルルルルルルウウゥウ!」


 ウルフの膝が折れ膝立ち状態となる。両手は地面に叩きつけられ、奮然たる表情見せた。語気も荒くその感情はかなり高ぶっている。


 相棒のルズもウルフに同調するように唸り声を上げた。いや、それだけじゃない。どうやらルズもそこの近づいてきた存在に気がついたようだ。


「こそこそ覗き見てないで出てきたらどうだ?」

「……ふん、勘のいいガキだ。ムカつくぜ」


 赤い武道着を身に纏った男だ。なんとなく顔に身に覚えがある。赤龍会に属する連中の一人だ。


「全く、昨晩あれだけやられてまだこりないのか?」

「お、お前っすか! 師匠の墓を荒らしたのは!」

「ふん、悪いのはテメェらだ。俺たち赤龍会に逆らったんだ、ぐぼおおぉおぉぉおぉおおお!」


 男が話している途中でダッシュでウルフの拳がその顔面を捉えた。白い歯が何本か飛び散る。振り下ろすような軌道にあわせて男の体が上下逆さまになり地面に叩きつけられていた。


 ピクピクと痙攣する男。地面には放射状に亀裂が走っていた。生きてるか? 動いてるなら生きてるか。


「ウルフ、何かをいいかけていたけど良かったのか?」

「師匠の墓を荒らすような奴に慈悲はないっす!」


 むふぅ~と鼻息荒く語る。やってやったという表情だけどな。


「おそらくだがこれはこいつ一人でやったわけじゃないと思うのだがな」

「え? ち、違うんっすか?」

「よく見ると無数の足跡が残っているしな。どう見ても一人の足跡じゃない」

「なんと! テムさんは探偵でしたか!」

「魔物使いだ」


 別に探偵じゃなくてもこのぐらいのことはわかるだろう。


「つまり、犯人はこの中にいるってことね!」

「ぴー!」

 

 ローシーがドヤ顔で言った。何故かピーも眦を吊り上げて緊張感を出そうとしている。


「なんとこの中に犯人がっすか!」

「うん、そうだね。でも安心して、犯人はこのコウンコウンが見つけるよ! じっちゃ――」

「そこまでだ。だいたいこの中にいるわけがないだろう」

「え~? 折角の決め台詞なのに~」


 何を言おうとしたか知らんが、決め台詞はちゃんと決まってる時に言ったほうがいいな。


「じゃあテムは誰が犯人だと思ってるのよ?」

「赤龍会だろ」

「「「え~~~~!」」」


 いや、なんで驚くんだ。むしろそれしかないだろう。


「全く、こんなことでふざけてる場合じゃないわね」

「俺の記憶が正しければ最初にこの流れを作ったのはお前だぞ」

「うっさいわね。細かいことはどうでもいいじゃない」


 やれやれ。とにかくだ――


「とりあえず、こいつが何を言おうとしてたのかは知りたいところか」

「う、早まったようっすか。申し訳ないっす」


 ウルフがしゅんっとなった。仕方ないな。大事なお墓にこんな真似されて冷静になれというのも難しいのだろう。


「気にすることでもない。みたところまだ生きてるしな。起こせばいいだけだ」

「わう!」


 するとルズが右手を上げて、トコトコと気絶した男の前に歩いていった。

 そして顔の横で後ろ足を上げ。


――しゃ~~~~~~。


 うん、目覚めのシャワーってやつだな。俺が出会う魔物はなぜか下のゆるいのが多かったが、これは今までとちがっていい意味のゆるさだな。


「ブワッ! ぺっぺっぺっぺ! な、なんだこりゃ! う、くせぇ! なまあたたか! こ、こいつさては小便を! てめぇぶち殺すぞこの躾のなってないクソ魔物、ゲブぉ!」

「あ、悪い」


 ついダッシュして顎を蹴り上げてしまった。やれやれ人のことを言えないな。

 尤も手加減したから意識は残ってる。顎が外れたのかフガフガ言ってるけどな。


「ふがぁ! ふぐぉぉう!」

「うるさいやつだ。ほら――」


 上から踵落としを決めてやる。地面に顔型を残すことになったが顎は戻ったようだ。


「お前も散々だな」

「お、お前らがやったんだろが!」


 しゃべられる余裕があるなら問題ないな。


「それで、お前はさっき何をいおうとしたんだ?」

「く、くそ野郎どもが! いいか? お前らは俺たちを怒らせたんだ! そのみすぼらしい墓も俺たち赤龍会が見せしめに荒らしてやった! そして今頃スケイル様が赤龍会の総本山に戻りドラゴ様に報告してるはずだ。お前ら全員皆殺しにされるぞ! あっはっは! どうだビビったか? だが今更後悔したところで、ブベェッ!」


 ウルフの蹴りが男の顎を砕き、浮いたところで拳の乱打。更に空中からの胴回し回転蹴りで地面に叩きつけた。


 殺してこそいないみたいだが、もう全身ボロボロだろうな。まぁ自業自得だ。とりあえず聞ける情報は聞いたから、もうようはないしな。


「それでウルフはこれからどうするんだ? 連中が来たら返り討ちにでもするのか?」

「師匠のお墓が荒らされたのにそんな悠長なこと言ってられないっす! それに、連中が本気で来るなら町の皆をまきこむわけにはいかないっすからね」

 

 確かに、この町で傍若無人な振る舞いを行ってきたような連中だ。暴れまわるときに一々町の被害なんて考えるわけもないだろうし、何なら見せしめなどといい出してあえて被害の大きい方法を狙ってくる可能性だってありえる。


「俺とルズはこれから急いで師匠と過ごした道場に向かうっす! 元々俺はそのつもりでしたから。奴らが総本山などと言って根城にしている道場は元は師匠の道場なのだから絶対取り返すっす!」

「ガウガウ! グルルルルルルゥ!」


 拳を握りしめて今にも飛び出して行きそうなウルフ。隣のルズもかなり荒ぶっているな。


「そうか、なら急いだほうがいい。これからでもすぐ出発するか」

「え?」

「ガウ?」


 ウルフとルズがキョトンとしているな。何だ判ってなかったのか。


「俺も付き合うつもりだ。もちろん仇討ちのジャマをするつもりはないが、こんなことを平気でやってくる連中だ。正々堂々と仇討ちはさせてくれないだろう。ならば露払いぐらいには役立ってみせるさ」

「テムさん……でもどうしてそこまで?」

「町での評判を聞いてブルー・リース殿は尊敬できる御方と判断した。その御墓がこのような目にあっているのだ黙って見過ごしてもおけない。それに魔拳道をもっと見てみたいという気持ちもある。迷惑かな?」

「そんなことはありませんっす! あなたのような御方が一緒に来てくれると言うなら心強いっす。師匠のことをそこまで思っていただけるなんて、師匠もきっと天国で喜んるっす!」

「ガウガウ!」


 どうやら歓迎はしてもらえたようだ。さて、あとは俺の方だが――


「そんなわけだから、俺はウルフと同道させてもらうことになった。もちろんこれは俺の勝手な行動だから、皆にまで付き合ってくれとはいわないが――」

「は? 何馬鹿なこと言ってるのよ全く。ほら、それじゃあさっさといくわよ。こんなことする連中さっさととっちめてやりましょう」

「もちろんコウンも付き合うよ! コウンの魔法で全員倒してみせるよ!」

「ぴっ!」

「……全くお前たちは。ただ、仇討ちはウルフがやるべきことだというのを忘れるなよ」


 そして話もまとまったことで俺たちはもともとウルフの師匠のものであった道場へと向かうこととなった――

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