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第二十三話 ウルフとルズ

「どうもすみませんっすーーーーーー!」

「ガウガウガウーーーーーー!」


 とりあえず俺たちが赤龍会ではないことを人狼と狼の魔物に説明した。そしてそれは意外とあっさり受け入れられた。


 何せ周囲に赤龍会の連中がボロ雑巾のように転がっている。頭に血が昇っていて彼らは全く気がついてなかったようだが、冷静になってから周囲を見回し、更に俺の説明を聞いたことで勘違いだと気がついのだ。


 それにしても人狼の土下座はともかく、シルバーウルフまで土下座っぽい真似をするとはね。ほぼ伏せだけど、ちょっと可愛い。


「別に氣にしてないさ。それに、俺も言葉足らずだったところがあるしな」

「それほぼ確信犯よね?」

「テムって戦うの好きだよね~」

「ぴ~」


 馬鹿言うな。俺は魔物使いとして最低限の鍛え方をしているだけだ。強いやつと戦うことだけが生きがいみたいな冒険者とは違うのだよ。


「それにしてもおみそれいたしました。あ、ご紹介が遅れましたが、俺はウルフ・ロンリーといいます。そしてこっちがシルバーウルフのルズっす」

「ガウガウ」


 紹介されたルズが右手を上げて答える。中々器用だな。


「俺はテム・ティムだ」

「僕はコウン、コウンだよ~」

「私はフー・デオ・ローシーよ。肩のこの子はピーちゃん」

「ぴ~」

「コウンコ、いや、そのいい名前っす!」

「でしょ~? それなのに僕の名前を聞くとみんな微妙な顔をするんだ。失礼しちゃうよね~」

「ガ、ガウ……」


 コウンに関しては明らかに気を遣ってるけどな。ルズもどう反応すべきかと困った顔見せてるし。


「いやはや、ですが本当にお強いっす。俺も山でかなり修行したつもりだったんっすが、もしや名のある武道家様っすか?」

「いや、俺はただの魔物使いだぞ?」

「え! 魔物使いっすか! ということは魔物使いでありながら武術を極めんとする御方が師匠の他にもいたということなんっすね!」


 何かまだ妙な勘違いは続いてそうだ。確かに魔物使いたるもの肉体も鍛える必要があると多少は鍛えたが、それでも基礎体力をつけた程度だ。武術を極めようなどと烏滸がましいことを言うつもりはない。


「どうみてもただの魔物使いじゃないんだけどね」

「でもきっと自覚はないんだろうねぇ~」

「ぴ~ぴ~」


 外野が何かを言っているようだがよく聞こえないな。


「俺は最強の魔物使いを目指してはいるが、武術はさっぱりだぞ。試したこともない」

「またまたご謙遜を」

「ガウガウ」

 

 さっきまでの鋭い刃のような瞳はどこいった? と思えるぐらい表情が柔らかくなったな。かなり友好的だし。


「ふぅ、まぁそのあたりは個々の判断に任せよう。それより、ウルフの師匠が殺されたというのは本当なのか?」


 そう問いかけると瞬時に表情が険しくなった。


「本当っす。でも、それは師匠が弱かったからなんかじゃないっす。悪いのは、俺なんっす! 俺が先走り道場破りにやってきたあいつらに手を出してしまった。師匠は特別な理由がない限り他流試合は行わい方針だったというのに、魔拳道を馬鹿にして目の前で看板を叩き折ろうとする奴らに腹が立ってしまったっす……」

「つまりまんまと挑発に乗ってしまったということだな」

「テム、それはっきりいいすぎじゃない?」

「いえ、いいんっす。事実ですから。そしてその結果俺は破れ人質、いや、魔物質として捉えられ、師匠は俺を助けるために……」


 ある程度聞いていたがやはり事実だった。それにしても残念だ。俺と同じ魔物使いで、俺以上に自らを鍛えることに余念なく新たな流派まで完成させた御方だ。ひと目ぐらいお目にかかりたかったものなのだが。


「ウルフの恨みの原因は判った。それで、この連中はどうする? 俺たちにはもうこれ以上手を出す理由がないが」


 先に手を出された上、俺たちが泊まっている宿にまで迷惑をかけるところだったからな。だからこそ実力行使に出たが、ボロボロになって気絶した連中をこれ以上どうこうするつもりはない。


「――俺の目的はあくまでレッドの野郎です。勿論勝手に町に姉妹道場なんて建てたこいつらも許せず、挑戦しにはきたっすが、既に倒されたものに追い打ちをかけるような真似をするつもりはありませんっす」

「ガウ」

「そうか、それならここは離れるか。ウルフには折角出し聞いてみたいこともあるけど、大丈夫かな?」

「勿論っす! 俺で答えられることなら!」


 何故かよくわからないんだがウルフの俺を見る目がキラキラしている。まぁ嫌われるよりは面倒がないけど。


 問題はこのあとだ。一体どこへ行こうか? 正直行ける場所は宿しかないけど迷惑かけてしまったしやっぱりもう泊めてはくれないかな――





「いやはや驚いた! あの赤龍会の連中をやっつけてくれるとはな!」

「胸がスッとしたぜ!」

「ほら、どんどん呑んでくれ! 俺たちが奢るぜ!」

「いや、俺はまだ成人してないから酒は呑めないんだ」

「それならジュースがあるから飲むといいですよ。お食事もどんどんサービスしますから!」

「あ、なら私はお酒頂くわ。呑めるし」

「これも食べていいの~?」

「もちろんですよど~ぞど~ぞ!」

「ぴ~」

「ルズ、骨付き肉っす! 良かったなっす!」

「ガウ!」

「いやはやでも驚いたぜ。ブルーの弟子だったウルフまで戻ってきてくれるなんてな!」


 ふむ、なんというかどうやら宿に関しては杞憂だったようだ。赤龍会の姉妹道場はこの町の人々からしても厄介な代物で、俺たちが倒したことで溜飲を下げた人も多かったらしい。


 その上で、ブルーの弟子だったウルフもしっかり町の人々は覚えていたらしく再会を喜んでいる。


「でもよぉ、ごめんなぁ。師匠があんな連中に、なのに俺たち何も出来なくて!」

「泣かないでくださいっす! 悪いのは赤龍会のレッドっす。それに師匠は町の皆を大切に思ってたっす。それは俺も同じ。それに魔物であるにも関わらず皆は俺のことを受け入れてくれたっす。だから、俺は師匠の仇討ちは勿論、皆が再び笑顔になれるよう山で修行を続けて強くなったんっす!」


 それはつまり、ウルフは赤龍会を完全に叩き潰すために力をつけ戻ってきたということだ。聞いていた人々のテンションも上がる。


 ブルーの再来だ! と、姉妹道場を倒した方と一緒ならきっとやってくれると信じて疑ってないようだ。


 いつの間にか俺たちも頭数に入ってしまっているのが気になるところではあるけどな。


「テムさん、何か申し訳ないっす。だけど、巻き込むつもりはありません! ここからは俺の戦い。俺一人で何とかやってみせますよ!」

「ガウ!」

「ふむ、しかしルズもやる気充分なようだが?」

「はは、そうかルズ。お前も手伝ってくれるっすか~」

「がうがう」


 尻尾を左右に振りながら、頷くルズ。それにしてもかなり懐いているな。


「そういえば、あの魔拳道についてだが……」

「おっと、テムさんの強さは認めますが、残念ながら魔拳道の秘密は教えるわけにはいきませんっす。俺だって師匠の見てきた記憶からたどり着いたわけですし」

「そうか……あくまで俺が見立てた推測を聞いてもらおうかと思ったまでだが、それなら余計なことは言わないほうがいいか」


 苦労してようやく手にすることが出来た技だというなら、下手なことを言うものではないか。


「……ちょっと気になるかもしれないです。推測って何ですか?」

「あぁ、魔拳道という技がどんなものか、なんとなく判った気がしたからな。それを聞いてもらおうかと思ったのだ」

「は、はは。冗談キツイでっすね。俺が苦労して苦労して取得できた技をそう簡単に見破れると思わないのですが」

「勿論見破るといってもそこまで細かくではないさ。ただ、魔拳道というのは魔物の動きを取り入れた武術ではないかと思ったまでで」

「――ッ!」


 ウルフが両目を見開き、信じられないものを見たような表情。どうやら技を見破られたとかなり驚いているらしい。

 

「お、おみそれいたしましたーーーー!」


 そして何故か五体を地に投げ、ひれ伏すようなポーズを見せてきた。


「いや、流石にそこまでされるほどじゃない」

「いやいや! 俺が何年も掛けてようやく掴むことが出来た技をひと目見ただけで見破るなんて、手合わせしたときから只者ではないと思ってましたっすよ」

 

 いつのまにか手合わせになっていた。それにしても技に関しては俺はただどんな技かを推測しただけだからな。実際に会得するのとは意味が違うし、そこまで称賛されることでもないだろう。


 まぁ何はともあれ、何か宴みたいなノリになりはしたが、おかげで旨い食事にありつくことが出来た。

 

 そして夜が明け、俺はウルフに一つ頼み事をした。彼の師匠の墓参りをさせて欲しいと――

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