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第二十二話 乱入者

 突如現れた連中が俺に向けて襲いかかってきた。一人は飛び蹴りで、一匹は牙と爪で攻撃を仕掛けてくる。


 何故狙われているのかはわからないが、双方の攻撃を受け止めつつ、後方へ受け流した。


「くそ! 中々やるな!」

「グルルルルルルルゥウウ!」


 ふむ、どこか憎悪が感じられる瞳だ。何より、相手は人間ではない魔物だ。人の言葉を介してはいるけどな。

 

 見た目には人型の狼といったところか。ワーウルフ、いわゆる人狼だ。この世界に種族として浸透している獣人と異なり獣としての比率のほうが高い。


 そのため、顔も狼のソレだし、毛並みも狼そのもの。青と淡い灰色のツートンカラーなようだな。


 ようだなというのはこの魔物、武道着を身にしているのだ。あの赤龍会の連中が着ているようなものだが、色はこちらは青だ。龍の刺繍はないが、背中に魔という文字が入っている。

 

「だが、ここで会ったが百年目! 俺は絶対にお前たち赤龍会を許さないっす! 師匠の仇だ! 覚悟しろっす!」

「師匠?」


 なんとなくだが、その言葉で話が見えてきた気がする。


「ちょっとあんた! 突然何してくれてるのよ! 大体テムは別に赤龍会じゃ……」

「待てローシー」


 俺はローシーの言葉を途中で遮った。この人狼は赤龍会に恨みを持っている。それは間違いない。


 だから本来俺たちとは関係ないが頭に血が昇っている状態でいくら違うと言っても聞く耳を持ってくれない可能性がある。


 いや、それはいいわけか。何より俺は、この魔物と戦ってみたくなった。それが本音だ。なんとなくだが、この人狼、今戦った赤龍会の鱗などと偉ぶる奴より遥かにやりそうなのだ。

 

「仇というがお前一人で何が出来ると言うんだ? 赤龍会は中々大きな門派なようだぞ? 一人と一匹では返り討ちに合うのが関の山じゃないのか?」

「黙れ! 俺は以前の俺とは違うっす! 一人山にこもり修行を重ね、師匠が編み出した魔拳道(マーケンドー)を磨き続けた! もうレッドに遅れを取った俺とは違うっす! それを今証明してやるっす!」


 魔拳道か。俺も修行の為に世界を見て回ったがその武術のことは知らない。果たしてどんな技なのか興味ある。


「テム~なんか楽しそう~」

「あれは敢えて挑発したのね。本当男って馬鹿よね」

「ぴ~」


 馬鹿で結構。そして楽しそうというのは間違いではない。俺の胸は今かなり高鳴ってきている。


「いくぞ! 魔拳道・大蛇の型!」


 大蛇の型か。両手を上下に構えて、確かに大蛇の巨大な口を体現しているようではある。


「喰らえ! 砕牙!」


 人狼が一足飛びで俺に迫り、上下に構えた爪で挟み込んでくる。裂帛の気合と纏われた氣によって、本物の大蛇の牙を思わせる。

 

 しかし、これは実際の大蛇にも言えることだがモーションが大きい。その速度と突進力は買うが、来るとわかっていれば避けるのは容易かった。


「まだまだっす! 大蛇旋尾!」


 だが、本来なら隙だらけになる突撃に、人狼は尻尾を振るうような蹴りを加えてきた。

 ブォン! という風ごと叩きつけるような重低音。なるほど、もし俺が何も考えずに反撃に転じていたならカウンターでこの蹴りを喰らっていたことだろう。


 勿論、俺が何も考えてないなんてことはないのだがな。奴の目は明らかに何かを狙っていたから比較的わかりやすかった。

 

 とは言え、威力を確かめるために敢えて一撃貰う。なるほど、確かに大蛇を彷彿させる蹴りだ。とっさに逆側に飛んでなければもしかしたらダメージが残ったかも知れない。


 蹴りの回転に合わせる形で飛んだおかげで助かったけどな。空中でバク転するようにして着地。


「蛇腹拳!」


 その先で待っていたのは本来の大蛇にはありえない攻撃。距離を詰めてきた人狼の腕がまさに蛇腹の如きしなりながら迫った。


 音速を超えた、パンッ! パンッ! パンッ! という炸裂音が小刻みに耳に届き、見た目以上にリーチが伸びた腕と爪による連続攻撃。リーチに関しては一時的に関節を外すことで稼いでるようだな。


 面白いな。そして魔拳道というのが少し読めた。それにしても大蛇だけでここまで多彩な攻撃ができるとは。


 こうなると俺も何かお返しをしないとな。ふむ、相手が大蛇で来るのであれば――


「ならば俺はヤマタノオロチだ」

「何だと?」


 ヤマタノオロチという魔物がいる。大蛇の上位種にあたり、名前の通り八岐に分かれているのが特徴だ。体も大蛇より更に巨大で頭が八つある。


「八頭蓮舞――」


 これはそんなヤマタノオロチのスキルを再現したものだ。八つの頭による絶え間ない連続攻撃。勿論俺の頭は一つなので、あの人狼と同じく腕でそれを体現する。


 腕も二本だが、光速を超えた次元速により腕を八本に見せることは可能だ。人狼は更に腕の関節を外すことでリーチを伸ばしていたが、俺は更に細胞を一旦バラすことで更にリーチを伸ばしヤマタノオロチの力を再現する。


「な、なな! 俺の、俺の蛇腹拳が追いつかないなんて!」

「残念だったな。お前の技は腕二本での連続攻撃、一方俺は腕八本を使用しての連続攻撃だ。頭の数の差が絶対的な差とは言わないが、単純な速さも俺のほうが上だったようぞ」

「く! くそ!」


 人狼が後ろに下がる。かと思えば脇を締め、拳に重点を置いた構えに変化させる。


「今度はオーガの型だ!」

「ほぅ……」


 オーガは強力な魔物だ。ただ、脳筋と言われるほど攻撃手段は単純。その腕力に物を言わせて相手に殴り掛かる。それだけだ。

 

 だが、このパンチが強力無比。何者も寄せ付けないそのパワーを活かした攻撃は別名――


「オーガの怪力!」


 そう、これだ。オーガのパワーをこれでもかと表しているスキル。しかもこの威圧、並のオーガのものとはちがう。 


 オーガの中でも最上級に位置するインペリアルオーガに近い。


「うぉおおぉおおおおおおおぉ!」

「面白い。ならば俺も、オーガ活かしてもらう。ムンッ!」

「え? な、なになに?」

「鬼だよ! テムの背中から鬼の気が溢れ出てきたよ!」

「ぴー! ぴぴー!」


 インペリアルオーガも確かに強い。オーガの中では最上位に位置するAランクの魔物だ。

 だからこそ俺はその更に上をいく最強のオーガであるハンマの力を利用する。

 

 多くのオーガと同じくその攻撃は単純明快。類い恵まれた膂力を最大限活かし、そして鬼の氣を噴出し問答無用で殴りつける。


 それがハンマのスキル、鬼相天壊(きそうてんがい)だ。その威力は天さえも破壊するという。


 俺はその力を行使し、人狼の打ってきた拳に鬼の拳を重ねた。


「う、うおぉぉおおぉおぉおおおお!」


 結果は、一目瞭然だった。手加減はしたが、俺の拳に競り負けた人狼が後方へと一直線に吹っ飛んでいく。


「く、くそおおぉおおおおお!」


 だが、途中で体勢を立て直し、四つん這いの姿勢で地面に四肢をつけ踏ん張った。いい根性だ。


「やるな。だったら今度はこちらからいくぞ――ファンゲイズ」


 アークゲイザーという魔物がいる。Bランクの魔物ではあるが巨大な目玉に翼が生えたような魔物であり空を自在に飛び回ることも可能だ。


 だが、この魔物の特徴はそれだけではない。アークゲイザーは自分を小型化したような小さな目玉を無数に生み出し、それぞれの目玉から魔光線という魔力の光線を発射させ攻撃することが可能だ。


 それがこのファンゲイズというスキルだ。尤も俺は目玉を大量に生み出すことは出来ないため、魔力の球体を作り出すことで代用する。


 このスキルはBランクの魔物のスキルという点と、数を重視しているということもあり、一発一発の威力はそれほど高くはない。

 

 ワーウルフもBランクの魔物であるし、たとえ避けられなかったとしてもそこまでの大事には至らないだろう。


 尤も俺は期待してしまっているのだけどな。この人狼ならきっとこの攻撃程度対処できてしまうだろうと。


「さぁ! どうする?」


 擬似的な目玉から魔光線が発射された。出した数は三十二本。

 同時に発射されたこれを果たしてどう処理するか。


「スライムの型! そして、スライム避け!」

――グネグネグネグネグネグネグネグネグネグネグネグネグネグネグネグネ。

――ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン!


 おお! そうきたか! あの人狼、スライムの体を再現し極限まで肉体を軟体化させることで、普通ならありえない奇抜な動きで全て避けてみせた!


「うわぁあ……何あれ、気持ちわる……」

「コウン、コウンはあんな動きしないよ~」

「ぴ~」


 ローシーが引いていた。何故だ? あの技の素晴らしさが彼女にはわからないのだろうか?

 コウンは、まぁスライムとしては少々変わってるしな。


「はぁ、はぁ、こ、こんなことで負けてたまるか! 幻狼の型!」


 だいぶ疲れているようだが、それでも諦めること無く次の型に移る。相手に幻影を見せて惑わせた上で狩ってしまうという幻狼か。


 人狼もご多分に漏れず、大量の幻影を生み出し俺を取り囲む。


「この技を見破れるものなら見破ってみろ! 幻狼輪武!」


 そしてグルグルと俺の周りを回転し始める。このまま取り囲むような状態を維持したまま幻と本物の混じった攻撃を仕掛けてくるつもりか。


 正直、それをただ見破るだけならたやすい。しかし折角ここまで技を見せてくれるなら俺もその気持に答えよう。


「影分身の術!」

「な!?」


 十二体の俺の分身の登場に随分と驚いているようだな。忍天狼(にんてんろう)という名の魔物がいる。忍びの技を自在に使いこなす狼の魔物であり、そのうちの一つがこの影分身だ。


「お前も、幻影を使うのか!」

「残念だが不正解だ。影分身の特徴は生み出した分身が全て本体であるということだからな!」


 十二の分身と本体、合わせて十三の俺が一斉に人狼に迫る。敢えて分身に幻影だけを消させ、俺は人狼本体に肉薄し、拳と蹴りのコンビネーションを叩き込んだ。


「ワオオォオオォオォオオォン!」


 最後は狼の声を上げながら地面に倒れる人狼。分身も消え去り、俺も影分身を消した。


「グルルルルルルルルルルゥゥウウ!」


 倒れた人狼に近付こうとすると、彼と一緒に行動していた銀毛の狼が間に割って入り、唸り声を上げて俺を睨みつけてきた。


 こいつはシルバーウルフという魔物だな。それにしても敵意が凄い。絶対に彼を守ってやるという強い意志が感じられる。


「ルズ、いいんだ。俺の、負けっす。結局俺はまた負けてしまった。しかもレッドではない野郎に……こんなんで師匠の仇だなんて笑わせるっす。くそ! もう好きにしろっす! だ、だが、だが頼む! このルズだけは見逃してやってほしいっす!」

「お前は何を言っているんだ?」

「くそ! 駄目っすかこんなに頼んでも! やはり赤龍会なんかに期待した俺が馬鹿だったっす。卑怯な上に、血も涙もねぇっす……」

「ふむ、赤龍会というのはそんなにひどい連中なのか。どうりで町の評判も悪いわけだな」


 この人狼も相当恨みを抱いているようだしな。それに話を聞いていると、どうやら彼は件のブルーという魔物使い兼武道家の弟子でもあったようだ。


「何を白々しい……お前らが自分でやってきたことだろっす」

「それは巨大な勘違いだな。何せそもそも俺たちは赤龍会と関係ない」

「…………はい?」

「……ガウ?」


 俺の台詞に、一人と一匹が小首をかしげ頭に疑問符を浮かべるのだった――

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