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第二十話 ゴリラと師範と尻

「ぶべぇぇええ!」


 赤龍会の男が俺に殴りかかってきた。だが、それを躱し、ひょいっと飛び上がった後、奴の頭に手を添え床に顔面を叩きつけた。


 すると男はうめき声を上げ、天井に尻を突き出したような状態のままピクピクと痙攣した。


 むぅ、勢い余って床を突き破ってしまったな。あとで直しておかないと。

 

 それにしても、どの程度の奴らかと多少は期待してみたが弱すぎだろう。確かに魔物使いは体を鍛える必要もあると普段からそれなりに修行はしているが、にしてもスキルも使っていない魔物使いのたかが一撃で気絶するなんてな。

 

「「「「な、なんだってぇええぇええぇえええ!」」」」


 一斉に残った連中がわめき出す。うるさい奴らだ。ハエかお前らは。


「まさか、うちの師範代がこんなにあっさりとやられるなんて……」


 師範代? こいつがか? むぅ、まぁあくまで師範代だしな。師範代と師範のあいだに圧倒的な差があるのかもしれない。


「くっ、くそ! とりあえず引き上げるぞ! だがお前! 俺たち赤龍会に逆らってただで済むと思うなよ!」

「お、おいそれより師範代が抜けないぞ! なんだこれ? どんな突き破り方してるんだ」

「やれやれ、出ていくならさっさといって欲しいし手伝ってやるか」


 俺はピクピク痙攣している師範代とやらの尻を蹴り飛ばした。するとドアを開けて待機していたメンバーの連中を巻き込みながら見事に視界から消え失せる。


「な、し、師範代~~~~!」

「畜生が! 絶対に後で後悔させてやるからな!」


 そんな捨て台詞を吐いて赤龍会の奴らが出ていった。やれやれこれでようやく静かになったぞ。


「あ、あの……」

「うん、あぁ床を壊して悪かったな。すぐに直すぞ」

「いえ、それはいいのですが、て! 本当にもう直った!」


 スーパーゼネコングという名の大猿の魔物がいる。この魔物は超建築や超修繕というスキルを持っていて、暇を見ては壊れた建造物を修復したり、城や家などを造ったりしている。ときおりちょっとした街まで作ったことがあるほどだ。


 その魔物のスキルを利用すれば、この程度の穴を直すのはたやすい。


「それと連中からこれを頂いておいた。どの程度かまでわからないけど、迷惑料も込みで貰っておくといいだろう」

「え! こんなに!」


 あいつら金はしっかり持ち歩いている癖に支払わないというのだから質が悪い。


「何から何までありがとうございます。ですが、出来ればもうこの町を出られたほうがいいかもしれません」

「何故だ?」

「これで皆さんが赤龍会に目をつけられたのは間違いないでしょう。奴らはしつこいですし、これ以上ブルー様のような魔物使いは増えてほしくないのです」


 なるほど。俺も魔物使いだから、赤龍会の手でやられるようなことになるのを心配しているのか。


「俺たちのことを心配してくれているならそれは無用だ。それに自分のケツぐらいは自分で拭えるから迷惑もかけない。安心してくれ」

 

 それでも店員の彼女は随分と心配してくれたが、旨い食事へのお礼だけ述べて俺たちは部屋へと戻った。


「あいつらやってくるかな?」

「そうだな。ほぼ間違いなく来るだろう。全く騒がしい夜になりそうだ」


 それから部屋で暫く待機していたが、ローシーの心配はまさに予想通りの結果となり。


「俺たちは赤龍会の者だ! 仲間をやったふざけた魔物使いがこの宿に泊まってると聞く! 痛い目にあいたくなかったらさっさとそいつを差し出せ! さもなければこの火矢を一斉に打ち込む!」


 弓を構えた連中が宿を囲っていた。矢の先に炎が灯りメラメラと燃えていた。

 狙いは宣言通り宿だろう。全く過激な奴らだ。木造の宿にあんなものを打ち込まれたらたまったものじゃないだろう。


「俺たちは逃げも隠れもする気はないさ。だからそんな物騒なものはさっさと引っ込めるんだな」

 

 自分のケツは自分で拭くといった。原因は俺にあるわけだし、宿に迷惑はかけられない。


「こいつらか?」

「はい師範! この連中で間違いありません!」


 ゴリラのような顔の男が確認する。中にさっきやってきた奴らが何人かいるな。


「逃げもせず出てくるとはいい度胸だ。とりあえずお前ら全員、赤龍会の姉妹道場に連れて行くぞ」

「敢えて言われなくても必要ならついていってやるさ。だから悪いことは言わん。その弓をさっさと下ろせ」

「がははは! 馬鹿かお前は! この状況で何を偉そうに。言っておくが、お前が出てこようが出てこまいが関係なかったのさ。最初からそのつもりだからな。さぁ! 見せしめだ! お前らその矢を射て!」


 師範と呼ばれた男の号令で、全員が一斉に火のついた矢を射りだした。

 全く、一応忠告はしたつもりなんだがな。


「だいなみ~~っく~は~りけ~ん~~~~」


 コウンがなんとも気の抜けた声で魔法を行使する。しかしそれとは裏腹に超熱帯低気圧が発生し、強烈な風が矢を吹き飛ばし、弓を構えていた連中も町の向こう側へふっ飛ばしてしまった。


「な、な、な、なんだとおおぉおぉおおおぉおぉおおおお!」


 師範のゴリラ、いやゴリラ顔が驚く。目が外にポンッと飛び出さんばかりの驚嘆ぶりだ。


「全く、だから悪いことは言わんから弓を下ろせと忠告してやったのに」


 あの発言は別に宿に矢を射られるのを恐れてのことじゃ無かった。もしそれをしたら容赦はしないという意思表示だっただけである。


 尤もこいつらには全く通じてなかったようだが。


「く、くそ! だったらお前ら! 女だ! 女を狙え!」

「ヒャッハー待ってました!」

「あのワガママボディ! たまんねぇぜ!」


 残った連中がよりによってローシーに襲いかかった。確かに見た目はただの露出狂の女だけどな。


「何か凄く失礼なことを思われてる気がするけど、そんなに襲いたいなら近場で済ませなさい! 魅了眼(チャーム)!」

「うおおぉおおお! 襲え! やれ! やっちまえ!」

「は? お前たち何を言ってやがる! 女はあっちだ!」

「うるせぇ黙れ! このビッチがぁ!」

「くそ! とち狂いやがって!」


 ローシーによって魅了された男達が一斉にゴリラ顔の師範に襲いかかる。どうやら完全にあのゴリラをローシーと思い込んでいるようだ。


 しかし、ゴリラとて師範の身。群がる連中をその拳と蹴りで返り討ちにしていく。


 う~ん、でも、思ったほど強くはないか。いや、あれでも仲間だからと手加減しているのかも知れない。まぁどっちにしろ茶番を見続けても仕方ない。ならば――


「な、なんだ! 体が動かねぇ……」


 どうやら痺れの菌の効果が現れたようだ。チェルボグという魔物がいる。見た目が黒いキノコの化物と言った様相の魔物だが、この魔物はあらゆる菌を生成しばらまくことで有名だ。


 痺れの菌はその中の一つだが、師範を名乗る男がこの程度でここまであっさり動けなくなるとはな。


「う、うおおぉおおぉおおぉお! この体、最高だ! 最高だぞぉおおぉおお!」

「ぎゃあああ! やめろ! なんで俺のそんなところ! あ"~~~~~~~~!」


 そして動けなくなったゴリラ顔の師範はあっさりと門下生にやられることになった。何をやられたかに言及するのは止めておくが、とにかくおぞましいものだ。


「コウンは見るなよ」

「どうして~?」

「どうしてもだ」


 とりあえずコウンの目は塞いでおく。教育に悪すぎる。


「本当気持ち悪すぎて吐きそう……」

「いや、お前がそれを言うか?」

 

 チャームしたのお前だろ。


 とにかく一通りのことは終わったようなので尻を押さえて身悶えている師範に近づく。未だ興奮状態だった男たちはチャームを切った途端ショックで気絶したから、こいつしか残ってないしな。


「き、きさま、俺と俺の尻に何の恨みがある!」

「別にお前個人に恨みはないが、降りかかる火の粉は払うだけだ。それより最初に言ったが道場まではつきあってやる。案内しろ」

「くっ、本気か貴様! 言っておくが赤龍の鱗たるスケイル様は俺なんか比べ物にならないほど強いのだからな! 吠え面かくなよ」

「いいから早く案内しろ」

「ぎゃぁあああぁ! 尻は尻はやめてくれぇええええええぇ!」


 ちょっと尻のあたりを蹴飛ばしただけなんだが、どうやら相当効いていたようだな。


 俺には関係ないことだけどな。そして俺たちは赤龍会の姉妹道場とやらに先ずはやってきたわけだが――

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