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第一話 ティムを試そう

「とりあえず俺、大従魔学園に入学しようと思っているんだ」


 次の日の朝、俺は両親に思いの丈を話して聞かせた。幼い頃から魔物使いになりたいといい続けていた俺だ。両親もきっとそうなのだろうとあっさり納得してくれたが。


「入学費については心配しなくても、それぐらいの蓄えはある」

「ありがとう。本当は自分で支払えればいいんだけど……」

「そんな、子供が余計な心配しなくてもいいのよ」

 

 全く両親には頭が上がらない。何せ俺はずっと世界中を修行して回ってきたものだから働くという事をしていない。


 だから当然、手持ちのお金もないのである。


「だけどなテム、確か学園に入るには最低魔物を一体はティムしている必要があるわけだが、それは大丈夫なのか?」


 ティムというのは魔物使いのセンスが与えられたものが使用可能なスキルだ。これをすることで魔物使いは魔物と従魔契約を結ぶことが出来る。


 ただ、ティムはいつでもどこでも成功するわけではない。基本的に魔物がこいつにならティムされていいと思ってくれなければ成功しないのだ。

 

 ではどうすればよいのか? というとこれは意外と単純で、基本魔物は自分より強いと思ったものに心をひらいてくれる。


 つまり魔物に俺が強いと思ってもらえればいいというわけだ。


「大丈夫だよ。この近くにも魔物はいるはずだし、先ずはそれでティムを試してみる。それに、学園に行く途中でも魔物をティムしていきたいとは思ってるしね」

「ふむ、まぁお前は俺達の血を受け継いだ息子だ。きっとうまくやるのだろうな」

「それじゃあこれから一狩り行くってことね? お弁当作らないと」

「母さん、それをいうならひとテイム行くだよ」

「うふふふ、確かにそうね」


 そんなわけで母さんがお手製のサンドイッチを作ってくれる事になったわけであり。


「お兄ちゃん! 私も一緒にいきたい!」

「駄目だ。流石に危険すぎる」

「えぇ~なんで~?」

「妹よ。父さんの言うとおりだ。相手は魔物だし、ティムするまでは人に襲いかかってきたりもするのが魔物だ」

「え~つまんな~い」


 口をとがらせて拗ねる愛妹。可愛い。とは言えティムさえすれば安心だから帰ってきたら見せてあげるから我慢してな、となだめたら納得してくれた。


「それじゃあ行ってくるよ」

「お兄ちゃん! 魔物を千匹ぐらいティムしてきてね!」

「あぁ、そうだな」

「いや! そうだなじゃないからね! 流石に千匹でこられたら家持たないから!」


 それは困ったな。俺の最終目標は全ての魔物のティムなんだけど――





◇◆◇


 近場の手頃な魔物が出る山まではほんの数秒でついてしまった。これでもゆっくりと歩いてきたつもりなんだけど。

 まぁ近所(片道五十km)だしな。こんなものだろう。


 トコトコ森の中を歩いていると、比較的自然の間隔が広い辺りに定番の魔物を発見した。


 スライムだ。しかもスライム一匹。これは幸先がいい。 

 なぜかと言えば、魔物使いの間では昔から伝わる言い伝えのようなものがあり、魔物使いとして行動して最初に遭遇するのがスライム一匹な場合、後のティムが成功しやすくなるというのだ。


 尤も、スライムは魔物の中では弱い部類なため、積極的にティムしようとする魔物使いは少ないようだけどな。出会ってラッキー程度で実際は別の魔物を狙うって事が多い。


 だけど俺は違う。何せ全ての魔物をティムするのが目標なのだ。

 だからティムのためスライムを狙う。スライムはどうやら下草を一生懸命体内に取り込み消化中のようだ。

 

 大きさは三歳児の頭ぐらい。ぶよぶよした半透明の体が特徴だ。 

 俺が近づくとスライムの胴体がビクリと震える。その震えは更に激しくなった。

 どうやら俺のことを認識し、威嚇してきているようだ。それ以上近づいてきたら攻撃する! と忠告されているようでもあるが、俺は構わずそこから更に数歩距離を詰める。


 するとスライムが、ビュビュッ! と液体の塊を飛ばしてきた。

 スライムの体は弱酸性という性質がある。その体を利用した攻撃である。肌に直接触れると皮膚がヒリヒリしてしまう。


 確か弱酸弾という名称のスキルだったな。だけど、鍛えた俺にそれは通用しない。

 スッ、スッ、と首を振って避けた。

 

 さて、ここからが本番だ。ここで大事なのはあくまで目的はスライムをティムすることにあるという点だ。


 だから倒してはいけない。そうではなく、倒さずに俺の強さを見せつけ、こいつにならティムされてもいい! と思われなければいけない。


 ならばどうするか? 殴って大人しくさせるか? 違うそうじゃない。こういった場合一番効果的なのは己の得意分野でこちらが圧倒的に上回ることだ。


 どういうことかといえば、このスライム、特技は弱酸弾である。つまりだ――


 俺は先ず息を大きく吸い込み、体中の水分を帝水に変化させる。帝水というのはSS級とされるエンペラーアシッドスライムが扱う強烈な酸である。


 酸には人の間では究極とされる王水というものがあり、魔法によっては王水の雨で相手をどろどろに溶かすというものもあるが、この帝水は王水の一億倍の酸性度を持っている。


 龍皇の鱗すらあっさりと溶かすとされるほど凶悪な酸なのだが、それを体内で球体に変化させ、そして、ペッ、と吐き出した。


 当たり前だが、スライムを直接は狙わない。そんなことしたら流石に死ぬからな。

 だからスライムの頭上にちょっとした城ぐらいにまで膨張した帝水の球を打ち上げ――


「弾けろ! そして降り注げ!」


 言って球を握りつぶすようにギュッと右手をしめると、スライムの頭上の球体が見事に弾け、そして大量の酸性雨がスライムの周囲に降り注いだ。


 勿論酸性雨といっても帝水性の強力な雨だけどな。


「ピュキ~~~~~~!」


 スライムが鳴き声を上げた。何せスライムを中心に周囲の地面がどろどろに溶かされ、あっという間に底の見えない円形の穴が出来上がったからな。


 スライムのいる場所だけが唯一足場として残っている状態だ。


 さぁ、どうかな? スライムのスキルである弱酸弾を上回る帝水を使用した攻撃だ。

 同系統で上回った事できっと俺の強さはしっかりと通じ――


「ピュキ~~~~~~!(ジョッ、ジョボボボボボボボボボボボボボボボボォオオオォオオ)」

「えぇええええぇえええぇえええぇええええ!?」


 何これ! どうなってる!? スライムの下半身から突然大量の液体が吹き出てきたぞ! 何だこれ! なんだこれ!


「ピュキピュキピュキピュキピュキ(ガクガクガクガクガクガクガクガクガク)」


 しかもめちゃくちゃ震えてるぞ! 左右じゃなくて何故か上下に!


 う~ん、よくわからないが、強さは判ってくれたか?

 どっちにしろこのままじゃ可愛そうだ。俺は隆起と造成のスキルで穴を元の平らな土地に戻してやる。


 これはSSSランクのエンキが所持しているスキルだ。一部では山神として崇められているようだが、実際は巨人種の魔物である。大地そのものを全身鎧として纏い、顔も中々に厳しい。


 体長も小さな山なら片手で掴めるぐらいあるから、相当目立つのだが、普段は山と同化してることも多い魔物だ。勿論魔物としてはかなり強力でもある。


 修行している時はいずれティムしたいリストに入れるぐらいだったが、そのうちまたお目にかかりたいものだ。


 とにかく、これで心置きなくスライムをティムする事が――


「キュピピピピピピピピィイイイイィイイ!(ジョボボボボボボボボボボボボボッ~~~~)」


――はい? え? す、スライムが逃げた~~~~~~~~! すごい勢いで逃げていったぞ! しかもなんか下半身から液体をドバドバ撒き散らしながら!


 う~ん、どうしてだろうか? まぁ回り込もうと思えば余裕で回り込めるんだけど、あの感じだともうティムどころじゃないかな……。


 正直方針として、無理やりティムはしないって決めてるからな。相手の同意なしに強引にティムするなんて魔物が可愛そうだし。


 だから、これは仕方がない。とにかく気を取り直していくとしよう。な~に、まだまだ魔物探し始まったばかり。これからいくらでもチャンスは有るさ。





 で、あれから探索を続け六時間が過ぎたわけだけど、ティム出来た数はゼロだ。

 釣りで言ったら坊主ってやつだ。なんてこった、あまりに想定外すぎる。


 しかもこれが全く魔物に会えないと言うならまだ考えようがあるが、魔物は相当な数と出くわしている。


 何せスライムだけでも二百十、コウモリタイプのスピーカーバットが百六十、大きな蜥蜴にサメの頭がついたようなシャークリザードが五十、嘴が剣のようになっている鳥型の魔物ツッツキルが三十、森の狼であるフォレストウルフが五十。


 合計五百体の魔物と遭遇しているのに全く手応えがない。

 おかしい、本当におかしい。やり方は間違っていないはずだ。


 例えばスピーカーバットは強力な超音波で攻撃してくるのが特徴だが、それに対抗して俺も超極滅音壊波を使用した。ケンウッズプテロプスというS級な蝙蝠の魔物が使用するスキルで、アダマンタイトで出来た岩山すらも分子レベルに砕くほどの威力を秘めていた。


 勿論これも魔物に直接当てることはせず、山地を一箇所更地にしたぐらいだ。


 当然だが、この際、レーダーサイトという魔物が扱うという千里感知を使用するのも忘れていない。その段階で反応があった魔物などの生物は、時空番鳥という魔物が扱う時空間移動のスキルを使用し、巻き込まれないようにしておいた。


 その上で、今度こそスピーカーバットに強さを認めてもらえたかと思ったのだが。


「キキキキキキキキキキイィイィィイイイィイイイ(ジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボボボボゾオオオォオオォオオオ!)」


 それもやはりこんな感じで液体を撒き散らしながら逃げていった。全く意味がわからない。ちなみに消えた山は、山起こしのスキルで戻しておいたから問題ない。


 それからもシャークリザードにはシャークファングに対抗してリヴァイアブレイクファングで直線上に深い溝を作っては。


「シャシャシャシャシャシャシャシャーーーー!(ジョボボボボボボボボボボボボボボボボォオオオォオオ~~~~!)」


 ツッツキルにはスラッシュアンドニードルのスキルに対し斬鉄烈破突で――


「スココココココココココココココココッーーン!(ジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボボボボゾオオオォオオォオオオーーーー)」


 フォレストウルフに関しては威圧のスキルに対して、黄金狼の獣王圧で――


「キャインキャインキャインキャインキャインキャインキャイーーーーン!(ジョボボボボボボボボボボボボボボボボォオオオォオオジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボジョボボボボゾオオオォオオォオオオ~~~~!)」


 こんな感じで何故か全ての魔物が下半身から液体を撒き散らして猛ダッシュで俺から離れて行ってしまうのだ。


 それにしても弱った。こんなことを五百回も続けてしまった。一応その都度修復はしているが、こんな事を続けていたら森に悪影響が出るのではないか? と一抹の不安を覚える。


 とは言え、流石に一体もティム出来ないというのは――


「ふぇぇええぇえん。僕、美味しくなんて無いよ~だから許してよぉ~」


 その時、森の奥から何者かの声が聞こえてきた。随分と幼い声に思えるが、こんな魔物がうろつく森に子どもだろうか?

 

 ふむ、だとしたら聞いてしまった以上、放ってはおけないか。

 

 とにかく、俺は一旦声のする方へ向かって見ることにする――

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