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第十話 決闘! ヴァンパイア城!

「逃げずにやってきたのは褒めてやろう。さぁ馬車に乗れ」

 

 偉そうな執事に促され、黒い馬車に乗った。


「ところで城はどこにあるんだ? 隣と言ってもこの領地はそんなに狭くはないだろう?」

「山を二つほど越えるが問題ない」


 山を二つか、俺だけなら瞬きしている間に到着できる距離だけどな。

 それから馬車が走り出し、町を出て数分経ったが。


「ついたぞ」

「そうか」


 どうやらついたらしい。俺は馬車から降りたが。


「……驚かないのか?」

「何故だ?」

「山二つ超える距離を僅か数分で走ったのだぞ?」

「今は夜だしな。ヴァンパイアロードぐらいになれば、城までの移動を早める魔法ぐらい使えるのだろう。俺の予想では闇から闇へ移動する魔法といったところか」

「……生意気な男だ。だが、そこまで知っていながらここまで来るとは愚かしいにも程があるな」


 人を小馬鹿にしたような薄笑いを浮かべてくる。どうやらヴァンパイアの能力によほど自信があるようだ。


「ね、ねぇ。何か貴方が自信ありそうだから来ちゃったけど、本当に大丈夫? それに、それにね実は私」

「おい、主君より伝言だ。余計なことは言うな? 何かあればすぐにわかるのだからな、とな。そうなれば、判っているな?」

「そんな……」

「気にするな。ローシーは何も心配しなくていい。しかし、お前も気安くローシーに話しかけるな」

「ふん、なんだ? もう自分のものにでもしたつもりか? たかが魔物使いが偉そうに。従魔にした程度でおめでたいことだ」


 従魔にはしてないのだけどな。勝手に勘違いしてくれておめでたいことだ。

 

 そして俺たちは執事の男に連れられて城までやってきた。丘の上に建てられた城だ。ぐるりと森に囲まれている。城の上にはなにかやたらとコウモリが止まっていた。


 城の周囲には堀があり、執事が近づくと跳ね橋が降りてきた。なんとも仰々しいことだ。城には壁はなく、橋から直接城の中に入ることになる。


 サイズとしてはそこまで大きくはないが、屋敷としてみたなら十分過ぎる以上の広さだろう。 


「よく来たな。フフフッ、歓迎するよ」

 

 城のエントランス、中央を縦断するように赤絨毯が敷かれ、奥の二階に当たる部分からは高欄の備わった足場がせり出したようになっている。 

 

 左右からは階段が伸びて外から内に湾曲するようにして俺達の立っている階下に繋がっていた。天井は吹き抜けで非常に広々とした空間だ。


 インモラスは上の足場でワイングラス片手に立っていた。中には光を放つコウモリが飛び回っている為、夜でも光源は確保されている。


 セバスチャン、と呼びかけると、ハッ、と返事し、中々の機敏な動きでインモラスの隣へ赴いた。


 そしてゆったりとした動きで階段を降りてくる。まどろっこしい奴だ。


「ワインでもどうかな?」


 トレイに乗せられたワインボトルを掲げ、もう片方の手にグラスを挟めながら聞いてくる。


「俺はまだ未成年だ」

「そうか、残念だよ。この赤ワインはね、城の裏にあるワイナリーで育てたぶどうを使って生産した私のオリジナルなのだよ。ブラッドの名前で市場にも出回っている」


 ヴァンパイア族が生産する赤ワインのブランド名がブラッドとは笑えない冗談だな。


「私が一番好きなのは勿論血だが、その次に好きなのがワインでね。実はヴァンパイア族でワイン愛好家は多いが、自分の手でワインを作っているのはそう多くない。特に私のブラッドは同族にも好評でね。一度呑めばやみつきになること間違いないさ」

「そうか。だが俺は別にここへお前とワインを酌み交わすために来たんじゃない」

「フフッ、せっかちな男は嫌われるよ。ワインにも女にもね」


 この自分に酔っている感じも鼻につくところだ。


「ところで、いい月だと思わないかい?」


 インモラスが天井を仰ぐ。視線を上げてみるとガラス張りの窓からまんまるのお月さまが見下ろしてきていた。


「私は昼間も動けるがやはり夜が好きだ。特にこのような満月の輝く夜がね。ヴァンパイア族の本能が刺激されるからかも知れないね」

「ふぅ、さっきから御託の多いやつだ。言いたいことがあるならはっきりと言えばいいだろう? 例えば夜になればヴァンパイアは本来の力を取りもどすこととかな」

「はは、なるほど流石に知っていたか。しかしそれを知っていながらも約束を破らずやってくるとは。その勇気だけは買ってあげよう」

「負ける気がしないからな」

「はは……本当に面白い男だ。判った。そこまで死に急ぎたいなら直ぐにでも地獄に送ってやろう」

「え? ちょ、ちょっとまってよ! 死なんて聞いていないわ。勝負を決めるための決闘ってだけでしょう?」

「何を言っている。私が言っているのはヴァンパイア族に代々伝わる血闘。お互いの血を賭けた戦いだ。当然、負けたら待っているのは死さ」

「そ、そんな……」

「ちなみに、逃げるのは勝手だがオススメはしないかな。馬車と私の魔力で来たから気が付かなかっただろうが、この城の外側の森には凶悪な魔物が多いし、何より私の眷属が周辺を見回りしている。彼らには今宵、森の外で見つけた不審者は徹底的に排除するように言っている。魔物使いの君ならもしかしたら魔物はなんとか出来るかも知れないが、私の眷属までは無理だろう?」

「そんな、なんて卑怯なの! 最初からテムのこと無事に帰すつもりなんてなかったのね!」

「ハハッ、当然だろう。その男はよりにもよってこの私を愚弄したのだから。無事でいられると思っていた方が甘いのさ。はは、どうだ? 絶望したか?」

「うん? 何がだ?」

「……は?」

「え? て、テム、話聞いていた?」


 インモラスが間の抜けた顔を晒してくれた。ローシーはキョトン顔だな。


「聞いていたぞ。だがそれがどうした? 血を賭けた血闘。結構じゃないか。その方がよっぽどわかりやすい」

「き、貴様……たかが魔物使いの分際で、まだそのような強がりを。馬鹿なのか貴様は?」

「お前ほどではないと思うぞ」

「……主君。私、この失礼な男にはもう我慢がなりません。そもそもこのような輩、伯爵自らが手を下すまでもない。この私が主君に代わって、八つ裂きにしてくれましょう!」

「セバスチャン、そうか。ふむ、確かにそれも一興だな。おい、喜べ人間」

「随分と偉そうだな」

「黙れ! 伯爵は偉いのだ!」

「もういい。馬鹿がうつる。とにかくだ、お前のそのバカさ加減に免じて、この私が自ら手を出すのはやめにしておいてやろう。それではあまりに差がありすぎてつまらぬからな。そのかわり、このセバスチャンに勝てたなら、貴様の勝利ということでいいぞ」

「フフッ、主君も人が悪い。人間ごときが、今宵の私に勝てるわけがないだろう」


 ふむ、何やら勝手にルールを変えてきているが、つまりはあの馬鹿の代わりにこっちのアホが相手してくれるということか。


「……相手はお前か」

「そうだ。貴様如きにヴァンパイアロードたる伯爵の力を煩わせるわけにはいかないからな」

「そうか。ならこっちはコウンがやってみるか?」

「え? コウンが戦ってもいいの?」

「向こうも代理を立てると言ってるのだから問題ないだろ」

「わ~い、わ~い、戦いだ~わ~い」

「……は? いや、そこのスライムが相手だと? 貴様本気で言っているのか?」


 インモラスがコウンに指を向けながら聞いてくる。何か信じがたいみたいな様子だけどな。


「本気だぞ。コウンも戦えるしな」

「うん! コウン、コウンは頑張るよ!」

「ちょ、ちょっとまって! 本気なのテム?」

「だから本気だと言っているだろう?」

「え~……でもコウンは戦えるの?」

「見ていれば判るさ」

「うん、大丈夫だよ~コウン頑張る~」

「……はは、あはは、この、ふざけやがって! たかがスライムがこの俺の相手だと? 少し喋られる程度のスライムが調子に乗ってんじゃネェぞ!」

「まて! 落ち着けセバスチャン!」


 執事の奴急に切れだしたな。全くコウンの何が気に食わないというのか。


「とにかく、向こうがこういうなら逆にチャンスだ。喋るスライムなんて珍しいのだし、絶対に殺すな? ビビらせて気絶でもさせてもってこい」

「勿論判ってます。今回わざわざこんな真似をしているのも、あのスライムが目的なわけですからな」


 コソコソ話してる二人だが、悪いが筒抜けだぞ。俺は耳がいいんだ。尤も聞こえないふりをしておくが。


「ふん、スライムを代わりによこすとはな。どうせ貴様は私を恐れたのだろう。直接やりあって殺されることを恐れたのだ。この臆病者め」

「ねぇねぇ? もう始めていいの~?」


 俺の肩を離れてセバスチャンと相対するコウン。やる気満々だな。いつもより多めにプルプルしている。


「随分と好戦的なスライムだが、相手が悪かったぞ。先ずこの私も普通の人間ではない。ヴァンパイアだ」

「おお~かっくぃ~」

「うん? そうか?」


 何まんざらでもない顔してるんだあいつは。


「フフッ、そしてここからが大事なところだ。ヴァンパイア族の力は夜に発揮される。これは比較的有名だが実はもう一つ大事な事がある。それは満月の夜は更にヴァンパイアの力は上がるということだ。例えば私であれば、満月の夜は通常の夜の三倍の力にまで強化される」

「さ、三倍ですって!」


 ローシーがやけに驚いているな。


「更にだ。この私の異名は千人殺し。これはこれまでに殺したヴァンパイアハンターの数が千人ということだ」

「え! 対ヴァンパイアに特化したヴァンパイアハンターを千人もですって! そんな……」

「ククッ、しかもこの千人はどれも満月と関係なく殺している。つまり今宵の私は千人のハンターを殺した私よりも更に遥かに強いというわけだ。何せ私のレベルは53だからな。しかも平常時でだ。満月の今であればその三倍!」

「平常時でレベル53ですって! し、しかも今はその三倍……そ、そんなの勝てるわけないよ。テム! 無理よ! いくらなんでもコウンじゃ!」

「うん? そうか? お~いコウン、ローシーが心配しているがお前は今の話を聞いてどう思う?」

「フッ、そんなもの聞くまでもない。大体見てみろ。当のスライムがすっかりだんまりを決め込んでいるではないか。それだけ私の強さに……」

「あ、ゴメンゴメン。おじさんの話が長くて寝ちゃってた~」

「…………」


 ふむ、どうやら寝落ちしてしまっていたようだな。全く仕方のないやつだ。


「ハハッ、このセバスチャン。まさかスライム如きにここまで苔にされると思いませんでしたよ。いいでしょう、ならば千人殺しとまで称された、ヴァンパイアハンターハンターの力をたっぷりお見せしてやろうぞ!」


 セバスチャンの様相が変化。両手の指から爪を、口からは牙を伸ばし、両目はすっかり血走ってしまっている。


「あれ~? もういいの?」

「いつでも来るがいい。だが、貴様が何か行動に移す前に勝負は決まっているだろうがな!」

「わかったじゃあ行くよ~コウンコウン~」

「ふざけたやつだ! 一撃で終わらせてくれよう!」

「ビーーーーーーム」

――ズガガガガガガガガガガガガガガガガがガガガッ!

「――はっ?」

――ドッゴオオォオオオオォオォオオオォオオオオォオオオオォオオオオオォオオオオォオオオン!


――おいおい瞬殺かよ。全く偉そうなことを言っていたセバスチャンは地面を蹴ってコウンとの距離を詰めようとしたが、そこへ見事にカウンターでコウンコウンビームをくらったな。


 結局その一撃で、ジュッ、という焦げたような音だけを残して完全に消滅してしまった。


「あれれ~? テム~何かもう倒しちゃったみたいだよ~何か思ったよりあのおじさん大したことなかったよ~」

「あぁ、そうだな」


 コウンが戻ってきて俺の肩にのった。それにしても、インモラスの顔がものすごいな。顎が外れたかってぐらい大口を開け、目玉も飛び出た状態で固まっている。


 ローシーも、顔がもはや完全にギャグの粋だ。

 全く、この程度でそこまで驚いているようでは先が思いやられるのだがな――

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