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第九話 ヴァンパイアロード

「全く随分と変わった男だ貴様は。普通人間は魔物を忌み嫌うものだろう?」

「いったいいつの時代の話をしている? お前の脳みそは化石化でもしているのか? 今どき魔物と人間は持ちつ持たれつの関係にあることぐらいは常識中の常識だ」

「そんなものは所詮建前にしか過ぎんだろ。人間からすれば魔物などよいところ素材として役立つ程度の代物」

「やれやれ愚かさもここに極まるだな。今や世界中において魔物使いの需要は増えているというのに」


 この男の言っていることはあまりに前世代的だ。確かに素材として狩られる魔物がいるのも事実だが魔物使いによって従魔化された魔物がこの世界に与えた影響も計り知れない。


 それなのにこの男は明らかに魔物を格下と見ている。それはローシーへの態度を見ていてもわかるというものだ。


 この男一人だけを見てヴァンパイア族全てがそうだなどとは思わないが、ロードという立場として見ればこの男は間違いなく暗愚な君主と言えるだろう。


「貴様、もしやと思っていたが、まさか魔物使いか?」

「だとしたらどうする?」


 ハッ、とインモラスが鼻で笑ってきた。どうやらこの男、魔物使いを馬鹿にしているようだ。


「魔物使いと言えば魔物を散々こき使い自分は何も動くこと無く楽をするという怠け者の職業筆頭ではないか。そんなものが偉そうに意見してくるとは恐れ入ったぞ。だが、なるほどこれで読めたぞ。さてはそこのサキュバスはお前の従魔となることでこの私から逃げようと考えたわけだ。ずる賢いサキュバスの考えそうなことだ」

「……それは――」

「あぁ、そのとおりだ。ずる賢いかどうかはともかく、俺はローシーが気に入ったから一緒にいてもらっている。だから魔物使いとして、嫌がっている仲間を無理矢理つれていかせるわけにはいかない」

「え!? て、テム?」


 ローシーが戸惑っている。まぁ正式な従魔ではないが、町まで案内してもらったし、コウンとも仲良くやってくれている。特に否定しないのであれば、もう仲間といっていいだろう。


「なるほど、つまりお前は従魔契約を結んだ以上、自分にも権利があるといいたいのだな?」

「………………」

「なんだどうした? 違うのか?」

「ローシーは俺の仲間だ」

「ふん、なるほど。あくまで従魔ではなく仲間といいはるわけだな」


 そう思うなら勝手に思ってくれればいい。俺は一つも嘘は言ってないつもりだ。


「だがな、無意味なことだぞ? この私がそこのサキュバスを飼うことは正式に認められていることだ。いくらお前が従魔契約を結ぼうが後から横取りなど許されるわけもない。それにだ、たかが従魔契約などどうとでもなるのだ。それはお前が一番良くわかっているよな?」

「――クッ」

「はは、いい目だ。それにしても貴様も貴様だ。見たところ従魔はサキュバスを除けばその一匹であろう? 全くたかが雑魚のスライム一匹を従魔にしている程度の分際で、よくもまぁサキュバスを従魔にしようなどと考えたな。身の程知らずが」

「むぅ~雑魚だなんて酷い言い草だよ。テム~コウンコウンはあいつきら~い」

「奇遇だな俺もだ」

「は、何を生意気な。スライムの分際で生意気にも口をきくなど、きくなど、く、口をきいたぁあああぁあああぁああぁあ!?」


 インモラスがばかみたいな顔で叫びだした。全く喧しい奴だ。


「ば、馬鹿な! スライムが喋るなど聞いたことないぞ! ありえん! 一体どうなってる!」

「えっへん」

「しかも何か威張ってるぅぅううぅぅう!」

「お前、驚きすぎだろ」

「これが驚かずにいられるか! な、なんてスライムだ。こんなスライム初めて見るぞ……」


 ふむ、まぁインテリスライムは相当珍しいようだからな。しかしおれとの会話は目の前で普通にしてたと思うがよほど下に見てたんだな。


「だが、そうか喋るスライムか」


 インモラスがにやりと口角を吊り上げた。如何にも何か悪巧みを考えてますって顔だな。


「どうやら貴様はどうしてもそこのサキュバスが欲しいようだが、なら私と一つ立ち会うか?」

「立ち会うだと?」

「そうだ。ヴァンパイア式の決闘を貴様に申し込んでやろう。そして貴様が勝てばそこのサキュバスはくれてやる。ただし貴様が負けたらそこのスライムを貰おう」

「マッハで断る」

「な、なんだと!」


 得意満面で俺に提案してきたが、何故それを受けると思ったのか?


「貴様! この私が勝負に勝ったらサキュバスをくれてやろうといっているのだぞ!」

「ローシーもコウンも物じゃない。くれてやろうという言い方も貰うといいう言い方も気に食わないが、俺は自分を慕ってくれる魔物を賭けの材料になどしない」

「クッ、生意気なことを。だが判っているのか! そこのサキュバスの権利は本来私にあるのだぞ!」

「権利権利うるさいやつだ」


 とは言え、確かに正式に権利申立をすると不利なのは俺のほうだろう。この男がもう一つの手で来る分には何の問題もないし、色々と言えることもあるが――


「……まぁいい。なら私も少しは譲歩してやろう。決闘内容をそこのサキュバスの権利を賭けてに変更してやる。勿論、それでも本来私がわざわざ勝負する必要などありはしないのだから、決闘の内容はこちらで決めさせてもらうし、もし貴様が負けたらそうだな。お前に土下座の一つでもしてもらうか」


 土下座か。変わった点は、決闘の内容を向こうが決められるという点だが、それはどちらにせよ問題はない。ローシーに関して権利の話をされれば奴の言っていることにも一理はあるし、これが一番面倒がないか。


「判った。その条件でなら受けてやろう」

「――ふん、当然だな。むしろ感謝してほしいぐらいだ。ならば場所は今夜、私の城で。決闘は純粋な力と力での勝負だ」

「え? 今夜? そんな! それは!」

「黙れ、何度も言わせるなよ? 貴様は自分の立場を弁えろ。他のサキュバスも全て我が城にいることを忘れるなよ」

「……あ、う――」


 ローシーは何かをいいたげだったが、インモラスの警告のような物を受け黙ってしまった。それにしても。


「お前はいい加減、俺を飛ばしてローシーに語りかけるのをやめろ。お前の言い草は不愉快だ」

「……これまでウァンパイアロードたる私にそこまでの口を聞いたのは貴様が初めてだよ。その蛮勇ぶりだけは褒めてやる。忘れるな、勝負は今夜、我が城でだ」


 そしてインモラスは執事と一緒に去っていった。どうやら夜になったら迎えに来るつもりらしい。


 そして俺たちは宿に戻るが、ローシーの表情が暗い。決闘のこともあるし、早めに夕食を摂ったが、その時も暗かった。


 そして部屋に戻ったが――


「テム、少しいい?」


 ローシーが俺の部屋までやってきて深刻そうな顔を見せる。


「なになによば~い?」

「違うわよ……」

「何だ? 随分と元気がないな。ツッコミの切れも悪いし、ローシーらしくないぞ」

「一体私どんな風にみられていたのよ」

「露出狂」

「……悪いけど今はいちいちツッコんでる気分じゃないの」


 まさかここまでとは。かなり重症だな。


「ねぇテム、私やっぱり決めた。このまま、大人しく城に戻るね」

「……どういうことだ?」

「文字通りの意味よ。元々私の勝手に貴方を巻き込んだに過ぎないわ。あいつの言っていたとおり、私はあの男の物だった。でも、それに耐えきれず逃げてしまったの。仲間も見捨ててね。酷い女でしょう? だからテムに守ってもらう価値もないのよ」

「俺にそんな嘘が通じると思ったのか?」

「え? う、嘘じゃないわよ! 大体どうしてそんなことがわかるのよ!」

「当然だ。俺は世界最強の魔物使いを目指している男だぞ? ローシーの考えていることぐらい判って当然だ」

「……何よそれ」

「自分の気持ちに嘘はつくなということだ。たしかに逃げ出したのは本当なのだろう。だが、それは自分のためではなく、なんとか仲間を救いたいという思いからだろう? だが、それには自分ひとりではどうしようもなかった。だから俺を頼った。多少強引だったかも知れないが、魅了までしたのは俺ならもしかしたらあいつを倒して仲間を救ってくれるかも知れないと、そう思ったからだ」

「……貴方、どこまで。馬鹿、でも、でも駄目よ! やっぱり今回は無茶が過ぎるわ!」

「何故だ?」

「あいつが出した条件よ。貴方知らないの? ヴァンパイアが真の力を発揮するのは夜よ。夜のヴァンパイアは昼間とは比べ物にならないほどのパワーを発揮するの。それなのにこんな決闘に挑んだら貴方殺されてしまうわ!」

「なんだそんなことか」

「……そんな、こと?」


 全く何を心配しているかと思えば。大体ヴァンパイアが夜に力を発揮するなどこの俺だって知っていた。


 だが、そんなこと俺には関係ない。


「全く心配性のやつだ」

「え? ちょ、何してんのよ……」

 

 ローシーの頭にぽんぽんっと手を置く。何か頬が赤いが手が熱かったか? まぁいい。


「安心しろ。お前が頼った相手は世界最強の魔物使いを目指す男だ。夜であろうとヴァンパイアなんかに負けるものか」


 そして、夜が更け、迎えの馬車がやってきた――

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