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それから猫と俺との生活が始まった。
なんてことはない、大きな岩穴に居を構え、熊の俺が木の実なり果物なり魚なりをとってくる、それだけの生活。
退屈だとか単調だとか、そんなことは思わなかった。俺はもう人じゃないんだから。
不思議なことに、狩りや採集、そして冬篭りの準備も着々と進めている自分がいた。本能とやらが働いているのだろう、熊の生活に関して何の知識も経験もない人間だった俺でも、身体が勝手にそれらを行っていた。
ガリガリだった猫は、俺が持って帰ってくる食糧で、だんだん元気になっていった。
そのうち猫も一緒に河に魚を捕りに行くようになった。
まだ上手く捕まえることができず、小魚に翻弄されて、こてん、とお尻から転ぶ子猫を見て、俺は笑った。
笑う、だなんて、熊にできる芸当なのかは知らないが、確かに俺は今笑っている、と思った。
人間だった頃は滅多に笑わなかったのに。
今の俺は人間らしいのか熊らしいのか、自分でもわからない。
というか、そんなことはどうでもよかった。
やっとの思いで捕まえた小魚をくわえて、見て見てと急ぎ足で歩み寄ってきて、にうにうと俺に話しかけるように鳴く猫を見ていると、自分が何だろうがどうでもよかった。
必要とされている。
それだけで充分だった。
猫になった彼女はくまさんと暮らし始めました。
ぼろぼろで歩くこともままならない彼女に、くまさんが毎日木の実や果物や魚をとって帰ってきて、彼女に与えてくれました。
「おかえりなさい、くまさん」
彼女はくまさんが帰ってくる度、必ずお帰りを言いました。
猫になった自分の声は、くまさんの耳にはどう聞こえているのか、何も聞こえていないのか、彼女にはわかりませんし、くまさんも返事をすることはありませんでしたが、それでも毎日言いました。
隣に座って一緒にご飯を食べる。彼女はそれだけで充分でした。
そのうち彼女は歩くどころか元気に走り回れるようになり、くまさんと一緒に山に出かけたり、河に行って魚を捕ったりもできるようになりました。
「もう、晩秋だね、くまさん」
黄色や茶色、真っ赤に色付く山々を見上げながら、彼女はくまさんに話しかけました。
くまさんは返答しません。というかできるのかもわかりませんが、彼女はいつもくまさんに話しかけます。
「くまさん、一緒にいてくれる?冬になっても、春になっても、ずっと、傍にいてくれる?」
彼女は恐る恐るくまさんに歩み寄ります。
くまさんは何も言わず、そっと右の前足を差し出してきました。
彼女はその鋭い、自分の身体ほどもある大きな爪にすがりつくように頬ずりしました。
「ありがとう、くまさん」
そのときのくまさんは、笑っているように見えました。




