私、死んだのに生きていました。
20XX年
私は20XH年に生まれた16歳なりたて、高校1年生!
普通に勉強をして、普通に運動をして、普通に恋をして…
何もかも普通で、平和な生活。
何事もなく、特別凄いこともなく、これが多分平凡なんだろうな。
大学…は、まだ考えてない。
でも、いつか就職をして、結婚をして、子どもを授かって、歳をとって、おばあちゃんになって、この世とお別れをするんだろうな。
問題なんて起きなくていい、私は普通に暮らしていきたいんだ。
「こ………こ…!こ…な…!こーこーなー!!」
「ひゃい!?」
「心奏、起きて、授業始まる」
「ああ…もうそんな時間?昼休みって短いなぁ」
「あんたが寝すぎなの!」
「へへ、ありがとー、珠希ちゃん」
眠~~い体をなんとか起こして、机の上に垂れてしまったヨダレを拭き取る。
「はあ、熟睡するのはいいけどね?私みたいに起こしてくれる人がいなかったら今頃まだ夢の中よ」
「確かに…はっ!来年珠希ちゃんと違うクラスになったらどうしよ…!」
頭を抱えながら盛大に溜息をつき
「はああぁ……ほら、さっさと用意!先生来るよ!」
優しさを見せてくれる彼女は、私のお母さんみたいな人だ。
もう1度ありがとうと言い、授業の用意をした。
やばい。
この言葉が今の私にはぴったりだ。
とても眠い、恐ろしく眠い…。
なんでこんなに眠いんだろう。
重くなっていく目蓋をどうにか開いて授業を聞く。
よく見ると生徒も先生も眠たそうに目蓋を擦っている気がする。
眠いよね、だって昼ごはんの後だもん…。
≫ピーンポーンパーンポーン≪
遠のきそうな意識が校内放送で戻ってきた。
≫校区内でテロ予告がありました。15時になるまでに生徒は速やかに家に帰ってください。繰り返します…≪
テロ?テロが起きるの?
隣のクラスからもザワつく声が聞こえてくる。
先生は職員室に行って事実確認をしてくると言って教室を走って出た。
それと同時に生徒たちは席を立ち、好きな所に移動し始める。
「心奏、今の放送…」
「テロなんてデマでしょ。最近変な人多いからね…まさかこんな、なにも起きそうにない所にテロ宣言するとは思ってもなかったけど」
とか余裕ぶって言ってみたけど、内心ドキドキが止まらなかった。
(もしも、本当だったら…早く帰らないと死ぬんじゃないの…?)
不安を感じ取ったのか、はたまた自分も不安になったのか、珠希ちゃんが手を握って言った。
「大丈夫、デマだよ。それに早く帰れって言うならその通り早く帰らせてもらお!」
「そうだね…!そうだ、帰りに13アイスクリーム寄らない?」
「いいね、そうしよっ」
大丈夫、大丈夫。
いつも通りにしていれば何も起きない。
教室全体がそんな空気になっていくのが分かった。
PM1:57
早く帰ることが出来た私たちは宣言通り、13アイスクリームに来た。
「あれ、閉まってる…」
「なになに?『緊急速報に従い、本日の営業を終了しました』…?」
そういえば、ここに着くまでにあったお店も全部人気が無かったように感じる。
「帰る?」
「開いてないもんね…」
私と珠希ちゃんの家は、ここからだと電車に乗って10分、歩いて35分くらいの場所にある。
「バスだと…帰れそうにないね」
「うん、凄い渋滞……」
ただならぬ光景に、恐怖を感じた。
「珠希ちゃ…」「心…」
同時に声を出してしまい、あはは、と笑いながら先にどうぞと言う。
「心奏、さっきの授業中なんだけど、変な臭いがしなかった?」
「臭い?あー…したような…眠くて仕方なくてよく嗅いでないけど」
「そう、やっぱり」
珠希ちゃんは辺りを見回した。
「鼻が慣れてしまったんだと思うけど、変な臭いがしてさ。その後から皆が眠そうにし始めてね」
眠そうにしていた気がしたんじゃなくてみんな眠かったのか!
とか言ってホッとしてられない。
「嗅ぎすぎたらよくないんじゃ!」
「うん、だと思う。もし15時にテロをするって内容が本当なら、もう手遅れなんじゃないかなって」
もしかして私たち死ぬの?
まさか。
私まだ16だよ。
「そんな訳ないよ…、3時までに家に帰りつけば大丈夫だって…」
「……うん、だよね。じゃあ早く帰ろっか」
珠希ちゃんの手を思わずギュッと握った。
35分ならまだ間に合う。
3時までに家に帰りつきさえすれば…。
珠希ちゃん?
強気だけど、まだ誕生日を迎えていない15歳の彼女の手が震えているのを感じた。
PM2:38
おかしい。
もう帰りついていなきゃおかしい時間なのに、まだ家まで15分くらいかかりそうなバス停に私たちはいる。
「ちゃんと…歩いてるよね…」
心なしか、息が荒い。
「はあ…っ…うん…歩いてる…」
このままじゃ、間に合わないんじゃ…ううん、間に合う、まだ間に合う。
隣からの足音が止まる。
「珠希…ちゃ…?」
「あれ、何…」
繋いだ右手とは反対の手で、マンホールを指さした。
カタカタと震えながら、中から濃い紫色の霧がジワジワと出ている。
「あ………い…」
「珠希ちゃ、ん?どうしたの…」
「あま、い…!!甘い…におい…する…!」
右手を振り払い、マンホールに向かって走っていく。
「待っ、て…!それ、危ない、やつ…じゃ…」
珠希ちゃんはマンホールに顔を近付け、大きく霧を吸い込み、
そして、そのまま地に倒れ込んだ。
小さく、珠希ちゃんと呼ぶ。
大きく、珠希ちゃんと呼ぶ。
でもその声も何もかも、届かない。
声が、出ない…。
目の前で倒れた親友を見た私は、出ない声で叫びながら家に向かって走った。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
私の人生はここで終わるの?
嫌だ…!
ああ、前に何かある。
フワフワで、美味しそうで、甘い……。
アレを食べたら、3時までに…
……あれ…
私…………
(ここは…?)
目覚めた私の目の前に広がるのは闇だった。
少し頑張れば動けそうかな…。
なんで私はこんなよく分からない闇の中にいるんだろう。
グイグイと、上に向かって全身を動かす。
15分くらい経っただろうか、ようやく外が見えた。
「出れた」
足音で近くに人がいるのが分かり、声をかける。
「そこー!誰かいますよね?助けて、ここから出してください!」
「ひっ……!!?」
ザッザッと走り去る音が聞こえる。
「逃げないで…!」
そして、遠くから叫び声がした。
「ゾンビだ!!ゾンビが出たぞ!!」
「へ?」
三島心奏、生まれて16年。
どうやらゾンビになってしまったようです。