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ゲーム世界で開拓者やる話(テスト投稿

作者: 藤白

そのMMOは挑戦的であった。

 ユーザーは開拓者となり一つのパンゲアの覇権を争うという見出しで売り出されたそのソフトはフルダイブによる新型のバーチャルリアリティを前面に押し出し、それまでのものとは隔絶したクオリティで再現された自然環境の中で、ユーザー同士で集落を形成していこうというものだった。

 コマーシャルで流れたムービーでは波の打ち寄せる砂浜から砂を掴み上げこぼれた砂が自然な山となったり、手につく汚れまで再現され伐採された木のささくれも打ち付けた石のままであったりとすさまじいものであった。


 その名も通称、原始時代オンライン。正式名称は別にあるのだが、オープンベータが始まろうというこの時期に至ってすでに呼ばれることがなくなって久しいのだ。理由はそのものずばり、ゲーム内環境が原始時代そのものという所にある、ユーザーキャラクターは名前と容姿だけを決め、地上に降り立つ、腰蓑一丁で(女性キャラはブラっぽい布切れはある)。クエストなどない。そもそもNPCがいない、ユーザーインターフェースがない、ゆえにインベントリなどもない、ステータス?あっても確認する手段がないのでないのと一緒ですね、個体差の検証は行われているようですが、あまり順調ではないようです。道具?その辺りの石を拾ってください。尖っていたら切ったりできるかも。木の枝と植物の蔓があれば組み合わせられるでしょう。家などありません木を伐りだして組み上げましょう。


 そんな無い無い尽くしのゲームの中で唯一システム的に存在するもの。それがそれぞれの最初の拠点に存在するフラッグ、またの名をリスポーンポイント。わずかに発光する木組みの土台に2メートルほどの棒、そしてなんと頭頂部にはそれぞれのグループごとに染色された布(!)がはためいているのである。(無風でも!)


 クローズドベータまでは輝くクリスタルだったらしいのだが、逆に違和感があるとのフィードバックが多く現状のグラフィックに変更された経緯と合わせて、しばらく眺めているとジワジワとした笑いで口角が引きつってくるオブジェクトである。


 「このゲームで行けるって思ったやつ絶対に頭おかしい」

 それがこの原始時代オンラインユーザーの大筋での共通認識である。

 ただ、はたから見た場合、プレイしているユーザーもその同様の評価であることはあえて指摘するまでもない事であるが、実際には現代ではなかなかできない自給自足生活のようなものを体験できるので5人組アイドルの島生活などの感覚で遊ぶ層もおり、アクティブユーザー数は意外なほど多い。

 ゆえに、このたびサーバー増強に伴ってこれまで2つであった拠点が4つに増えるとともに、いくつかのシステムアップデートが行われることとなった。





「つーわけで、一緒に始めてみねぇ?まだベータで安いし新拠点オープン直後だから拠点の自動振り分けも固まるから狙いやすいぜ」

 放課後、とある高校のとある空き教室6人の男女がゲーム雑誌と公式ホームページを開いたタブレットを机に広げて顔を突き合わせていた。話の内容は前述ゲームの新規参入についてである。この6人、自称ゲーム同好会と名乗って部室も部費も顧問もなしで放課後使われてない教室や資料室をつかってポータブルや、ソーシャルゲームをプレイしているのだ。当然帰宅後はPCであったり据え置き機であったりのゲームをする生粋のだm……ゲーマーなのである。

「私はパスかなーVR機器持ってないし」

「俺もだな、MMOはこれ以上増やすとプレイ時間がやばいことになる」

「今何本だっけ?」

「4かな、二日割で3つ回してんだけど、一個はログボとストーリーの更新来た時だけやってるわ」

「「「あー」」」

「んじゃ、俺も便乗パス。機械系のアプデ来たら考えるわ、ロボとか」

「ゲーム内で何万年かかるんだよ」

「水車、風車くらいならあるけどな、風車は草編みの帆で回してたわ」

「まじかよ、すでにオーバーテクノロジーだろ」

「変態はどこにでもいるってことだろ」

「「「…………」」」

「……あー、俺はやってもいいよ。」

「んじゃ、私も。VR機もってないけど、そろそろ買うつもりだったしね」

「おおっまじか。さんきゅー心の友よっ」

「んで、JOB何すればいいの?ヒーラー?」

「「「「そんなんねーからっ!」」」」

「え、じゃあタンクでしのぐ系?」

「……ミッちゃんさ、どっから話聞いてなかったの?」

「え?コータが新しいMMOをVRでやりたいってとこは聞いたよ?」

「最初じゃん、そこ最初じゃん!俺そっから30分くらいこのゲーム説明したじゃん!」

「ごめんて、ロスタンの妖精狩りの時限イベが来ちゃってたんだからしかたないって。てわけでサクちゃん産業して」

「えっとつまりね…………」


「なるほどねー、つまりバーバリアンプレイか」

「あ、うん、もうそれでいいです」

かくして、3人の新規原始人は新らたな拠点の開放日をむかえるのである。







 狩野浩太は今日から始める新規ゲームのログイン待機中に一緒に始める二人にスマートフォンのチャットツールで連絡を取ることにした。

 >「二人は準備おk?」

  <「おk」

  <「pk」

 >「とりあえず、一回ログインできたら周辺を確認して、目印になりそうなものがあったらごるアウトして共有しようや」

  <「了解ごるw」

  <「ごるあうとってなんぞ?ww」

 >「打ち間違いの指摘やめろや」

  <「てか、普段からクオリティキーボードなん?フリック使えよw」

 >「なんか苦手なんだよあれ」

  <「もうなんでもいいごる。5分切ったごる。トイレしてスリープ待機するのでレスしないごる」

 >「お気に入りかよ」

 そう返信して時計を見れば確かに5分前行動を意識するとかなんとかのため5分進められた時計の針は12時ちょうどを指しており、公式の発表通りならばもうじきメンテナンスが明けて新規拠点、その他のアップデートが完了する。

「ログインオンラインになりませんようにっと」

 >「俺もそうするわ」

 浩太はそう一言呟いてから、同意のレスだけしてシステムタイプのヘルメットに似たVR機を被って、専用のクッションを敷いたベッドに横になると、フリップアップ機構を下して外側からショートカットキーをタップ、ゲームを起動する。ログインなどは脳波などを参照して行うため入力をする必要は無くログインでき次第、誘眠機能によって半覚醒半睡眠の状態へと移行していく。

 そうしてまだ見ぬ世界への期待とログインしてからの手順を空想していると不意にVR機の一部が起動したことともに浩太の意識は薄らいでいった。



 浩太は自身が水中にいるような感覚で、まどろみから醒めるように意識を取り戻した。

(息、できる。当たり前か、妙にリアルだな。それで「泳げないやつ注意」か)

 確かに急に水中に放り出されると泳げない人間はパニックを起こすかも、そんなことを考えながら、とあるスレッドの書き込みを思い出して周囲を見渡す。光は差し込むが水面は無く無重力とはこういうものなのかと思いつつ身じろぎすると、その動作に反応したのか、目の前にホロスクリーンが現れてキャラクターの制作画面がそれぞれポップアップする。


 キャラクターはスライダ式でかなり細かく作りこめるが、今回は待ち合わせもあるのでデフォルトの自身の顔から10%のランダム要素を追加、変更する機能を連打して余りにも突飛な容貌でないものを引いた段階で決定ボタンを押す。キャラクターネームは特にこだわりなくリアルネームのまま「コータ」とした。

押し込んだボタンを離すよりも早く周囲の液体は崩れ去り、コータは原始の大地に降り立った。

 周囲に人はかなりのキャラクターであふれており、しばし圧倒されたコータであったが我に返ると、当初の予定通り拠点周辺を探索して回るために駆け出した。





  <「コータ遅くね?」

  <「日の出みてんじゃない?あれで意外とロマンチストだし。きれいだ、とかいってそう」

  <「あー」

  <「とりあえず、もう13:00に河口の岩でよくない?それまでは自由探索で。遅刻のコータはこのレス見たらその岩の上で正座してて」

  <「正座w1時に岩了解」

  <「んじゃリログー」

  <「k」

「さすがに、ひどくね?」

 ログアウトしてチャットツールに残されたログを見た浩太はそう呟く。時計の針は12:30分前。ログの時間を見る限り二人は10分かけずにログアウトしざっくりと周辺の確認とめぼしいランドマークについて話していたようだ。最終的に決定した河口の岩は浩太自身も言われれば即思いつくものだ。

 日の出というのは、サーバーオープンに合わせたと思われるタイムスケジュールによって夜から朝に変更されていくゲーム内環境の変化によって行われた日の出がゲーム内とは思えないほど綺麗で、探索中の足を止めてしまったのは確かだった。

「ま、30分も正座してらんないし、適当になんか食ってからログインしなおすか」


 3分前にログインしなおして、訂正するタイミングもなく、その岩を待ち合わせ場所にしたプレイヤーは意外と多く、目印のためそうしない分けにもいかず、コータはおとなしく約束の岩の上で正座して二人が来るのを待った。



待った。



……まった。



「いや、遅くね?」

 おそらく5分以上、もしかすると10分以上、ぼんやりと海に流れ込む川の流れを眺めていたコータはさすがに長すぎると周囲をみわたして、ニヤニヤとこちらを見る二人組を見つけた。一人は細身で腰蓑姿の特筆することのない(身長体型各種色が基本設定)男プレイヤー、もう一人は2m近い長身の女性プレイヤーでやたらと筋肉バキバキである、なぜかフェイスペイントもしてあるが、二人ともしっかりとリアルの面影を残しているため同級生の

『青月 朔』と『暁 満月』のプレイヤーキャラクターである事は間違いないだろう。

「声かけろや、いい晒し者じゃねぇか。ってかミッちゃんのキャラやばくね?」

岩から降りて声をかけたコータに巨漢のキャラクターは指を振りながら見得を切ってみせる。

「ちっちっちっちっちー、ここにいるのは原始の戦士ゴルゴリアンヌ。ミッちゃんと呼ばれた女はもういない。見よこの筋肉がフロンティアを切り開くのだー。ばばーん」

「あ、はい」

「ほんとにそのキャラ名で登録したらしいよ?あ、こっちのはTKGね。お昼を卵かけご飯と漬物で済ませたから、なんか流れで。名付けって面倒だよね」

「お前の名づけも大概だよな、こっちはコータだ」

そんなこんなと肩をすくめる男二人にアンヌが切り出す。

「んで、どうする?私、石がほしいんだけど。石斧作りたい」

 見ればこん棒になりそうな木の棒はすでに確保してあるようで、腰と左腕には細い蔦がかなり巻き付けてある。それはTKGも同様でコータは一人出遅れたと感じてやる気が刺激されて体に熱が入るのを感じる。

「っしや、んじゃーやるか!石ならちょい上流にゴロゴロしてたからこのまま川沿いで行こうぜ」

「おっけー、いざ我が聖剣―」

「斧だろ」

 そんな漫才じみたやり取りをしながら道具作りのため、3人は川を遡っていくのであった。




「TKよぅ、この後どうする?」

「んー?」

「とりあえず、斧と槍はできたし獲物狩りに行くとか。拠点に戻って建物建設に参加するとかだよ。基本建築物は大物優先で個人のは離れて作る系の流れがあるからさー、中心に近いとこに作ってたら、場所が足りない場合いつの間にか取り壊されてるんだよ。だからまず中心部を作って公共部分との境界をはっきりさせるのが主流。らしい」

「へー」

 河原でまばら作業する人間たちに交じって道具を作成していた3人は斧4本、槍2本を完成させて、それらを吊るす草編みのスリングベルトを作っているところだった、もっとも三つ編みの蔦をさらに三つ編みにして輪っか状にするだけの簡素なものだったが。その作業中の主な雑談の中身が今後の活動方針だった。


 先発の拠点では鍛冶場や木工所は個人で作らず、だれでも使用でき、加工品との物々交換であったりで持ち込みで行われていた。というのも、ゲーム内での個人所有という概念が希薄なため、家などを建てても、カギを作れるほどの技術は無く、その所有権を維持できないのである。それは所持品でも同じで身に着けているという範囲であればログアウトしてもキャラクターに保持されるが、たとえば丸太を担いでログアウトしても丸太は地面に放置されるので大量に材料なり道具なりを確保し続けることが困難なのである。

 そのため自然と、それらは共同管理され、道具作りが好きなものは道具を作り、建物が好きであれば建築に回ったり、材料の収集や探索に精をだしたりと。拠点=一つのコミュニティ(クランやギルドに相当するもの)として共産制度が出来上がりつつあるというのが現状であった。

 ただ、当然として完全に個人主義で動いたり、マップをアスレチックとして走り回るだけのプレイヤーも少なくはないが現状では目立った諍いは起きていないため大きな問題とは捉えられていなかった。


 狩りというのも皮や骨を道具として使うため、拠点から離れた場所にいる動物ないしクリーチャーを倒す事も比較的多くのプレイヤーが行っていた。動物はウサギ、リス、シカ、イノシシ、オオカミ、クマなどで、クリーチャーとしてはゴブリンやコボルトといったものから、リザードマンまで確認されている。後者は一定の知能と技術を持ち、現在のプレイヤーと同等の道具を扱うようになるらしい、というのが定説であった。

 これ以外のカテゴリーとして、道具を扱わない幻想系生物についてはモンスターとして呼称しているが、確認されているモンスターは現在のところ高高度を飛行するトカゲのようなもののみのため浸透はしていない。


 話は戻り、3人としては作った道具で狩りをするか、資材を切り出すか、建設に手を出すかという3つが大筋での選択肢となる。よって、

「自前の家とかまだ作れないんでしょ?狩りしよ狩りっ」

 という一言によって、バーバリアンを擁する3人のパーティは河から離れ森林地帯へと進む道を踏み出すことになるのである。




 初ログインから一週間、初日から野生動物相手に暴れ回った3人パーティはコミュニティ内で名物となり、皮革や骨材、膠といった素材を欲しがるグループを中心に積極的な交流を取り、その成果として簡素な靴と服、骨槍とナイフといった革素材骨素材を用いた装備へと更新していた。おそらく小規模ながら鉄器が導入され始めた最初期の1拠点を除けば全体でもハイクラスの装備である。なお、とあるバーバリアンに関してはすだれ状に括っただけの骨を巻き付けボーンアーマーもどきまで装備している。

 その中でも最も近代的な装備は、弓でありこの拠点内でも本格的に運用され始めたことだ。形ばかりの弓は初日から存在したものの、耐久性や威力の面でお粗末なものであり、思いっ切り引けば本体か弦が破断するものが多く、適した素材の選定やある程度直進する矢の生産体制が整ったと判断されたのがここ1~2日のことなのである。


「ってわけで、TKさんこれ使ってみてよ」

 そう声をかけられたのは、TKGが放課後のパーティ集合時間までの間に木工所で矢の生産に従事していた時であった。彼らのパーティでは他のゲームでも遠隔アタッカーを担当することが多かったTKGは初期に自然とアトラトルなどを真似た投槍の使用をはじめ、弓の開発、生産に関しては積極的に協力していた。そのため試作品の試射や、狩りに持ち込んだりといろいろ融通してもらっていた。

「おお、イッキュウさん。ありがとって、これコンポジットなんですけど。いきなり技術ツリーすっ飛んでません?弦も草蔦じゃないし」

「ま、技術なんて理論自体はあるんだ。あとは実践できるかどうかさ。弦に関しては、服飾系からの提供。蔦を一回叩いてバラしたあとで獣毛も混ぜて撚り直したモンで今までより細くて強いよ。試射で目いっぱいに引いても平気なくらいはね。あとは耐久性なんだけど」

 と、視線をTKGに向ける。その視線に「なるほど、心得た」とばかりに頷いてから大きく弓を弾いてみる。(なおTKGはこのためだけに弓道部に弓の引き方を教わりに行った程度には入れ込んでいるようで掛け持ち入部も検討しているとかいないとか)


 弓はしなやかに軋みを上げて反り返っていく。TKGは耳の後ろまで引き切った姿勢をしばし維持したあとでゆっくりと弦を戻していく。

「いい感じです。本体が歪む感じもないし、途中でひっかる感じもない」

 これまでの試作で前者は木目や素材の硬さなどで素直なしなりではなく絞るような捻るような、そんなしなり方をすることがあったり、後者は硬さの違いから引いたときにかかる力が一定でない場合があったため意外と実用する際の使用感で気になる部分であった。

「併せて、骨矢も持ってってよ。ほかのパーティにも言ってるんだけど、できたらクリーチャー狙ってほしいってのが弓ギルドからの依頼だね」

「具体的には?」

「リザードマン」

「「……」」

 お互い一瞬の沈黙を不敵な笑みで結び、拳を合わせる。

「任せろ」

「任せた」

 リザードマンは現時点で最強の敵勢力として認識されており、ユーザーと同等の装備と硬い鱗がかみ合って同数の対戦ではほぼ勝ち目はないというのが大勢の意見である。この弓と矢で対象の天然の鎧を貫通できれば、その状況にも風穴が開く。そしてそれは一面的な勝利だけでなく、大きな恵みとして同拠点のユーザー全体に帰ってくる。

 鉄を含む金属含有の鉱石である。おそらく、技術の知識的なハードルが低いことを補う目的としてであろうと言われているが、どの拠点も近場では一部鉱石や鉄バクテリアなどが、ほぼ産出されないのである。これが配置されている環境には100%リザードマンの集落が点在しており、少人数でコソ泥のように採取することはできても十分な量を確保するのは難しいというのが現状だ。

 現在、鉄の安定供給を始めたのは全4拠点中、前述の1拠点のみ。イッキュウの提案は後発拠点でありながら、その2番目を狙おうという野心的な挑戦なのである。否が応にも奮い立つのが男の子である。



「つーわけで、今日はトカゲ狩りです」

「「おおー」」

 木工所改め、弓ギルド(木工所の中でも弓に関する加工開発を行うユーザーが自称しているだけ)からのクエストに関してパーティの二人にざっくりと説明を行い、目的地までの工程を説明したところでゴルゴリアンヌの手が上がる。

「弓の性能試験と言うことですが、別にそのままトカゲの集落を殲滅してしまってもよいのでしょう?」

「露骨な死亡フラグは感心しませんが、こちらの攻撃が通用するならそれもアリです」

「「おおー……」」

 ニヤニヤギラギラと笑いながら舌なめずりする二人にちょっと引きつつも、大量の矢と予備の盾を積んだ背負子を背負う。矢は10本入る矢筒と、同数ずつに小分けした矢の束が5つ計60本が今回の携行数である。倒せる限り倒しきる。それだけの意思が感じられる。

 各人の装備はゴルゴリアンヌが斧が4本、すべて腰のスリングにマウント可能でる。コータは木製の盾と骨槍、腰のスリングにこん棒にとがった石を埋め込んだものを2本と骨ナイフを持ち、TKGがコンポジットボウ、骨ナイフに背負子に蔦網の籠をつけ、矢と盾を入れてあるという布陣となっている。明らかに武装を使いつぶしながらでも連戦可能な装備で、勝ち続けるなら集落の一つくらい落とせそうである。

 ここでいう集落というのが、簡素な壁に囲まれた数件の家に、10から20体の常駐クリーチャーとリザードマンであればツーマンセルの周囲哨戒組が3から4組を一単位として構成されているものを指す。本来は哨戒のグループにちょっかい掛けるくらいでいいクエストであるが、3人ともやる気満々である。


 駆け足で30分ほど、見かける動物が極端に減ったことで何かしらのクリーチャーの哨戒範囲に入ったことを確認した3人は手早く戦闘可能な状態に切り替える。ゴルゴリアンヌは両手に斧を、コータは背中に背負っていた盾を持ち、TKGは弓を手にして背負子を片方の方に掛けていつでも取り落とせるように。コータを前面にして、「く」の字型に並んで前衛、遊撃、支援としての分業をこなす配置である。正面の接敵で前二人は左右に展開し、遠隔支援を受けながら左右から攻めるという布陣である。そしてそのまま前進すること数分、2体のリザードマンを発見した。

「どうするよ?」

「集落の位置が知りたいな、取ったはいいけど、採掘が難しいとあまり意味がない」

「だな。物資も限りがあるし」

 一言二言で方針を決め、2体のリザードマンを追跡することにする。システム的にクリーチャーの哨戒は、一組が出発し、集落を中心にぐるりと一周して集落に戻るルートを取り、一組が戻るともう一組が出発するというパターンが敷かれており、種族差で一組の最大数と、集落から出ている哨戒組の数に差はあれどそのパターンは変わらないというのが検証の結果としてほぼ確定していた。つまり、この2体を追跡しさえすれば所属する集落の場所を特定することができるのである。


「どうするよ?」

「……でかいな」

 追跡した結果たどり着いた集落は戸数が7、森林地帯からすぐに沼地に変わったような場所で開けた泥地と背後に岩山を抱えた、採掘拠点としては申し分ない立地であったが、戸数が問題だった。リザードマンは一戸につき最大5体がスタックされるため、集落として35体までのリザードマンを産出する拠点となる。最小の戸数報告が2、平均でも4戸であるため、規模としては最大級となる。とても3人だけで攻める規模ではない。

「とりあえず、ボコってから考えようず」

「「……」」

「規模的にそろそろ次の哨戒グループが戻ってくるし、それを叩いて行けそうならアタック。だめでも2体なら食えるし、それ持って一回変えればいいよ」

 女バーバリアンの好戦論にため息しか出ない男衆も否定意見はなかったため、次の哨戒を攻める事とし、襲撃しやすい茂みに分散して潜む。初手は弓で一体に、中らなければ撤収して再突撃。まずは確実に初手をとってからという方針である。その後はコータの盾で健在の方を抑えアンヌが負傷した方にとどめを刺す。TKGは2射目は臨機応変に、となる。


 この方針はうまくはまった様で、すでに4組を無傷で撃破できている。特筆すべきは胴撃ちでもほぼ確実に転倒が取れると言うこと、キルは取れないまで一撃受けたリザードマンは転倒状態になりほぼ無抵抗のままアンヌに叩き潰されるところまでがテンプレートである。次いで評価すべきはコータの盾で、アンヌのフォローまで1対1の状況でも確実に抑えきっているのである。弓の性能>コータの盾>弓の腕>転んだゴミの処理係。というのがここでの評価になる。


 魔法や回復薬などないため負傷は時間経過でしか癒えず、痛みはないものの部位ごとに麻痺(システム的に触覚が失われ、長い正座の後に痺れが来る前の感覚が失われたような状態となる)し、正常な動作を阻害したりするため戦闘は困難になる。一般にあるHPは存在せず。部位の判定がある以外は往年のFPSにあるようなしばらくハァハァしてれば治るという形である。

「来ないな、枯れたかな?」

「かも」

「どっかで誰かが倒した可能性もあるし、もう1個分待って村アタックかな?」

 規模からして哨戒数が4ということはないため別のパーティが戦闘している可能性もり、そのパーティが1アタックで帰還した場合に哨戒が歯抜け状になり、集落に攻撃中に挟み撃ちにされるのを警戒して2組分の巡回時間を待つことにし、作戦会議をする。

 基本は弓釣りで寄って来れば近接で抑えつつ弓で援護、5体釣れた場合は即撤収を基本戦術にすることを決めた。5体というのは1対1で対応し、接近までに2体は弓で仕留めて見せるというTKGの言を信じての立案である。

 そしてしばらく、哨戒のリザードマンは現れず作戦の決行の時が来た。


 集落に防壁はなくポツリポツリと茅葺きの小屋が立ち並び、住人がどういったアルゴリズムか、行ったり来たりしている。その中でもはずれにいる一体に目がけて弓がしなる。先ほどまでとは違う長距離(最接近できる木陰だが、おそらくは30mを超える)からの射撃、システム的な補助はおそらく何一つないにもかかわらず、わずかな弧を描く直射によって走る矢が棒立ちのリザードマンの頭部を正確に射貫き、倒れたリザードマンは動くことはない。

「変態だな」

「変態ね」

「いや、まぐれだから。狙ったの胴体だし」

「変態アーチャー」

「アーチャーオブ変態」

 自分の「誤射」にドン引きする本人をよそにニヤニヤ笑いながら腕前をひやかす二人。準備万端に待ち構えたところに肩透かしを食らったことで少々「いじり」に力が入りやいのやいのと囃し立てる。

「お前らマジくそだよね、それよりどうする。死体発見されたらバリバリに警戒されてる」

「がんばれっランボー」

「俺らダラダラするから、喰っちゃえばいいんじゃないかな?ワンマンアーミー」

「お前ら……あーいいよ、わかったよ、10だか20だか知らねーがやったろぅじゃん。後でやることなかったとか言っても知らんからなー」

 冗談交じりに座り込んだ二人を一瞥し、死体に集まって周辺の警戒をするリザードマンに向けて第2射を構える。その数3体、作戦上はまだ「行ける」範囲である。

 胴体に矢を受けた一体が弾かれるように倒れ、残りの2体が弾道から射手を見つけて叫び声を上げながらドスドスと駆けってくる。その時にはTKGはすでに小指と薬指に挟み込むように追加の矢を持ち、3射目を引ききっている。まるで熟練の流れるような動作で2射、駆け寄る2体が倒れこむ。拾い上げた矢を番え、起き上がりつつある最初の一体へ放てば再度胸に突き立つ矢。そして再度拾い上げた矢で、手前の2体目にも丁寧に打ち込む。一体目は起き上がり途中に、2体目はすでに駆け出しており、数mまで詰められたが、逆に的がでかいとばかりに狙いもそこそこに速射で撃ち込む。

 動かなくなった3体のリザードマンに対し、残心で1射を構えるTKG。


「うわ、きめぇ」

「さすがに素で引くね」

 2体が駆け出した段階で立ち上がって身構えた二人をして、この言い様である。

「いやこれ、たぶんなんかシステム補助あるよ」

「ほんとに?公式はそーゆーのないって言ってんじゃないの?」

「公式の発表では無いって言及はしてない、はず。ただ筋力とかは実際には持ち上げられる重量とかに差があるけど、運営は基本のステータスは男女差すらないって言ってる」

「うさんくさいね」

「ただなぁ。もしあっても、一週間かそこらで実感できるほどスキルが伸びるなら検証に乗るだろ?」

「つまり?」

「TKGがHENTAIでFA」

「おい」

「まぁ、今に始まったことじゃないしね」

「いやまって、みっちゃんは人の事言えないよね」

「失礼な。私のどこが変態なのか」

「まぁ、そこは否定できないな。普通の人間は人力TAS動画とかUPしねーし」

「あ……あ、あれは単純に覚えゲーだったっだけでしょ?不当不当!ってか、次狩ろっ次っ」

 思わぬ矛先がこちらを向いたを悟ったアンヌが手早く身支度をして動き出す。

 倒れた死体はそのままに、増援の気配はない。知覚範囲内の敵はこれだけだったようで、これ以上となると集落に接近して釣りだすしかない。

「露骨」

「露骨な変態」

「あぁん?」

「こえぇ、ちょっとちびるわー」

 そんな風におどける男衆をにらみ付けて、ズンズンと集落に向かって歩き出す。

 中央へ真っ直ぐとではなく、円周状に回り込みながら小屋を遮蔽にしつつ索敵することで不意の遭遇を警戒していく。

「小屋の中から出てくるなら燃やせたらいいのにな」

「漫画とかみたいに一瞬で燃え上がるわけじゃないじゃない、ぞろぞろ出てくるだけだと思う。それよりグレポンしたい」

「グレポンできるってことは、相手もしてくるってことだけどねー」

「「……」」

「将来的に黒色火薬くらいは実装するだろうから、陣取り合戦が酷いことになっていきそうだよね。今くらいの道具の間にガンガン拡大政策とっていった方が後々楽になるのかもね?今でもTKの弓はオーバーテクノロジーでしょ、たぶんワンショットワンダウンって明らかに過剰火力で強すぎるよ、コータの今使ってる盾とか余裕で貫通するでしょ。集団運用されたらもう勝てないと思うよ。開発はいいけど火力面だけ突出しすぎると結局自分たちの首を絞めることになると思う」

「長い、3行」

「死ね」

 現在のリザードマンの装備は木製盾に石穂先の槍であるが、技術レベルは拠点周辺から波及し追いかけるように伸びてくるため、じきにクリーチャー群もコンパウンドボウを扱い始めるはずなのだ、火器が実装されるならば当然そうなるだろう。精密な工作機械による量産は技術的に不可能としても手工芸の延長で生まれた銃などで歓んでいたら、相手は方陣組んで連射してきたなど笑えない。彼らは一定のアルゴリズムで行動しているが、装備は制作しているのではなくポップした段階で身に着けているのだから、制作工程や素材の収集などで発生するボトルネックを無視してフル装備の兵隊が一定時間ごとに補充されるなど悪夢に等しいだろう。

「まぁ確かにね。まぁ、それまでに拠点の強化もしっかりやって行こうってことだよね。ってか、クリーチャーが拠点を攻めて来たりって話聞かないけど、あるんかな?」

「……ありそう」

「……うげぇ」

「ま、今気にしてもしかたがないし、サクサクこいつら喰っちゃおう」

 そう言って弓を構えるTKGの先から数体のリザードマンが駆け寄ってくる。どうやら彼らは耳もそこそこいいらしい。



 戦闘は前衛二人が引き付けだ上で防御に徹する。そして後方から弓でダウンをとり、一体ずつ処理していくスタイルに変化したパーティは順調に拠点内の敵を減らし、ついに殲滅を完了した。その数、実に21体、巡回組を入れれば29体のリザードマンを3人で処理したことになる。

「弓、マジつえぇなー。ヘッショ一発だし」

「HS一発なのは槍もでしょ。斧はなんかバラつき多い気がするよ。なんか不遇―」

「んーたぶん表面と内部でダメージ発生するポイントが別で、貫通系だと両方からダメはいってる、とかじゃない?打撃系だとスタン長いとかの棲み分けありそう」

「出血系のデバフとかは剣とかの切断系が優位とかか」

「そうなら複合もあるかな、棍棒が打撃なら斧は打撃切断複合で」

「鱗系は切断に耐性ありそうだし、そうなると斧のいまいちの理由にはなるね」

「検証に乗せてーな。ハルバとかどうなるんだって話になるけどなー」

 そんな話をしながら無人になった集落の小屋に火をつけて回る。リスポーンポイントであるので健在だと再度訪れたときにまた、殲滅から始める必要があるのだ。火種は集落内に設置されたなぜか消えない篝火(おそらく手入れされているという設定で、配置されているとおもわれる)から拝借した。

「なんにせよ、一仕事終わりだね。拠点に戻って報告しよう」

「だね。そしたら今日は落るよ。さすがに疲れた」

「だな。獲物の処理も後続に任せてさっさと風呂入って寝るわ」




「んで、これがその時の動画?」

 かれこれ数日後、いつもの放課後、どこかの空き教室。集合した部員がラップトップで観戦するのは原始時代オンラインの公式放送の動画。運営のスタッフとコボルトの声パターンを担当したという声優がパーソナリティとなった番組で、各拠点の進歩状況や、細かい設定や方針、実装予報などを伝えるものだ。その中で集落内の風景や建設現場、時に狩りの映像などを鑑賞するというコーナーがある。今回それに選ばれたのが3人のパーティによる拠点攻略なのである。音声などは個人情報が漏れる可能性も考慮されBGMオンリーではあるものの、どうやら撮影は複数人で行われたようで意外なほどカット数が多い。公式発表では、透明化したキャラクターに撮影用アイテムを持たせたゲームマスターがデバグ用のコードで飛んだり潜ったりしながら撮影しているとのこと。

 動画はアンブッシュ状態からの奇襲による哨戒殲滅から始まり、拠点襲撃に移る。動画に視聴者のコメントが載るが、弓の性能に感嘆の声が上がっている。時々腕前も。腕前といえば特にコータの盾使いが評価されているようで「うちの前衛にほしい」から始まり「あれは○○(別ゲーム)のパラ職経験者の動きっぽいけど補助なしでようやるわ」「右手の槍使わねーなら両手に盾もてやww」「なんでや使ってるやろ!牽制に!」などなどのコメントが並ぶ。大勢は好意的なものが多く流れていく中、時折首をひねりながら死体の頭に斧を振り下ろすバーバリアンには意外なほどコメントが少ない。

「浩太さぁ、自分の擁護コメントは恥ずかしいよ」

「なぜばれた」

「このコメお前かよw」

「いや、自分に関するコメ少ないからって八つ当たりすんなよ」

 彼女に関して目を引いたコメントを抜粋すると「あの女トルケルやばい」「しっ、黙っとけミンチにされるぞ」「あいつがラスボスちゃうの」「パーティ内であれだけ時代設定違う」「生肉食ってそう」などが上がる。

「ひどくない?コメント」

「てか、みっちゃんなんでこんなキャラメイクにしたのさ」

「バーバリアンプレイだっていうから」

「いってたのはお前だけだけどな」

「なるほど」

「なんといっても、身体ムキムキなのに乗ってるのが童顔でアンバランスでひどいわ」

「それなー。かろうじてペイントで見れる風になってるけど」

「たしかに。ってかみっちゃん関連のコメっぽいのでちょいちょい「ミンチにされるぞ」ってのが多いのはなんでなん?」

「あー、たぶんねー、3日目くらいかな?窯場近くを占有しようとしたグループがあってねー」




 その日、暁 満月ことゴルゴりアンヌは集合時間よりもかなり早くログインし拠点内の散策を行っていた。方々で切り出した木材が加工され、建物が建てられ、道具の加工も行われている。同時接続で最大1万人行ったとか行かないとかの公式報告があったので、初期拠点よりも少ないにしても2000人強の人間が周辺にいると思えば、この煩雑具合も納得がいく。都市計画は広いらしく、丸太を積んだリアカー(歪なようだがなんと車輪がついている)が4台並んでも十分な幅を持った道が何本も敷かれている。といっても、区画分け用の石が並んでいたり、蔦で囲いがしてあるものがほとんどで一部資材の運び込まれている以外はほぼ整地もされていない状態だ。

 そんな拠点内を道に沿って歩きつつ工房区と呼ばれる川沿いに伸びる予定の区画へ進む。将来的に水車を使って機械化することを前提にスペースにゆとりをとって作ろうという方針で、倉庫や加工場が建ち始めている。

 そんな区画でどうやら揉め事がおこっているらしく、かなりの人だかりができている。ゴルゴリアンヌが集団に近づくとどうやら少数のグループが都市計画外の建物を建てており、「市議会」と揉めているらしかった。

 市議会というのはクランの様なもので、事前情報を収集し初期拠点の不満点などを検証したオフライングループが都市計画の重要性を懇々と一般ユーザーに説いてまわり、賛同者で結成したものだ。とはいえ強引に進めるのではなく、随時意見を取り入れたり、個人建築スペースの相談なども行い、物資や人手の分配から道具の消費状況を調べて、ストック品の制作依頼をだしたりと面倒事を引き受けているといったイメージの多い集団なのだ。

 今回問題になったのは、すでに区画整備し鍛冶場と併設予定の大型炉の建設予定地を集めた資材ごと占拠したのが問題の様だ。

「ふむ」

 一言うなづいて、アンヌはその人込みを押し分けて市議会のメンバーと口論している相手に近づいて声をかける。

「ねぇねぇ、一つ聞きたいんだけどー」

「あ?かんけーねー奴はすっこんでろよ」

「あるかないかで言ったら関係ないけど、市議会のやってる運動?は、知ってるんだよね」

「しらねーよ、勝手に作ったルールなんか聞いてられるかよ」

「ふーん、ようは自分たちは自分たちでやりたいようにやるってことよね」

「そうだよ、わりぃかよ、あぁ?」

「ううん、いいと思うよ。やったらいいとおもう、そもそもそういうゲームだと思うし」

「お、話せるじゃん、だったらさっさとどけよな」

「うんうん、だから、私も好きにするね」

 そう言って腰のスリングから右手で抜き放った石斧を相手の頭部に叩きつける。

「うぁってぇ、何すがぶっ」

 返す刀で左で抜いた石斧を救い上げるようにして顎を打ち抜くと、そのままのけぞるように倒れこんで全身をグレーに変色させてラグドール化する。

「ごちゃごちゃめんどくさいから、今決めたけど、将来的に区画は整理されてた方が「私が使うとき」に便利なんだから邪魔すんだったらミンチにするわ」

 そう啖呵を切り、ぐるりと相手のグループを睥睨してみせる。

「文句ある?」

 ないわけがない、リアルであれば激高し耳まで真っ赤にするような勢いで気勢を上げ占拠グループ。後はもう乱闘だった。



「んで、10人はいなかったと思うんだけど、そのあと2~3日くらい見かけるたびにキルしてたらね、泣きが入ったから手打ちにしたってのがあったから、たぶんその辺の話からだと思う」

「「「「……」」」」

「……おかしくね?ナチュラルに10:1で相手殲滅したって聞こえるんだけど?」

「えー、だってほぼ丸腰だったし、持ってても棍棒が2人くらいだし、イケるイケる」

「いけねーよ、おまえVRゲー初めてだろ。しかも実像とあんだけ違うアバターでなんでそんな動けんの?変態?変態なの?」

「失礼な、変態は朔ちゃんだよ」

「俺じゃなくて弓の性能な?」

「変態パーティかよ、一緒に始めなくてよかったわー」

「ほんとよねー、一緒にされるところだったわ」

「俺は違うだろ、俺は堅実な槍騎士プレイだったわっ」

「ぇ、いきなりそんなマニアックなプレイ出されても。引くわぁ」

「浩太がくっころさんとか、やばいとかそういう次元の話じゃないわー」

「これはもう、チャンピオン決定だね。変態オブ変態」

「ああああもおおおおおぉぉぉ」


 浩太の悲鳴が響く室内で、垂れ流されていた動画の最後に開発ぽろりとこぼしたのが

「もともと予定はあったんですが、新規のプレイヤーの中にも戦闘に耐えうる人材が出てきたので次回メンテでは少し大掛かりなアップデートも加える方向で考えています」




 コータがログインしたのは「部活」を解散した後、真っ直ぐに帰宅しそのまま寝られるようにシャワーと軽食を済ませた6:30頃だった。食事は早かったが、途中でログアウトする手間を考えたら、この方が楽でいいというのがVRゲームをするようになってからの習慣だった。両親は共働きのため早上がりでもない限り一緒に食事をすることも稀なので、一向に構わなかった。

 もともとゲームも放課後の浩太を家でおとなしく留守番させるためにと両親が与えたものにどっぷりはまったのが始まりなのだ。重課金でもしない限りにおいて、たとえ赤点常連だろうと小言さえ言わない両親なので気楽なものだと浩太本人も思っている。

 そんなコータがログインして見たのはいつもより活気にあふれた拠点であった。

「活気っつーか、殺伐としてんな」

「おい、そこの盾持ちの人」

 そう声をかけられたのはすぐ側の木造建築の屋根の上からだった。

「ん?」

「襲撃だ!前線に行ってくれないか。もう外周の方じゃ建物が半壊してるのもあるんだ」

「はぁ?」

「工房区は資材でバリケード作れてるけど、市街地がやばいんだ。今んとこ小型種だけだけど最初はゴブだけだったのを考えたら他のも増えるっつー予想っぽい」

 どうやら物見兼射手らしいそのPCは言いながらも弓を引いている。その先を見れば昨日まで大通りだった場所は丸太が積み上げてあったり、おそらく自分たちで倒したらしい家屋が横たわっていた。矢の飛ぶ先に駆け出そうとしたコータは、はたと立ち止まり。

「あ、一回リアフレに連絡してくるわ」

 そういって、返事を待たずログアウト操作を行った。


 朔と満月がその知らせを受けたのは二人の最寄り駅のハンバーガーショップで一息ついていたところだった。着信音にスマートフォンを取り出した満月がさらっと読んで隣の朔の前に滑らせる。

「ん?「至急拠点襲撃造園こい」?」

「庭作るの?」

「いや、普通に襲撃系のイベントじゃないかな。至急ってことは結構やられてそうだけど、行っとく?」

「んー、まぁ祭りなら行っとこっかー」

「何分くらいで入れそう?」

ちらりと時計を見やって、

「7時には入れるよ」

「そんなもんか、こっちはもうちょい遅いかも、獲物残しといて」

「おっけ。うおっしゃー祭りじゃー」

 そう雄たけびを上げて席を立つ満月の後ろを、他の客に頭を下げながら朔が続いて出て行った。




「んで?どうなったん?」

「え、全滅だよー。各拠点の旗を折られて、全滅」

「いやー、折られるまでは生きてたんだけどねぇ、まさか折られた瞬間爆発するとは思わなかったね。その衝撃で建物倒壊するし、プレイヤーキャラクターは即死するしで酷いことになってたよ」

「拠点崩壊で12時間ログイン不可だってさ」

「えげつないなー、要は全部一から作り直しってことだろ?」

「そうそう、これまで襲撃とかなかったから、城壁?とか作ってる拠点あんまなかったんだよねー、半分趣味みたいなのが第二拠点にあったらしいけど。まー、マジノ線扱いだよね」

「BBSとかすごい勢いだけど、開始時間とか敵の増え方が拠点ごとにずれてたから、ログイン人数に応じてたんじゃないかってさ」

「ほー」

「先行してた拠点のスレはめっちゃオコだったけど、町並み作り直せるからってプラスに考えてる人もいて、逆に熱いトコもあるわ」

「まぁ、あれよね。私たちの冒険はこれからだーってやつ」

「打ちきりかよ」




※打ちきりです。







お時間をいただきありがとうございました。

本作は暇人が手慰みに書いたものをどうせならと公開する際に、いきなりはちょっと……

なので、短編で機能とか文字列とか、見易さを模索するために投稿されています。

つたないモノですが多少なりとも楽しんでいただければ幸いでした。


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