雨は好き? だったら嬉しいな
雨の日は嫌いだ。
まるで体が借り物のように重くて、言うことを聞かないように感じられる。
雨の日は嫌いだ。
服が湿っぽくて、張り付いてきて、なんだか体が粘っこく感じる。
雨の日は嫌いだ。
雨が降って、傘をさす。ただそれだけなのに、大好きな後ろ姿が見えなくなる。
――雨の日は、嫌いだ。
\゜\、\・、\、\・。゜、\・\。゜\、、
雨が降った。
そんな日は電車の遅延を言い訳にして、どこか寄り道をする。
小さな冒険だけれど、新しい発見だってある。
一本外れた道にあるパン屋は、通学の時の香ばしい芳醇な匂いの正体だ。
向かいのマンションの三階に住んでいる女性は、雨の日は油断してネグリジェのままで窓際に寄ってくる。
僕が好きな君は、雨になるとなんだか悲しそうな顔をする。
今日も雨が降った。
「別に一緒にサボらなくたってよかったのに」
君はそう言って僕を追い払おうとしていたけれど、僕には君が壊れそうに見えてならなくて、どうしてもそばにいたかった。
「雨の日は一人でいたいの」
「僕の事は気にしなくて構わないよ」
「ついてこないで」
「サボったもの同士、仲良くしようよ」
そんな言い合いをしていたからか、はたまた雨音にかき消されていたからか。僕も君も、君に接近する物体に気づくことが出来なかった。
僕はたまたま君の方を見ていたから、咄嗟に君の手を引くことが出来た。だけど、予想外に力強かった君の抵抗や地面の状態の悪さも相まって、君をその物体から引き寄せることは出来たけど、僕がその物体の前に放り出される形になった。
作用反作用の説明に使われるような、綺麗な正反対の運動をして、僕は、トラックに引かれた。
「――し――また――の……?」
薄れゆく景色の中で僕は彼女の泣き顔を初めて見た。
◇ ◇ ◇
気がつくと真っ白な空間にいた。