メモ帳の中のきみ
仕事で使っているメモ帳を開くと、ふと目に入った「のりまき」の一言。
そのとき自分は何を思ってこれを書いたのか、全く思い出せない。きっと空腹だったとかそんなところだろう。現に腹の虫が大きな声で鳴いた。
でも、今は海苔巻きの気分ではない。もっと言うなら、米の気分ですらない。
今の自分が欲しているのは、麺である。
自分のメモ帳に登場している「のりまき」には悪いが、今晩は君の出番はない。
さて、麺にもいろいろある。
今晩はどれにしようかと考えながら職場を後にする。歩いていて、ふと目に入ったコンビニののぼりの恵方巻き。
「いや、だから君の出番は今日はない」
と呟きながら通り過ぎる。
恵方巻きから視線を外したところで、飛び込んできた「うどん・そば」ののぼり。
麺だ。まごうことなき麺だ。
今晩はこれにしよう。
うどんだけではきっともたないから、かやくご飯も欲しいところ。
炭水化物に炭水化物だか、そんなことは知ったことではない。そもそもの今晩のスタートは「のりまき」だ。君の出番はなかったが、炭水化物は残ったようだ。
メモ帳の中の「のりまき」くん。君の出番はなかったけれど、炭水化物というくくりの中に君はいる。
今晩はその座は麺に取って代わられるけれど、炭水化物であることを誇りに思うといいよ。
その誇りを胸に、次の出番までさよなら、だ。
とあるワークショップで書いた小説です。
「のりまき」と「メモ帳」をキーワードに、夕飯どうしようかなと思いつつ書きました。
短編ではありますが、初めて書ききった小説です。