第六話 初任務
貞雄はジャージから軍服に着替えてる最中、サヴァテリからいろいろ質問された。
「どうだ、ぴったりか?目測で服の大きさ決めたけど」
「ええ、本当にぴったりです。ありがとうございます」
「なら良かった。…ってか、よくそんな薄着で、しかも裸足でいられたな。もう冬だぞ?結構雪が積もってるのに」
言われて見て気がついたが、靴はなく裸足で、しかもジャージ姿である。当然その下は下着だ。長時間裸足のままで行動していたので、足は冷えて指が動かないくらい冷えてるし、肌色も健康的ではない。
「えぇ、まあこのジャージ…いや、この服、意外と暖かいんですよ。でも言われて気がつきましたけど、本当に裸足でした。自分でも驚いてますよ。…うう、冷える」
と嘘をつきながらズボンを履いて、上を着る。
「当たり前だろ…。しかし本当にお前さん、よく戦闘に参加できるな。普通の人じゃそんなことしねーぞ?」
「まあ、まさにその普通の人じゃないですから」
「自分で言うなよ…」
サヴァテリに飽きられながらベルトを締めて無事着替え終わった。その時ふと気づいたことを質問した。
「…というより、どうやって軍服と志願書なんて手に入れたんです?普通もらえないでしょうに…」
「ん?あぁ、あれか。うちの大隊長…中佐と話をしたら、すぐに許可もらって、快くこれをくれた。あと服はな、足が吹っ飛んで除隊する奴の予備服もらってきた」
「…え、いいんですか?そんなことして…ってか変わった中佐だなぁ」
最後にそうボソリと呟いたが、サヴァテリに聞こえていたらしく、
「ん?うちの中佐は変わり者だぞ?連隊で一番の」
「…マジですか」
「大マジだ」
ここの部隊は変わってるなぁ、と貞雄は改めて思いながらブーツを履いた。なんとこれもぴったりである。
「…ところで、お前さんが持ってた銃、あれどこにあった?というよりいつ手に入れた?」
「え?さっきの戦闘で、塹壕の外にありましたよ。全弾入ってました。」
そう答えるとサヴァテリは驚きを隠せないようだった。
「…おいおい、あんな中でよく取ってこれたなぁ。でも、あれ敵のだと思うから多分弾も違うと思うんだわ。だから銃を新調…いや、さっき言った怪我した奴から貰おうとしんたが…とりあえず、弾もってるか?ちょっと試して見たいんだが…」
「ありますよ。ちょっと待って下さい…よっと」
貞雄はなんとか直った小銃を持ってきて、遊底を開けて弾を一発取り出した。
「…はい、どうぞ」
その弾をサヴァテリに渡すと、ジロジロ弾を見て、
「大きさも形も似てるな…どれ、ちょっと待ってな」
と言ってどっかに行った。少しすると小銃を持って戻ってきた。
「こいつは俺らの大半は持っている小銃なんだが…弾は入ってい…るなっと」
サヴァテリの持っている銃弾と自分の小銃に入っていた弾はそっくりどころかほぼ同じだった。
「おいおい…こいつは驚いたぞ…。全く同じじゃないか…」
サヴァテリは小銃の遊底を開け、その弾を入れると、綺麗に入った。そして遊底を閉じると、軽やかな音と共に綺麗に閉じた。弾薬は国によって違うと思っていたが、敵とうちの弾は同じようであった。
「…しかし同じでも、俺たちは常に弾も装備も不足がちだからなぁ。お前さんは運がいい方だぞ、銃はしっかりしてるし、服もこうしてちゃんと持ってるし。…よいしょっと、ほれ、弾返すぞ」
サヴァテリは遊底を開けて弾を取り出し、貞雄に返しながらそう言った。
「はあ…まあ突然とはいえ、装備がしっかりしていることには感謝しているのですが…」
「まあとにかく、弾が仮に違っていたとしても、弾を『頂きに』いくぞ」
「…え、どうやって『頂く』んですか?」
貞雄はなんとなく察したが、そんなことはあるまい、と思いながら聞いた。するとサヴァテリは当然と言った顔で、
「『頂く』って、敵の遺体からに決まってるじゃないか?不足だっていったろ?」
貞雄は、呆れる、といったよりやっぱりなと思った。
「…まぁ、わかってました」
「それでは早速お前さんの初任務だ。…武器弾薬を『頂きに』行くぞ」
「…へ?僕一人でですか?」
貞雄は唖然とした。サヴァテリは貞雄の呆れ顔を見て、
「ん?そんなわけないだろ。お前さん『達』だ」
「お前さん『達』?ってまさか…」
貞雄は今回は察した。その察しはあたりだと思った。
「ネモレシス小隊はフタマルマルマルに武器弾薬の改修任務を行うこと。以上」
サヴァテリは先ほどのハッキリとした口調で命令した。
「…了解」
貞雄はやっぱりな、と思った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
貞雄はサヴァテリに小隊の場所を教えてもらい、そこにたどり着くと、ネモレシスと、小隊の隊員達がいた。
「お、サダオ。戻ったか。おお、似合うじゃないか…って、その服どうしたんだ?」
「…あー、これですか?なんか怪我した人の予備の服だそうです」
「…なるほど、大尉らしいな」
ネモレシスは妙に納得した顔でそう言った。
すると隊員の一人が口を開いた。
「…そいつが新入りですか?ひ弱そうな奴が来ましたね」
一人が口を開くと周りからも笑いや冷やかしが飛んで来た。
「よう新入り。お国を守るために来たのか?」
「ここは子供が来るとこじゃないぞ。ママンのとこに帰りな!」
「兵隊さんごっこはお庭でやりな!」
冷やかしに対して貞雄も流石に腹が立って言い返そうとしたが、ネモレシスが隊員達に向けて
「なに言ってるんだ。お前らも元は新入りだろう?しかもお前たち、初の戦闘でビビってただろう。訓練してるくせにお前達ビビりすぎてマトモに銃も撃てなかっただろうに」
とキッパリと言うと、冷やかして来た隊員は口を閉ざした。
「…しかし曹長、そいつ新入りなんでしょう?どうせまた…」
「こいつはな、さっきの戦闘が初めてだったが、ビビってなかったし、銃もちゃんと扱えてたぞ?訓練も無しにな」
隊員の一人が反論しようとしたが、すぐに言い返されていた。
「…え、それ本当ですか?さっきのアレが初なんですか」
その隊員は驚いて、貞雄の方を向いた。
「おい新入り。本当か?」
「…まあ、一応」
「…嘘だろおい。しかも、訓練してないんだよな」
「してないですよ」
「…おいおいおい、とんでもねー奴が来たな」
隊員達は驚きが隠せない様子だった。なので貞雄は、
「…あの」
と言った。するとギロリと隊員達は貞雄の方を向いた。
「…僕も初めてだからビビってましたし、撃った時に変なところに弾飛びましたし…実はチビりそうでした」
貞雄は少し恥ずかしそうにそう言った。すると隊員達はニヤニヤしだして、
「やっぱりな、新入りはみんなそうさ」
「でも訓練してないだろ?ビビるのも当然だな」
「弾を当てる事も出来ないのか?。当てないとと本当に死ぬぞ?」
「でも俺ぁチビりそうなことは無かったな」
と、また馬鹿にされたが、先ほどよりはずっとマシになった。
空気が緩んだところでネモレシスは貞雄の紹介をした。
「よし、じゃ紹介しよう。一等兵のセンダサダオだ」
急にきたので驚いたが、すぐに自己紹介を、
「今日からここに配属されました、千田貞…えっ、一等兵なんですか?!」
「大尉に言われなかったのか?襟章か肩章を見ればわかるだろ」
と驚いた。知らなかったし、訓練もしていないのに一等兵は信じられないと思った。
知らなかったことを恥ずかしくもいながら顔を真っ赤にしながら貞雄は咳払いしてもう一度自己紹介することにした。
「…えー、改めまして、今日からここに配属されました、千田貞雄一等兵です。よろしく」
ネモレシスはそれを見て縦に頷きながら
「よし。じゃあみんなも紹介をしとこうか」
と隊員達に向けて言った。
「えぇ!俺たちもかよ!」
「聞いてねーぞ…」
「めんどくせー」
と、隊員達はブーイングをしていた。まるで転校生が来た時の様子みたいだった。
「…ま、いいや。じゃあ俺からいくわ」
と、貞雄より少し高い隊員が立ち上がり、紹介した。
「俺はアデノス・アリエテ。階級は上等兵だ。よろしく」
と言いながら手を差し出して来た。貞雄は不思議そうに見てると、
「握手だよ、握手」
「…あぁ、なるほど。よろしく」
と言われたので納得して手を差し出すと、ガッシリと握られた。
そして次に別の隊員二人が口を開いた。
「じゃ、次は俺らだな」
「だな」
そう言って二人は立ち上がった。
「俺はサバルピ・フリーベン。階級は伍長だ。よろしく」
「そして僕はゴードン・フリーベンだ。階級は同じく伍長。よろしく」
その2人の紹介を聞いて、貞雄は率直に、
「…兄弟?」
と口に出してしまった。するとネモレシスがその質問に対して答えた。
「ん?あぁ、そうさ。サバルピが兄で、ゴードンが弟だ」
言われてみると、なるほど確かにサバルピの方が兄らしい感じがした。兄弟はともかく2人共何か違うような気がした。それはすぐに答えが出た。
「服が、違う?」
二人が着ている服は、貞雄や曹長などが着ている軍服とは違う服だった。
「…そうか、この服見たことないのか。俺たちは前は元は国境警備隊さ。開戦する前にここに入隊したけど、その時は服が足りてなくて、支給されるまでこのの服でもいいって言うからこれ着たんだが、それから支給されてないんだ」
「…なるほど、どうりで」
フリーベン兄弟の服は似たような服だが、襟章がなかった。そして暖かそうな素材で出来ていた。そして、
「んじゃ、次は俺らだ。行くぞアキレア」
「は、はい」
また別の隊員2人はベットからゆっくりと立ち上がり、貞雄の方に歩いてきた。
「俺はナッティ・ソーヴォ。衛生伍長だ。怪我したらすぐ呼びなよ」
「は、はあ…よろしく…」
ナッティはとても優しそうな人だった。貞雄は頷きながら握手した。
そしてもう1人の眼鏡をかけた、普通の服装に帽子も戦闘帽ではなく国章をつけた鳥打帽を被った隊員も紹介を始めた。
「僕はアキレア・モスカタです。階級は君と同じ一等兵です。よろしく」
「よろしく。あと、階級同じなら敬語使わなくていいよ。同い年そうだし、俺は17だ」
「わ、わかりま…わかった。よろしく。ちなみに僕も17だ」
「やっぱり同い年だ。よろしくな」
貞雄はアキレアとしっかり握手をした。彼となら仲良くなれそうな気がした。
「んで、あと一人はっと。…おーい、アートス寝るなよー」
ネモレシスがそう叫ぶと奥からノソノソと隊員がやってきた。髭がしっかり生えている人だった。彼は欠伸をしながら、
「…わしはアートス・カンデュラ。階級は三等軍曹。よろしく」
と言ってまた戻っていった。
「あいつ、腕はいいんだが、すぐ寝るからなぁ…」
何かとフォローを入れるネモレシスでさえ呆れるくらいの者であった。
自己紹介し終わった時、貞雄はサヴァテリの言っていたことを思い出して、ネモレシスに言った。
「あ、そうだ。曹長、大尉から任務が」
「え、任務があるのか。先に言ってくれサダオ…で、内容は?」
「えっと…塹壕外の遺体から武器弾薬をありったけもってこい、だそうです、フタマルマルマルに」
「フタマルマルマル、しかも武器弾薬回収班か。うーん…」
ネモレシスは唸って何かを考えていたが、すぐに
「よし、わかった。今は…ヒトハチサンマルだから、すぐに飯を食うぞ。サダオ、嫌いな食いもんはあるか?」
「え…ないと、思います。中身によりますけれども…」
貞雄は少し戸惑いながらそう言った。するとネモレシスは、
「わかった、ならすぐに飯の準備だ。フリーベン兄弟、飯を貰ってきてくれないか」
「了解、すぐに持ってくる」
「そうか、今日飯当番だったの忘れてた」
フリーベン兄弟は素早く夕飯を取りに行った。
その間にアデノスが手早く湯を沸かし、ソーヴォが人数分のコップにそれぞれ適量のコーヒー粉を入れた。数分経ってヤカンの笛が鳴るとアデノスはすぐに湧いた湯をコーヒー粉の入ったコップにゆっくり入れ、インスタントコーヒーが出来上がった。そしてコーヒーが出来上がったと共に金属製大鍋をフリーベン兄弟が持ってきた。その光景を見た貞雄の一言。
「…人生で初めてこんなに早くご飯の支度するのを見た」
夕飯の中身は、何かドロっとした、しかし見た目は少しフワッとした物と、乾パンとコーヒーだった。
謎の食べ物を食べてみると、
「…甘!なんかクリームみたいだ」
なかなか美味いクリームだった。するとアデノスが口を開いた。
「そう、そりゃヤギの乳で出来たチーズを使ったチーズクリームだ。美味えだろ」
「はい、美味いっすね!」
「だろう?ウチの人気メニューさ。…と言っても、これだけしかないがね」
「…え」
残念なことを知りながら夕飯を素早く終わらせ、みんな準備をしていた。
すると、ネモレシスが何か白い布のようなものを持ってきた。
「…なんです、これ?…服?」
「ん?知らないのか?これを着ると、敵に見つかりにくいんだよ。ほら、今って外は雪だろう?だから雪に混じれば見つかりにくいってことさ」
「…あぁ、なるほど」
つまり、冬季迷彩服みたいなものかと思いきや、本当に白い布で出来た簡素な服だった。
「…実物は初めて見たけど、パッとしないな」
貞雄はそう思いつつそれを着て、外に出た。
そして、外にいたネモレシスが小声でみんなに、
「いいか、四つの班に分かれて回収する。一班はフリーベン兄弟、二班はアキレアとアートス、三班はナッティとアデノス、四班は僕とサダオで行こう。ライフル、機関銃、拳銃、銃剣、とにかくかき集めてくるんだ。」
と言った。するとみんなが塹壕から出て匍匐前進で進んでいたが、なるほど確かに夜だと見づらい。
「…なるほど。これはいいね」
貞雄は感心しつつ小銃を肩にかけ、ぎこちない匍匐前進をした。
ネモレシスと共に匍匐前進をして数分くらいたった時、敵ーーつまり例の『ネズミ人間』なのだがーーの遺体がゴロゴロとたくさん倒れているところに着いた。
そしてネモレシスは素早く遺体から小銃を取り上げ、肩にかけた。そして弾薬ポーチを漁り、クリップ付き弾薬を持ってきていた雑納に入れた。そしてまた別の遺体の小銃と弾薬ポーチを漁り、また入れる。その繰り返しだった。貞雄も真似て小銃を取り上げ遺体の服などを漁り、手に入れた弾薬を胸ポケットに入れた。貞雄は雑納を持っていなかった。するとネモレシスがやってきて、
「サダオ、君は装備をほぼ持ってないから、敵の装備も貰っとけ。色々役に立つぞ」
とアドバイスをしてくれたので、色々貰うことにした。しかしできるだけ良さそうな装備が欲しかったため、周りを見回すと、一人(一匹?)だけ小綺麗な遺体があった。その遺体は小銃は持っていなく、拳銃ホルダーが腰にあったので、将校だとすぐにわかった。ホルダーを開けるとちゃんと回転式拳銃が入っていた。弾もちゃんと全弾入っていた。そしてその遺体を色々探ると、ポケットやポーチには拳銃の予備弾薬がたくさん入っており、拳銃と弾薬とホルダーを有難く頂戴した。また、遺体は胸を撃たれて死んでいたので、被っていたであろう鼠色のウシャンカ帽を頂いた。だが、被ってみると何故か被り心地が良くないのでみると、穴が空いていた。
「げっ。穴が空いてるじゃん。しかも二つ…」
何故空いているのだろうと思い、その遺体を見ると、耳がネズミと同じところに生えていたので、
「なるほど、耳を通すための穴か」
と納得いった。だが、
「でも流石に俺は人だからなぁ…。よし、縫うか」
と言いながら頭にかぶり、回収を再開した。
次に目に入ったのは小綺麗な格好の遺体だった。
ベルトに付いていた弾薬ポーチが綺麗だったので、それも頂いた。
すると、ネモレシスが匍匐前進でやってきた。
何かあったのだろうかと思うと、喜んだ顔で、
「やったぞ」
と一言だけ言った。貞雄は不思議そうな顔をすると、ネモレシスは後ろを指差した。その先には軽機関銃があった。しかも五丁もあったのだ。しかし心配なこともあった。
「…弾薬は?」
いくら機関銃があっても、弾がなければただの鉄屑同然のものになってしまう。だがネモレシスは自信に満ち溢れた顔で、
「大丈夫。予備弾倉が大量に見つかった」
と言って布の袋を開けた。その中にはパン型弾倉が大量にあった。その布ケースが七袋もあったのだ。
「サダオ、何個か持ってくれないか?重くて仕方がない」
「いいですよ、お安い御用です」
七袋のうち三袋を持ったが、なかなかの重さで匍匐前進がしづらかった。また各遺体には手榴弾が二個ずつあり、それを全て頂いた。
「うわ、大量だな…。帰るの辛そう…」
と貞雄はポツリと呟いた。
回収した結果、肩にかけたりてで持って帰った小銃四十三丁、拳銃八丁(回転式三丁、自動拳銃五丁)、軽機関銃五丁、そして弾薬は小銃用が十五袋分、拳銃用が二袋分、軽機関銃用が七袋分だった。また手榴弾は八十六個手に入れ、貞雄自身の戦利品(ウシャンカ帽と弾薬ポーチ、八丁の中の回転式拳銃一丁)だった。
鹵獲して帰る途中、貞雄はネモレシスにこんなことを聞いた。
「曹長、そういえば戦車や装甲車ってうちの軍にあるんですか?」
「戦車か…。いや、一応機甲師団や自動車連隊があるらしいんだけれど、見たことないな。敵のもまだ見たことがない。でもどうしてそんなことを?」
「いや、昼の戦闘や今さっきの鹵獲した時に見かけなかったので」
「ああ、そういうことか。でも出てきてないな。連中、戦車とか持ってないと思うけどな…。だけど噂では敵は戦車や装甲車を大量配備していて、もう直ぐ来るって話もあるんだけれど…」
「そんな噂があるんですか…」
貞雄は、敵は動物と人間のハーフだと考えていたので流石に戦車や装甲車などといった技術はないだろうと考えていた。しかし敵の小銃などを見て、もしかすると敵は中々の技術を持っているかもしれないと薄々考え始めていた。しかしあまり考えたくなかったので、話題を変えることにした。
「そういや、他の班はどうなりましたかね?僕ら以上に持ってきたりしますかね?」
「うーん、どうだろう。他の班達のところも結構遺体があるはずだから、僕らと同じくらいかもしれない…お、やっと着いた」
話をしながら互いにぎこちない匍匐前進をして塹壕に戻った。
そして陣地に戻り、貞雄達の四班が一番早かったので、他の班を待つことにした。すると直ぐに他の班達も戻ってきた。
「どうだった。何かあったか?」
ネモレシスが他の班達に聞くと、全員小銃を大量に回収していた。ものすごい数である。また、ナッティとアデノスの三班は、
「見てくださいよ、これ。大戦果ですよ」
と意気揚々に自慢していた。彼らの戦利品は機関銃だった。しかもベルト給弾式の水冷式機関銃で、車輪も付いていた。確かに大戦果である。
「おお、これは嬉しいな。僕らも軽機関銃を手に入れたけれど、それには勝てないな」
とネモレシスは苦笑いをして言った。
こうして全員を合わせると、小銃百五十七丁程度、軽機関銃一九丁、拳銃二十一丁(回転式九丁、自動拳銃十二丁)、重機関銃一丁、手榴弾五百六十二個。弾薬は数え切れないほどの数である。
「よし、これで当分は大丈夫だな。みんな、持てるだけ弾薬は持っておけ。それから小銃を本部に、そして軽機関銃を八丁くらい他の隊に配っておくこと。その代わり食料と交換してくるといい。重機関銃はうちの隊のものにする。拳銃は各自持っておくこと。今日はもう寝るぞ」
とネモレシスは言った。時計を見たら午前二時だったので、流石にみんな直ぐに寝た。貞雄も疲れて目をつぶった途端、眠りについた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
貞雄は夢を見た。
夢の中で、貞雄は家にいた。部屋のベットから目が覚めた感じだった。目の前の光景が信じられなくて、周りを見渡して、ゆっくり部屋からでて、家を中を見渡した。いつもと変わらないリビングやご飯を作っている母、テレビの前で寝ている父、付けっ放しのテレビ、暑くなり始めたからつけ始めた扇風機…みんないつもと変わらなかった。
そんな光景を見て、元の世界に戻ったのか、と思った。あれは、あの戦場は夢だったのか、と。
しかし突然外で何かが爆発した音と共に地面が揺れた。まさかと思い、急いでベランダに出て見たが、何もない。変だと思って上を見上げた時、砲弾が空気を切り裂くような甲高い音が鳴り響いたので、思わず伏せた。
そこから、目の前が真っ暗になった。