第二話 戦場の中
ーーここは、何処だ?
それが貞雄が最初に頭に思い浮かんだ。
つい数時間前、部屋でアニメを見終わり、部屋のベッドで寝転んでくだらないことを考えて眠りについた記憶がまだ鮮明に頭に残っている。なのに、このわずかな時間で何が起きたのか、理解ができなかった。
「…何処だここ。というかまだ夢の中なのか?…でもあんな爆発音が聞こえてるから、夢の中はありえないかぁ…」
あの素っ頓狂な声を出した後、意識がハッキリしてきており、他の音まで聞こえるようになった。周りを注意深く見渡し、今置かれてる状況をパニックになっている自分の頭の中で可能な限り判断する。
「…えっと、今俺はクレーターのような穴の中にいて、周りでは空気を切り裂くような高い音が鳴り響き、その後に大きな炸裂音を轟かせると同時に爆発して、地面が揺れて、土やら石やらが上から降ってくる。それが近くで起きると耳がキーンとする…くそ、耳が痛え」
と状況を自分に言い聞かせるように言った。そして、ある結果にたどり着く。
「…どう考えたってこれ、砲撃だよな。…お、耳鳴りが治ってきた」
戦争映画などでお馴染みの砲撃だが、俺の人生で初めて、いや普通の人じゃあり得ない経験を俺はしたのだ。
「それで、ここは何処なんだ?仮に戦場だとしても、まさか敵陣の近くだったり?…ってか、今のところ敵か味方かって、わからなくね?」
と思いつつゆっくり立ち上がった。その時はちょうど砲撃が止んでいたので周りを見回したのだが、そこは見たことのない有様だった。
「…なにここ」
貞雄は、映画やドラマなどで『戦場』をけっこう見たことはあったが、映画やドラマの『戦場』はあくまで作られた場所であり、実際の『戦場』は映画以上に悲惨だと思った。見えたものは、建物だった様なものや、ボロボロの自動車の残骸、木の板の一部などが見えた。どうやら町だったようだ。彼の想像していた『戦場』の数倍上の悲惨さであった。
貞雄はクレーターのような所から頭を出しつつ周りをよく確かめようとしたとき、目の前の地面をふと見るとらそこには小さな謎の塊が落ちてた。彼はそれを拾ったが、その塊は奇妙なもので、塊の先端に薄くて白いものと、下ら辺には金属の輪が付いている。そしてその塊の一番下の真ん中からは、白い棒の様なものが突き出ている。塊全体は少し柔らかく、その白い棒の根元あたりは黒っぽい色をしている。貞雄は最初は不思議そうに見ていたが、その塊の正体がわかった途端、身体が小さく震えだした。信じられなくて、声も出なかった。
「ーー」
その『塊』は、人の指だった。その指は細さ的に女性の指で、結婚していたのだろう、指輪が付いていた。
彼は死体というのを祖母が亡くなった時に見た祖母の遺体しか見たことがなかった。そのような遺体は綺麗に整えられた死体だったが、この様な指だけ、しかも骨が露出していたのを見たのは生まれて初めてだった。
恐ろしくて突っ立っていた時、どこかから何かが聞こえた。
「ーーーー!」
その『何か』が聞こえたあとは静かだった。だがその『何か』はだんだんわかってきた。声だ。人の声である。誰かが何かを言っているのだ。
「ーい!ーーの!」
いや、叫んでいる。だが、近づいているのだろうか、だんだんはっきりと聞こえてきた。彼のいるクレーターの近くの穴に誰かが潜って、
「おい!そこのお前!何をしてる!さあ早く来い!危ないぞ!」
と叫んでいた。声の主は誰だ、と見た。その声の主は男性で、頭にヘルメットを被っていた。服はその男性が穴に入っていたので少ししか見えなかったが、灰色のような服を着ていた。顔は黒くなっていてよく見えなかった。
「…?」
貞雄は不思議そうにその男性を見た。するとその男性は素早く穴から出てきてすぐに貞雄が入っていたクレーターに入ってきた。
「おい聞いてるのか…って、なんでガキがこんなとこにいるんだ?…まぁいい、とにかくお前、どういう状況かわかってないのか?頭でも吹き飛ばされたか?」
彼が不思議そうにそう言ってきた。突然近くに来て話しかけられたので、
「あ、いえ、その、僕は…」
と貞雄は慌てて何かを話そうとすると、
「とにかく、早くついて来い。こんなとこにいると危ないぞ」
と、彼は貞雄の手を引っ張った。
「え、え?」
貞雄は理解もできずに引っ張られ、クレーターから出てきた。その瞬間、遠くから微かだがポンポンと小さな音が聞こえた。その小さな音が聞こえるとすぐに、
「伏せろ!!!」
とその男性が叫んびつつ貞雄を倒した。そしてその男性もすぐに伏せた。
「!?」
何で倒されたのかと思ったがすぐにわかった。
伏せた途端、各所で爆発音がした。また砲撃が始まったのだ。そしてその男性が砲撃の中で
「俺についてこい!」
と言った。貞雄は頭を何回も縦に振り、ぎこちない匍匐前進をしてその男性について行った。
10メートルくらい進んだ時だろうか、急に彼が立ち上がり、
「よし、行くぞ坊主!ここから全力で走るぞ!ついてこいよぉ!!!」
と叫んだ。
当然貞雄は「は?」と思ったが男性がすぐに走り出したので慌てて立ち上がり、全力で彼に置いて行かれない様に砲弾の雨の中を突っ走った。走っている時に爆発音がいたるところで轟いていて貞雄は逃げる様に走っていった。
どのくらい走ったのだろうか。視界に一つ小さなコンクリートの建物がポツリ見えた。
「見えたぞ!あれがうちの『陣地』だ!もうちょいだから、頑張れよ坊主!!!」
と男性は叫んだ。確かに、その『陣地』には何かがちょこまかと動いているのが見えた。
そしてようやく、『陣地』にある穴に二人は入ったのであった。男性は息を切らしながら、
「おう…坊主、よう頑張った…」
と言って笑った。
戦場を言葉で表現するのが凄く難しいです…。
始まったばかりなのでまだまだ続きますよー。