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ある朝眼が覚めると溺愛されていました  作者: 朱居とんぼ
第一章 召喚、されてしまいました
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閑話休題 男たちの独り言(謎の男)

「何? コスタス家の娘が学院に現れただと?」


 王都にある邸の一室で、年輩の男が驚愕の声をあげた。


「誰から得た情報だ」

「ジョルジュ様でございます。母君に話しておられるのを耳にいたしました」


 従者から報告を受けた男は、眉をひそめた。

 アドリアンが邸の奥深くに病弱な妹を隠しているという噂は何度も耳にした。が、コスタス家を狙う親族を牽制する策と思っていた。


 娘がいるとなれば、息子をもつ家は妻に迎えて継承権を主張できる。敵対者同士の利害が分かれるように誘った罠だと。


「まさか本当に生きていたというのか、あの状況で……」


 あり得ない。魔術の鏡を通して、はっきりこの眼で見た。

 雷光きらめく夜闇の中に、吸い込まれるように落ちていく馬車の姿を。


 その時、ぐにゃりと空間がゆがむ異様な感触がした。

 魔術の才を持つ者だけが感じられる異変、誰かが〈夢〉を飛ばしてこちらの〈記憶〉をのぞきこもうとしている。


「アドリアンか……!」


 男は傍らの小卓に用意していた水晶粒をもぎ取ると、宙に投げつけた。


 ばちっと背筋が泡立つような火花と異臭が漂って、気配が消える。

 同時に床から蛇か触手のような影がわいて、男の足元にわだかまる。


 宙をにらみつけたままの男がかまわずにいると、影たちは男の足にとりついて、地に引きこもうとするかのように爪をたてはじめた。


「……喰い意地の張った悪鬼めらが。今、やる」


 男は指の腹をくわえると、歯で食い破った。

 鮮血が飛ぶ。血を浴びた影が嬉しげに悶えながら空間の狭間へと消えていく。


「旦那様っ、早くお手当をっ」


 気遣う従者の声は耳に入らない。男の脳裏には、こちらを見る冷ややかな眼があった。


 当時まだ七歳だったアドリアン。


 簡単に手駒にできると思っていた。報復の足掛かりにできると。

 だが彼は早熟な表情で、こちらの後見を断った。あの時悟った。この子どもは知っていると。


 被害者は加害者のことを忘れない。必ず復讐者として立ちふさがる。


(だが、忘れられないのはこちらも同じだ……)


 美しい青灰色の瞳を、真っ赤に泣きはらした女の顔を思いだす。


「わしはそうはいかん。必ず、奪われたものは取り返してみせる……!」


 蝋燭の揺らめく部屋で、男は呻くようにつぶやいた。

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