閑話休題 男たちの独り言(アドリアン&ティルマン)
(視点が三人称に変わります。アドリアンと執事のティルマンのシーンです)
「リルはどうしてる、ティルマン?」
さきほどの地下室でのくだけた姿とはうってかわって、華やかな装飾のジレとジュストコールをまとってやってきたアドリアンに、執事のティルマンは様子をうかがっていた扉から身を離した。
「お疲れだったのでございましょう、お眠りになられました」
「強引に界の境を越えさせたからかな。無理をさせてしまったな……」
「それもおありでしょうが、いきなり〈妹〉などと戯言をおっしゃって抱きつかれたりするからですよ。リル様はあれで精神的にかなり消耗なさったようですが」
「そう言うな、抑えられなかったんだ、嬉しくて。やっと会えたんだから」
アドリアンは愛おしげにリルの眠る部屋を見る。ティルマンがため息をついた。
「本当にこのまま妹ごっこを強行なさるおつもりですか。こちらの事情も話さないまま。拝見したところ、リル様ならば話せば協力してくださいそうなお方で……」
「ティルマン」
鋭くアドリアンは執事の言葉をさえぎる。
「言っておくけど、彼女にあのことを話したらいくらお前でも許さないよ」
アドリアンの冷やかな瞳に、ティルマンが息をのむ。
「彼女は何も知らないままでいい。話せば彼女のことだからきっと自分が何とかしなくてはと考える。それは僕の本意ではない。いいね?」
本気の脅しだ。
顔を青ざめさせたティルマンを下がらせて、アドリアンは、そっと扉に手をあてた。
この扉の向こうに、ずっと探し求めてきた人が眠っている。
「巻きこんでごめんね、リル。でも君しか思いつかなかったんだ」
そっとささやく。
「愛してるよ、リル。やっと捕まえたんだ、だからもう少しだけ僕の傍にいて。僕に人としての温もりを思いださせて……」
ことが為れば自由にしてあげるから。
扉に額をこつんとあてて眼を閉じたアドリアンの顔は、せつなげで後悔に満ちていた。