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ある朝眼が覚めると溺愛されていました  作者: 朱居とんぼ
第四章 家族でもなく、妹でもなく、かけがえのないあなただから
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球形の卵の殻が割れていくように、空間が割れて、隙間にぽっかりと外の景色が見えてくる。

 これは何?


「……誰かが外からこじ開けてくれたんだ。リル、助かるよ!」


 アドリアンが外からの力に呼応させるように呪文を詠唱しはじめる。闇しかなかった世界に次々と光が生まれた。そして、戸口が開く。


 元の世界から、誰かが闇をのぞきこむ。


「ご無事ですか、アドリアン様、リル様!」

「兄上、リル!」


 ティルマンだ。それにジョルジュもいる。


「助けにきてくれた、の……?」


 喜びのあまりふるえる私をひきよせて、アドリアンが隠すように背にかばう。


「……ティルマン。どうしてそういいところで出てくるの。リルが惚れちゃったらどうしてくれる」

「贅沢おっしゃらないでください。準備が整う前に飛び出したあなたのせいでこっちは必死だったんです。タイミングなんて見はかれるわけないじゃないですか」


 ティルマンがあきれたため息をつく。


「魔術の塔に要請して塔にいた連中をすべて動員してもらいました。ほら、早く出てきてください、いつまでも空間をつないでいることなどできません。皆、アドリアン様のような天才ばかりではないのですから」


 私はアドリアンと手をとりあって歪んだ空間から外へ出る。

陽光がまぶしかった。遠くに、縛られて官憲に引きたてられていくクロードたちが見えた。


「皆、捕まえたんだ」

「よく殺さず我慢なさいましたね。おかげで取り調べもできます。正式に法にのっとって罰することができるでしょう。いい見せしめになります。私も先代様や父の墓前にようやく花を手向けることができます」

「ああ、殺す以外にもそういう報復のしかたもあったっけ……」


 アドリアンがぼんやりとつぶやいている。

 この男は。のほほんとして見えて、怒ると後先のことが考えられなくなるらしい。

 でもこんなことを思えるのが嬉しい、だってお互い生きているから言える言葉で。


 魔術の塔の術師たちの指揮をとっていたらしいオーギュストがやってきた。


「まったく、俺とロザの時はきちんと冷静に対処してくれよ。でないとなんのために盟約を結んだのかわからん」

「盟約?」

「ああ、彼とロザも敵が多いんだ。もう親もいない、僕と同じような境遇でね。血のつながった利害関係のある同族より、同じ境遇の他人のほうが信頼できる。だから互いに約束したんだ、お互いの妹が危機にさらされた場合、助けあおうと」

「落ちはシスコンかい!」


 私は突っこみを入れた。


「はいはい、仲の良い兄妹喧嘩はそれぐらいで。あちらに馬車と警護を用意いたしました。後始末は私どもがやっておきますから、どうかアドリアン様とリル様は邸にお戻りを。すごい恰好ですよ。主にそんな姿をさせるなど、執事として我慢なりません」


 言われて私とアドリアンは互いを見る。ぼろぼろだ。でもそれだけの価値はあった。


 シャンティ家とバロワ家にはアロイス王の鉄槌が落ちるだろう。

 コスタス家が狙われることは当分ない。


 もちろんこれですべて終わりじゃない。これは私たちから見ると正義だけど、バロワ一族からすれば違う。こちらは加害者だ。被害者は自分がされたことを忘れない。憎しみの連鎖はまだ続くだろう。


 でも、アドリアンは無事だ。

 こうして眼の前に立って、笑いかけてくれる。


 私は何のとりえもないちっぽけな人間だ。だからすべての人を永劫に幸せにすることはできない。だからせめて、この眼の前にいる彼の今だけはいつも笑っていられるようにしてあげたいと思う。


「さ、帰ろう」


 アドリアンが私の手をとる。

 その手がすごく温かくて、自然で。私は思った。アドリアンが妹にふさわしい魂として私を選んだのは、この温もりの価値を知っているからではないかと。貴重さがわかっていて、ずっと求めていたからではないかと。


 私はずっとこんな温もりを欲しがっていた。

 だから彼の声に応えた。

 その手をとってなぐさめたくて。そしてなぐさめてほしくて。


「うん帰ろう!」


 私は満面の笑みで言った。そして彼の手を握り返した。


次で終章、ラストです。ここまでお付き合いいただきましてありがとうございました。もう少しだけお付き合いください。


新連載はじめました。「親指姫サイズでトリップした私と四人の騎士との出会いについて」ほのぼの共同生活物語です。こちらもどうかよろしくお願いいたします。

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