①章[うつつバッド★冷血吸血鬼ギャンブルジャンキーの鉄仮面は外れない! 六本木雪の女王の孤独な人間観察日記 ――――№3黒色ブラッド] 其の六
①章
★うつつバッド★
[冷血吸血鬼ギャンブルジャンキーの鉄仮面は外れない! 六本木雪の女王の孤独な人間観察日記 ――――№3黒色ブラッド] 其の六
「怖いでやんす! 怖いでやんす! 出してくれでやんす! おいら関係ないでやんす!」
「助けてナリィィィィィィ! 吾輩をここから出すなりよ……こんなの犯罪なりよ……」
「は、羽屋里君! 現先輩! 良かった、無事ね! お願い逃げて、私達は怖そうな人達に車に押し込まれてここまで拉致されちゃったのよ……早く警察を呼んできて羽屋里君、現先輩!」
中に入るとカジノの大ロビーで皆が檻に監禁されて捕まっていた。その周り至る所に怖そうな男達が沢山うろついている。その一人が現アヤに声をかけた。
「や、約束は守ったぞ……これで俺達がお前にしているギャンブルの負債はチャラにしてくれよな! 言う通りにしたんだ、あとはご自由に、俺は入口を見張っている」
と、言い男達は現アヤにペコペコし始めた。これは全て彼女の差し金だったと、理解した。
「よくやってくれたわ、これで役者とギャンブルの場そして、トロフィが揃ったわ……」
「こ、こんなのって……あんまりだ……日陰さんは、皆は――――現先輩を信じていたのに……」
ギャンブルの負債者達を利用し、僕達を裏切った現先輩は、いつもの鉄仮面より、もっと冷たく、そして鋭い恐怖を纏った禍々しいオーラをだしていた。僕達の声は彼女には届かない……。
「さぁ、始めましょう。羽屋里君、本当の賭けをね……そして、私を救って頂戴。私に勝てたら何でも言う事を聞くから、その代わりもし、羽屋里君が負けたら……部員のみんなの命を貰うわ……私はそう言う狂気なギャンブルをしたかったのよ……これで私の心は救われる。ここまで狂えば、救われる……。孤独な私が見つけた唯一の居場所――ここで私は変るんだ!」
「な、なっ……命って……そんな事出来る訳ないじゃないですか! 人の命を賭けるなんて、そんなの狂っていますよ……そんな事では絶対に現先輩は救われませんよ……」
「そんなの! あ……あんたに、言われなくても分かっているわよ!! さぁ! 早くカードを引きなさい……私はもうこのやり方でしか、満足できないのよ、救われないのよ……皆の命は羽屋里君が力尽きたら頂くとする事にしてあげるわ……だからこの勝負あなた自身の体を賭けなさい! この辺りのカジノでの勝負の種目は……このインディアンポーカーよ!」
彼女はロビーのテーブルに着いて僕にカードを引くように促した。僕の話に全く耳を貸していない彼女だったが、どうやら僕がこれから始まるギャンブルで完敗するまでは部員達には手を出さないでくれるみたいだった。こうして、半ば強制的に絶対に負けられない戦い――現アヤVS羽屋里天元のインディアンポーカーが開戦されてしまったのだった。
「私はここの女王、言わば百戦錬磨だからね、羽屋里君にはハンデをあげるわ。私の後ろには檻に入った部員達がいるでしょ? 私の他に羽屋里君は部員達の表情も見ていいわよ、勝負は全部で3戦そこで1勝でも羽屋里君がしたらあなたの勝ちよ。私の場合勝負に負けても降りてもそこで負け確定と言う事だから、かなり羽屋里君が有利よ。ただし3戦中に羽屋里君の方が負けた、もしくは降りた場合その都度羽屋里君の体の一部を頂くわ、負けなら4つ、降りなら2つで勘弁してあげる……そうね、体の一部は指にして貰おうかしら……ワクワクしちゃうわ」
僕が負ける、もしくは降りたら指をとられる――ふむ。勿論、超怖いが、僕にはケロベロスの『ヘビ』がある。この呪文を唱えて、彼女を降りさせればいいことだ。僕は早々にケロベロスをかまえて、彼女に照準を合わせたが――その作戦は見事失敗で終わった。
「羽屋里君……その銃は何? 私に向けないでくれる? 何か妙な事やった瞬間皆を殺すわ……羽屋里君のイカサマ負けと言う事でね……私の力で血を抜きとるわよ?」
№3が現先輩の中からギラギラと目を光られて、彼女と一体化を図り――ケロベロスを認知させたのだった。僕が呪文を唱えた瞬間№3は間違いなく部員みんなの血を吸い取る。
「ケ……ケロベロス……ど、どうしよう。僕は他に何も作戦を持ち合わせてないぞ……今までケロベロスを認知してなかったはずの現先輩が、ここで認知するとは……ここで弾丸を打ち込んだら僕らはイカサマでこの勝負……負ける。あ、もしかして……僕ら……」
「ああ、№3にまんまと嵌められた……すまない天元……こうなったらこのインディアンポーカーというギャンブルで、天元が勝利するしかあるまい……頑張ってくれ」
「ち、ちくしょう……大丈夫だ……ゲーム自体は僕が有利なんだ……や……やってやる!」
インディアンポーカーのルール説明――トランプを1枚ずつお互いに引き、自分のカードを見ないで数字が相手に見えるよう自分の額にあてる。そして相手のカードが自分のカードより強いか弱いかを相手の表情や仕草を見て当てるゲームだ。今回のルールは単純に数字の大きい方が強いカードとなっている。なので、強さはKが一番強くてAが一番弱いカードとなる。だが、Kは唯一Aにのみ負けるという特殊カードだ。これが結構このゲームのキモになる。最弱が最強を唯一討つと、なんという中二病心をくすぐるルールだ! 自分のカードが相手より低いと思った場合は降りるか、1度だけできる自分のカードチェンジを行い同じようにカードを引きなおすか、相手をゲームから降ろさせるブラフを張らなくてはならない。そして、大きい! 勝てる! と、思えば勝負すると発声をする。発声を行う順番の先行後攻を決めた後、次戦以降の発声は交互に行う。負けを認めて降りた場合、負けた時の半分の対価を支払う、そして当然だが勝負すると発声して勝った場合は取り決め通りに対価を貰い、また負けた方は払わなければならない。そしてもう一つ重要な戦略がある、今回の場合現アヤはこの権利を使えないが、ゲーム中に対価を支払う、つまり指を賭ける天元には使用が認められている『権利』それは、さらに自分の対価を倍に上乗せする事で1度だけカードを引いて、そのカードの数字を見て確認してから、自分の額にあてている数字が分からないカードで戦うか、今引いてきたカードで戦うか選択できるシステムである。この『権利』は対価を支払うが、かなりゲームを優位に支配できるものと言えよう。とまぁ、ざっとこのようなルールがこのカジノでは採用されている。
「う……現先輩ひどいでやんす……こんなゲーム理不尽極まりないでやんす! ここから出せでやんす! 現先輩はやっぱり狂ったままで……怖いままだったでやんす!」
「そうでなりよ! 吾輩達を騙して……酷いなりよ……あんまりなりぃ……」
檻から部員達が現先輩に裏切られた事に対し騒ぎ出すと、彼女はその鉄仮面で冷たく呟いた。
「外野は……トロフィ達は黙ってなさいよ! オタク君達……キモイのよ……」
その声と共に騒いでいた部員たちが静かになった――№3が部員達の方を見つめストローで吸血し始めていた。静かになった部員の間から、涙を流した少女が前に出てきた、日陰さんだ――線の細い体は今にもふらふらになっていたが、最後の力を振り絞り彼女は言った。
「必ず……必ず、羽屋里君が現先輩を救ってくれるんだよね? パソコン室でそう言っていたよね……私聞いていたんだ……てへへ……絶対……勝ってね、今がその時だよ、羽屋里君……」
バタン! と、日陰さん、そして部員たちが次々と、気絶していった。
「え……おい……みんな……嘘だろ……おい、そこの……猿……№3! お前!」
「ハテャッハッツ!! 怒るなよ、少年。死んではいないさ……お前が負けなければだけど!」
№3が嘲笑う中、現アヤの表情は冷たく動揺のない鉄仮面であった。
「みんな……。待っていてくれ、必ず救ってみせる……今ここで救ってみせる!」
1戦目――運命のカード、ドロー。
ガサッ! それは檻に閉じ込められた男子部員だった――たしかに僕が額にカードをあてた時、彼は意識を取り戻し、そして、声は出ていなかったが……確かにこう、口パクをした。「ハチで……やんす」と口を動かすと、また気絶してしまったのだった。
僕のカードは『8』そして、現先輩のカードは『7』……僕の勝ちだ。このままコールが成立すれば、僕の勝ちだ。うまく誘導できればいいが……。
「羽屋里君、あなたが先行でいいわ、さぁ発声して頂戴、ちなみにあなたのカード強いわよ」
先行は僕、『8』は弱いカードではないが、強いカードと言う訳でもない、それを強いカードと言った現先輩はもしかしたらここで僕に勝負してきてほしいのかもしれない、そうであれば、僕には願ったり叶ったりの展開だ。表情からは……何も分からない……冷たい表情だ――寒い。
「僕は勝負します! 現先輩も勝負ですよね……カードをオープンしてもいいですか?」
「待って、後攻の私はカードをチェンジするわ、これで、私の選択はお終り。さぁ、後は天元君が決めなさい――降りるか、カードをチェンジするか、それで勝負するか……1回戦の行方をね。フフフ、見え見えよ、天元君。後ろの檻からギリギリ情報を得られたのでしょ? どうやらあなた方のカードが強かったみたいね、なら私はチェンジしかないわ、凍えなさい……」
寒い……やられた。全て彼女にはお見通しだった。レベルが違う……持ってきたカードも『K』だ……負けてたまるか――ヒーローは必ず勝つ! ここは僕が『A』を引いて勝つ伏線だ!
「僕もカードをチェンジします。現先輩に本当のヒーローをお見せしよう! ドロー!」
「ごちそうさま、羽屋里君、勝負しましょう……。私を救うヒーローになれたかしら……」
カードオープン。現アヤ『K』羽屋里天元『2』 WIN現アヤ――寒い……指4本。
「あっ……あああ、すまないケロベロスぅぅ! どうしよう! 僕どうなるんだ……」
「天元! くるぞ! 指4本……すまん俺にはどうしようも、できない……」
ガブッ! ――あっ……痛い……なんだ……これ、痛い! 痛い! 現先輩嘘ですよね……。
「うっ……まさか、JKに指をカニバリられる、日がくるとは……思いませんでしたよ……」
僕の指を四本彼女はカニバリった。№3の支配の中に入って体が負けた瞬間から動かなくなった僕を、うっとりとした表情を浮かべて貪り尽くしたのだった……そして口に血を付けながら彼女は言ったのである。彼女の表情は先程までの鉄仮面とは別物でウキウキとしていた。
「ガッフ! モゴモグ……クチュクチュ……最高よ、きっちり4本頂きました。次いくわよ!」
2戦目――運命のカード、ドロー。
現先輩のカードは『K』……無理だ……寒い――もう指4本は無理……痛い! 死んでしまう、だと言って、降りて2本でも無理だぞ……怖い……寒い誰か……助けて、『K』は無理……。
「羽屋里君どうしたの? 泣いているわよ、寒そうね……勝負しましょう、あなたのターンよ」
彼女は舌舐めずりをして、うっとりしながらそう言った。僕はいつの間にか涙を流していた。
「僕は……うげっ! うっ……うう……降ります……こんなのってあるかよ……くそぅ……」
クチュ……クチュクチュ……右手の指が全て、左手の小指もカニバリられた――寒い、痛い。
「ご馳走さま、羽屋里君……さぁ、次で最後よ、どうしたの? 震えているわよ? もっと、もっと、もっ~と、私を興奮させてよ! 私を救えないなら……せめて、私を満たしてね!」
3戦目――運命のカード、ドロー。
激しい痛みと恐怖が僕を襲う中、不本意ではあるが今回の負けを、BADENDを覚悟しなければならない事態に陥っている。スカルの力――骨オリでの撤退を僕は視野に入れ始めた。だが、その前に僕には現先輩にどうしても聞いておかなければならない事があった。
「ひぃ……ふぅー……現先輩、このカジノに入る前に、先輩は今お母さんがぐったりと寝込んでいるといっていましたが……うっぐ! もし……かして、先輩はお母さんとも、こんな悲しいギャンブルをしたのですか……? もしそうなら……なんで、そんな事を……! 先輩はお母さんを助けたとずっとおもっていたんじゃないのですか! 僕はそれが……悔しい……僕はそんな先輩を救いたい……ふざけやがって……№3……僕は、今……今救いたいんだ……」
それが、僕の思い、僕の無念――そしてこの3戦目での覚悟、やれる事、情報はここで全て頂く、次に繋げる為、そして願わくは、僕の指なんてどうだっていいからここで№3を彼女から追い出し、捕獲し、彼女を救いたい。孤独な彼女の新しい居場所を作ってやりたいのだ。
「なんで、あなたが……私の母への気持ちを知っているのよ? 私、誰にも喋った事ないわよ……№3? いったい羽屋里君は何を言っているの……痛い! 頭が……頭が痛いわ……」
声が聞こえる――私が苦しくなると……頭の中で……誰かの声が聞こえる。
「孤立せよ、孤独になれ、それがお前の強さ――お前の冷たさ、それが唯一のお前の居場所」
頭痛と共に聞こえてくるこの声の主が№3なの――私の救われる唯一の居場所か……。
「目を覚ましてくれ! そんな声を、強さに変えちゃ駄目だ! 依存しちゃ駄目だ、現先輩!」
僕が嘆くと――彼女は、冷たく鋭い、いつもの鉄仮面に戻っていた。
「ごめんね、私はこの声に……力に救われているの、孤独な私の唯一の居場所であるこの場をくれた№3だっけ? その力に私はもう抗えない。そして、残念よ……私が母の事を助けられなかったのと同じく、羽屋里君も私を救えなかったじゃない……だからせめて、狂気の沙汰で孤独を武器に戦う、ここにしか居場所がない私の邪魔をしないで! さぁ、あなたの番よ!」
悲しい未来には――悲しい答えしか、返ってはこなかった。現先輩のカードは最弱の『A』。
「僕は、僕の全部賭ける……そして――ごめん、部員の皆の……全てを賭ける! それで『権利』を使いカードを1枚引いて確認させて貰います。それから、僕はどちらで戦うか決めます!」
僕と皆の運命を、全て賭けたカード……。このカードが……安い訳がない! ――『K』だ。
「ぼ……うっ……僕は今引いた……このカードで勝負します! さぁ、現先輩のターンですよ」
僕の考えはこうだ――いくらギャンブラーの現先輩とはいえ、相手が『K』だと知って勝負にきたのだ、自分の額に付いているカードが唯一『K』に勝てるカードである『A』だとは、思わないはずだ。この勝負で降りる事が出来ない彼女は当然ここでカードをチェンジして、一か八かの分が相当悪い賭けにでるしかない。そう彼女が読むと賭けて、そしてそれが的中した。
「流石ね、羽屋里君……最高だわ、これで最後ね……。私はカードをチェンジして勝負よ!」
こうして、僕と現先輩のインディアンポーカーの幕が下りた――はははっ……熱かったな。
カードオープン。羽屋里天元『K』現アヤ『A』WIN現アヤ。勝者、現アヤでゲーム終了……。
体の感覚がなくなってきた。指が無いおかげで追加ドローをする際に、額にカードをあてている手の指で引かないといけない為、一度そのカードを見えないようにテーブルに伏せて、お蔵入りになっていた僕のカードだったが、僕の体を激しくカニバリって№3と完全に一体化し、吸血鬼になってしまった現先輩のダイナミック食事で飛び開いたカードは『K』であった――どう足掻いても今回は僕の負けが運命づけられていたみたいだ、僕は戦い方を間違えた。
反省したいにも意識が朦朧として、もう無理そうだ。日陰さん、部員の皆ごめん、僕は誰も救えなかった――だが、僕は最後まで……何か情報を得ようと、粘ったのだ。そしたら僕をカニバリる現先輩の背後から誰かが迫って来た。金髪の線の細い感じの男性だった。でももう何も今の僕は考えられない……寒い――だからこの辺で僕はドクロのネックレスに呪文を唱えた。
「骨オリ……」ボキバキボキ! バリボキボリ! ――骨の折れる音が響き渡った。
違法ギャンブル界の重鎮である通称『キング』を警察は確保する為、六本木の雑居ビルの地下にある違法カジノの摘発に踏み込んだ――強制捜査が入ったのだ。
だが、カジノの中にはキングらしき人物はいなく、血みどろな死体が至る所に散乱していて、学生らしき死体もいくつか確認した――そしてそんな、死体達の中に少女が一人ストローを咥えて立っていたのだ。
被害者の数44人、生存者少女1名――その少女を保護した警察官が当時の事をこう語った。
「保護した少女の瞳は何処か冷たく鋭く、そしてまるで鉄仮面を付けている様な表情であった」
★うつつバッド★――完。