①章[うつつバッド★冷血吸血鬼ギャンブルジャンキーの鉄仮面は外れない! 六本木雪の女王の孤独な人間観察日記 ――――№3黒色ブラッド] 其の四
①章
★うつつバッド★
[冷血吸血鬼ギャンブルジャンキーの鉄仮面は外れない! 六本木雪の女王の孤独な人間観察日記 ――――№3黒色ブラッド] 其の四
その事件が最初に起こったのは、去年の10月に行われた手座高校の文化祭でのことでした――私達パソコン部の出し物は部の皆で作った様々なゲームだった。 それを出店していたパソコン室に、彼らがやって来たのです。
「よう! オタク共やってるうぅ!? ハハハ! きめえゲーム並べてやがんな、俺らが遊んでやるよ! その前にタバコ吸わせてくれや、ここなら先公達にバレねぇだろ、ハハハ!」
ドカンと、パソコン室のドアを蹴り飛ばして、自分のクラスで役割がなく、部活にも所属していない不良生徒が4人パソコン室を占領しようとタバコを吸いながら入って来たのであった。
「ちょっと……なんなのよ! あなた達! あなた達みたいのに溜まられたりされたら、お客さんが誰も入ってこられなくなっちゃうじゃない……」
「客? 客って……ハハハ! 誰もいねーじゃねえか、こんなシケた出し物じゃよう! 俺らがここで溜まっていても居なくても誰もこねーよ、こんなシケた場所!」
パソコン部のみんなが、お客さんがすぐに遊べるよう電源をつけて準備していたパソコンの電源を不良達は次々と消して周り、ゲームのルールが書いてある私達の作ったパンフレットにタバコの灰をかけて汚し、嫌がる私達を見て不良達は馬鹿にし、笑った。
「うわああああ、やっ……やめてくれなりいいいいいぃぃぃぃ……」
「勘弁してくれでやんす! 帰ってくれでやんす!」
部の男子部員達が不良達の餌食になってしまった。
「お、なんだ? オタク共、こんな無駄な電気使いやがって……俺達が全部電源消してやるよ、エコだよ、エコ! なんなら気持ち悪いゲームのデータもけしてやろうかぁ? あん?」
「そ、そんな……それだけは勘弁してくれなりいいぃぃぃぃ……」
「みんなで、頑張ってプログラムを組んだゲームなんでやんす! やめるでやんす!」
「やめてほしいか? だったら俺らを楽しませろよ、ほらよ――」
ボコ!? と、殴打を男子部員達に不良達はくらわせ、絡み始めた。男子部員達をサンドバックのようにパンチを浴びせた。
「――ハハッハ! この部の出し物はオタクサンドバックだ、こりゃいいな!」
「うぐぐ……痛いでやんす……誰か、助けてでやんす……」
最早ここは不良達に占領され、やりたい放題にされているその時だった。模擬店でみんなのお昼ご飯をお買いに行っていた、現先輩が帰ってきたのであった。そしてその時の現先輩は、いつもの私達が知っている現先輩ではなく、全く別の人格であるかのような、現先輩だった。
「ふーん。私が留守の間に、私の縄張りにゴキブリ達が侵入してしまったみたいね……オタク君達。あなた達が、ゴキブリの相手をしてくれていたのね、ご苦労。もう下がってなさい――この害虫どもは、私が駆除するわ」
その時の現先輩の顔はとても冷たく、ひんやりとする鉄仮面だった。
「ゴキブリだと? それは誰の事をいってんだ? おい、お前は確か3年A組の現だよな、根暗女の! なんだ、その舐めた口は! どうやらお前も俺達と遊びたいらしいな……いいだろう、俺達が遊んでやるよ……たっぷり、可愛がってやるよ!」
不良達がそう言い不敵な笑みで現先輩に近づいていった時、私の主観だが――その時、現先輩から禍々しいオーラが発せられて、その後ろに不気味に笑う大猿の姿が見えた気がした。
「あなた達以外にゴキブリはここにはいないでしょ? 自覚が無いようで幸せな人達ね、おめでたいったらありゃしない! 頭の中がお花畑の人達だわ! あなた達みたいな、害虫を私が舐める訳ないでしょ? 気持ちが悪い。遊んでやる? 何を勘違いしているの――これから始まるのは遊びなんかじゃないわ、私からあなた達に行う、一方的な拷問よ」
なにか、おかしい……確かに、今私達の目の前にいる部員の人数分の焼きそばを持って、不良と対峙し、そして挑発している少女は、現先輩本人で間違えないのだけど、何と言うかこう……雰囲気が丸で別の何かであったのだ。
「現先輩……こんな不良相手にしなくていいですよ! 先生達を呼びに行きましょう!」
不良を挑発する現先輩を止めにかかった私は、現先輩が不良に近づいて行くのを見て慌てて現先輩の腕を引いて止めた。すると、現先輩は私を冷たく見つめたのであった。
「日陰さん、なんで私を止めるの? こいつらは暴力をふるって私の大事な部員達を傷つけ、そして、私達がここまで今日の為に作り上げた作品を台無しにしようとしているんだよ?」
「そうですけど……ぼ、暴力にはおまわりさんです! ま、まずは先生を呼びに行きましょう!」
「ヒ・カ・ゲ・さん! よ~く、覚えておいて。売られた喧嘩は買わないといけないの――じゃないと私のいるギャンブルの世界では、それは逃げたと判断されるからね、それはいただけないからね、先生に頼るのは私がいない時だけにして頂戴!」
「そ……そんなぁ……危ないですよ……現先輩!」
「おい! 女ども! さっきから何ごちゃごちゃ二人で喋ってやがる! 拷問だぁ!? そんな大口叩きやがって……今更引き下がるなよ、現! 許さねぇぞ」
「上等よ、ゴキブリ、日陰さんは下がって見ていなさい。私一人でこいつらの始末をつけるから、私はこの部の部長だからね、面白い……シャバガキ共が、たいした養分にもならないでしょうけど、相手になってあげるわ。」
「お、現ちゃん、やる気だねぇ……で? 何で方を付ける気なんだ? まさか、俺達と殴り合いでもする気か? 俺達は構わねぇがなぁ!? ハハッハハハハ!」
「まさか、殴り合いなんてごめんよ。4人ね、電源がついていてゲームのデータが残っているパソコンの数も丁度4台。一人ずつゲームを選びなさい、これからギャンブルを始めます。あなた達1人1人と私がこのゲームで勝負してもし、あなた達が勝ったら、私とここの部員達はなんでも言う事を聞くわ、未来永劫あなた達の……奴隷で結構よ、ねぇ! みんな!」
「え! そんなの言い訳ないじゃないですか!」
「嫌でやんす! もう、おいらはここから出ていくでやんす!」
「待ってくれなりいいぃぃぃ! 吾輩も行くなりよぉぉぉ」
現先輩のとんでも発言を聞いて、男子部員がドアから逃げようとしたその時、突然ドアがバタリ! と、閉まり私達は閉じ込められてしまった。
「うわあああ、ドアが開かないでやんす! う……なんだか、目眩がしてきたでやんすぅ……」
「吾輩も……目眩がしてきたなりぃぃ……寒いでなりよぉぉ……」
と、言うと突然2人ともバタリと、気絶してしまった。私は急いで駆け寄った。
「現先輩大変です……2人も気絶しています! はやく保健室に連れて行かないと……」
「大丈夫よ、日陰さん。2人共ギャンブルは始まって自分自身がもうトロフィになっていると、いうのに、逃げだしたからそうなっただけよ。早いうちこの4人を始末するわ、そうすれば2人とも目を覚ますから、安心しなさい」
「現先輩……あなたの言っている事の意味が私には全然わかりません……ハァ……」
ドン! と、不良は椅子を蹴り飛ばし、そんな、こんな、していた私達の視線を引き戻した。
「くくく! ハハハハッハ! イカれた女だぜ、現! そのギャンブル乗ってやるぜ、で? 俺達は何を賭ければいいんだ? まぁ負けるつもりはないが、一応聞いといてやるよ」
「別に……。何もあなた達はしてくれなくていいわ、今さっきのうちの男子部員みたいに勝手にあなた達に裁きが下るわ……ただしあなた達の場合それは永遠に続くものになるけどね」
「ふん。抜けせ、そんな猿芝居……オタク共が勝手に気絶しているフリをしているだけじゃねーか! ここは演劇部なんかなのかよなぁ! ハハハハハ!」
私はこの時分かっていた。部員達は芝居などしていない、なにか奇妙な事がこのパソコン室で起こっていることに、そしてそれの原因はおそらく現先輩である事に。
こうして現先輩VS不良4人のギャンブル勝負が開戦した――まぁ、ただゲームをしただけなので結論から言おう、それは現先輩の4タテだった。つまり四連勝で勝ったのだ。
クイズ、モンスターバトル、野球、ポーカーと、みんなで作ったゲームで不良と対戦し、圧勝した現先輩だったが、戦っている時の表情だけは、冷たげな鉄仮面とは違う、とろけんばかりの顔の歪めようであり、そうとう快楽的な表情を浮かべていた。
その勝負が終わるごとに、負けた不良が顔を青くして、次々と倒れていったのであった。
「な……なんだ! この猿は……やめろ! 俺の血を……吸うな……やめろ、助けて……」
と、意味不明な言動を皆、口にし――と、言いたいところだが……。私にもちゃんとその時だけは見えたのである。不良の血をストローで啜る猿の姿を。
「ただ、俺達は暇つぶしでやってしまっただけなんだ……許してくれよ……もうやめる!」
他の仲間3人が猿に血を吸われ、気絶したのを見た最後に残ったリーダー格の不良は、泣きながら降参したが、現先輩はそのポーカーを中断する事を許さなかった。
「今日この日の私達の出し物はねぇ……。お前達の暇つぶしで潰せる、悪ガキの万引きで潰れるような駄菓子屋とは違うのよ……? 場を弁えるべきだったわね……ゴキブリが。さぁ、さっさとカードを引いて! コールしなさい、それであなたも、お終いだから」
「うっ……うわああああ! この化け物女があああぁぁ!!――うっ……ちくしょう……」
自棄を起こし現先輩に殴りかかろうとしたが、その前に不良は猿に血を吸われ、力尽きた。
「ふぅ……終わったわ! さぁみんな! こいつらをどかしたらお昼を食べて、また再開しましょう! ここまで頑張って作ってきた私達の出し物を! ここが私達の居場所なのだから!」
「ば……化け物でやんす! 先生を呼びにいくでやんす!」
「なにが、どうなっているんであるなりかぁぁ! 怖いなりぃぃぃぃ」
「え? ちょっと……みんな! どこへ行くの!」
勝負が終わり、不良たちがみんな気絶すると、パソコン室のドアは開いた。そこから一斉に、現先輩と、私以外の部員は職員質に向かって逃げだした――その光景を見た現先輩の表情はとても、悲しそうで……冷たい、元の鉄仮面に戻っていて……ただただ残念そうに私には見えた。
「と、言うのが私の知っているこの事件の真相であり、内容です」
「そんな事件が、半年前にあったのか……僕は全然知らなかったよ……クラスでずっとお化け屋敷のお化けの役をさせられていたからな、誰も交代にきてくれなかったのは、苦い思い出だ」
「現先輩はただ私達の居場所を守ってくれただけなのですが、その方法が異常だったのですよ、そしてまだ、この話には続きがありまして――」
日陰ユキが話を続けようとすると……するりと、現アヤが起き上がった。
「現先輩! すいません! 私余計な事をしゃべってしまって……聞いていましたか? お、おはようございます……」
「うん、少し聞いていたわ、ごめんなさいね、寝たふりなんてしてしまって。日陰さんありがとう、後は私の口から羽屋里君に話すわ」
「現先輩、もう大丈夫なんですか? えっと……事件の事は聞きました。その後現先輩は……」
「ええ、もう大丈夫よ、羽屋里君さっきは失礼したわね、私の発作を止めてくれてありがとう。えっとね――結論から言うと、その後私はみんなに連れてこられた先生に色々聞かれたけど、私は実際に手も何も触れていないし、勝手に不良達が貧血で気絶をしたという事になったわ、当然、彼達はみんな入院したわ、そして、今も入院している。この不良達どうやら力には自信がある不良達だったらしく、それを倒した奴がいると私の名前が噂で不良達の間でいっきに広まってしまい、この学校の不良全員が、私に勝負を仕掛けて来たわ。そいつらも彼らと同じく今も病院で入院しているわ……まだ、ぎりぎり残っている血でなんとか、生き延びているわ」
「それが、今学校中の不良が次々と消えていった真相なのか……大丈夫だ! 現先輩、僕があなたを救う! そうすればみんなの血液が元に戻るはずだ――そう、スカルの血液も……」
僕は彼女を殺人者にしないため、一刻も早く№3を彼女から追い出す事を決意した。
「そう、ありがとうね。でもね、私にも1つ考えがあるの――平和的にこの事件を解決する考えが……日陰さん悪いけど、明日パソコン部の皆をどうにか、放課後ここに集められないかしら?」
「え!? まぁ、現先輩が元の現先輩に戻ったと、言えばもしかしたら……でも何で、ですか?」
日陰さんが恐る恐ると、尋ねた。
「お願い、あなた達と協力が必要なの……もう変な事にはならないわ、約束よ! それで羽屋里君、あなたも約束通りこの部に入部決定よ。あなたも明日、私に協力してね」
「もちろんですよ! 僕に任せてください! で? その考えとはなんですか?」
「明日までの秘密よ……フフフ、私も色々まとめて準備しないといけないし――」
キーンコーンカーンコーン! キーンコーンカーンコーン! と、その時、予鈴がなった。
「おっと、予鈴のチャイムだわ。みんなに連絡よろしくね、日陰さん。頼りにしているわ、じゃあ教室に戻りましょう。明日よろしくね、羽屋里君もよろしくね」
そう言い残し、現先輩はパソコン室を去って行った――最後に見せた顔もいつも通りの鉄仮面であったのだが……僕にはその顔はさらに冷たく感じ、それにずっと、この話を後ろで聞いていた僕にだけ見えている№3がとても不気味で、何かとんでもない様な事が起こる予感がしてきた。嫌な予感が当たらなければいいと、僕は思いパソコン室を後にし、2年の教室のフロアに日陰さんと向かった。現先輩に連絡を頼まれた日陰さんは少しだけ嬉しそうにみえた。
「本当に現先輩は元の現先輩に戻ったのでやんすか?」
「いったい吾輩達が見た、あの化け物みたいな猿はなんだったなりかぁ……」
「まぁ、みんな思う事は色々あるだろうけど、とりあえず現先輩のその考えとやらを聞いてみようよ! いざとなったら今回は僕がいるんだ! ドンと、かまえましょうよ! 男らしくね」
「お前は誰でやんすか……始めて見る顔でやんす。それになんだか偉そうな態度でやんす……」
「吾輩と同じクラスの羽屋里天元君でなりよ、今頃入部したと、言っていたなりよぉ……」
日陰さんが見事、他の部員を集める事に成功したらしく、次の日の放課後のパソコン室には僕と現先輩と日陰さんを含むパソコン部の部員が全員集まった。
「みんな来てくれたのね、ありがとう。嬉しいわ、そして今まで怖がらせてしまっていたみたいでごめんなさい。また部活が再開できる事が私は本当に嬉しいわ」
久々にここに皆が揃ったことに現先輩は感激したらしくそう言った。顔には嬉しさは滲み出ていなくて、いつも通りの鉄仮面だったが、僕以外の部員はそれになれているかの様子だった。
「それでは本題に入るわね。恐らく私とギャンブルをした事が原因で今、入院している不良達のお見舞いに行きたいと思います。お見舞い品に私の敗戦を持っていこうと思います――まぁ、要は何かゲームでもして私がわざと、彼らに負ければ、彼らは元に戻るだろうという考えです」
現先輩の言っていた考えとは――現アヤとのギャンブルで負けた事により、№に血を奪われ入院している彼らに、彼女は血を返しに行くということであった。その方法は自分が再度彼らと勝負し、わざと負ける事により、血は彼らに返るのではないかという、現アヤの予想であった。あくまで確証はないものではあるが、これが彼女の考えた平和的解決方法だったのだ。
「そんな事で助かるんですかねぇ……あ、ごめんなさい! 私ったら……よし! きっと上手くいきますよね、うん。で? 現先輩、私達はどう協力すればいいのでしょうか?」
日陰さんが少し不安そうな表情を浮かべたが、彼女は前向きに切り替えて質問した。
「ありがとう。あなた達には病院のお見舞いに付いてきて彼らの説得に協力して欲しいの、あの事件を生で見ていたあなた達の説得が必要なの、お願いできるかしら?」
「そ、そんなの嫌でやんす! おいら達は関係ないでやんす! 一人で行ってくれでやんす!」
「そうなりよぉぉ……現先輩が元に戻ったと言っても、手伝いたくないなりよぉぉ……」
ドン! と、日陰さんが机を叩き、勇気を出して大声を張り上げた。
「みんな! 協力しよう……こんな気持ち悪い事件早く解決させるべきだ! 説得に協力するぐらいやってみようよ! 元に戻るかは分からないけど、希望があるなら試してみよう! 私はこの部活を守ってくれた、部長に協力したい! 羽屋里君もそう思うよね?」
「勿論だとも! 僕は協力させてもらうよ、皆で終わらせよう、この忌々しい事件を……」
と、中二病発言を僕は発した。この提案は僕にとって大変な、チャンスであった。ギャンブルジャンキーになった現先輩が、自ら負けにいってくれれば№3が嫌でも現先輩から飛び出るのではないかと――そこが、『番犬』を撃ち込み捕える事ができる最大なチャンスなのだ。
男子部員達も、日陰さんの情熱と気持ちに押されて、なんとか協力してくれる事になり、僕達はこれから不良達が入院している病院に向かう事になった。
「皆ありがとう、それでは行きましょう――と、その前に私は昨日家で、負ける手はずの準備ができているゲームを作ったから、それを一度取りに戻るわ、みんなは先に病院に行って面会の受付を済ませておいてくれないかしら?」
「わかりました。私が皆を連れて病院で先に受付をして待っています」
と、日陰さんがニコッと笑って言った。
「ありがとう。それと、悪いけど羽屋里君は私の家まで付いてきてくれないかな? お願い」
「え?! いいですけど……何で僕なんですか?」
「なんとなくよ、それじゃあ、皆は30分後に病院で! 行きましょうか……羽屋里君」
と、半ば強引に僕の手を現先輩は引いて外に出たのであった――無論であるが、僕はときめいた。女子に家に誘われたのもこれが初めてだったし、なにかの、ハニートラップなのではないかと、疑う程の幸福な時間だった――女の子の手は、冷たい顔をした人でも柔らかかった。
「ハテャッハッツ!! 幸せそうな顔だ、少年。人間って奴はこうも、感情が表面上にでてくれるから表情で大凡の事が判断つくね! お前はマヌケだ」
突然、僕の手を握る現先輩の手から№が飛び出して、僕は驚きその手を放してしまった。
「うわあああああ! お前……」
「え? 羽屋里君どうかしたの? 大きい声だして、なにかあったの?」
「嫌ぁ……なんでもないです現先輩。急ぎましょう、ごめんなさい」
「そぅ……じゃあ行きましょう。こっちよ、ついてきて」
いきなり大声で驚き手を放された現先輩をなんとかごまかし、僕達は道中を急いだ。
「少年。言っておくが今回の事は全て、吾輩は何も手を下していない、彼女が考えてやっていることだ、どうなるか楽しみだねぇ! ハテャッハッツ!!」
僕は現先輩にバレないよう小声で№3に向かって言った。
「ああ、だから、お前はこれでおわりだ! すぐにそこから出る事になるからな」
すると、さっきまで下品に笑っていた№3が僕の方を冷たく見降ろし小さく呟いた。
「それは……どうかな? さぁ、カーニバルの始まりだ――お前に良いものを見せてやろう」
ズルズルスゥー! と、№3が持っていたストローを吸った――すると僕の目の前がいきなり真っ暗になった。
「なんだ! これは……おい、ケロベロスいるか? これはいったいどういう状況なんだ……」
返事がない、僕はいったいどうなってしまったんだ。さっきまで現先輩と彼女の家に向かう道中を彼女に手を引かれながら歩いていたのに――№3が、良いものを見せてやると呟き……そしてストローを吸った瞬間からまるで別世界に……僕だけ別空間に吸い寄せられたような……そんな訳の解らない状況に直面している。
「お、成功、成功。ハテャッハッツ!! そう驚くなよ、少年。ここは吾輩の魔力で作りあげた空間だ。お前の精神だけここに吸い寄せる事に成功した。そうだ、少年自分の体を触ってみろ、話はそれからだ……ハテャッハッツ!!」
暗闇の中で№3の声だけが聞こえてきた。奴の実体はこの暗闇の中では確認できないが声はよく聞こえた。体? いったい奴は何をしようと考えているのだろうか、そう僕は思いながら自分の体に触れようとした時、大きな異変に僕はやっと気付き、大きな叫びを上げた。
「な、なんだあああああ! か、体が……僕の体がない……どういう事だ……ま、まさか」
僕は死んでしまったのか――と、絶望の表情を見せようにも、顔が無いから見せられない……。そんな体が全て無くなって、パニックになった僕の事を№3の声が嘲笑った。
「ハテャッハッツ!! びっくりしたか? なぁーに安心したまえ少年。言っただろ? ここに吸ってもってこられたのはお前の精神だけだって、この空間に存在しているのは、吾輩の精神と少年の精神のみである。現実世界では人形の様になっている少年の体は吾輩の魔力によって目的地に向かって、ただ道なりを進んでいる。ここにはそう長く居られない、君も吾輩もなだから、早いところ良いものを見せてやろう――現アヤのトラウマを、彼女が抱える孤独をね」
「そうだったのか! 安心したよ! ……ってなるか! 滅茶苦茶怖い状況には変わらないし、訳が解らん状況も変わらないじゃないか、今すぐ元に戻せよ! 聞いているのか? って……」
と、僕が№3の一方的な説明に困惑して激怒していると、僕の視界は暗闇から一変し、辺りに色が戻り、そしてとある少女の物語が写し始めた――少女の忘れられない人間観察日記が始まった。現アヤのトラウマであり、抱く孤独が語られた。
少女の趣味は人間観察だった。昔からそれはずっと変ってはいない――。
其の五に続く――――。