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①章[うつつバッド★冷血吸血鬼ギャンブルジャンキーの鉄仮面は外れない! 六本木雪の女王の孤独な人間観察日記 ――――№3黒色ブラッド]   其の三

①章


★うつつバッド★


[冷血吸血鬼ギャンブルジャンキーの鉄仮面は外れない! 六本木雪の女王の孤独な人間観察日記 ――――№3黒色ブラッド]   其の三






 天元VS現アヤのギャンブルが開戦した。

 正直ドキドキした。これから始まる勝負にではなく、先程彼女の発した最後の発言に、僕は少しときめきめいたものを感じてしまった――そもそも、女子に頼られたり、少し優しくされたりするだけでその女子を意識して、好きになってしまうというものが男子高校生と言う生物である。

 オーバーに言えば、男子高校生とは落とした消しゴムを女子に拾ってもらっただけで恋に落ちてしまうぐらい単純で、ピュアな生き物だ。だから今回の発言は彼女を僕が意識してしまうのには十分すぎる破壊力を持つフレーズだった。ましては、年上の綺麗な女子に頼られると言うものは役満級の破壊力と言っても過言じゃない! 顔がニヤついて興奮寸前の僕だったが、ここで一度彼女の鉄仮面に習いクレバーな表情に戻してから、油断を見せないよう本題に入った。

「わかりました。それじゃあ、始めましょうか先輩――」

 と、僕はあえて彼女の賭けの勝った時の要求の真意を聞かずゲームの内容について説明を始めた――ゲーム前にこれ以上変な動揺をするのは嫌だった為の選択だった。

「――僕の今日の昼飯である今朝お母さんが握ってくれた日本が誇る食べ物であるこの、おにぎりを使ったゲームだ! 最後の一粒まで美味しく楽しいゲームにしよう! それが、このおにぎりにゲームの生贄になってもらう事に対しての僕達の尽くせる最低限の礼儀だ! 良い子のみんなはけっして、食べ物で遊ばないように! そのゲームとは! 題して――」

 即席で作ったこのゲームに僕は題を付けた、出来るだけカッコよく中二病的に。

「――ロシアン★キスメット☆ライスボール★ライアーゲーム!!」

 一部パクリ臭のする題になったこのゲームの準備を僕は始めた――鞄からおにぎりを2つ取り出し、それを手で掲げ説明に入った。

「使うのはこのおにぎり2つです。どちらかが梅干しで、どちらかが昆布のおにぎりです。ズバリ、このゲームの勝率は50パーセントのガチ勝負! 現先輩には昆布のおにぎりだと思う方を選んで頂きたいと思います! 選んでもらった方を僕が食べますので、それで中身がなんだったかのジャッチといきましょう! 簡単ですよね? どうでしょう」

 実に単純なゲームを提案した僕だったが、実はこのゲームはやる前から僕が勝つ事が決っているゲームであった! そう、僕は――イカサマをしているのであった! このおにぎりは両方とも梅干しのおにぎりでありしかも、小ぶりのおにぎりである。そしてお母さんの配慮で梅干しの種は取り外してある優しいおにぎりだ。つまり僕のするイカサマはと、いうと――ここで僕を信じた先輩がそのままゲームに乗ってきた時は、選ばれたおにぎりを半分に割りながら具を見せて食べればそれは確実に梅干しであり僕の勝利である。仮にもし僕を疑い、現先輩が昆布じゃなくて、梅干しのおにぎりを選ばせて頂戴と言われても簡単だ、現先輩が選んだほうのおにぎりをペロリと、1口で食べてしまい、残ったおにぎりの中身を見せると言うものだ。それは梅干しなので必然的に僕が食べた方が昆布と判定されて僕の勝ちである! 天才かよ!

「さぁ!! 現先輩が選ぶ側、僕が食べる側のこのガチ勝負受けていただけますか?」

 彼女は僕が掲げるおにぎりの目の前に来た。観察するのかと思うとそうではなかった。そう、この戦いに決着を着けにきたのだった。

「まさに、ライアーゲームって訳ね……いいわ。そのゲーム乗ったわ! ただし――いただきまーす。パクパク、もぐもぐ」

 彼女は僕が手に持つおにぎりを1つ奪いそして、一気に平らげてしまった。

「いただきまーすって……。おい! ああ!! 僕のおにぎりが……何で食べちゃうんですか!? 僕が食べなきゃ……あっ……!?」

 僕が仕掛けたイカサマ、それを逆に彼女に利用されてしまった事に気づいた時にはもう、後の祭りだった。迂闊だった、明らかな油断からの凡ミス、おまけに題に地味にヒントを入れている辺りに爪の甘さが滲み出ていた――そりゃ……バレルよな……。

「うん? 何かしら羽屋里君? ただ私は――決める側だけじゃなく、食べる側もやっただけだけど? ゲームの内容からして何の問題もないでしょう? 一つ問題があるとすれば、あなたが何もしないでこのゲームは終わってしまうと言う事だけね! あなたは何もしないで負けただけよ、羽屋里君。私が食べたのは、昆布のおにぎりだったわ、ご馳走様でした。美味しゅうございました。羽屋里君のお母さんは梅干しの種まで取ってくれるんだね……あっ、私が食べたのは、昆布だったけどね! 私の勝ちね! あれ疑っている? そうよね! 私ったらあまりの美味しさに完食しちゃったもんね! でも、安心して! もう一つのおにぎりの中身を見てみなさい、それが梅干しだから。それで判定がつくゲームよ――」

 今日一番のウキウキと、した声とそして、先程からの鉄仮面とはうって変わってのウキウキした表情で彼女は僕の顔に自分の手をあて僕を見つめた。その手はとても冷たかった。

「私の勝ちね、じゃあ……遠慮なく、羽屋里君ごめんね、いただきます」

 僕の膝がいきなり力を失い、僕はその場に跪いた。僕を見つめるウキウキ顔の彼女を見ると、いつのまにか彼女の口元には牙が生えていた。僕の顔に冷たい手をやり、僕を見つめる彼女の顔は僕の首筋辺りだんだん近づいてきた。なにが起こるか分からなかったが、これこそが彼女がみんなに恐れられている理由なのだろうと、僕はその時に確信した。それに気付き逃げようとした僕だったが、いつの間にか僕の体は硬直し、動かなくなっていた――否、ゲームの勝敗がついたときからだ……その瞬間から僕の体は硬く硬直していた。まるで雪の女王に凍らされているかの如く、身動きが取れない。

 ガッブ……。じゅるる……じゅるる……。

 痛い……痛い……痛い! 痛い!! 近づいてきた彼女は僕の首筋にその鋭い牙を刺し、そこから吸血し、食事を始めた。

 その時だった――逃げようにも逃げられない僕の様子を見て、鞄からケロベロスが飛び出して、彼女の背後に回った。

「天元、大丈夫か!? もう見てられん!」

 僕は何とか恐怖で動けなくなっている自分の舌を動かし、相棒への呪文を唱えた。

「カラス……」

 ジュピーン! と、ケロベロスから放たれた弾丸が僕の首筋から一生懸命吸血をしている現アヤの背後を捕え、背中に命中した。






「かてゃ!?……はぅ……」

 弾丸が命中した彼女は、ドサッ!……と、その場に倒れた。

「まったく……なんだ、あのギャンブルは! 完敗も完敗ではないか……それにしても現アヤが最後に見せた狂気の表情と、彼女に憑く№である吸血鬼が得意とするエナジードレインこれこそ、彼女が怖がられているという理由と言う事か……って、おい天元お前、立てるか? 随分と腰を抜かしているみたいだが……」

「っつぅ……痛かった……。あ、動ける! 助かった……大丈夫だ。ありがとう、ケロベロス」

 あまりの出来ごとに、息を呑み込んだ僕だったが、間一髪のところでケロベロスに救われた僕はこの通り無事なのだが、じゃあ、僕を助けるためケロベロスが撃った弾丸が命中した現アヤはどうなったかと言うと、彼女もまた無事であり、傷一つないのであった。





 ケロベロスの銃口は全部で3つある、弾丸の種類も3つだ。元は同じ弾丸だが、どの銃口を通ったかで種類が変わる仕組みだ。どこの銃口を通るかは、僕が発声する呪文によって決定する『カラス』『ヘビ』『番犬』の3つの呪文によってだ。それによって、それぞれ違う銃口から発砲されるこの魔術の効果は異なるのである。弾などは詰めない、弾丸はケロベロスの体内の中の魔力から1発1発錬成される為、手動による補充の必要はない。弾切れの心配はケロベロスの魔力が尽きた時という事だが、その心配は殆んどないと言っていい、何故ならこの技は連射がきかないからである。1発撃つと次の弾丸を撃てるまでには、5分程度のインターバルがある。つまり次の弾丸が錬成されるまで時間がかかるのだ、無駄撃ちが出来ない分魔力のコスパは非常にいいとケロベロスは言っている。だが、またそれが自分自身の弱点とも言っていた。

 今回僕が唱えた呪文は『カラス』という呪文だった――この呪文で放たれる弾丸それは、対魔力用弾丸だ、相手の魔力を一時的に打ち消す弾丸である。要するに、命中する事によりそこで発動している魔力を抑え込む事が出来るのである。相手の魔力の力にもよるが命中した後はしばらく魔力を封じ込めるとケロベロスは言う。ゆえに今回の現アヤが発動した№の魔力により僕の動きを封じ込めた事や、彼女が牙を生やし行ったエナジードレインの様な、恐らくギャンブルに勝利した事で発動する条件付きの魔力みたいなケースは、一度この弾丸を撃ちこむ事で、初めからと、言うか要するにギャンブルをする前の人間の状態に戻すことができる。そしてこの弾丸は魔力にのみ反応し接触するため、生身の肉体には外傷は与えないのだ。逆に言うと魔力を使う物以外には攻撃能力は皆無の弾丸だと言える。

 僕は倒れた目の前の彼女を抱えた、かなりの魔力で体から脳に至るまで支配させてしまっていて、それが打ち解けた現アヤは少し、ショックを受けて気絶してしまった様だった。先程まで生えていた牙もなくなり、僕の体の硬直も解けた。

「おい、天元! お出ましのようだ……上を見ろ」

 ケロベロスが何かを察したみたいで、彼女の安否を確認し、彼女を抱える僕に上を見る様に促した。

「うわぁ! お前! 飛び出してきたのか……」

 それは僕の頭上に浮遊していた――ニッタと、笑う小猿の姿があり、僕は声を上げて驚いた。

「ハテャッハッツ!! 無駄なのだよ! 少年、無駄無駄無駄。邪魔をするな、無駄だから」

 浮遊する小猿はそう僕を嘲笑うと、ゆっくりと、僕とケロベロスの前に降りてきた――と、言うか……そのまま僕が抱えている、手の中で横たわる現アヤの上に着地した。

「よう、これは……これはケロベロス君だったかな? 変わり者のね! 久しぶりだねぇ、そうだ、お前が来る前に吾輩達が悪魔にしてやった天使! あの子は元気かな? あの子の血はいい具合だったからねぇ……。ハテャッハッツ!! あ、それに今、吾輩がとり憑いているこの子はいいよ~もう、沢山の人から吸い取っている! 沢山美味しい蜜の味を覚えて来ているよ、こりゃ……末恐ろしいよね、ハテャッハッツ!! で、ところで少年、お前は何者だ?」

 下品に笑うそいつはケロベロスを煽り、僕に話しかけてきた。ケロベロスを見ると今にも腸が煮えくりかえりそうな様子で『番犬』の弾丸を放ちたいだろうが、まだ次の弾丸の錬成が終わってなく、仮に錬成が終わっていても、まだ現アヤの中から完全にこいつを追い出している訳じゃない、だから今この№を捕えられるかと言えば恐らく難しい。彼女の中に逃げ込むのがオチだろう……。それゆえ僕は――先程彼女に、ギャンブルで敗れた事の重大さを知り、申し訳なく感じて、何よりスカルとケロベロスの気持ちを考えれば考えるほど無念を感じた。





「僕が何者だって? いいだろう教えてやるぜ、エテ公! 僕はお前から先輩を救い、そしてスカルの血をお前から取り返す! 例え、お前に僕の血を全部飲み干されても、僕はお前を捕獲する、必ず――もし、失敗しようが必ず僕は戻ってくる。トゥルーエンドに辿り着くまで必ず。そう、僕はお前ら№を全員捕まえる事を契約条件として、生き返ったお前には理解できないであろう、流行り病にかかった今時の正義のシスコン兄貴だ! そこんとこよろしく!」 

 決まった――いや、決ったのか? そもそも、敵に自己紹介がてら、宣戦布告を決める必要があったかというと、微妙な線だが、これは流行り病もとい僕の疾病である中二病の発作なのだろう。

 敵を前にすると燃えてしまうこの発作……この恥ずかしい発作、まったく、この部屋で今の発言を聞いていたのが身内含む悪魔だけで助かったぜ、もし女子が聞いているものなら、僕は顔面大爆発を起こしていただろう。さすがに女子が聞いていたら正義のシスコン兄貴の部分はいくらなんでもカットすると思うが……それにしても痛い認定されるだろうし、現先輩は気絶しているからノーカンとして、ここに女子がいなくてよかった……神が平等で安心した。

「ほぉ~少年それでは君は、この謎の銃悪魔ケロベロス君と一緒に吾輩を捕獲し、あの天使の血を取り返しに来たのか、ハテャッハッツ!! かっこいいね! それにケロベロス君はリベンジかい? 泣けるねぇ……ハテャッハッツ!! で? 今ここで吾輩とやり合うのかな? ケロベロス君のおかげで吾輩の食事が邪魔され、吾輩は腹ペコなのだぞ、君で腹を満たす為、吾輩はここで今君らを殺して食事を再開してもよいのだよ? ただし――万が一、君達が吾輩に勝てたとしたら……吾輩の魔力を吹き飛ばされたぐらいで、今彼女は気絶したんだ。吾輩にとり憑かれたままの彼女だからねぇ、吾輩が彼女の中から完全に追い出されていないこの状況下の中でそんな事をしたら、きっと彼女もタダじゃすまないだろうねぇ、ハテャッハッツ!!」

 №3はバリトンボイスを飛ばし、右肩に担いでいたストローを振り回しながら№3は僕達を挑発気味に嘲笑いながら、ストローを目にあて穴からケロベロスを見つめた。

「彼女もタダではすまないとは、お前……現アヤに何をさせた! そこまでお前の精神と彼女の精神がシンクロしているという事は……もう彼女は相当のジャンキーになっているということなのか――何があったんだ……どんな事件があって、彼女はみんなから恐れられる破目になったんだ! 答えろ№3黒色ブラット!」

 ケロベロスが負けずと、№3が覗くストローの穴にガンを飛ばして問い詰めた。

「お、うむ。彼女は素晴らしいジャンキーさ! もうギャンブルの世界が完全に自分の唯一の居場所になっている。元々は真面目って事だけが唯一の自分の心のよりどころみたいな子だったからねぇ、居場所がなかった子なのだよ、その真面目に少し吾輩は力を貸してやっただけさ、彼女が始めた世直し程度の考えが原因だ、だから吾輩は悪くない。そう怒るなよ、ケロベロス君、殺したくなるではないか。君達をここで殺すのはつまらないからねぇ――吾輩達が悪魔にした天使が心まで完全な悪魔になるまであと少しなのだから、そこまで君達に生きてもらわないと、つまらないからね。もう、あの天使が天使だった時の名前も思い出せないだろ? どんどん悪魔になってくぜ、それを見てから君達は死ぬべきだ。ハテャッハッツ!! 痛快だねぇ」

「キスメットだ!! スカルが天使だった時の名前、ケロベロスの娘の名前だ! そして今もここにいる……。僕に全てを託して、姿を変えて、お前の前に今も立ち塞がっている! ――今でなくともかまわない、近いうちにお前を現先輩の中から追い出す、僕はお前を許さない」

 僕はスカルを――現先輩を抱えながらスカルが姿を変えているネックレスを握りしめ、再び№3に宣戦布告をした。

「ふむ。ん? 娘とはいやはや? まぁいい……どうやら口は達者みたいですね少年。まぁ美味しい、美味しい蜜の味に脳汁がプシューと出る快感を覚えたこの少女から吾輩を追い出せるとはとても思えませんがね――そうそう、ところで少年、この学校で去年の冬ごろから不良生徒が次々といなくなっている事はご存じですかね?  実はそれがねぇ――」

 と、№3が話しているその時だった――ガラガラガラと、パソコン室のドアが開き、メガネをかけた子リスの様な女の子が中に入ってきた。




「あ、あの~失礼します――え、えっと……始めまして、私今の勝負たまたま見てしまったのですが……あなた現先輩に負けたみたいですけど……大丈夫なのですか? それに現先輩突然倒れてしまったみたいですけど、どうしたのですか! あと、あなたさっきから独り言なのでしょうか? 他に誰も見当たらないみたいですけど……何がどうなっているのですかね……?」

 と、少女はおどおどしだして、僕をジロジロと見つめながらそう言った。

「――お、誰か来たみたいですな、まぁおしゃべりはこの辺までにしておきましょう、続きはあの子にでも聞くといい」

と、言い残すと№3は現アヤの中にボチャン! と、入っていった。

「おい! 待てよ! 話はまだ終わってないだろう……」

「天元、この状況……まずくないか――そしてなにより恥ずかしい状況だ。あの子のあの感じを見るからに恐らく、おにぎりギャンブルの辺りから見ていたみたいだぞ……」

 と、№3を呼びとめた僕をケロベロスが正気にしてくれて、今の状況整理が出来た。

 その少女が見つめる先は、勿論、悪魔達は見えていない、NO.3もケロベロスも、ただその少女に見えていたものは、僕の敗戦で勝負が終わり、一時は現アヤが僕を襲いだしたが、突然彼女が気絶し、そしてその現アヤを抱えて、意味不明な独り言を……独り芝居を繰り返し始めた僕の姿だった。僕は一瞬でこの状況を理解し、赤面した。そして先程までは平等に思えた神に見捨てられた事も踏まえて、心の中で1言だけ呟いた――よし、覚悟完了と。





「なぁ~んだ! そう言う事だったんですね、私の勘違いの連続大変失礼致しました。てっきり私はあなたの事を不審者なのではないかと疑っていました……強姦魔だと目星を着けていました! 大変失礼しました」

 先程まで僕を不審な目で見ていて、事もあろうか、心の中では僕に凶悪犯罪者のレッテルを付けようとしていたこの少女がなぜ今、僕を信頼の眼差しで見ているかと言うと、僕は彼女がケロベロスの事が見えない事をいい事に、彼女に弾丸を打ち込んだのであった――覚悟を決めた僕は現先輩をその場に置いき、ケロベロスを掴んで、おどおどとする子リスの様な彼女に近づき僕はゴクリと、息をのみ弾丸錬成を終えたケロベロスを彼女にむけて呪文を唱えた。

「ヘビ――」

 と、僕が口にすると弾丸が放たれ真っ直ぐ彼女に直撃した。すると彼女はどうなったかと言うとだ――自分が撃たれた事も気づかずに、近づいてきた僕と会話を始めた。

「あ、あのー、あなたは何者ですか? それに……現先輩は……」

「――やぁ、えっと……僕と学年は同じだよね、君? 僕の名前は羽屋里天元、2年A組だよ。僕は今日からパソコン部に入部するため現先輩に会いに来たんだ、君勝負ってさっき言っていたけどなんの事かな? 僕は現先輩と雑談しながら昼ご飯を食べていただけだよ! この世の中でおにぎりを使ったギャンブル勝負があるわけないじゃないか、ハハハ! あと、現先輩は今お昼寝中だよ、予鈴まで起さないでくれとの事だ。あと僕が独り言を言っていると君はいっていたけど、見間違いじゃないかな? 僕は何も言ってないよ、現先輩も寝ている事だし静かにしていたよ。それに、見通りここには君と僕と現先輩以外には、誰もいないからね! 僕が話していたなんて事実はありえないよ、君の見間違いだ」

 と、僕が苦しい嘘をついて言うと、彼女はそれをケロっと信じて、今に至った――そう、これが僕の唱えた呪文『ヘビ』の効果である。

 今回僕が先程撃った弾丸から丁度インターバルの5分が経過し、この窮地を救ってくれと強く願い放ったこの弾丸は、ケロベロスの三つの弾丸の内の1つ『ヘビ』であり、その効果はズバリ『騙し』である――この呪文で放たれた弾丸に当たった人物は、僕の言った事に1度だけまんまと騙されてしまうと言う、まさに悪魔的魔力を使った弾丸である。またこの弾丸は物理的な攻撃力は皆無の安心安全な攻撃と謳える魔術であった。

「いやいや、もういいよ。で? 君の名前は何ていうのかな? 現先輩との関係は? それにさっき、君は僕らが昼ご飯を食べていたのを勝負と勘違いして、その勝負に僕が負けたと思って大丈夫? と、聞いていたけど、それはどういう意味なのかな? 教えてくれないか」

 今は少し前までのおどおどしていた姿は見る影もなく、僕が騙した後は人懐っこそうな顔にシフトチェンジした彼女に僕は尋ねた。

「あ、申し遅れました。私は2年D組の日陰ヒカゲユキと申します。私もパソコン部でありまして、現先輩とはこの部での繋がりです。まぁ、今のパソコン部はあってない様な物なのですが……部長である現先輩の様子がおかしくなってから、この部は今活動していません。みんなあの半年前の事件を見て知っているから……だから! 新入生が入学してきて、新入部員勧誘のこの大事な時期にもし、現先輩がまた昔みたいな――優しくて、クールで真面目な、怖くない、この部活動に集まった、薄い、薄すぎてカルピスの味がしない様な地味な私達の憧れだった頃の現先輩に戻ったら! また部活を再開できるのではないかと思いましたが……。羽屋里君は別に勝負に負けたのに無事だったという事じゃないのなら、やはりまだ現先輩は恐ろしいままなのですね……それではまだ、他の部員たちは戻って来ないでしょうね……」

「ちょ……ちょっと待ってくれ! その半年前の日陰さんが見たっていう事件! 僕に是非、聞かせてくれないか……お願いだ! その代わり僕は何があろうと、必ず現先輩を救うから――君達が好きだった頃の現先輩を必ず取り戻すから」

「救う? 面白い事言うのね、羽屋里君。話は見えないけど……教えてあげるわ、私も昔の現先輩に早く元に戻ってほしいから、羽屋里君に私が知っている事教えてあげるよ」

 スヤスヤと、眠るように気絶する現アヤの前で日陰ユキは僕に半年前から始まる事件の内容を語ってくれた。現アヤの胸のあたりから№3が半分顔を出した。





其の四に続く――――。

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