①章[うつつバッド★冷血吸血鬼ギャンブルジャンキーの鉄仮面は外れない! 六本木雪の女王の孤独な人間観察日記 ――――№3黒色ブラッド] 其の二
①章
★うつつバッド★
[冷血吸血鬼ギャンブルジャンキーの鉄仮面は外れない! 六本木雪の女王の孤独な人間観察日記 ――――№3黒色ブラッド] 其の二
「えっ! あ……あの勝手に入ってきてごめんない先輩! こ、こん……――こんにちは! 僕は2年の羽屋里天元です。」
びっくりしたせいか……微妙にどもってしまって、なんとなくぎこちない挨拶になってしまったが、僕は頭を下げて現先輩に名を名乗った。
それを聞いた彼女は、その無表情な冷たげの目で僕を少し見た後、またパソコンのモニターに目を移し、今まで通り食事を始めた。
「こんにちは……現先輩ですよね?」
僕がそう尋ねると、カチカチとマウスのクリック音だけが響いた。おかしい、梨の礫で返事がない。無表情でモニターを見つめる少し冷たげな彼女に僕は恐る恐る近づいた。
「鉄だなぁ……」
彼女の目の前まで近づいて見ると、彼女が画面を見つめて呟いていた。鉄? どんなサイトを見たら女子高生から『鉄だなぁ……』と、呟きがでるのだろうか?僕には分からなかった。
食事をしながらそんな事を呟きモニターを見つめる彼女がどんなサイトを見ているのか気になり、僕はモニターを覗きこもうとした。
バサッ! ――その瞬間、彼女の中に入った№が一瞬出て来て、僕を睨んだ。先程の子猿とは似ても似つかないマウンテンゴリラの様な大きさで、それは出て来たと思うと、またすぐに彼女の中に引っ込んでいった。
突然の事に驚き全身の毛が逆立ちしそうになったが、ここで№の事を見えている事実を気付かれる訳にはいけない――だが、突然の威嚇に驚き悲鳴が出そうになった僕の喉をスカルのネックレスがおもいっきり締め上げた。
「…………!?」
今はネックレスになっているスカルが、僕の首に巻きつくぐらいはできるみたいであり、おかげで声は殺せたが……。あまりの圧迫に本当に苦しく死ぬかと思った。
そうだ、僕はこんな所でヘマをするわけにはいかない! 彼女に近づき完全に彼女から№を出して――そして捕獲するんだ。首元のもう一人の僕の恩人からプレッシャーを感じながら。
こんな事が一瞬の内に起きていた事実を現アヤは知る由もないのだろう。彼女は呑気にモニターを見つめていたのだから……。やっと僕もそのモニターを覗く事が出来た。
そこに映し出されていたサイトは、有名オンライン麻雀サイト『宝塔』であった。このサイトは僕も知っている――僕もアカウントを持っている。無課金プレイヤーであり四段である。
僕はこのゲームを最初に始めた時の昔の事を思い出した。横で僕がプレイする画面を見ていたモコちゃんが、
「これツモったら何点かお兄ちゃん知っている?」
と、聞いてきた。
「ん……リーチ、平和、タンヤオ、ツモで4役だから2000.4000のマンガンだろ?」と答えると、
「残念! 正解はいちさんにいろ……――あっ! ツモじゃん! あがってみて! 裏がなければマンガンいかないから」
と、言われたが……しかし! 僕はこの手は裏を2枚乗せてハネマンにするつもりだった――――符計算なんて知ったものか!?
画面に出たツモボタンをクリックした。ダッ!
「裏のらず……1300、2600」
符計算がわからないと4役はマンガンにしか見えない――――その初心者の心理をモコちゃんに突かれた僕はこの東風戦を最後に、符計算を覚え、魔人の守備を身につけ四段まで駆け登った――そんな昔話を僕は思い出したのだった。そして驚きなのは今開いている現アヤのアカウントが八段であることだ。
弁当を食べながら高校の昼休みに女子高生が、ニートや雀ゴロやサラリーマンの麻雀大好きお父さんたちが何百万人もプレイしているこのゲームで、7段以上の人たちは数人しかいなく、とても強者とされているこのゲーム環境のなか、その強者として君臨していると、誰がおもうだろうか――そんな事を思っていると、モニター内の対局が終わっていた。
九段三人との対局だった、プレイヤー名「うつつ」国士無双ツモ。全員飛びで終了。現は次の画面に進むOKボタンをクリックした。カッチ! ――「おめでとうございます。あなたの功績をたたえ九段に認定いたします」との文字が浮かび、九段に昇格となっていた。
普通ここまでの大きい役や、成績の向上があると達成感や自分に酔いしれて、表面上に喜びや、快感がでるはずなのだが……彼女は未だに無表情であり、その表情はとても冷たかった。
こんなヒヤッとした表情の女の子が標的だと思うと肌寒さを感じるな。『やれやれ、どうなることやら』と、また頭の中でそんな中二病な呟きをして、僕は食事中の現先輩に話しかけた。
「咀嚼中に申し訳ないですが、先輩! 僕もこのゲームやっていますよ! 先輩、強いですね」
咀嚼中も、彼女の表情は全く変わらなかったが、箸を止めて彼女は僕の方を見つめて言った。
「はにゃ!!??」
「えっ……!? ――はにゃ!!??」
いきなり可愛らしい鳴き声を出した彼女に、僕は少し動揺したてしまった。どうやら僕は彼女を驚かせてしまう発言を無意識にしてしまったらしい……。きっとかなりのレアボイスであろうこの『はにゃ!!??』と、言うこのボイスの後は――一瞬、パソコン室は沈黙が支配し、2人共固まったが……その沈黙を破ったのは、僕じゃなく意外にも彼女だった。無表情ではあったが少し瞳孔を開き僕を指さし話始めた。
「え? あ……――ちょっと、待って……あなた……私と雑談でもしに来たの?」
「あ……まぁそんな所ですかね。少なくても僕はここに間違って入ってきた訳じゃなく、現先輩に会いにきました」
「私に……私に会いに? この私に? あなたは私が怖くないの?」
怖い? ――そうだ。ここに来る前に忍足さんから得た現アヤの情報にあった事、現アヤは今、人から恐れられているという、根拠も何も知らない不明な情報。その恐れられる理由、真相を僕が知らないこの情報――だが、一つ解る事がある。それは全て今彼女に憑いている№の特性が人々に恐怖心を植え付けるという物だと言う事だ、つまり彼女が恐れ始められたのはこの№がとり憑いてからの事であり、そして原因はこの№に全てあると言う事だ。
「怖くありませんよ。いや、むしろお綺麗すぎて怖かったです! 僕みたいな一般ピープルにはとても話しかけるには敷居が高かったです。ここに入る前に最低限の身だしなみが整えられて本当に良かった――――ケロベロ……いや、失礼。友人には少しどやされましたが、本当によかったです。でも、先輩がそんな事を言うと言う事は誰か先輩を怖がっている人がいるのでしょうか? 何故先輩を怖がるのでしょうか?」
「いやいや、私はてっきりあなたがここに間違えて入ってきてしまって、そのうち出ていくと思っていたけど、私に会いに来たのね……。そして噂の事もその言い草では知らないようね」
噂? ――――彼女が恐れられている事は知っていても、その理由を知らない僕は、少しだけ鎌をかけて聞いてみたが、やはり本人の口からは聞けず噂と言う言葉が出てきただけであった。
「いや、何でもないわ。そうそう、えっと、羽屋里君だっけ? そんな訳だったからさっきはいきなり話しかけられてびっくりして変な声を出してしまったけど、このゲーム暇つぶしにはいいわね――――でも実際には成績を争うだけで何も賭けていないからこのゲームは本物のギャンブルと比べると、私にはなんだか物足りないけど……」
噂の真相には触れず彼女は僕に先程までプレイしていたゲームの感想を述べた、別にここにゲームの話をしに来た訳じゃない僕だったが、会話の入口にこのゲームを使ったのは僕の方だったので僕も軽く感想を口にした。
「まぁ、しいて言うなら……プライドを賭けているんじゃないですかね? そのプライドを形として作るため、みんな時間を掛けてプレイしているはずです。段位が上がるほど自分の打ち筋や勝負の勘に自信がつきプライドが大きくなりその成績の点数そのものがプライドになるのでしょう、僕にはこのゲームその賭けで十分楽しめますけどね!」
僕みたいに『宝塔』つまりネット麻雀を嗜む者にとっては時間を掛けて手に入れたプライド――――この場合は、成績や段位が負ける事により誰かの養分として取られてしまう事は、かなり悔しいものであり、また大事な対局で負けてしまうと頭にきてしまい右上の×ボタンをおしてブラウザーを閉じて、そのまま落ち込んでネット麻雀から暫く離れようとする事もしばしある。そのぐらいプライドはもっていかれると言う事だ、それはもう賭けていると言っても過言じゃないはずだ。
彼女の言った本物のギャンブルという言葉――――現アヤは今ギャンブルジャンキーになっている。六本木や新宿など、非合法カジノに出入りしており、そこで博打を打っているという情報はすでに忍足さんから僕は得ている。おまけに百戦錬磨という訳で、そこの場で溢れるアドレナリンやらの脳汁に比べると、やはりこのゲームではどこか物足りないと言う事なのだろう。
「そうね、ところで羽屋里君……あなたは私に何の用があってここに会いにきたのかしら?」
ゲームの話は置いておいて、彼女はその表情を何一つ先程から変えないまま、僕が何故会いに来たのかという彼女からしたら、事の本題と言う事になる話しに入っていった。
颯爽な輝く笑顔で、僕はその問いに答えてやった。彼女がその答えに度肝を抜いて、その無表情が変わる事への期待を込めた僕の満面の笑顔だった。その中二病な回答に魂をのせ僕は彼女に放った。
「アヤ! お前を救いに僕は来た! 今、この場で僕とギャンブルで勝負だ! 必ず僕は君達(ジャンキー達)を救う!」
僕が溢れんばかりの動きと、キメ顔で決め台詞を吐くと彼女は、
「え?」
と、声を漏らした。大幅に彼女の表情が変わると言う大袈裟な事には残念ながらならなかったが……彼女の眉が少しピクリと、上にあがり瞳孔がきもち開いた気がした。
いきなり、本当にいきなりだ――僕は初対面の人に対して、ここが平和な国日本であり、この施設は高等学校であると言う事は百も承知の上で現先輩にギャンブルでの勝負を吹っかけた。
「あなた……私の事を知っているの? 噂の事は知らないくせに? どういう展開よ! ギャンブルって……それに、アヤって何かしら……馴れ馴れしいわよ」
彼女は立ちあがり、そして少し声量を大きくし僕の顔をじっと見た。もちろん無表情で。
今更だが、彼女はなんていうか、まるで鉄仮面を付けている様である。少し彼女の声量も大きかったせいもあるからか……改めて僕は不思議な罪悪感に囚われた――――それはここまで無表情の相手を目の前にすると、僕は何か彼女に悪い事をしてしまい、怒りを買ってしまっているのではないのだろうかと、不安になってきた。
そして僕は彼女から完全に格下に見られていて舐められている様な気にもなるし、又、相手にされていないのだろうかという気にもなった。そもそも存在その物の否定をされているのではないかと、馬鹿にされているのではないかという気にもなってくる。つくづくこんなヒヤッと、した鉄仮面の彼女を僕は今から相手にしないといけないと思うと少し肌寒さを感じるが、それもこれも№を彼女から追い出す為だ! 負けるな! と、僕は自分自身の頬を両手でビッシ! と叩いて気合を入れなおしてから彼女に切り出した。
「馴れ馴れしかったのはすまない……ああ、そうだ! 先輩がカジノに出入りして夜な夜なギャンブルに明け暮れているギャンブルジャンキーだって事を僕は知っている! 噂というのはまだ知らないが、僕は先輩を救いにここに来た! だから僕と賭けで勝負してください!」
「救うって……私を? いったい何から救うのよ、それにあなた噂は知らないようだから言っておくけど、私とギャンブルをするってことは負けたらタダでは済まないわ、やめておきなさい」
タダでは済まないと、何だか穏やかではない言葉が彼女から飛び出て来た。いったい彼女に敗れた人達はどうなってしまったんだろうか……。これが彼女の恐れられている真相なのだろうか? どんな事件があったのだろう……。だが、僕は引くわけにはいかない。
「大丈夫! 僕の事なら心配ご無用ですよ、賭けて欲しいものなのですが、僕が勝ったら現先輩! あなたはもうギャンブルをやめてください。そしてカジノにも二度と出入りしないでください。それが僕の要求です」
「なによ、それ……何よ……ギャンブルがなくなったら、じゃあ私の居場所はどこにあるっていうのよ……――」
「え?」
彼女が小声で何かを言ったが聞きとれなかった。
「いや、何でもないわ……ねぇ、羽屋里君じゃあ、あなたの方は何を賭けてくれるのかしら?」
彼女は少し下を向いてボソボソっと話していたが、またその鉄仮面で僕の顔を真っ直ぐ見て言った。僕には覚悟が出来ていた、一度死んだ僕にはここでこの№を彼女から追い出す為の覚悟が――――全てを賭けられる覚悟が、整っていた。
「もし、僕が負けた時は現先輩の言う事を何でも聞きますよ! ギャンブルの内容なのですが、それは僕が今考えたものでいいでしょうか? 道具もあまりない事ですし、簡単なもので」
「フフフ……。何でもねぇ……いいわ、面白いわ! 羽屋里君やってあげるわ、約束は守ってね、私が勝ったらそれじゃあ、あなた……パソコン部に入部してもらうわ――」
彼女が笑ったように思えたが、それは本当に一瞬の事ですぐに元の鉄仮面を被った。僕が負けた時に行われる彼女のお願いは、僕がパソコン部に入部する事と言う予想外であり、案外というか……軽いお願いに感じたが、その先の彼女の言葉に驚き、僕は動揺し声を漏らした。
「――そして、私を守って、救って……」
其の三に続く――――。