⑥章[リンゴトゥルー☆受け継いだ弾丸で戦え、天元! 鬼畜に利用された玩具のリンゴの生贄カウントダウンパーティを阻止しろ! 悲劇を喜劇に変える時――№4マジョルカジエンド] 其の四
⑥章
☆リンゴトゥルー☆
[受け継いだ弾丸で戦え、天元! 鬼畜に利用された玩具のリンゴの生贄カウントダウンパーティを阻止しろ! 悲劇を喜劇に変える時――№4マジョルカジエンド] 其の四
ケロベロスを捕まえ、牢屋の天使達にかけておいた魔術を解いた目の前のグラシアスにベルゼブルは最大級の警戒をした。この天使は只者ではない……下手に仕掛けるとこちらがやられるだろう……そうベルゼブルは考えたあげく、グラシアスの交渉条件であるこの森から皆を無事に出すと、言う条件を承諾した。こうしてベルゼブルの案内で森を抜け出す事に成功した。
グラシアスは森を抜け出すと、すぐに囚われていた天使達を全員先に天国に向かわせた。これにてグラシアスが任されていた本来の仕事の目的を果たす事ができた。
グラシアスの作戦は成功したように思えた――残るは協力してくれたケロベロスを安全に返すだけである。しかし、それはここ地獄では通用しないのである……ミスを犯した者にはそれなりのケジメを地獄ではつけられるのであった。
天使を全員逃がした罰をケロベロスとベルゼブルがとらされる……そんな単純な事にギリギリまでグラシアスは気づけなかった。
否、ケロベロスが自分達同様の天使のように接してくれていたから、感覚が麻痺していた……ここが地獄である事を考慮できていなかった。ベルゼブルもケロベロスもここで生きる為に最低限グラシアスを殺してケジメをつける他にないのであった。それが地獄でのルールであり、作戦が失敗した事の証明であった。
グラシアス一人が残り、ケロベロスをベルゼブルに引き渡して、解放しようとした時にベルゼブルの言い放った一言でグラシアスは自分の犯したミスに気づき覚悟を決めた。
「ケロベロス……。魔神の君が天使共にここまでやられてさぞかし悔しいだろう……吾輩も同じだ……だが、敵はこいつ一人になった! ここで吾輩達がこの天使だけでも殺すぞ、でないと吾輩も君も、もう地獄で生きていけない……それがこの地獄でのルールだ。ここで吾輩達がこいつを殺せない様じゃ、地獄全体から四面楚歌くらってどの道……吾輩達は死ぬ事になる!」
ベルゼブルのその言葉にケロベロスは混乱した……自分がこの先ここで生きる為にはグラシアスを殺さなければならない――どうしたらいいのか分からなくなったケロベロスはグラシアスの顔を見た。すると、グラシアスは微笑みながら、ケロベロスにこう言った。
「ありがとう、我が友ケロベロス……頼むケロベロス……最後のお願いだ。僕をここで君の手で殺してくれ……ごめん、僕は怖いんだ、僕のせいで君が苦しむ事が……嫌な役回りを押しつけてしまってすまない……この仕事が成功したのは君のおかげだ、だけどそれで君が苦しむのだけは僕は耐えられない……ごめんよ、僕は弱いんだ、だからケロベロス……僕を殺してお前は生きてくれ、僕にはお前をここに残して助かる勇気はない……ありがとう、ケロベロス……」
ベルゼブルがケロベロスとグラシアスに近づいた頃には、もう全て終わっていた――涙を流し血に染まるケロベロスがグラシアスの骨を抱いていた。
グラシアスの死をもって全てが終わっていた。ケロベロスは最後、自分自身が生き延びる選択を選んだ――友に頼まれた選択をした。
グラシアスが最後に残した『ありがとう』の言葉が優しく、安らぎのあるものでケロベロスは自分が下した選択が本当に正しかったのか、苦悩しこんなに友想いの天使殺めてしまった事に苦しみ嘆いた。グラシアスの骨はこの気持ちを忘れない為にケロベロスが、形見として貰った。
漆黒の森でグラシアスとした沢山の会話の中で彼の子供の話があった――名を確か、『キスメット』と言ったのをケロベロスは覚えていた。できる限り友が残したこのキスメットという天使を見守ろうとケロベロスは決意した。それからケロベロスの地獄から天使を見守る日々が始まった。天使に関わる仕事は避け、ケロベロスは地獄トーナメントに出場し、賞金で生きていた。
そんなある日、事件が起きたのである。そう、№達がキスメットを悪魔に変えてしまったのだ。すぐに体が動き現世へと向った。前にトーナメントの賞品として貰った『魔神でもどこでも行ける変身セット』に身を包み、その装備で変な銃の姿になってしまったが、産まれて初めて地獄を抜け出し、キスメットを救うために現世へ飛んでいった。
親が子を一番にというものはそういうものなのだろうか……と、友を殺めてしまったあの日以来、体が重かったケロベロスが今の自分の身軽な行動を……キスメットのもとに早く行かなければという気持ちの強さに対して、そう感じた。
忍足さんが僕にケロベロスの話を終えると、後ろから女性の声が聞こえた。優しく、安らぎを感じる声が僕と、ここにはいなくとも今、この光景を見ているだろうケロベロスを包んだ。
「天元、ありがとう。私は貴方達のおかげでこの姿に戻れた。ありがとう、ケロベロス……」
そう言ってくれたキスメットの目には涙が浮かんでいた。どうやら忍足さんがしてくれた話を聞いていたのであろう――思い出した実の父の死と、自分を救ってくれたケロベロスの話を聞いていたのだ――。
№達がいなくなり、手座高校に平穏が戻って来た。まぁ、大多数の生徒には元より平穏な日々だったのだろうが、僕の高校生活は特別なものから一変して平穏になってしまったと言う訳だ。
ドロップ飴を舐めながら僕がそんな事を考えていたら――リンゴちゃんと最初に話した廊下でばったりと、昨日のデート振りにリンゴちゃんに出くわした。
僕は部活動に向かうのであろう1人で歩くリンゴちゃんに近づき、手に持ったドロップ飴の缶を彼女に差し出した。
「リンゴちゃん! 昨日は色々あったけど……本当に色々あったけど、デートは楽しかったよ。そして君を救えて本当に良かったよ、これから部活? 頑張ってね。はい、ドロップあげるよ!」
「私こそデート楽しかったよ、昨日あの後から、なんだかとても気分が良いんだ! まるで悪い憑きものでもとれた様に心が爽やかで軽いんだ! ドロップ1つ貰うね! ん? 苦い!」
「ハッカだね、マイノリティなのだろうが僕はこの味好きなんだ、特別な感じがしてねっ! 不幸かい?」
「いや、苦いがスッキリと爽やかな、今の私の心にピッタリな、素晴らしい幸せな味がするよ!」
彼女はクシャっと、こぼれる様な笑顔で幸せそうにそう言った。
☆リンゴトゥルー☆――完。




