⑥章[リンゴバッド★ネガキャラ悲劇のヒロインジャンキーの生贄クラブミュージック! リンゴは何にも言わないけれど~♪理想のデートに辿りつけ! ――№4マジョルカジエンド] 其の一
⑥章
★リンゴバッド★
[ネガキャラ悲劇のヒロインジャンキーの生贄クラブミュージック! リンゴは何にも言わないけれど~♪理想のデートに辿りつけ! ――№4マジョルカジエンド] 其の一
形良リンゴは悲劇のヒロインをきどっている――読者モデルもこなす彼女は演劇部に所属する我が学園のアイドルであり、美しさをどこまでも求めている。
否、美しさに飢えているといっても過言ではないのだろう、それゆえ彼女は悲劇に憧れ始めた……悲劇に依存しはじめたのである。
美しさとは儚いものだと信じてやまなくなってしまったのだ……そんな彼女だからこそ№4につけこまれてしまったのだろう――こうして、彼女の悲劇が開演してしまった。
「あーあ……不幸だ、不幸だ! 私は不幸だ……読モのバイトは疲れたし、読みかけの小説のオチは友達に言われるし、昨日見に言った映画は映画館の入口で知らない子供が大きい声で犯人の名前を言ってネタバレされたし、部活ではまたヒロインの役は回ってこなかったし……何が学園のアイドルだ! ちっとも私に良い事なんかないじゃないか! 可愛いのは罪なのだろうか? ああ! 神よ、教えてくれ!」
そんな事を呟いた事で、この世界には神なんていないんだ、誰も答えてはくれない……そうだ! なら、私が神になれば良いじゃないか! 私の問いに答える神に! 天才じゃね?
手始めに、中学生の時の私の問いに答えてやろう! えっと……たしか、中学の時に私は理想の高校生になれるかどうか考えていたな……――よし! それに答えよう。
私へ、お前は美少女高校生になれたし、志望校にも入れた。勉強は中の上ぐらいの成績だがそれなりに友達もいるし、学園生活は刺激が少ないがボチボチだろう! で、一番重要なのが高校生の私は最高の彼氏ができているかな~って、やつ。あれ、あれは叶わないぞ。
不幸な事に私はいつの間にか男子生徒達の高嶺の花になってしまったらしく、声が掛けづらい存在と、なっているらしい、演劇部の役も男装しての男役の主人公しか何故かまわってこない……きっと先輩達の嫉妬からの嫌がらせだろう! もはや相手にする事もなく全て任す事にした、他力本願で結構! 自分の代がくるまで身を委ねるよ……あーあ! なんて、私は不幸なのだ!
くだらない事をしてしまった。何が、私が神になればいいだ! 笑わせる、時間の無駄だ。昔の私の問いに答えるなんて! それに私は今、忙しいのであった! 化粧直しにもいけない位忙しいのであった! ……まぁ、行く必要はないけどな。とにかく私は今、不幸で忙しい――先程次の授業が体育のため、女子更衣室で着替えていたら体操着を教室に忘れた事に気がついた。間違えて今度の演劇部の劇の役で使う男ものの黒の学ラン服を持ってきてしまったのだ。
ハァ~。こんなものと体操着を間違えるなんて、まったく私はついてない……折角だから教室に体操着を取りに戻ってまた更衣室に戻る道中――私は間違えて持ってきたこの学ランを着る事にした。
この学校の男子の制服はブレザーだ、この格好は当然目立つ! 目立つのは好きだ、そしてなんと……私はスペシャルな事をしていた! 刺激をたまには求めないとなと、学ランの中は下着のみの着用だ! まぁ、あまり意味はないのだが……学ランで中は完全に見えないし、ズボンの下はパンツだけというのは普通だ……つまりシャツを着ていないと言うだけだ! これだけじろじろ皆に見られても誰一人この真実には辿りつけまい……フハハハハ!!
その時だった――二年生のフロアの廊下に、男子オタク生徒の声が響き渡った。
「みんなあああぁぁ!! 見るでやんす! 廊下の窓から大きな、大きなオオスズメバチが入ってきたでやんすうう!! 刺されたらヤバいでやんす! 最悪死ぬでやんすよ! 男子は今すぐ制服を脱ぐでやんす! ハチは黒くて動くものを攻撃してくるでやんす! ブレザーを脱ぐでやんす! ん? 学ランの奴がいるでやんす! 危ないでやんす! 早く脱ぐでやんす!」
「うわあああああ! 本当なりいいい! 急いで脱ぐでなりよ! 助けてなりいいい!」
大きなスズメバチが廊下を飛びかって、廊下にいた生徒達は混乱の渦に巻き込まれた――皆が身につけている黒いものを脱ぎ捨てる一方で……私は絶体絶命の危機を感じていた。
逃げ回る皆の中で私は静かに蹲り、どうかハチが私を通り過ぎてくれる事を願った――だがしかし! オオスズメバチはお約束通りと、言わんばかりに私めがけて飛んできた!
「何しているでやんすか! 学ランの人! 早く学ランを脱ぐでやんすよ! そして、逃げるでやんす! おいらの豆知識が聞こえなかったでやんすか!」
聞こえているさ、オタク君。クソ……なんて、私は不幸なんだ……まだ誰にも見せた事のないこの体を……最高の彼氏に一番初めに見せると決めていたこの体を……こんな大衆の面前で晒さないといけなくなるとは……不幸だ! だが、オオスズメバチに刺される訳にはいかない……くっ……ここまでか――私が学ランを脱ぎ捨てようとボタンに手を掛けた瞬間……私が思っていた以上に私の目の前にオオスズメバチが近づいていた……。
あ、これはやばい、私には分かる。私はここで刺される……もう学ランを脱いだところで、さらに恥を上乗せするだけだ……クソ、情けな過ぎて目から涙が零れてきた。私はその中で覚悟を決め、目を閉じようとした。
その時だった! 私の目の前に眩い光が広がったような気がした――そしてその光の中から、銃を握った男子の姿が現れた……そして、その男子が黒のブレザーを投げ、手に持つ銃を掲げて、どうみても中二病なポーズを取り、中二病なセリフを吐いた。
「おい! こっちにきやがれ、ジャイアントホーネット! 世界最強昆虫かなんだか知らないが……人類を甘く見るなよ! 人間はキメラアントにも、テラフォーマーズにも勝てる強い生物なんだ! その子から離れろ! お前の相手はマーズランキング1位! 具現化系念能力者! この僕が相手だ……う……怖い……。ちくしょう……頼むぞ……ケロベロス!」
この颯爽と登場した男子を私は知っている――体育祭のリレーでアンカーとして私と走ったA組の男子だ! その男子がブレザーを投げ、手に持つ黒い銃を揺らしオオスズメバチ挑発し私を救ってくれた。
オオスズメバチは見事に天元君の所に飛んでいったのはいいものの……大丈夫か!? 天元君をよく見ると、顔はひきつっていて笑えてないし、そのかわりに膝がガクガクと笑っているぞ……あ、危ない! 刺される! オオスズメバチが天元君の持っていた黒い銃に止まった。
「ケロベロス! 本当に大丈夫なんだろうな……おい! 止まったぞ、こいつ!」
「ハハハッ! 安心しろ、天元。虫なんかには、たまに俺の事が見える奴がいてな! オオスズメバチは世界最強昆虫だ! 当然、俺の事が認識できるだろ、だがしかーし! それまでだ、俺はデーモンも前に言っていたが、仮にも地獄のトーナメント大会のチャンプだ! 当然最強どうしなら、オーラだけでどちらが強いか力量の差が分かるはずだ……見ていろ!」
銃が喋った! すると、銃の周りに小さな黒いオーラが放たれ、それに触れたオオスズメバチは、そこから一直線に窓から飛び出て外に逃げていった。
「鬼かっけぇ! ケロベロス! オーラだけで分からせて退かせやがった! さすがだぜ!」
「な~に、このぐらい普通の事だ。最強同士の喧嘩はこんなものなのだよ! ハハハッ!」
そして天元君はその銃と戯れ始めた……なんだ、この光景は!? 皆とてもびっくりしただろうな……とても刺激的でカッコイイ奇跡を目の前にしたんだから。
「なんでやんすか……勝手にオオスズメバチが逃げたでやんす! まったく人騒がせな虫だったでやんす! 早く教室に戻らないと……授業が始まるでやんす」
何かおかしい……天元君が明らかにオオスズメバチを追い払ったのに、そのことに皆なにもふれず、なにもなかったかのように――ただ勝手にオオスズメバチが出ていったかの様な態度をとっている……。いや、そもそも喋る銃に誰一人驚いていない……と、言う事は皆にはもしや……この銃が見えていないのだろうか!?
「えっ……と、リンゴちゃん! 大丈夫かな? 良かった! 無事で! まったく焦ったよ……まぁ、怪我がなくてよかった! 僕は君に体育祭で実は少しやり過ぎてしまったと思っていたから、何かお詫びがしたかったから、体が反射的に動いてくれてよかったよ」
そう言いながら天元君は蹲っていた私に手を差し出して立ちあがらせてくれた。
「あ、ありがとうございます! えっと、天元君! 事情があってこの学ラン脱ぎ捨てられなくて詰んでしまっていたから助けてもらって助かりました! あ、ところでその銃は何なの?」
私が感謝を口にし、天元君が手に握る銃を指さして尋ねると――天元君とそしてなぜか表情があるような銃の顔色が変わって銃と天元君が顔を合せて「いよいよ……最後の№か」と呟くと、私の手をいきなり掴み、目を見てこういった。
「リンゴちゃん! 僕は必ず君の事を救ってみせる! 話を聞かせて貰えるかな? 今日放課後時間あるかい? 話はその時にゆっくり話すから……今日の放課後あけてくれないか?」
私の目を真剣に見つめ、天元君は私の心を奪っていった――不幸で、不幸で可哀想な悲劇の私にやっと、春が明けたこの7月の初夏に青春がやってきた。私は即答した。
「本当!? 私……天元君とデートがしたい! いっ~ぱい色々なお話がしたい! 放課後ね? おっ~けい! 原宿に行こうよ! 私、最高の彼氏と原宿でデートするのが、ずっ~と前からの夢だったの! 私を救いにきてくれて……ありがとう、天元君」
「え!? リンゴちゃんと……ぼ、僕が……デ……デート!? あへっ!? よ……よろしくお願いします! おい、ケロベロス……やったぜ!」
「なんだ……この展開は……まぁ、いいんじゃないか……これで№を捕まえ易くなっただろうしな、リンゴとやら! 俺はケロベロスだ! よろしくな!」
「すごい……本当に生きているよ、この銃! あ、そろそろ授業行かないと! 遅刻だ! じゃあ天元君、ケロベロスちゃん! 放課後、教室に迎えにきてねっ!」
「うん! デートかぁ……公式デートは僕これが人生初だ……原宿か……行った事ないわ……」
こうして、私は天元君に手を振りバイバイして放課後を楽しみにしながらその場を後にした――天元君も初めてみたいだが、私もデートは初だ……ワクワクする! そうだ、あとでこの前に読モのバイトの時に、スタイリストさんから貰った魔法のリップをつけていこう! ケロベロスちゃん同様にこのリップもお話ができるんだよな、最近そういう製品が流行っているのかな? まぁ、いいや! このリップつけると、占いをしてくれるんだよね! 今日の運勢はどうだろう! 聞いてみよう、この『マジョルカジエンド』ってブランドのリップに。
「リンゴちゃんの今日の運勢は! 死ぬほどハッピーだよ! 全てが報われ死ぬほど死ぬほど死ぬほどハッピーだよ! 死ぬほど死ぬほ……死ぬ死ぬほほほホーホッホ! 死ぬハッピー!」
「あれ……リップの音声がおかしい……壊れたかな? まあ、いいや! 今日はハッピーなんだね! ありがとう! 私、頑張る! よ~し、楽しむぞ!」
私は放課後に化粧直しを終え、リップを鞄にしまって教室で天元君が来るのを待った。
僕の運命力でひょんな事からリンゴちゃんとデートの約束をこぎつける前の出来事――僕は№1を捕獲後、例によって天国のオリハルコン株式会社へ忍足さんに会いに行った。
どうやら僕がケロベロスに借りている僕の中に入っている天使の骨の耐久力が今、限界に到達してしまったらしく、それに従って今後の注意を僕は受けた。
「天元君……もう、おまえさんの体の骨……余分に骨オリで折れる部分がないで! 氷見レイカにドアで挟まれた分で流石の天使の骨の耐久がもう人並みになってしまったんや、元々№4匹分の耐久しかなかったからな、もう未来をやり直す事はできんわ、また天元君は普通の人間に戻ってしまったちゅうことや、もし骨オリを使った場合……最初にモコちゃんを救う時のようにすぐ粉々になって死んでしまうわ……だから次の№4マジョルカジエンドを相手にするときは用心してくれや、もう通常使えた4回分の骨オリの耐久はなくなったんや、だけど君にはケロベロスがおる! その希望にかけて挑むんや!」
「クソ! しょうがないな、天元! 俺達の力だけでなんとかしよう……」
「ああ、分かっているケロベロス! もうこれからは骨オリを使えない……僕はもう死ねないんだ……元々相当チートの様な能力だったしな、これからは慎重に行動し必ず大きな被害を受ける前に決着をつけよう! そして、スカルを必ず救う!」
「よし、その意気や! 氷見レイカとメイカの件はわしから天元君の対価を使用して神様に頼んどくから、明日には解決するだろうから、まっとてくれや、ほな、きばっていこうや!」
オリハルコンに№1を届けに行き、スカルの臓器を回収し、スカルが天使へと復活するためには、残りは№4の持つスカルの体だけである。忍足さんが手を回してくれて僕の対価を使い氷見家の問題は全て解決した。そして僕は――これから学園のアイドルと人生初のデートに向かう! 梅雨が明けた初夏の放課後……僕は彼女が待つ教室へと向かった。
僕の甘く切ない、ひと夏の青春が始まった。
其の二に続く――――。




