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⑤章[メイカトゥルー☆美人天才姉妹の姉レイカの過ちと、其々の人生! 信者を操る怪電波を放つ№を見つけ出せ! こんな私を許してくれますか? ――№1フランフォン] 其の二

⑤章


☆メイカトゥルー☆


[美人天才姉妹の姉レイカの過ちと、其々の人生! 信者を操る怪電波を放つ№を見つけ出せ! こんな私を許してくれますか? ――№1フランフォン] 其の二









 ドアの奥から見える氷見家の中は荒れていた。ゴミが散乱し、照明は一切ついていなく、壁などは、何かで殴りつけて開けたような無数の穴が開いて、破壊されている部分があった――そんなありさまを見れば一目で分かった。この家は異常だと、なにか問題を抱えていると。

「これは……いったい……まさか! №の仕業か!? どうなっているんだ……」

「いや、天元これは、№の仕業ではない、つまるところ――この家庭が抱える問題そして、氷見メイカの悩みである元凶の今、俺達の目の前にいる彼女、氷見レイカの仕業だろう」

「キモキモキモ! なんだ? 君は? 人の家に来て名乗りもせずに、独り言かい? ケッ!」

 僕を不審な眼差しで見るレイカさんは、そのまま玄関の入口の中で唾を吐いた――その光景を目の前にし、僕は度肝を抜いた。

 ありえるだろうか? ケロベロスが彼女には見えていないので、僕が独り言をしている感じにはなってしまったものの……初対面の相手に対して、女の子がここまで悪態をつけれるものなのだろうか? ケロベロスが見えない以上、彼女には悪魔はとり憑いていない事が分かる。それが逆に恐ろしく思えた――その悪態が悪魔のそれとは違うと言うのなら、それは人間が起している悪態と言う事になる。

 僕も確かにドアから見えた家の様子について発言してしまい、失礼ではあったが、自分の客人ではない見ず知らずの人間に対して『キモキモキモ!』と、浴びせられるものなのだろうか? ましては、このご時世だ! 知らない若者が何を起こすか分からない時代に、そんな挑発をかます事が平気で、できるものなのだろうか……。その全てをさしおいても、なにより自分の家の中で唾を平気で吐ける事に僕は驚いた。僕への威嚇にはなるだろうが、こんなに簡単に自宅を汚す事ができる事に驚いた。忍足さんの言う通り、彼女は自分以外の事は考えていない『悪人』の様にみえる。

 そんな彼女を相手にして、家の中にモコちゃんを救出しに入れてもらうには、交渉が大変そうだが、僕にはそれをやる以外の選択肢はない、失敗できない交渉がはじまった。

「申し遅れました。僕の名前は羽屋里天元、そちらのお宅の氷見メイカさんと同じ手座高校の2年で、友人です。僕の妹のモコが今、お邪魔していると思うんですが、メイカさんとモコを呼んでもらえないでしょうか?」

「キモキモキモ! なに? あんた! シスコンかなんか? ああ、なんか、めんどくさい。メイカは居ないよ! なんであいつばっかり、友達が訪ねてくるのよ、ムカつくわ……あいつばっかし、人生上手くいきやがって……まぁいいわ、これからたっぷりメイカには働いて貰って私はらくして養ってもらおうかねぇ! じゃあね、もう来ないでくれる? キモイから」

「いやいや! 家の中に絶対に居ると思うんですよね……ほら、携帯に掛けても2人共繋がらないし! 一度確認してきては貰えませんか? 面倒でしたら中に入れてもらえれば僕が自分で呼んできますけど……駄目でしょうか?」

 僕が携帯を掛けても二人は出ない事をレイカさんに見せて、僕は中を確認してきて欲しいとお願いしたのだったが――彼女は玄関から出てすぐの庭から家の2階のベランダにかかった梯子を指さして言った。








「キモキモキモ! 居るとか、居ないとか関係ねえんだよ! この家はもう私がルールなの! クソみてえな親は、とっとと世間体を気にしてどっかに逃げていったし、残された私と、可哀想なメイカの2人暮らしなのよ! でも、あいつの舐めた態度が気に入らないから、1階が私のスペース、2階はあいつのスペースと区切ったのよ、そしてお互いのスペースには入らないって約束してね! だからあいつは毎日この梯子を使って、2階のベランダから家に出入りしているのよ! 馬鹿でしょ? そんな馬鹿に会いに来たあんたはもっとキモイから私はあんたのお願いなんてきかないし、どうでもいいのよ! ああ、めんどくさい!」

「ちょっと、酷過ぎないか……さっきから……酷過ぎる!」

「キモキモキモ! 私はあんたみたいなガキが嫌いなの! 自分の事を悪く言われて、無下に扱われて、ピキッちゃったの? 勝手に来て迷惑だって、言っているのよ? 馬鹿なの?」

「違う! 僕の事じゃない……メイカちゃんの扱いが酷過ぎないか? あなたの事を僕は少しだけ知っています……メイカちゃんはあなたの家族じゃないですか! なんでそんなに負担を彼女にかけるんだ! 唯でさえ、あなたのお陰でネットや噂話で、メイカちゃんまで犯罪者扱いされているんですよ? でたらめな事を沢山、書かれてそれが広まって彼女は傷ついているんだ……そんな彼女に申し訳ないと、思う気持ちもないんですか? レイカさんは!」

「キモキモキモ! そんなのネットの書き込みやら噂やらを気にするオタクなんて、無視すればいいだろ? どうせそんな話を流している奴らも、気持ち悪い奴らなんだからさぁ……勝手にくらっているメイカが悪いんだよ! そんなものは見たら負け、気にしたら負けなんだよ!」

「気になるわ! いい加減にしろ! 頭の中では気にするなと、自分に念じて思っていても……人間は弱いんだ……いくら姉妹と言えど、そこは似ているとは限らない……あんたみたいに、犯罪を起こしても何とも思わなかった人間とは、メイカちゃんは違うんだ……悪人じゃないんだ! そりゃあ気になるよ! 悲しむよ! それに今のあんたを見ていても尊敬できないし、家族とも思えないだろうな! だって――あんたは犯罪をして罪を償って出て来ても、メイカちゃんに思いやりの心も持てない、更生しようともしない、クズなんだからな! あんたが更生して社会復帰をはたして、真面目になって、やっと、くだらないネットの書き込みや、噂を気にしないで、メイカちゃんは堂々と生きられるんだろ! 彼女が怯えて生きなければならなくなる弱点がそれで……やっと無くせるんだろう!? なんで、それが分からないんだ!」

 僕は救いたい――メイカちゃんを……たとえ、この姉が僕のせいで今後、悪に目覚める事のない、別の性格に代わってしまっても……人間一人を全く別の人間に変えてしまっても僕は後悔しない、一度死んだ僕はなんだってできる……満足がいくならば……元の性格を完全に殺す事ができるこの銃だって撃てる。まぁ、そんなことができる銃は僕の相棒に限るだろうがね。

「僕が救いたい人を救うためには躊躇なく、僕は引き金を引く事に決めている……頼むぞ、ケロベロス――この台詞、結構前から言ってみたくて考えていたんだぜ……」

 僕がそんな中二病な言葉を吐きながら、ケロベロスを握る手をレイカさんに向けようとした時――僕がレイカさんに説教じみた交渉をした事が気に入らなかったのだろう、彼女は僕との話をやめて、家の中に逃げ込んだ。








「キモキモキモ! 帰ってくれ! 人の家庭の事情に勝手に首を突っ込むな! メイカの高校の先輩だかなんだか知らないけど……私はお前みたいな中二病なオタクが一番嫌いなんだ!」

 そう言い終わると――バタン! と、レイカさんが玄関のドアを閉めようとしたので、僕は咄嗟にドアの隙間に手を突っ込んで、それを阻止した……。この痛みは、僕の安易な交渉によってメイカちゃんとモコちゃんを呼びだす事に失敗した代償と思おうと、覚悟を決めて手を突っ込んだものの、ドアに挟まれたその痛みは強烈なものだった。

「うぎゃはっ! 痛っ……イテテテテ……ちょっ……ちょっと待ってください、今いいところだったのに……と、言うかまだ話は終わっていません。それに中に僕の妹がいるんだ……家の中に入れてもらわなければ……連れ戻せない!」

 必死に交渉する僕に、レイカさんの人を見下したような睨みが突き刺さった――彼女が言った『人の家庭に首を突っ込むな』と、言う言葉が僕の頭の中でチラついた。この言葉は時には正論であると僕には思えた。だが、今回の様に彼女が事のメイカちゃんの悩みの原因であり、そして№が関わっている以上、僕は当然引く訳にはいかないのである――むやみに他人の家庭事情に首を突っ込めば、とばっちりをくらって痛い目にあうこともあるだろう。僕のこの赤く腫れて負傷した手がその類に当たるかどうかは僕にも定かではないが……でも、その家族にいる悪人が僕に危害を加えようとも、僕の事を嫌悪し、嫌っても、僕がその他人の家族の中で救いたいと思える人を救えたのなら、僕は喜んで悪魔にでもなり、首を突っ込む覚悟がある。

「キモキモキモ! な、なんなんだ……お前は……お前の妹なんて知るか! くらえ!」

 彼女は僕を気味悪そうに見ると――ガンッ! ガンッ! ガンガン! と、ドアを強く締め、僕の腫れた手に追い打ちをかけて挟んだ。だが、僕はその攻撃に歯を食いしばって耐えぬ気、けして、ドアを閉じさせなかった。

 ドアを閉じさせない事の代償として、僕の左手は真っ赤な血を垂らし大きく腫れて膨らんでしまった。もしかしたら手の骨も折れているかもしれない。そんな負傷した手とは逆の手である右手を――相棒を握る右手をレイカさんに向けて僕は呪文をとなえた。

「へへへ……僕はこのぐらいの痛み平気だぜ……。あいにく……骨を折るのは慣れているんだ。僕はこんな事じゃ怯まないぜ、残念だったな……くらえ! ――ヘビ」

 僕が、絶対に閉じさせなかったドアの隙間から、放たれたケロベロスのヘビの弾丸がレイカさんに命中した……。

 そして僕は彼女に近づき、彼女を騙した――本当の彼女を殺すために、そして、死んだ彼女に産まれ変ってもらうために、僕は悪魔の力を使った。








「返してもらいますよ、メイカちゃんの自由を。もうレイカさんは悪人じゃないんだ、メイカちゃんの弱点でも何でもない……これから2人は憎しみ合うことなく生きるんだ、こんな絵になる美人姉妹に醜い争いは必要ないですよ。だから、もう君は人に迷惑をかけない、陥れない。今からレイカさんは妹思いの姉さんに更生したんだ! 悪人の時のレイカさんはもう、死にました……もう何も気にせず、平和に、真面目に生きていくんだ。君はもう罪を償ったんだ……幸せになる権利がある、だからもう悪人でいるのは終わりです、後始末は僕に任せて、家族仲良く生きてくださいね……お姉さん」

 その言葉を聞き、まんまと騙され更生し、優しい目をするようになったレイカさんが、僕に涙をボロボロこぼして、手を掴み言った。

「ありがとう……そう……。私は生まれかわったのか……うぐっ……メイカは、こんな私を許してくれますか? ごめん、本当に駄目な、お姉ちゃんで今までごめんなさい。これから成長できれば……うっぐ! う……嬉しいな」

 その彼女が泣き崩れる様子を見てなのか、後方から声が聞こえた――メイカちゃんの声だ。

「嘘でしょ……こんな奇跡が起こるなんて、お姉ちゃんを天元さんが殺してくれたんだ……ハハ……モコちゃんと一緒に隠れて全部見ていたよ。悪人のお姉ちゃんを殺してくれてありがとう――変えてくれて、ありがとう……うぐっ!? うへっ……へへへ、涙が止まらないよ。ありがとうございました……これで私は悩まないですみます。強くなれます……嫌な噂を気にせず生きられる……だってもう、私の家族には悪人はいないんだもん! 犯罪者はいないんだ!」

 そして、メイカちゃんもそう言いながら、安心したように泣き崩れた――メイカちゃんと一緒に隠れて見ていたモコちゃんが出て来て、優しく背中をさすってあげていた。









 後始末は僕に任せろと言った僕であるが、勿論、無責任な発言をしたわけではなく、無論の事であるが、そのあてがあっての発言である。石榑鬼旗やキングといった闇社会に詳しい人脈も、もっているのだが……僕があてにしたのはその人達ではなく、僕の雇い主である神様だ。

 オリハルコンで稼いだ対価を僕は何に使うか実は悩んでいた。その僕の対価を使って神様にこの噂や、ネットの書き込みなどの鎮火を頼むことに決めた――そのぐらいの事、容易く神様なら引き受けてくれるだろうと思う。だから、今後レイカさんに付けられた犯罪者のレッテルが世間に知られる事はないし、そのレッテルのおかげでメイカちゃんに迷惑がかかる事はなくなった。僕の溜めた対価で全て帳消しにする……だから――

「――メイカちゃん! 君を電波でおかしくする、そいつを投げてくれ! それで今回の件は全てチャラだ――やっと会えたな! №1フライフォン! くらえ! カラス!」

 「うん」と、頷きメイカちゃんは手に握られたスマホを僕に向かってなげた。そのスマホめがけて僕は呪文を口にし、ケロベロスの引き金を引き、弾丸でスマホを撃ちぬいた。

「ピピッピー! ピピッピー! ぐあああ、なんだ、これは……クソ! 電波になって逃げてやる! って、体が動かない……。魔力を撃ち消す弾丸かよ……ぐぬぬ」

 スマホを打ち壊すと、頭にボルトの刺さった体中つぎはぎだらけの小さくメタボなご当地ゆるキャラの人形のような姿をした№1フライフォンが姿を現した。

 №3匹分の対価なら、この願いを叶うのに足りるだろう――頼むぞ、ケロベロス! 「番犬!」と、僕が呪文を唱えると、「任せとけ」と、ケロベロスが言い弾丸を放った。

「ピピッ……ピ……くっ……もっと沢山の人間達を俺の電波で操りたかったのに、ぐぬぬ……」

 こうして、僕達は№1の拘束に成功し捕まえる事ができ、メイカちゃんにモコちゃんとレイカさんが殺されてしまう悲しい未来をどうにか、回避する事ができた。

「メイカちゃん! これで、安心して配信ができるよ! これからも楽しみにしているよ」

「なんですか~、天元さんは私の大ファン? へへへ、照れちゃうな! でも配信はこれからペースを落とす事に決めました。だって私には大事なアキレス腱が沢山できたから! 天元さんも、モコちゃんも、それに家族も! その人達との時間を私はこれから大切にしていくんだ!」

 その優しい言葉を聞き、皆が顔を合せ笑った――それはきっと、特別な時間になるだろうと。










☆メイカトゥルー☆――完。


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