①章[うつつバッド★冷血吸血鬼ギャンブルジャンキーの鉄仮面は外れない! 六本木雪の女王の孤独な人間観察日記 ――――№3黒色ブラッド] 其の一
①章
★うつつバッド★
[冷血吸血鬼ギャンブルジャンキーの鉄仮面は外れない! 六本木雪の女王の孤独な人間観察日記 ――№3黒色ブラッド]
現アヤは鉄仮面である、所謂ポーカーフェイスだ――――。
「はい。これでお終りよ。ロン、メンタンピン一発表裏18000点親パッネ」
最近アウトロー界隈に出没する女子高生ギャンブラーとして名を轟かせている、そこで付いた異名は雪の女王である。
冷たい勝負師、そして相手を凍らすその鉄仮面、どんな状況だとしても彼女の心は揺らがない、震えない、怖がらない、都内裏カジノや賭博場を周りそこでの勝ち金は5億円以上とも言われている。短期間で女子高生が5億円を歴戦の猛者達から巻き上げたのだ、その手の場所ではもはや彼女は有名で女王に相応しいVIP扱いだ。
「今日でかい勝負があるの……羽屋里君。一緒にカジノに来てくれないかしら?」
デートの誘いか!? まさかまたハニートラップじゃないだろうな!? ――いや、今回それはないだろう。ようやく現先輩は僕に心を開いてくれたと言う話だ。
彼女に憑く№を引っ張り出せるステージに僕は辿りついた……これは鉄だ。
行政も黙認らしいグーグルマップにも載っていない、ラスベガスも超えるだろう強敵な博徒が集まるアンタッチャブルな場所であるそのカジノ。
現アヤに憑いた№3を捕まえるには、このイベントはどうやら僕の積み重ねてきた道場破り成らぬカジノ破りの功績を獲ての誘いだろう……それは即ち、この勝負は鉄だと言う事になる――この少女を救うには欠かせない鉄板の勝負。
彼女の鉄仮面の後ろはどうなっているのだろうか? 次は必ず救う、あんな結末はもう懲り懲りだ、ハイエンドの世界に必ず……。
彼女の周りから人を遠ざけ彼女の居場所をギャンブルの場のみにしたこの№を、この人を嘲笑う冷血な吸血鬼を……僕は許さない。
都立手座高校――――新学期が始まり新入生が加わった、この高校での僕の2年目の春がスタートした。
桜もだいぶ散ってしまった今日この頃、入学してきた妹のモコちゃんを№2からようやく救い、先程モコちゃんから物語の語り手をこの1章から引き継いだ僕は、№2を天国の忍足さんが居るオリハルコン株式会社に引き渡しに行って来た。
モコちゃんの件が終わってやっと一段落つくかと思ったのも束の間、忍足さんから№3の情報を早速貰ってしまった。なのでこれからその生徒との接触を試みたいと思っている。
時刻は4限目が終わる1分前……大遅刻の登校となってしまった。そして今日は天国経由の寄り道登校になってしまい、今日の僕の登校手段は羽を使って天空から学校の屋上に着地するという爽快かつ中二病魂をくすぐる素晴らしいものであった。
「ミイラの次は吸血鬼か……なぁケロベロス、忍足さんから№が憑いた生徒の情報は貰ったが、この№の見た目の特徴とかは覚えているか?」
№3吸血鬼――ギャンブルジャンキー、人々に恐怖心を植え付ける特性。
その特性が故、現在№にとり憑かれている少女である手座高校3年生の現アヤは人から恐れられる存在になっているらしい。その原因となった事件が在るらしいのだが、詳細は不明である。新宿や六本木界隈で今話題になっている女子高生であり、本校のパソコン部の部長であるという意味の分からない点の多い情報が、忍足さんから受けものだった。そして、唯一この№の姿をキスメットが悪魔にされる前に見たケロベロスに――――僕が今手で握っている相棒の銃に、№の見た目を聞いたのであった。
「ふむ、天元! あいつは大猿だった、いやこれは俺の勘になるのだが、奴は大きさを自由に変えられるのであろう、だが俺の前に現れた時は大猿だった。そして相手の気を吸うエナジードレイン用の大きなストローを担いでいた。そいつでスカルは血液を吸われてしまったのだ」
「そうか、ありがとうケロベロス、そして頼むぞ……ケロベロス! 早いところそいつを一緒に捕獲しよう。まずは3年生の教室に向かって見ようか、4階だから屋上から降りて直ぐだ! 早速行ってみよう。僕とお前なら最強だ! きっともう骨オリを使わなくても大丈夫だ! ゴールデンペアだぜ! 照れるなよ! 相棒!」
「おう! 俺とお前なら必ず救える、行こう! 俺は天元を信じている! おい! お前こそ照れるなよ!」
そんな会話で僕らが屋上のドア付近で馴れ合っていると――――屋上に人が上がって来た。
昼休みになったのだ、お弁当箱を抱えた少女が2人、屋上に上がってきたのである。
「なになになに!! モコちゃん! すごい! なんでそんなレアアイテム持っているの!? 屋上のカギなんてレア中のレアだよ! シークレットレアだよ! ――あれ? 先客がいるよ、うわあ! なんかとても楽しそう! 銃のおもちゃと腹話術で喋ってデレデレしている! 写メっておこう! 後でベブンズドアに晒し上げよう! 今日も日本は平和だね、やっぴい!」
僕等を写メる少女からの突然のマシンガントークが僕とケロベロスを襲った。
「メイカちゃん! このカギは私のお兄ちゃんから貰ったんだよ、少し遅い入学祝いだね! ――――って!? あれ……お兄ちゃん!!」
そう僕は、忍足さんから学校の屋上のカギ2本もらって、1本モコちゃんに渡したのだ。ここでお昼ごはんを食べなよって、空でも見ながら、狭いトイレの個室じゃなく、一番解放感のあるとこで食べなよって――――それがジャンキーになって苦しんだモコちゃんへの少なからずの天国から貰ったプレゼントだった。
流石地上唯一の天国経営の高校だ。粋なものを身内にくれる、良かった……。友達と来てくれたんだ、安心したよ、モコちゃん。
「モコちゃん! これからお昼か、じゃあ僕はこれで……ハハハ、変なところ見られちゃったな……気にしないでくれな! 僕をお昼休みが始まったら直ぐ教室を脱出して誰もいない屋上で腹話術に明け暮れる孤独な電波少年だと思わないでくれよな……。じゃあ! 僕は行くよ」
そう言い残し、僕は屋上のドアの前に立つ少女2人の間をすり抜け階段を下り4階に向かった――――恥ずかしくってモコちゃんの友達の顔は面と向かって見られなかったが、妹の友達だ、あんな事を言っていたがあの写メは悪いようにならないであろうと信じよう。
「ちょっと、お兄ちゃん! 何処行くの?」
と、モコちゃんが僕の去り際にそんな事を聞く。
中二病の僕が、
「救いに」
と、答えた。
「なになになに!! 今の人がモコちゃんのお兄さん? かっこいいね! イケメン! いいなぁ~だけど、ナルシスト兼、中二病みたいだね! スカルのネックレスをして、奇抜な変則カーディガン着ているし、それに玩具の銃なんか握って、なんか羽みたいなのを背中に付いてなかった? 去り際には取ったみたいで付いてなかったけど…………面白い中二病お兄さん!! さぁ! お弁当食べよ! モコちゃん」
大流行病――――僕みたいな若造に今巷で流行っている中二病とかいう流行病だ。
そしてこんな状況の中僕はワクワクしていた。自分が特別な存在になった事に対してだ。この僕の流行り病は僕に科せられた呪いだ、悪魔と契約中の僕の呪い――――だが、この中二病という呪のおかげで僕は今の状況も素直に呑み込め、そして正気を保って悪魔に立ち向かう事が出来ている。どんな狂った運命が僕達を待ち受けていても、いざとなったら骨を折ればやり直せる特別な魔術を使える存在になった今の僕の辞書に諦めると言う文字はない! と、中二病らしいセリフで締めて心の中での呟きもこの辺にしといて、この場を後にした…………ワクワク。
「なぁ、ケロベロス。あの場面では華麗にスルーしてきてしまったけど、あのモコちゃんの友達……お前の事が見えていたようだったな。普通の人間には見えない筈のお前の事が……おい、ちょっと待てよ……それじゃあ!? まさか僕がさっき着けていた№2から取り返したスカルの羽も見えていたのか! それに僕が付けているこの派手なスカルのネックレスって……なんか僕は凄く痛いファッションな奴だと思われたんじゃないか!? ――――」
階段を降りながら、本来は見えるはずのないケロベロスが彼女に見えていた事実と、天国から舞い降りてきたZE系なファッションを見られてしまった僕の羞恥心をケロベロスに話した。
「――まぁ……あれか、羽もネックレスもデザインはめちゃくちゃかっこいいし……うん、そうだ! 安心したよ……僕はかっこいいじゃないか! あのぐらい奇抜な方が原宿辺りではウケルはずだ、スナップ取られて読モ高校生になれるんじゃないか!? やったぜ」
僕は無理やり己に芽生えた羞恥心を安定させようと、自分を騙し、良い方に考えをシフトした――それをケロベロスは流し、話が脱線しないようにここで本題に戻った。
「天元、俺の事が見えているって事はあの子にはお前や前のモコ同様に何かが憑いているってことだぞ――でなければ人間に俺は見える事はない。そしてそれは今ここが手座高校と言う事から考えると№が憑いている可能性がとても高い……さっきは確認できなかったけどな」
銃の癖に表情が豊かなケロベロスは少し苦い顔で僕に報告した。
「ああ、わかっているよ。忍足さんから聞いている情報にまだそんな子は挙がっていなかった。そして僕らの仲間と言う訳でもなさそうだ――――そんな情報も聞かされていないからな、もしそうなら、そんな大事な情報を忍足さんが言わない筈がない」
と言う事は――――彼女はオリハルコン株式会社とは無関係でありこちら側の人間じゃないという事になるのだろう、早い段階で調査しとかないといけないな……。
ピターン………………。
ピターン………………。
ピターン………………。
階段を下った僕達の目の前で突如水飛沫の様なものを上げながら何かが廊下を通っていった。
水がひかれている訳でもない唯の廊下に、水飛沫が上がると言う表現はかなりおかしい表現だが、今確かに目の前で起こった紛れもない事実であり、それはどうみても怪奇現象であった――――まるで川で平たい石を使って行う水切りの様とでも言うのだろうか、ピターン、ピターンと、空中でその何かは水飛沫を上げ僕らの前を通過していった。もちろん空中でそんな現象が起こる事は通常あり得ない……だが、目の前でそのあり得ない現象が起こっていたのであった。
その何かは素早い動きであったが、僕は急いでその何かが通過していく廊下の方向を確認した。水飛沫を上げながらピターンと音を残し去って行ったその何かの後ろ姿を僕は目でしっかりと、捉えたのであった――――小さな子猿がストローを担いでいる後ろ姿であった。そしてその子猿が上げた水飛沫の通過した後をよく見ると、廊下には血痕の様な物が残っていたのであった、大変不気味演出をしてくる奴だ。
「おいおい……今のいきなりビンゴだぞ、天元……あ、あいつがスカルから血液を奪った№である№3黒色ブラッドだ!! 大猿ではなく今は子猿姿だったが、あのストロー間違いない……あいつが№.3だ」
ケロベロス曰く、やはりと言うべきか、さっきの子猿が今僕達の捕獲対象である№で間違いないそうだ。
あっちの方向は、パソコン室がある方向だ。
パソコン部の部長――――事前の情報でこの№に憑かれている少女の肩書を僕達は知っているのでおおよそ予測ができた。今あの子猿が向かったパソコン室、そこに恐らく現アヤもいる! と、確信をついた事に対し、少しカッコをつけて頭の中で僕は呟き、どや顔をしながら僕は彼女とのファーストコンタクトの準備を整えた。
鞄を開いた――――中からギャOビーのフェイシャルペーパーアイスタイプとマイナスイオンコームを取りだした。ペーパー洗顔を始めニキビを予防し、テカテカ肌トラブルとおさらばして、拭いた時に崩れた前髪の位置を整えるため、クセをコームで伸ばした。
「おい、天元! こんな時に何のマネだ……」
「よし! 追うぞ、ケロベロス! パソコン室だ。現アヤにもお前が見えてしまう筈だ、だからケロベロス、お前はこの鞄の中に入っていてくれ、秘密のまま終わる事がベストだけど、秘密兵器として姿を隠していてくれ、さぁ!!」
僕は両手で鞄の口を広げケロベロスを中に入るよう促した。
「待たんか!! 俺の存在を隠す為、デオドラントスプレーの香り漂うその鞄の中に入る事はいいだろう……だが、今何故に俺の発言をスルーしたのだ! 俺は何故ここでお前が顔を拭いて、前髪をいい感じにしたのかと聞いつもりだったのだが……」
きょとんと、天元は答えた。
「なんだ、なんだ……ケロベロス! これは男子高校生に纏わる伝統的なエチケット方法だぞ! 知らないのか? 現世ではこれが初対面の女の子に会う前にする当り前の行為だ。まぁ今回はお前を鞄の中に入れないといけないから鞄を開けた時に思い出したんだがな、なんせ今から凶悪な№を相手にするんだ。そんな時にエチケットなんか流石の僕も気にしてられなかったよ、ありがとうケロベロス、お前のおかげで思い出せて、恥をかかずに済んだよ」
ケロベロスは呆れた顔で答えながら鞄に入っていった。
「どういたしまして・・・まぁいいだろう、で?」
「うん? で? ってなんだい? ケロベロス」
「次からは、もちろんそのエチケットのくだりは、はしょってくれるんだろうな? いつもやられたらかなわんぞ……」
「ああ、はしょるよ、こういう事ってつっこまれるとかなり恥ずかしいんだよな……僕はナルシストではないからな! それだけは信じてくれ」
「分かった……。よし、気をとり直して行こう! 鞄のチャックを閉めてくれ天元」
ピュアな僕はこの黒歴史をここで終わらせ、ケロベロスを入れた鞄を持ち廊下についた№が残した血痕を辿ってパソコン室に向かった。
意を決し、パソコン室の中に入ると、そこには髪の長い少女が一人でパソコンモニターの前でお弁当を食べていた――――彼女はとても綺麗な顔立ちをしていた。吸い寄せられるような、透き通った白い肌をしている。前髪は上げており顔がよく見える。姿勢よく椅子に座りモニターを見つめながら弁当を食している彼女の表情は無表情で、だけどその目はどこか冷たげだった――――。
彼女の目の前のモニター画面の上にさっき見た子猿が座っていた。彼女にはこの子猿が見えていないらしい、子猿にピクリとも関心を寄せていない様子から伺えた。トレードマークなのだろうか――――№は長いストローを担いでいる。真っ黒な色の子猿の風貌をしているこの№の目はまんまるとしていて、真っ赤に光っている。そして鋭い牙を丸出しにしていた。中に入り僕が少し彼女に近づいた瞬間、子猿は一度僕の方を見ると彼女の体に飛びこんでいった。
ボチャン! と、水面に大きめの石が落ちたような音と水飛沫を鳴らして彼女の中に飛び入って行った。それを目にした僕は思わず声を上げてしまった。
「え!? 入った!」
「うん? 誰かしらあなた……」
子猿がいきなり彼女の中に入った事に僕は驚き声を上げると――――それに彼女が気づき、彼女は僕を無表情のまま見て箸も止めずに確認した。彼女は子猿が自分の中に入ってもなんともないみたいだった。これがこの№に憑かれた少女現アヤとのファーストコンタクトとなった。
其の二に続く――――。