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④章[メイカバッド★テクノジャンキーのヘブンズドアでアキレス腱切り注意報! 体育祭で優勝目指せ! 電波を気にする天才の苦悩! 私は関係ない…… ――№1フランフォン]   其の三

④章


★メイカバッド★


[テクノジャンキーのヘブンズドアでアキレス腱切り注意報! 体育祭で優勝目指せ! 電波を気にする天才の苦悩! 私は関係ない…… ――№1フランフォン] 其の三











 大盛り上がりだった体育祭も終わり、祝日のない地獄の6月に入るのが憂鬱でしかたがないと思う5月末の今日この頃――僕は学校の廊下で体育祭以来に氷見メイカに出会った。

「なになになに! 6月は憂鬱ですよね、天元さんがそう思うのも無理はないですよ。しかも、梅雨で外は雨だから外で遊ぶ気にもならない……でも、そんな時でも安心なのは! そう! 楽しい、楽しい、高校生男子の味方! メイカちゃんの配信があるではないか!」

 僕の目の前に胸元を寄せ、上目遣いで右手の人差指を振るメイカちゃんが自慢げにそう言った――№が姿を見せない事、そして何も事件が起こらない事から№が憑いていると言う疑いも殆どなくなったメイカちゃんの言った事が僕には少し、不思議に思った。

「おはよう、メイカちゃん! うん? ちょ、ちょっと待ってくれ、今なんで僕が6月を憂鬱に思っていたのが分かったんだ? 僕は口には出していなかったのだけれど……」

「はい? ああ、私ね、分かるんですよね……私のリスナーが頭の中で考えている事、全部電波で受信できるんですよ! こう、ピピピッーってね――って、そんな事言っても信じないですよね……あ、そうだ! ヘブンズドアの天元さんのアカウントの呟きボイスみてください。多分無意識だろうですけど、しっかり呟いていますよ、このリスナーさんの呟きボイスは私の脳の中になぜか受信しちゃうんですよ……まぁ、信じられないと思いますが事実何ですけどね」

 その彼女の発言に僕は驚きを隠せなかった……そしてその言葉が僕には冗談だろうと聞き流して笑う様な事は出来ない――そう、心当たりがあるからだ……№の仕業ならありえなくないと検討がついてしまったからだ……僕は急いで自分のスマホでヘブンズドアを開こうとした。

 否、もう右手で開いていた……恐らく、メイカちゃんが話しかけてくる前からずっと、そして僕はつい1分前にこう呟いていた「六月は祝日がないとか、そんな悪質なデマ流していた奴がいたけど……そんな憂鬱な月はないよな! え? ないよな……」と、少し笑いをとろうとしているような、僕らしい呟きを無意識で……いや、無意識とかそういうレベルではなく……ここ何日か、僕はそういった自分の呟いた記憶にない呟きがこのボイスメモには残っていた。

「信じるよ! メイカちゃん! ちくしょう……№は、いったい何処にいるんだ! メイカちゃん。君は恐らく悪魔にとり憑かれている……でも、怖がらないでくれ、必ず僕が君を救ってみせるから! いつぐらいからそんな異変が起こったんだ? 少し僕とこれから話そう!」

 僕がそう言いながらメイカちゃんの手を掴もうとした時、彼女はそれを拒否して腕を払った。

「なになになに! 天元さん、やめてよ……救うってなに? 私は十分救われているよ、だってこんなに信者が増やせたんだよ。皆の思っている事を受信しちゃうのも全然苦じゃないし、それにこの能力は便利なんだ、私の知られたくない弱点を知っている人間を特定できるからね」

 そんな事を彼女は胸を撫で下ろしながら、安心した顔でいった。

「いや、メイカちゃんそれは違うよ! 今に大変な事が起きる……僕に協力してくれ! 多分まだ№は君の中に入りきれてない! 今、探し出せれば簡単に捕まえられると思う! それに弱点ってなにさ! 天才のメイカちゃんに弱点なんかないし、何でも克服していけるよ! そんな能力はメイカちゃんには必要ないよ! さぁ、僕に詳しく話を聞かせてくれないか?」

 またそう言いながら僕が彼女の手を掴もうとすると、彼女は大きな声を上げ僕を怒鳴りつけ、僕の手を叩き――汚物を見る様な目で、びっくりして尻もちをついた、僕を見下ろした。

「なになになに!! キモイ! 触んないで! 意味分かんない! 私にはこの能力が必要なの……天元さん、下手なこと考えて私の事探ろうなんてしないでね!! もうすぐ全て終わるんだから……私はそしたら救われるの……信者達によってね、あなたもその一人なんだから、大人しくしていて、そう電波で指示がくる筈だわ……そしたら動いて頂戴……それまでへんに私の事を調べたら天元君の――アキレス腱から切っていくわよ……。この意味わかる?」

「アキレス腱……? どういう意味だ? それは……それに電波で指示って……何の事だ……」

「邪魔すると天元君の大事な身内から潰していくって意味よ! アキレス腱切るって~のはね! ヘブンズドアであなたの親しい人から順に潰していくわよ……今の私には潰す方法なんていくらでもあるわよ、社会的でも実際にでもどんな潰し方も――だから大人しくしていてね」

「怖すぎるだろ! ヤクザかよ……だめだ、おいケロベロス! 今のメイカちゃんは話にならない……ヘビの弾丸を撃ち込むぞ……――」

 そう僕が言いかけて鞄からケロベロスを取り出そうとした瞬間――ピピピッーーと、僕は頭の中で機械音のような電波を受信した……その音を耳にすると目眩が起き目の前のメイカちゃんと景色がぐにゃ~と、歪んだように見えた。

 そして、僕の意識は遠のいていった……それは今までの無意識で呟きボイスを更新していたのと同じ現象なのだろうと、僕は遠のく意識の中理解した……無意識になるのではなく、何者かに知らぬ間に操られ、そして操られていたその時間が空白のまま、いつの間にか、意識が戻るそんな電波のお陰で僕は何もできずに終わった。









 僕らのメイカちゃんがアキレス腱を切るなんて乱暴で怖い事を言うはずがない。そんな事を思いながら僕は意識を取り戻した……――ここはどこだ? 降りしきる雨の中、僕は気がつくと広場の様な場所にいた。僕以外にも沢山の人がいる……みんな傘も差さずに密集し、広場に集結していた。その光景はさながら満員の野外ライブフェス会場の様であった。

 僕はどうしてこんな所のいるのだろうか! 辺りを見回し、周りの人間に話しかけるも返事がない――まるでみんな誰かに操られている人形のようにただただ、薄気味の悪い表情を浮かべるだけであった。一体何が起こっているんだ……僕がそう困惑していると、僕が無意識の中でも、右手で大事にしっかりと握っていた相棒が僕の意識が元に戻った事に気づいた。

「天元! やっと意識が戻ったか! 大変な事になってしまった。お前は今の今まで恐らく№の電波によって操られていた。そしてここ、エンゼル園の運動広場に集められた人々全てが№の電波に操られてここに集まったのだろう……カラスを撃って魔力が込められた電波を撃ちたかったのだが……電波の様な物は弾丸では撃ちぬけん……その電波を発する本体の居何処さえ分かれば良かったのだが……俺一人では見つける事はできなかった」

「ケロベロス! そうか、ここは体育祭をやった運動広場だ……いったい何があったんだ?」

「うむ。まず氷見と天元が廊下で会ったあの後、№の魔力が込められた電波を天元はくらってしまい……そこからお前はおかしくなってしまった。俺がなにを話しかけても返事もせず、ただただ、あたりさわりのない生活をし、そして氷見の配信が始まるとそれに引きこまれる様にスマホ画面を見つめていた。まるで氷見の配信を見る為だけに生きている様な、そんな人間になっていたんだ……俺が心配する中、異変に気づいてくれたのがモコだった。俺はモコに知っている事を全て話した……すると、モコは氷見の事を調査すると言って家を出ていった――必ずお兄ちゃんとメイカちゃんを救うと言い残して……そして姿を消したんだ……すまん……」

「モコちゃんが!? そんな……急いで探しにいかなきゃ……ちくしょう……」

「なになになに! その必要はないよ、天元さん……モコちゃんならここにいるから……私の知ってほしくない情報を手にしたモコちゃんなら、ここにいるよ……私の弱点を知ってしまったモコちゃんに罰を与える為に……信者の皆に捕獲してきてもらったから、ここにいるよ!」

 僕とケロベロスが慌てふためくそんな中、運動広場にある壇上の上から大きな声がした――トランジスタメガホンを片手に僕達に向かって声を発したのは渦中の人物である氷見メイカであった。そして、その隣には目隠しをさせられている女の子が2人拘束されていた。

「なになになに! こんなに沢山! 信者のみなさ~ん、こんにちは! 皆、来てくれてありがとう! 今日、皆に集まってもらったのは他でもありません! そう、やっとこの日が来たのです……ジャカジャカジャカジャカジャン! リスナー厳選を今からおこないます!」

「メイカちゃん! これは一体どういう事なんだ……モコちゃんがここにいるって……どこにいるんだよ! 無事なんだろうな! って……まさか、その隣にいる女の子が……おい、モコちゃん! 大丈夫か! 今、助けに行くから待っていてくれ! おい、お前ら何だ……やめろ!」

 不気味な笑みを浮かべながら、意味不明な発言をする氷見のもとに、僕が拘束されたモコちゃんを助け出しに駆け寄ろうとすると、それを広場に集まる№の放つ怪電波に侵された人の群れが僕を押さえつけて、それを阻止した――その僕の姿を見て氷見が笑って言った。

「なになになに! ハハハ、天元さん。もう、今頃意識が戻ったところで無駄なんだよ、無駄、無駄、無駄……正義のヒーローにはなれやしないよ! さぁ、本題といきましょうか、皆さん! かの有名な漫画の登場人物であるディアボロが自分に繋がる情報を知っている実の娘を確実に自分の手で仕留めようとしたのに倣って――私も今から私の弱点を知る人物……というか、本人である実の姉と、後ついでに最近、私の周りを嗅ぎまわっていた親友の野良犬のモコちゃんも殺しま~す! そして! そして! な、な、なんと! 信者の皆さんの中からも、私の情報を……弱点を知っている人を! 電波を受信して、探して全員殺しま~す!」

 そして、氷見メイカの手にはいつの間にか、大きなスタンガンが握られていた――僕が信者達に押さえつけられている中、拘束され、捕まっているモコちゃんと、そして、氷見の実の姉の方へとスタンガンの電気をバチバチと、鳴らして氷見メイカはゆっくりと、近づいていった。

「やめろ! メイカちゃん! それ以上やると君は人間じゃなくなってしまう! 何があったか知らないが……目を覚ましてくれ……こんなのは駄目だ! くそ……№はどこだ……」

「くそ……天元! もう時間がない……。氷見はもう助からない……やり直すしかないようだ」

 ケロベロスの言うとおり、最早僕には救う時間、そして何が今、起こっているのかを理解する時間は残ってはいなかった――もう僕はモコちゃんが痛い目に遭うのは見たくない。すぐそこまで氷見が手にする魔力高圧電流スタンガンが迫っていた。そんなものを喰らわせて堪るか。

「なになになに! み……皆、勝手に人の事調べやがって! 私は関係ない……ネットの女神のままでいいじゃん……リアルなメイカちゃんを検索するな! 私が悪いんじゃない! 全部悪いのはレイカ姉さんだよ……私をネットの女神のままでいさせてよ! 信者達は画面から出てくるなよ……私が何したっていうの? 嫉妬乙だよ……ネットの世界は最果ての孤島なんだよ! リアルが入ってくんな! リアルの私の弱点を頼むからネットに書き込まないでくれ!」

 そう言いながら、泣き叫びスタンガンを振り下ろそうとしたメイカちゃんを見ながら僕は――次は必ずメイカちゃんを救うと強く覚悟し……僕はドクロのネックレスへと呪文を口にした。

「№……次は必ずお前を見つけてやる! こんな悲しい世界で終われるかよ――骨オリ」

 メキメキメキガリ! ボキメキバリボリ! ――骨の折れる音が響き渡った。










★メイカバッド★――完。



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