④章[メイカバッド★テクノジャンキーのヘブンズドアでアキレス腱切り注意報! 体育祭で優勝目指せ! 電波を気にする天才の苦悩! 私は関係ない…… ――№1フランフォン] 其の一
④章
★メイカバッド★
[テクノジャンキーのヘブンズドアでアキレス腱切り注意報! 体育祭で優勝目指せ! 電波を気にする天才の苦悩! 私は関係ない…… ――№1フランフォン] 其の一
強者の唯一の致命的な弱点――モコちゃんと同じクラスの優秀な委員長である天才氷見メイカの場合、それは実の姉妹である姉であった。
完全無欠の目立ちたがり屋の彼女の弱点、そしてそれが彼女の抱える闇――今年の春に刑務所から出てきた姉の存在だ。
彼女は思った……私の人生はこんな所で崩れる訳にはいかないのだ、好き勝手にやってきた姉に私の人生を狂わされる訳にはいかない、他人をくいものにし、私の知らない人達の人生を狂わせてきた姉の責任を私まで受ける道理は全くない。この世界は不公平だ、自分が優秀でも身内にドラがいればたちまち、世間の私を見る目が悪い方に変わっていくのである……。私はこのドラを抱えて心中するわけにはいかない!
身内に犯罪者がいるのであれば、その身内には関わらず、世間の匿名希望のアンチコメントは無視すればいい、見なければいいのだ、わざわざ名前を検索して掲示板を開かなければいい……SNSでは偽名を使い身分を偽ればいい! 簡単の事だ……だけど、私にはそれができない――そう苦悩する天才は言うのである。そして、彼女は開き直る……我を出して、生きる為に、身内に犯罪者を抱えるなら……私自身の方がそいつより有名になればいいじゃん! と、彼女は考えた。この考えこそ彼女に強い自己顕示欲が根付く根源である。
氷見 レイカ――氷見メイカの7つ上の姉である。詐欺師として活動し、捕まり実刑3年を受け、今年刑期を終えた。氷見メイカは言う――私は姉を殺さなくてはならない。私に辿り着かせないために、私まで姉の犯した罪のとばっちりを貰う訳にはいかない、私は関係ない……。
氷見メイカは氷見レイカの事を考えるだけで心が痛みそして――脳が痺れるのである……ピピピッー、ピピピッーと。悲しき電波を受信したかの如く。
ゴールデンウィークが終わった今、僕はまさにネガティブキャンペーン中だ。№3を天国のオリハルコンに運び、忍足さんも色々と手を回してくれたらしく、現先輩の日常生活もあれから特に非行もなく安定しているのだが、№3を届けた後は前の素早い対応とはうって変わって、忍足さんから次の№の情報はさっぱり貰えなかった。
「すまんのぅ! №1と№4がとり憑いている生徒がなかなか見つからんのや……特に変な行動をしている生徒もおらんみたいやし、もう少しまっとくれや、何か分かったら直ぐ連絡するさかい! あ、逆に聞くが天元君、なんかお前さんが変に感じた生徒はおるかいのぅ?」
「う~ん……あ! そうだ! 前に屋上でモコちゃんとはち合わせたんですけど……その時、一緒にいたモコちゃんの友達の女の子……ケロベロスの事が見えていたみたいなんですよ! 彼女のそばに№らしき怪しい悪魔などは見当たりませんでしたが……」
「おっ! ホンマか!? そりゃ怪しいで! その子の名前とか分かるかいのぅ?」
「たしか……メイカ! モコちゃんがたしか、メイカちゃんと言っていた気がします! 名字は分かりませんが……この情報だけで、何か分かりますか?」
僕がそう尋ねると、忍足さんはタン! タン! タッターン! と、パソコンのキーボードを叩き、何かを調べ上げたのか――忍足さんは『そして、このドヤ顔である』のお手本見たいな例の顔で僕を見ていた。
「天元君! それだけ情報があれば調べるのは容易いで! なんたって手座高校は天国が経営する学校やからな、学校のクラウドで調べたらイチコロや!」
「おお! すごい……で! どんな情報がありましたか?」
「おう、今、見たるで! えっーと、氷見メイカ1年A組、委員長……。アカン! まだ、1年やし、しかも入学して1カ月しかたっとらんし、目星もつけとらんかったから明らかに情報不足や……どないするか、おっ! そうや……天元君! 5月は手座高校では体育祭があるんやったな、この子はA組や! 天元君もA組やないか! 手座高校の体育祭は毎年、組みごとの縦割りで色別に別けるんやから……A組は同じ赤組や! 明日から授業で各学年合同のミーティングを組みこもうや! 練習も合同で! そこで……天元君自身が、彼女の事調べてくれへんか? そこで何かおかしな感じを掴んだら恐らく№が憑いとると思ってええやろ……」
「分かりました。僕が授業で彼女と絡む機会があるなら調べるのはいいんですけど……忘れていた――体育祭なんてものがもうきてしまったのかよぉ……最悪だ……僕は運動が苦手なんだ、走るのも……投げるのも……跳ぶのも……いや、№2から取り返したスカルの羽を借りて天国まで飛ぶのは好きだけど……。僕は出る競技が殆んどないし、単身で出られる障害物競走ぐらいだろう、2人組も作れないだろうから……僕には鬼畜の修業なんだ、運動会ってものは……ネガキャンが捗ってしまうぜ、全く……そんな心境ですが、どうにか調査してきますよ」
こうして僕のネガティブキャンペーンの理由は、連休が終わってしまった事でも、№の情報が聞けなかった事でもなく、嫌いな体育祭がこの5月に開催する事であった……。体育の日がある秋にでもやればいいのに、なんでわざわざ春にやるのかと愚痴をこぼしつつ、でも氷見メイカとの接点をもてるきっかけになっている事に感謝しないといけないのだろうか? と、複雑な気持ちを抱きながら、僕は明日から学校に向かうため、現世に戻った――そして、すぐに僕は彼女の救いを求める電波を明日受信する事になる、ピピピッーーと、悲鳴の様な電波を。
翌日の3・4限目に全学年合同運動会の縦割りミーティングが始まった。僕の在籍するA組は赤組である、全学年のA組がミーティングで使用する場所は、茶道部と囲碁部が普段は使用している茶室の大広間となった――そこで僕は、氷見メイカのコミュ力を思い知る事になる。
「なになになに! うちの学校男子生徒すくなっ!? 女子の割合高いですね……あ、そんなことは置いときましょうか……まずはお茶を召し上がれ、赤組のみなさん」
にこやかに笑いながら氷見メイカは皆にお茶を出したのである――そして、全学年のA組の生徒の目線が氷見メイカに向けられ、3年のA組の委員長が氷見に声をかけた。
「えっーと、氷見さん。この口あたり爽やかそうな宇治冷緑茶は全てあなたが淹れたのかしら……全員合せて90人分も……な、なんか悪いわね……」
「いえいえいえ! 先輩! 喫茶去の魂にのっとただけの、ただの私の自己満足なので! さあ、お茶をどうぞ――それではみなさん! 早速、ミーティングの方を始めたいと思います! 進行は私、A組の一年生委員長氷見メイカと、2年、3年のA組の委員長さん達で進めるように先生達に言われております! どうぞ、よろしくだってばよっ!」
その豊満な乳袋を揺らしながら、人懐っこいそうに彼女は瞳をキラキラさせ、ゆるふわの髪は揺れるたび桃の香りを漂わせる――そんな素振りをする氷見メイカの事を僕は同じ赤組に所属する僕の妹であり、氷見メイカの友人であるモコちゃんの隣を陣取って座り、彼女がいったいどういった人物なのか尋ねたのであった。
「なぁ、モコちゃん! あの子はいったい……どういうキャラなんだ! 先輩委員長達を差し置いて容赦なく一人で赤組を仕切りはじめたぞ! それに……さっきから、男子達の様子がおかしくないか……なんか皆スマホを見ながらニヤニヤとしていないか……どうなってるんだ?」
「お兄ちゃん! メイカちゃんの事知らないの!? それでも本当に今時の高校生? スマホ持っているよね? 今、高校生の間で流行っているスマホアプリの配信サイト知らないの? いったいいつの時代をお兄ちゃんは生きているの? その配信サイトの人気天才美人JK配信者が、メイカちゃんの事だよ! ほら、今だって配信しているよ! 面白いよ、メイカちゃんはねぇ――何というか、まずは天才がゆえに知性や教養そして、身だしなみを完璧に身につけているのだけど、それを全部身につけてからあえて全部外す! って感じのスタンスで生きているのがメイカちゃんだよ。だから、メイカちゃんはとても身軽なんだ! 人間は色々縛られて生きているのに、メイカちゃんはその縛りに縛られないで生きていくと豪語しているんだ。だから彼女は何でもこなすし、何でもできる。しかも普通に、もしくは普通より劣るぐらいにバカぽく、面白く、リアルに挑戦するの! だから天才感をみせなく、嫌みがなくて、とてもとっつき易い魅力的な女の子だよ! そして関係ないけど、ピーチ系の香水を付けているよね」
「そうね、そして今、彼女は相当配信先のサイトで自分のコミュレベルを伸ばしているわ、絶大な数の信者が彼女にはついているの……私なんかネット麻雀実況しても、『鉄、鉄うるせえ!』 とか、『運ゲー乙』とか、『結果論なのにドヤ顔でワロタw』とかしか、配信中コメントが流れないのに……8割がたアンチコメよ……。それに比べて氷見さんの配信では『メイカちゃんかわいすぎww』とか、『メイカちゃんは俺の生きがいすぎワロタw』とか『なになになに! の口癖が私の周りで流行ってるよ~メイカちゃんw』とか、囲い達のコメントばかりよ! 広告料とかでお小遣いも随分稼いでいるみたいね、ぜひパソコン部に欲しい逸材だわ……」
そう無表情で羨ましそうに話す現先輩が、僕達の会話にいきなり割り込んできたのであった――って!? 現先輩! いつの間に……って、そうか現先輩は3年A組つまり、同じ赤組だ。
「こんにちは、羽屋里君! そして、妹さんは初めましてね、3年の現アヤよ、よろしくね! さぁ! 羽屋里君! 突然なのだけどあなたは仮にもパソコン部なのだから、氷見さんとファーストコンタクトをとってきなさい! ライOIDでも聞いてきなさい! 氷見さんが出したライOスタンプ買いました! とか、言ってパソコン部に勧誘してきてよ」
現先輩が氷見の淹れたお茶を飲みながら、僕に彼女を勧誘してくるよう命令を下した。
「え? ちょっと、待って下さいよ、現先輩! 今はそういう流れの時じゃないじゃないですか……1,2,3年と入り乱れたこの部屋で仕切る中心人物を相手に颯爽と現れ、いきなり絡むなんってKYな行為を僕にはとてもじゃないけどできません! 変に目立ってしまって周りに、おっ! こいつ体育祭やる気あるんだな~って思われて、僕のでる競技を見たら、クラスの運動神経ランキングの底辺組がでる障害物競走だけだった時の恥ずかしさったら、ありゃしませんよ……このミーティングで顔を覚えられるという行為は、僕みたいな体育祭なんて、ダサい事できないから俺は適当な競技に入れといてよ、馴れ合いなんてごめんだねって、すかす事で己を保持する系男子には危険なんだ。勧誘はまたにしてまずはこのミーティングを地味にやりすごしましょう! 変にしゃしゃらず、地味にやり過ごしましょうよ!」
チッ! チッ! チッ! と、指を振り、現先輩は半目を開いて僕を妖しげに見ていった。
「羽屋里君! 悪いがそれは違うんだなぁ……今しかないのだよ! 今だけが鉄なのだよ――天才は初手で仕留める! これが天才を相手にする時の鉄行動なのよ! とは言え、羽屋里君が言う今はそういう流れじゃないって言うのも、一理あるわね……。変に目立って前に出て羽屋里君が皆の晒しものになって辱めを受けるのは可哀想だしね、なんかいい案ないかしら?」
ポン! と、手を叩きモコちゃんが何か閃いたような素振りをすると、現先輩に話し始めた。
「あ、そうだ! 現先輩! 兄がいつもお世話になっている現先輩に妹のモコから妙案があります! と言うか、お兄ちゃん。こんな可愛い先輩と可愛い後輩がいるお兄ちゃんは絶対地獄に落ちるね! 神様は平等だもん! まぁ、そんな事はさておき――じゃじゃん! これが今メイカちゃんが配信しているアプリ、『ヘブンズドア』だよ! ここでメイカちゃんは動画をあげたり、生放送で配信したりしているんだよ! メイカちゃんはこの有名アプリの最大手配信者なんだ! それでね、私はメイカちゃんの放送でコテハン持ちのVIPリスナーなんだ! コテハンとは、固定ハンドルネームの略で、要は不特定多数の人がコメントする中でどれが私のコメントか分かるという超VIP待遇なんだよ! それにより私のコメントに対してはメイカちゃんのレスポンスがすごく早いから、このアカウントをお兄ちゃんに貸してあげるからそれでメイカちゃんと話してみなよ! これなら誰にもばれないでファーストコンタクトとれるでしょ? さすがにライOIDとかメールとかは本人の合意を取らずに勝手に教えられないけど、これなら大丈夫でしょ! 他のリスナーの人はこんな大手配信者のVIPリスナーがまさか、可愛い、可愛いクラスメイトのJKだとは夢にも思ってないだろうからね! きっと、メイカちゃんに密林ギフトカードを贈って支援しているオタリーマンだと私のアカウント『メイカちゃんは桃の香り』は思われているんだろうね!」
アプリを開き、スマホをそう言いながら自慢げに見せびらかすモコちゃんが、僕にそのスマホを渡した――画面を覗くと氷見が赤組のクラスTシャツのデザインを提案している姿が配信されていた。と言うか、僕達の目の前でミーティングを進行する氷見の姿そのものだった。
「妹さんナイスよ! じゃあ、羽屋里君。この『メイカちゃんは桃の香り』のアカウントで早速コメントをうってみてよ、まぁ、いかにレスポンスが早いと言っても、今は色々取り決めをおこなっているみたいだし、返事が返ってくるのはミーティング後になりそうだけど、スマホも配信用カメラで使っているしね、この配信画面を見る限り、今、氷見さんが説明に使っているホワイトボードから離れた位置にある机の上に掛けてスマホをおいて撮影しているから……物理的に無理でしょうけど、一応ためしで今コメントしてみましょうよ」
現先輩がモコちゃんを褒め、そして、乗り気でモコちゃんの妙案を僕にすすめると、モコちゃんは氷見メイカを甘く見ない方がいいと、一つ付け足して僕にコメントをうつよう促した。
「ふふふ、お兄ちゃんメイカちゃんのレスポンス力を舐めない方がいいよ、一瞬で、全てを理解し、返事を返してくるからね! はっきり言って、会って会話する10倍速いよ!」
そんな意味ありげの事をモコちゃんに告げられ――僕はいよいよ、氷見メイカを勧誘するべくそして、彼女が№に憑かれていないか探るため彼女の配信に絡みにいったのであった。
配信サイトアプリヘブンズドア――このアプリではインターネットの生放送配信ができるのはもちろん、動画投稿に、ブログ設立、1口ボイスの呟きや、写真アルバム日記の投稿、インターネット回線を使ったメールに通話なども行う事ができて閲覧は無料であり、自分がコンテンツの配信者になるのには300円程度の使用料が月にかかるが、その自分が配信しているコンテンツの人気に応じてヘブンズドアに提供する会社から広告料が振り込まれ、元は簡単に取れるという、そして人気の大手配信者ともなれば、かなりいいお小遣いになるという。
そのサイトの有名配信者として、今、高校生に話題な人物――それがモコちゃんや現先輩曰く、氷見メイカというわけだそうだ。このサイトではアカウントの名前を自分で付けた後、ランダムで天使のアバターがプレゼントされる。そして配信者でアカウントを登録した場合は神のアバターがプレゼントされるのである。
配信者は神となり、自分のコミュニティをヘブンズドアの中で設立し、そこから様々なコンテンツをリスナー達所謂、ここで言う天使達に配信する――リスナー達は5つまで配信者つまり、神が作ったコミュニティをお気に入り参加できる。コミュニティに参加するとその天使は入ったコミュニティの神の信者と表示され、この信者数によって、コミュニティの神が使用できる特別機能や、入ってくる広告料などが決まるコミュニティレベルとなる。最初は信者0人の壱レベルから始めて、コミュニティに入信する事によりそこの神のコンテンツの情報がいち早くお知らせがきたり、放送が始まると優先的に視聴できたりと様々な特典がある。従ってリスナーの天使は好きな配信者の神を見つけるとコミュニティに入り信者となる。こうして信者を溜める事によりコミュニティレベルが信者の数によって上がり使える特典が増えるのである。
僕が今モコちゃんのスマホで見ている氷見メイカのコミュニティレベルは壱百レベルであり、信者数は参萬壱拾八人と表示されていた――それにしても! モコちゃんのアカウント名『メイカちゃんは桃の香り』って言う意味不明のその名前に僕がつっこみを入れると、本人曰く、ネットで特定されるのは怖いから怪しいオタリーマンが付けそうなアカウント名にしたそうだ。
「よし、じゃあコメントしてみますか……勧誘が成功するかは分かりませんが、やってみますよ。最初はちょっとモコちゃんに成り澄まして、コメントを打ってみるか……」
僕は氷見メイカの配信を見ながら、モコちゃんを装ってコメントを流した――『メイカちゃんきゃわわ! クラTのデザインきゃわわすぎw 次は出場種目決めだねぇ! きゃわわw』と、コメントした。とんだピエロが出来あがった! これは誰が見ても今時のJKの文章だ。
僕がそうコメントしたその時だった――僕が流したコテハンコメントを撮影しているスマホの画面から氷見は一瞬見て、鮮やかなコンボの様に氷見はポケットから撮影しているものとは別のスマホを取り出した……まさかの2台持ちである。そして、3秒ほどそれに触れると、彼女はミーティングの進行役を続けた。すると、僕が持つモコちゃんのスマホにヘブンズドアから個別メール機能でメッセージが入っていた。
『お茶どぞー! なになになに! モコちゃんのお兄ちゃんではないですか! モコちゃんはきゃわわとか言いませんよ、クソワロタw モコちゃんのお兄ちゃんって呼ぶのも長たらしいので、たしか名前は天元さんとモコちゃんに聞いてますんで、天さんと呼びますね! って!おい、私はチャオズかよw クソワロタw 普通に天元さんって呼びますね、よろしくお願いします。あ、もうモコちゃんに成り澄まさなくて結構ですよ! 私、屋上で初めて天元さんを見たときから話してみたいと思っていたんですよ! そうだ! 天元さんもヘブンズドアはじめてくださいよ! 天使アカウントは無料ですし、登録も簡単です! アカウントできたら私のアカウントにメッセくださいね! コテハンもつけますよ!』
と、偉大なドラゴンボールネタも入れつつ、長文のメッセージが返ってきたのだった。すぐに僕がうったコメントだと見破るのも流石だが、僕と現先輩はそのメールを見て顔を合せて驚いた事は勿論、シンクロした――あいつ! いつの間にこんな長文をうったんだ!!!!
「な、なんなのあの子! 妹さんが、レスポンスが速いと言ってはいたけど……そういうレベルじゃなくて速いわよ! 現代っ子怖すぎるわよ! いや、今のは出来過ぎよ! 羽屋里君! 早速、天使のアカウントを作りなさい! もう一度行くわよ……」
「って現先輩! 現代っ子と言っても僕とは1つ、現先輩とは2つしかちがいませんよ……時でも止めてうってないと、あの速さでは打てない筈だ――」
僕は声を小さくして、僕の鞄の中に隠れているケロベロスに尋ねた。
「――ケロベロス聞こえるか? №の中に時を止める能力を持つような奴はいるのか?」
僕の声が聞こえた様で、ケロベロスも小さく答えを返した。
「そんな、滅茶苦茶な奴はいない筈だ……これは恐らく№の仕業ではないぞ……あの子の行動力と、知能がキレているだけなのだろう……」
そんな事があり得るのか!? 僕がケロベロスと喋って唖然としていると、僕のポケットからモコちゃんがスマホを取り出し、現先輩が素早くヘブンズドアでアカウント登録を済ませ、残るはアカウント名を設定するだけだった――僕は決めた。もう一度あのレスポンスを見よう、そしてもし№の姿が伺えたなら、絶対に見逃さないよう用心しようと、氷見メイカ自身の被害や、他人への被害はまだ何もないみたいなので、氷見メイカが№に憑かれしジャンキーだとはまだ結論するのは早いが、怪しいのは確かだ。なにかヒントを見つけるべく、僕はアカウント名を『ケロベロス』と付け、登録を済ませた。そして早速、氷見メイカの神アカウントにメッセージを送った。
『先程はおかしな事をしてしまいごめんなさい。改めまして、こんにちは。僕はモコちゃんの兄である羽屋里天元2年生です。僕の事は天元さんと、呼んでくれるみたいなので、僕も親しみを込めてメイカちゃんと呼ばせてもらうよ! 早速でなんなのですが、メイカちゃんは何か部活動には入っているのかな? もしよかったら、こういったアプリが好きそうだしパソコン部に入りませんか? 勧誘です! ヘットハンティングです! これからもモコちゃんと仲良くしてあげてね!』
これでよしと、僕がメッセージを送ると――彼女は僕が送ったメッセージを受信した事にバイブモードで気づき、またポケットからスマホを取り出し、次々と決まっていく各生徒の出場種目の進行を行いながら5秒ほどスマホを触ると、またポケットにスマホをしまった。
『なになになに! ケロベロスとかw かっこいい見た目とは裏腹の中二具合がステキですね天元さん! 部活動は一応放送部に所属しております。折角の天元さんからのお誘いですが、私パソコンが嫌いなもので……今回はお断りさせていただきます。モコちゃんとはこれからも仲良くさせていただきますね! 勿論、天元さんも私と仲良くしてくださいね!』
と、僕のアカウントにメッセージが届いた――妙に引っ掛かる文章がある。『パソコンが嫌いなもので』と言うが、このヘブンズドアという配信サイトでこんなにも配信を楽しんでいる彼女が口にする言葉ではないような気がしたが……まぁ断る理由が見当たらなくってついた嘘かもしれないし、この事にはつっこまずパソコン部の件はきっぱり現先輩には諦めてもらおう。
「そう、残念だけど、今回は勧誘を諦めた方がよさそうね。せっかく羽屋里君が頑張ってくれたけれど、パソコンが嫌いならパソコン部にはむかないわね……どんなに才能があってもね」
と、現先輩は大人しく引き下がり、それを聞いていたモコちゃんと共にミーティングの最終段階である種目決めで自分達が出る種目を決めに行った。
残された僕は、ここは地味にやり過ごし、障害物競走1本の出場だけにしようと決めに入ったスタンスでその場で、さっき取ったアプリのヘブンズドアで氷見メイカの配信を眺めていた。
「なになになに! ちょっと~、男子のみなさ~ん! スマホばっかり見ていないで、こっちきて皆も出場種目決めてよ~、女子ばっかり決めてるじゃん! 数少ない男子達なんだから皆仲良く決めてくださいね……って、あれ? なんか、うちの男子……皆、同じ顔してる――」
その発言に全男子生徒が反応した――全員同じ顔している……それは男子には禁句な言葉だ、自分は他とは違う! こんなモブキャラ達とは違うと、常日頃から自分が特別な存在だと思い込んでいる男子と言う生き物にとって、その言葉は氷見の囲いからアンチに男子達を豹変させるには、十分な理由になってしまう力がある。イケメン俳優以外の人間に似ていると言われたりするのは男子にとっては皆屈辱であり、それが皆、同じ顔と評されたものなら怒りが湧くのも当たり前であった――かく言う僕もその類に漏れず悔しくなり、彼女にメッセージを送った。
『メイカちゃん! みんな同じ顔ってどういう事だ! モブキャラ達と同じってどういうことなんだ! 僕には主人公補正がかかっているんじゃないのか? 毎朝シャワーを浴びて髭をそって、前髪にヘアーアイロンかけて、高いワックスを髪につけてふわっと、決めなくても――寝起きで、簡単イケメンルックス楽勝系主人公補正が、特別にかかっているはずだろ……なのになぜ、みんな同じ顔なんだ……イケメン設定じゃない主人公なんて……僕は嫌だ……』
きっと、他の男子達も僕と同じ思いの筈だ! 自分だけ神に愛されていると思っているナルシスト集団のはずなんだ、僕らは! なぁ! みんな! と、僕が熱い思いを口走ろうとした時――僕のメッセージをメイカちゃんがまたポケットからスマホを取り出し3秒で確認し、返信まできた。『その通り! 天元さんは何もしなくても前髪の位置が決る系イケメンですよ!』と、言う返信内容であった。送った当の本人はにこやかに笑いながら全男子に向かって言った。
「――なになになに! うちの男子! 全員イケメン! みんなかっこいい! さぁ! 早く集まって種目決めましょう! イケメンの皆さま!」
神が平等で安心した――全男子がそう思い、その氷見メイカの笑顔に癒された。そして、僕もすっかり彼女のその言葉に救われてしまい、ヘブンズドアの彼女のコミュニティに入信した。
信者№参萬壱拾九――ケロベロス様入信おめでとうございます。と、スマホの画面に表示された。すると僕は変な頭痛に襲われた――ピピピッーーと、頭の中で一瞬機械音が流れた。
「痛い!」と、僕が小さくもらすと、鞄の中のケロベロスが僕の異変に気づいた。
「大丈夫か天元! 今、何か悪い魔力を感じたが……なにか、感じたか?」
ケロベロスが鞄の隙間から心配そうに見ていたが頭痛はもう痛みはなく、機械音もなにも聞こえない、別にたいしたことではないだろうし、僕はこの事はケロベロスに報告せずに答えた。
「大丈夫だ、ちょっと一瞬頭痛がしただけで、あとはなんともない、この氷見メイカって子にはどうやら№はとり憑いてなさそうだな! よし、今年は体育祭が少しだけ楽しみだ! 自分が競技に出場するのは嫌だけど、観戦は楽しみだ! メイカちゃんが体育祭を実況配信とか、放送部での競技の生実況をおこなうだろうから、退屈はしないだろうな!」
と、呑気にそんな事を言う僕は、氷見が体育祭で実況配信をするとか、競技の生実況をするとか言う誰にも聞いてない情報を知っている事に自らを不審に思うべきであった――№1フランフォンの電波を僕の脳が受信していた事に、この時は気づいていなかった。
奴の居場所にさえも僕は気づかず、ケロベロスが少し勘づいた魔力のヒントさえも拾わず無駄にしたという痛恨の過ちに気づかぬまま、氷見が仕切る体育祭の練習を行い、僕は体育祭の当日を迎えた。
其の二に続く――――。