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王宮夜会 sideデボラ

「・・・」

「聞いてますの?!だいたい、貴女はいるのかいないのかわからない人なんですから、いるならいると主張しなさい。貴女だと思って何回、彫像に話しかけたかわからないわ」


そんなこと言われても私にどうしろと・・・?


彼女の弁を信じるなら、彫像を私と間違えたらしいです。

自嘲気味に自分を壁紙だと称しましたが、まさか他者から室内装飾の一部と間違えられていたとは思ってもいませんでした。


改めて他者から室内装飾品だと認識されていることを知らされ、頭が真っ白になります。


どうしましょう。

何も考えられません。


「前から思っておりましたけど、なんでそんなに地味なドレスですの?いくら位の高い貴婦人に合わせるのが普通だとはいえ、貴女に合わせた服装をしていたら舞踏会がお葬式になってしまうじゃありませんこと?貴女がようやく、ただの侯爵令嬢に戻ってくださったおかげで、綺羅びやかなドレスが着られるようになりましたわ」


ドレスコードは確かに決まっていますが、不文律のものもあります。


主催者より派手にならないこと。


これは主催者と同じ色のドレスを着ない、ということでもあります。お茶会など昼間に行われる社交で事前にどの色のドレスを着るのか探っておかなければいけません。

また、王族と色が被るのもよくないことです。

高位貴族の実力者には人気者でもないのに自分のドレスと色が被ったり、派手だと感じるドレスを着た人物を敵視する方もいますから、そちらの情報収集も必要になってきます。


・・・これが私の社交場に出たくない理由の一つです。


すっかり忘れていましたが、コーネリアス様と婚約していた時期の私は実力者だと見なされていました。

レディ・ウィルミナの仰る通り、私のドレス選びのせいで地味に装うしかなかった令嬢も多かったことでしょう。

何度もレディ・ウィルミナの「みすぼらしい」との忠告に従って、王子の婚約者らしい色のドレスに変えたのはそれがあったからです。


「申し訳ありませんでした。レディ・ウィルミナ」


「わかればいいのよ、わかれば。最近ようやく、貴女が妹さんの側にいる時だけは存在感が出てきたのだから今の調子でいなさいな、レディ・デボラ」


それは妹を虐めている時しか目に入らないということでしょうか?

そんなのは御免被りたいです。

早く、妹虐めをしなくていいようになるといいのですが・・・。


妹虐めのことを思い出すと、また気が重くなってきます。

顔から血の気が引くのがわかりました。


「はい、レディ・ウィルミナ」


レディ・ウィルミナは私の返事に満足したようです。

立ち去る彼女を見送り、安心したあまり急に疲れに襲われた私は新鮮な空気を求めて近くの窓からテラスに出ました。


胸に吸い込む空気は冷たくて不快感はありますが、頬に当たる風は昂った私の神経を宥めてくれます。


謝ったとしても修復できない状態になる前に妹虐めは終わるといいのですが・・・。

妹の幸せの為とはいえ、これからの人生を妹に禍根を持たれた形で生きていきたくはありません。

いくら愛し合う人と一緒になれるとは言っても、その他の人間関係(それも家族)とうまくいっていないのは幸せにケチが付けられているようなものです。

妹の幸せには一点の曇もあって欲しくはありません。

あの子は皆を愛し、愛されるのが相応しいのですから。

憂いの素などあってはいけません。


愛し、愛される・・・良い言葉です。

私とコーネリアス様では無理なもの・・・。

妹とコーネリアス様だからできること。


私にもそんな相手ができるのでしょうか?

いつか私を愛してくれる人が現れるのでしょうか?

そのいつかが、どれくらい先になるかわかりませんけど。

今の私は妹イビリのデボラですもの。

殿方に好意など持たれる筈もありません。


自嘲的な笑いが溢れます。


そう言えば、王家から派遣された侍女とは何だったのでしょう?

レディ・ウィルミナのお母上は陛下の姉王女。レディ・ウィルミナはおおやけには知らされていないことを知っているのかもしれません。

しかし、コーネリアス様が私の為に派遣したらしい侍女についてどう考えても思い当たるところはありません。

もし、レディ・ウィルミナの言う通りなら、妹にも王家から侍女が派遣される筈です。

王家から非公式に派遣されている侍女の存在をご存知か、侍女は王家からの密偵なのか、それとも元々侍女など派遣されていないのか。

この件は父と話さなくてはいけません。


それにしても、蒸し暑い室内と違って夜風が気持ち良いですね。


手摺りに凭れて夜の闇に包まれた庭園を眺めていると、近くで窓の開く音がします。


誰か出てきたようです。

折角、夜風に吹かれるのを楽しんでいたのに・・・。


出てきた人物に気付かれないように、私はテラスに置かれた植木鉢の陰に隠れることにしました。


「デボラ」


耳慣れた声に私の心臓は跳ねます。


何故、彼がここにいるのでしょう?

どういう理由で?

何で今更?




コーネリアス様――




ああ、父の言いつけを守れば良かった。


私は自分の軽率な行動に後悔するしかありませんでした。

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