表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/47

王宮夜会 sideデボラ

両親が国王夫妻に挨拶の為に立ち去っても、話題の渦中にいる私に近付いてくる者は幸いにもいませんでした。

おかげで、私は周囲から聞こえてくるおしゃべりや噂話に聞き耳を立てることに集中できます。

所謂、壁の花です。

本来ならダンスのお誘いがなくて、壁際にいるしかない(ダンススペースは部屋の中央部分なので)未婚女性のことをそう言うのですが、今の私もその資格があります。妹を虐めれば役目は終わりますから、ダンスの時間まではいませんし、壁紙と言ったほうが似合っているかもしれません。


「レディ・デボラの妹虐めにも困ったものね」


とある貴婦人が溜め息を吐き、別の貴婦人がそれに応えます。


「仕方がないんじゃない? よりによって、コーネリアス様が妹を選んだせいで婚約を取り消されたのだから。コーネリアス様にあたるわけにもいけないし、元凶がすぐ側にいたらそちらに向かうのも当然だわ。だいたい、婚約が早くに決まっていたからって、お高くとまっていたほうが悪いのよ。諦めの悪い令嬢がコーネリアス様に纏わり付いていても何もしないんだから」

「その代わり、レディ・オーガスタが代わりにあんなに頑張っていたでしょう? 彼女にコーネリアス様の気持ちが向くのも仕方がないわ。それをどうして素直に祝ってあげられないのかしら?」

「自分がなると思っていた王太子妃の座を奪われた腹いせね。大人しそうに見えていたのは上辺だけで、今の姿が本性なのよ。コーネリアス様も婚約を破棄なさって運が良かったわ。あんな恐ろしい性格の女が国母の地位に就くなんて怖くて堪らないわ」

「国母になれるかどうかはわからないじゃない。王子が生まれなかったり、自身が早くに亡くられたりすれば、別の人物が国母になるわけだし」

「でも、王妃として戴く相手が恐ろしいことをする人物であって欲しくないわ」


夜会やお茶会などの社交の場でこういう会話はよく耳にします。

会話をしているのは既婚未婚紳士淑女を問いません。

婚約破棄されたばかりの頃は妹を責めていたものでしたが、今では私が悪者です。

母に告げた”妹イビリのデボラ”は今では私の二つ名になっていました。

姉の婚約者を盗った妹と哀れな姉という評判は、父の思惑通りに妹を虐める姉とそれに耐える健気な妹にすり替わったのです。


ああ。

嫌々、社交に参加した甲斐もあったというものです。

妹を虐める為に参加するというので更に気が重かったのですが、妹の為になるというのなら致し方ありません。

コーネリアス様をそれなりに想うことしかできない私よりも、相思相愛の妹のほうが婚約者に相応しいのは当たり前です。

妹を虐めるのは辛いですが、私はその御役目を精一杯するだけです。


私が決意を新たにしていると、黒髪の華やかな令嬢が近付いてきます。


ああ、嫌だ。

レディ・ウィルミナです。

リザルフォント公爵に降嫁した国王陛下の姉から生まれた彼女は、王太子妃候補として名乗りを上げながら、血縁が近すぎるのを理由に外されたというのが気に食わないらしく、私が婚約者であった間は幾度も嫌味を言われたものです。

そのせいか、私は彼女に苦手意識しかありません。

逃げようと思いましたが、足に根が生えてしまったかのように足が動きません。

誰かに助けを求めたくても(今の評判の悪い私に誰が助けてくれるのかはわかりませんが)、視線すら彼女から逸らすことができません。


だ、誰か・・・。


声も出し方を忘れてしまい、彼女が近付いてくるのをただ冷たい汗を流しながら見ているしかありませんでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ