選択 sideコーネリアス含む
全年齢の短編の後半部分です。変更点はほとんどありませんので、お読みになった方は飛ばして下さって構いません。
「どうかしたの、サリー? お客様?」
サリーが玄関先で何やらもめているようです。
「大丈夫です、デボラ様。ただの押し売りです。すぐに追い払います」
私は心配でしたが、サリーが大丈夫だというので編み物をします。
この近所に住むご婦人方から、編み物を教えて頂いて以来、私はそればかりしています。
嗜みとしての刺繍も好きですが、編み物は格別です。
妹の結婚式には出られませんでしたが、甥か姪が生まれる時に使える贈り物はできそうです。
でも、今は――この子の物を。
大きさの変わらない自分のお腹を撫でると、自然に笑顔が浮かびます。
やはり愛する人との子供っていいですね。
子供は愛し合う者同士の間に、誕生を待ち望まれて生まれて来るのが一番です。
どこまでこの子に幸せを与えられるかわかりませんが、せめて生まれてくる前くらいは幸せでいさせたいです。
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「と、言うことでお引き取り下さい」
豊かな胸に細い腰、そして肉付きの良い臀部。そのどこをとっても女性にしか見えない侍女がコーネリアスの気に障る。
どこがどうして、と明確にわかるものはない。
襟ぐりからチラリと覗く胸の膨らみからしても、相手は女性のはずだ。
涼やかで、どこか少年のようにも見える顔立ちのせいだろうか。
「デボラに会わせてくれ」
「それはできません。お嬢様は今や貴方様の婚約者ではございませんので」
その通り。
デボラは元々王家に入るには繊細すぎた。
大胆不敵でも、冷静沈着でもない内気な彼女では無理だったのだ。
「ああ、お前の主の妹の夫だ」
それはデボラを守るために得た繋がり。
「それなら尚更にございます。お嬢様は既に侯爵家とは縁の切れたお方。天涯孤独の身でございます。素性の知れぬ方と会わせるわけにはいきません」
「私ほど身許が確かな者はいない」
「お嬢様はとても欲張りでそれでいて謙虚な方です。今更、貴方様のお目にかかりたいとは思わないでしょう」
「それはお前が決めることではない」
「嫌いではないとは仰っていましたが、妹と浮気するような男と結婚せずに済んだとお喜びでしたよ」
「!!」
「お帰り下さい」
女にしては長身の侍女は優雅に頭を下げる。
その身のこなしはただの女のものではない。
明らかに騎士と所作が似ている。
しかし、その中にどこかで見た覚えがある。
よくよく顔立ちを見てみると確かに片鱗が窺える。
「お前はローランド卿の――」
「庶出の娘にございます」
優秀な人物が独身のままでいることは少なくない。
特に貴賤結婚すらできぬ相手がいる場合は、結婚していなくても庶出の子供がいる。
両親に死に別れているくらいならまだいい。
親の顔や名前すらわからぬ、貴族以外の相手との結婚を許してくれる貴族社会ではない。
ある意味、自分とデボラもそうだった。
王家に嫁ぐにはふさわしくない性質を持つ女。
「お帰り下さい」
この侍女は自分の両親の例から、わかっているのだろう。
「わかった。帰る」




