表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/47

選択

 ”体質”を明かしてからサリーは以前にも増して私に優しくなりました。


 あの美しい青い目を煌めかせて、私を見つめてきます。

 本人は恋人気取りのようですが、私にはサリーが犬に見えてなりません。意味もなく身体に触れてくるところなど、勢い良く振られた尻尾を当てられている気がします。

 辺境伯様が仰っていた隷属の意味はコレでした。

 確かに隷属です。隷属しているとしか思えません。

 しかし、何故、犬なんでしょう?




 女性だと思っていた侍女が男性でもあって、一緒に暮らしているのに求愛されていたら、ほだされるのも時間の問題でした。

 何と言っても、相手は私のことを一番良く知っている人物です。私を感情的にどう攻めればいいのかも熟知しています。

 私を籠絡させることなど赤子の手をひねるようなもの。

 気付いた時には子どもができていました。

 子供の父親は正式には”女性”ということになっている為、この子は非嫡出子として生まれてきます。


 貴族籍から外された私が実家と連絡をとっては迷惑だと思い、マールボロ侯爵家への連絡はサリーにして貰っていましたが、そろそろ長引いた悪阻つわりが治まり、これ以上、身体の身動きが取りにくくなる前に父と母に手紙を出そうと思いました。

 離れて暮らしていても、私たちは血が繋がっています。その血が受け継がれた孫が生まれるのですから、私から知らせないわけにはいきません。


 この国では郵便は国が運んでくれます。商店や旅の商人に託すという場所もありますが、ある程度の規模がある街なら国が請け負う窓口があります。代金は安くて確実に届けてくれますが、その分、遅いです。

 配達を商いにしている所に頼めば、早さや正確さによって高額になっていきます。

 父は生活費をくれていましたが、これから家族も増えますし、無駄遣いはできません。

 それに遅くても正確に届く国の制度を利用したほうが、配達をする国の職員から手紙を受け取るのですから、受け取る際には私との繋がりはわからないでしょう。万が一にも私が手紙を出したこの街の窓口の職員も、私のことなど記憶に残らないでしょうし。


 手紙を出した日は買い物などの用事でサリーが私を置いて出かけていました。

 そういう時は近所に住むご婦人方に一緒にいてくれるようにサリーは声をかけてくれます。

 私もそうしてもらえると安心です。どうも妊娠してから、一人でいるのが心細くなってしまって。

 しかし、その日に頼まれたご婦人はお孫さんが突然、訪ねて来たということで帰ってしまいました。


 サリーの手をわずらわせず、自分の手で手紙を出そう。


 そう思って私は父と母に宛ててしたためた手紙を手に家を出ました。

 この家でサリーと暮らすようになってからは、サリーと一緒の時しか外に出たことはありませんが、郵便物を取り扱ってくれる役所の窓口までは買い物などで何度も通った道の途中にあります。これくらいなら今の私一人でも辿り着くこともできます。


 私は近所の人や顔馴染みのお店の人に挨拶をしながら、役所に向かいました。

 久しぶりに見た私の姿があまりにも変わり果ててしまったせいか、皆さん、一目で私だとは気付かれないようでした。

 そんなに変わってしまったでしょうか?

 丸い大きなお腹で足の先は見えませんし、着ている服も妊婦が過ごしやすいドレスになったので別人に見えるのも仕方がありません。


 役所の郵便を扱う窓口で手紙と代金を渡し、やり遂げた達成感と私は来る時よりも軽い足取りで無事に家に戻りました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ