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ダンス sideデボラ父2

 上の娘がいなくなった。


 王都からの追放を告げられた翌日、私はデボラを馬車に乗せて王都の外に用意した家に向かわせた。

 私はアレに命じられていた家ではなく、遠回りをして同じ領内の村にある家へデボラを案内するよう御者に言い含めておいた。

 マールボロ侯爵家に忠実な御者はその指示に従ってくれたのだろう。


 デボラが私の用意した家にいないことに怒り狂ったアレは、私だけでなく、デボラとダンスを踊った辺境伯やリオネル卿の関与を疑った。


 そもそも、私がデボラを向かわせたのはアレに告げた家などではないから、いないのは当然だ。

 匿うつもりで用意した別の家なのだから、これは予想していることだった。


 特に、私とは親しくもなかった辺境伯があの追放宣言の際に上の娘を連れて来てくれたことで、彼はこの事件では犯人と目されているのではないだろうか?

 一人では歩けないほど憔悴しきったデボラを連れて来てくれたことを辺境伯に感謝しているからこそ、迷惑はかけられない。

 デボラの失踪は私が計画していたことだった。私の共犯として辺境伯が疑う根拠となる為、辺境伯には後日改めて礼をすることにしている。

 時期としてはオーガスタとの結婚でこの騒ぎが立ち消えてからでいいだろう。


 アレも真っ先に辺境伯のところを探ったに違いない。個人的趣向があるとは言え、彼は人格者のようだから私の頼みがなくても上の娘を哀れんで保護してくれるだろう。花嫁探しをしているようだから、彼の領地で別人に仕立て上げて娶ってくれるかもしれない。

 そう言えば、先代の辺境伯夫人を見たことがない。辺境伯の領地で生まれ育ち生涯そこから出ることなく、夫の後を追うように亡くなったと聞いている。

 辺境伯ならデボラを表に出すこともなく守り切れるだろう。


 それに辺境伯の領地はこの国の守りの要だ。余所者を拒む排他的な場所ではアレの捜索も遅々として進まないだろうし、国王もそのような些細な事で辺境伯の機嫌は損ねたくはないだろうから、探ることを止めるかもしれない。

 王家がいくら力を持っているとは言え、現に他国からの侵略を防いでいるのは辺境伯家だ。蔑ろにして敵に回すには相手が悪い。そして、それを代行出来る者もいない。

 辺境伯家の者は遠距離でも意思の疎通ができる能力を持つと言われている。

 その魔法のような異能は彼ら以外は持っていない。だから、彼らが領地から出たがらなくても誰も気にしない。彼らはそこで国の守護をしているから。


 リオネル卿に関してはアレにとっても兄代わりの従兄弟で、問い詰めることをアレができる筈もない。問い詰めたところで彼はアレにとって耳の痛い説教をするだろう。

 そのようなことを苦労や面倒を嫌うアレが望んでする筈がない。

 そういう意味ではリオネル卿に匿われていると気が楽だ。秘密裏に娶ったとしても、アレは彼に強くは出られない。


 問題は辺境伯もリオネル卿もデボラが置かれている立場を知らない、ということ。知っていれば、助けてくれていたかもしれない。

 私が二人に相談していれば、このように気に病む展開はなかったのだろうが、私は一人でなんとかしようとしてしまった。

 国王夫妻ですら私が立てさせたデボラの悪評を利用してアレの(貴族)生贄にする(籍からの除)こと()を選んだというのに。



 しかし、デボラは隠れ家のほうにもいなかった。

 アレが人を遣って探しているのに見つからないことを口にしたその報せが私を動揺させる。

 では、上の娘は今、どこにいるのか?


 上の娘が今、どこでどうしているのか、それを知らなくて唯一、良かったことはアレにいくら問い詰められた時だ。私自身が知らないのだから答えようがない。


 アレは人を遣って我が家の馬車の動きを調べたようだが、私もデボラが隠れ家にいないと知って各地の税関や街の徴税官に人を遣って尋ねさせた。


 上の娘と一緒にデボラの侍女サリーの行方も知れない。

 サリーはローランド卿の息女だ。

 ローランド卿は愛する女性と生きる為に爵位継承権を棄てたことから愛に生きる貴公子として民衆の間でも名高い。ローランド卿と彼の愛する女性の間には何人かの娘に恵まれ、仲良く暮らしていることは有名だ。


 王族女性の身辺警護を担当する侍女であったサリーが付いていればデボラの身は安全だと思ったが、まさかサリーも失踪するとは・・・。


 父親であるローランド卿から預かっているだけに申し訳が立たない。一言謝罪が必要なのはわかっているが、今、連絡を取って、アレに勘ぐられてまずい。

 上の娘に出されている命令を知っているサリーが困っている時に頼るのは父親(ローランド卿)しかいない。

 そこをアレが抑えてしまえば、デボラには貴族の令嬢としては悲惨な日陰の身(愛人)の運命が待っている。


 アレは幼い頃に自分の周辺にいたかもしれない侍女サリーには気付いていないようだ。まだ、サリーとローランド卿の関わりにも気付いていないかもしれない。

 しかし、念には念を入れておかなくては。

 デボラの侍女は父親似である。髪と目の色さえ変えれば、父娘だとすぐにわかるくらい似た目の形をしている。

 それに気付かれれば終わりだ。

 上の娘を助けたいのに助けられない。デボラが助けを求めるところと接触して協力できないのが歯痒い。

 最善の策がデボラの為には何もせず、その行方を探すだけとは何たる皮肉だ。


 誰が犯人であるにしろ、デボラを安全な場所で匿ってくれればいい。そうでなかった場合は考えたくない。

 それでも最悪の場合を考えて、裏の人身売買には目を光らせておかねば。


 王族女性の身辺警護を担当する侍女であったサリーが一緒なのだから無事であると思いたい。

 サリーが犯人に協力をしていない限り、デボラを守り続けてくれるだろう。


 私はそれを願わずにはいられない。

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