表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/47

ダンス sideコーネリアス

 デボラが追放されてほどなく、私とオーガスタの婚約を発表した。

 デボラの時のように婚約破棄を狙っている令嬢もいるようだが、マールボロ侯爵と内々に結婚式をデボラと予定していた日で合意した。

 花嫁はどちらも同じ色の髪と眼の色をしていて、身長もデボラのほうが高かったので、ウェディングドレスもオーガスタに合わせればいいだけだ。国内では大きな混乱もない。

 この日程も私の王位継承に必要な時期のものだから、そろそろ延ばすわけにはいかない。この結婚を境に、私は父の補佐をする割合が高くなる。引き継ぎを充分にする為にデボラとの結婚は早めに設定されていたが、私にはその決心がついていなかった。



 婚約者であるオーガスタとのお茶の時間。

 オーガスタの取り巻きたちに邪魔されないこの時間が好きだ。

 オーガスタと一緒にいると私は王太子としての重荷も感じることなく、一人のコーネリアスという人間でいられる。

 これはとても重要なことだ。

 人は皆、私を王太子としてしか見ない。デボラもそうだった。

 だから私はこうしてオーガスタと過ごす時間を心待ちにしている。


「コーネリアス様。どうして、デボラお姉様を追放してしまったの? デボラお姉様の行方がわからなくなって会えないくらいなら、私が耐えていれば良かったわ。そうすれば、デボラお姉様がどこにいるかだけはわかったのに・・・」


 憂える姿もオーガスタは美しい。明るい表情も良いが、こうした表情もまた良い。

 デボラがオーガスタを虐めるようになってから、オーガスタはだんだんふさぐようになってしまった。


「オーガスタ。あれは仕方がないことだ。態度を改めないデボラを社交界から追放しなければ、お前との婚約もできなかったんだぞ。侯爵家の令嬢ともあろうものが妹に嫉妬して虐めを行うなどあってはいけないことだ。それでも、お前の姉でなければデボラは追放せずとも済んだ。王族の伴侶の親族に問題があってはいけないからな」


「私が、コーネリアス様に望まれたのがいけなかったのよ。コーネリアス様はデボラお姉様と婚約していたもの」


「私は自分の気持ちに嘘が付けない。オーガスタを求めながら、デボラを正妃に迎えることなどできなかった。オーガスタこそが私の隣に相応しいとわかっているというのに、デボラを正妃に迎えられる筈がない」


 デボラでは駄目なのだ。

 社交を苦手とする彼女が国と国との牽制の飛び交う社交が出来る筈もない。その神経を磨り減らして、命を縮めるのがせいぜいだ。

 オーガスタのような社交を苦手としていない性格でないと正妃は駄目なのだ。

 王の代行などは優秀な側近でもできる。だが、正妃として社交界を泳ぎまわり、他国との交渉においてはその魅力や手腕で弱いところから切り崩す、それだけは正妃が行わなければならない。

 これをデボラに出来るとは到底、思えなかった。

 だから後宮に篭っていられる側妃にしようとしたのに、マールボロ侯爵のせいで貴族籍から除籍する羽目になった。

 忌々しい。


数日前、屋敷へとオーガスタを訪ねた時のマールボロ侯爵と書斎で、二人で交わした会話が蘇ってくる。




「申し訳ございません。私には翌日、デボラを王都の外に移してからどこにいるか皆目、見当がつかず・・・」


 言葉を濁すマールボロ侯爵に私は疑いを捨てきれない。

 マールボロ侯爵は私の命令にまた抗おうとしているのではないか、と。

 デボラと婚約破棄した時もそうだ。

 私は側妃にと望んだにもかかわらず、マールボロ侯爵はその命令を無視したかのようにデボラに妹虐めをさせて、二人の後宮入りを邪魔しようとした。おかげでデボラを側妃にできず、愛妾どころか、王宮の外で囲わなければならない。


「デボラを乗せた馬車が王都を出たのは間違いない。王都の門番がそれを確認している。問題はそこから先だ。マールボロ侯爵家の馬車は王都の門を出た後、王都周辺の領地をすべて巡っている。これは各領地の税関が証言している。どの領地に匿った?」


 王都は門番、各領地の街には街に入る者に対して税を取り立てる徴税官がいる。そこと各領地を結ぶ道の途中に作られた税関で取り立てられた税は領主の収入だ。

 税関を多く作れば一時的には収益は上がっても、人や物の移動が滞って停滞する。税関が少なければ人や物の移動が活発になるが、そうなるまでに収益は低い。

 デボラを乗せた馬車の行方は多くの税関で見かけられている。


「本当にそれが皆目、検討もつかない次第でして・・・。御者も何故、領地を巡っていたのか、わからないと申すばかりなのです」


 後は隠した、隠していないの水かけ論だった。

 結局、デボラの居所はつかめない。




 思い出すと余計に忌々しい。


「コーネリアス様?」


「どうかしたのか、オーガスタ」


「何やら険しい顔をしていたようなので、心配になりました。大丈夫ですか?」


 デボラに会えないとあんなに嘆いていたと言うのに、私のことを気遣ってくれるのか、オーガスタ。


「なんでもない。難しい問題が頭をよぎっただけだ。今はオーガスタと一緒にいるというのに、無粋で済まない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ