婚約破棄について sideデボラ父
上の娘が出て行った後で、私は婚約破棄を記した王家からの手紙を取り出す。
王家からの手紙には娘に告げなかった部分がある。
”マールボロ侯爵長女デボラとの婚約を破棄し、マールボロ侯爵次女オーガスタを王太子の婚約者とする。それに伴い、長女デボラは王太子の側妃とする。”
仲の良い姉妹の娘たちなら正妃と側妃になっても問題はない。
それはデボラが正妃であっても変わらない筈だ。
今までのようにデボラの足りない部分をオーガスタが補い、オーガスタの足りない部分をデボラが補うことはできた筈なのに、どうして二人を取り替えるのかわからない。
デボラ一人では無理なこともオーガスタがいれば乗り越えられるのに、今更、何故・・・?
初めからオーガスタを婚約者にしていれば、婚約を破棄された娘、正妃から側妃に下げられた娘、とデボラが見下されることはなかった。
初めからオーガスタを婚約者にしていれば、デボラは他に嫁ぐ道もあった。
太陽の光のようなオーガスタと月の光のようなデボラ。
明るく優しいオーガスタと慎ましく優しいデボラ。
春の日のようなオーガスタと雪解けの日のようなデボラ。
輝かんばかりのオーガスタと静謐を湛える神秘的なデボラ。
色彩は全く同じなのに異なる印象を持つ、美しき我が娘たち。
オーガスタにばかり目に行くかもしれないが、デボラにも良い点はたくさんある。
オーガスタは人気者だが周りを振り回すところがある。
デボラはそれをわからないように先手を打って被害を抑える。
デボラは無邪気なオーガスタの引き起こす騒動を労を惜しまずに収める。
全ては愛する妹のために。
侯爵家としての勤めを熟知しているのもデボラだ。
オーガスタは完璧ではない。
デボラも完璧ではない。
完璧な人間はいない。
だから、人間は間違いを起こす。
デボラが何をしたというのか?
汚辱にまみれ、正妃になれなかった女として一生、後ろ指を指されなければならない何をしたというのか?
デボラがオーガスタを虐めることで、デボラが側妃となる可能性は低くなるだろう。
デボラが側妃となる必要はない。
デボラはデボラであればいい。
嫁に行けなくてもいい。
老嬢として、王都か領地の片隅で暮らしていけるように取り計らおう。
今回のような政治的な思惑以外での婚約破棄をされては、結婚との縁が切れたと言ってもいいのだから。