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サリー
サリーは帰宅したデボラの様子を不審に思った。
不用意な言葉をかけないように留意して、デボラの寝支度を整える。
デボラの髪にブラシをかけている間、様子を窺った彼女はその虚ろな目に気付いたがそっとしておくことにした。
ベッドに上がったデボラに上掛けを掛けると、彼女は重大な何かを受け入れるかのような厳かな面持ちで目を閉じる。
夜会に参加していないサリーには今夜の事情まではわからない。
夜会でデボラに何があったかのか、それを知ることができたのならこの時のサリーなら何物でも差し出しただろう。
いや、何を差し出してもは言い過ぎだが。
それに語ってくれる相手もいない。
すべてはデボラの心の中。
サリーは眉を寄せてデボラの静謐に満ちた寝顔を眺めていたが、瞬きを一つして溜め息を吐き、この国の言葉ではない言葉で呟く。
『良き夢を――』
言葉が空気に溶け込んでいくのを見届けてからサリーは部屋を後にした。




