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王宮夜会 sideデボラ

「殿下?」


青年期と思われる殿方の声が入り口からします。


「そこにおられるんでしょう。この私の目は誤魔化せませんよ」


その声にコーネリアス様の気配が離れました。


助かりました。

本当に助かりました。

この方には感謝してもしきれません。


「殿下。一人で姿を消されては困ります。折角、レディ・オーガスタとの婚約が整ったというのに別の女性とこんなところにおられては・・・」


私の窮地を救って下さったのはリザルフォント公爵令息のリオネル様でした。あのレディ・ウィルミナのお兄様です。

栗色の髪に切れ長の緑の目をしたリオネル様はコーネリアス様にとってもお兄様のような存在で、何度もお話した際にも面倒見の良い方だとお見受けしました。


もし、妹が嫁ぐならこの方が良いと思っていた方です。

妹の取り巻きになってしまうような流されやすさもなく、父が母を導いているように妹を導いていける方だと思っておりました。


「ご無沙汰しております、リオネル様」


「レディ・デボラ? どうして貴女がこちらに?」


「暑かったものですから涼んでおりました」


「そうか。お邪魔して申し訳ない。そう言えば、このところ、ご一緒していても顔を合わしていなかったな。貴女はすぐに帰ってしまわれるから」


「いえ、評判の悪い私がいつまでも場に残っては皆様に不快な思いをさせるだけですから」


「不快だなんてそんなことを言うものではない。こちらこそ、先程もウィルミナが失礼な真似をしたと思うが、許してもらえると助かる」


リオネル様が頭を下げようとなさるので、私は急いでそれを止めました。

公爵令息ですが、リオネル様はれっきとした王族の血を引いておられる第4位王位継承者なのです。


「そんな、畏れ多いことをなさらないで下さい」


「妹だけなく、従兄弟コーネリアスのことも申し訳ない」


「リオネル!」


「まだこちらにいたのか、コーネリアス。早く戻れ。ついでにマールボロ侯爵を連れて来い」


私的な場でのリオネル様は、コーネリアス様のお兄様の代わりをしているだけに弟扱いしました。


「しかし・・・」


「お前とレディ・デボラが一緒にいたと印象付けたいのか? レディ・オーガスタとの婚約はなくても良いのか?」


「・・・わかった」


不承不承と言った体でコーネリアス様はリオネル様の言葉を受け入れます。


流石、コーネリアス様のお兄様です。

・・・。

コーネリアス様も妹との婚約話をフイにしたくないようです。本当に助かりました。


コーネリアス様は渋々、室内に戻ろうとしました。ガラス戸に手をかけ、こちらを振り返ります。


「デボラ。オーガスタを苛めるのはやめろ。それは自分の価値を下げるだけだ」


そう言って、私の返答も聞かずに室内へと戻るコーネリアス様を私とリオネル様は見送りました。



リオネル様はまだここに居られるんですか?


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