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あらすじ必読な突発短編

藤川 灯の勘違い

作者:

『黒崎 幸希の勘違い』の続編的なもの。そちらを読まずとも大丈夫だと思います(多分)。


「藤川 灯さん! 二股なんて最低です! 河野 楓君と別れてください!」


 緊張に震える声で叫んだのは、地元の公立中学のセーラー服に身を包んだ少女だ。

 肩に届くくらいで髪を切りそろえた黒髪も、膝丈のスカートも、非常にまじめな優等生であることが伺える。

 眼鏡をかけた文学少女のような彼女に、対する藤川 灯は淡い栗色の巻き毛に左目の下に泣きぼくろの妖艶美女だ。

 灯は緊張に震えている少女を無表情で見つめ、小さく息をつくとにっこりと笑う。

 灯をよく知っている者なら、怒りに満ち溢れていることがすぐさま理解できるほど、綺麗な笑みだった。


「お断りします」


 きっぱり言い切り、少女の横を通り過ぎる灯は、門を通り抜ける前にスマフォを取り出す。

 数秒後、通話状態になったらしくテンションも機嫌も一気に跳ね上がり、意気揚々と鼻歌を歌いながら早足になる。

 その様子から見るに、すでに少女の事は忘却の彼方のようだ。

 ちらほらといた人々は、置き去りにされた少女を気にしつつも触らぬ神に祟りなし、と素通りしていく。


 由緒正しい歴史を持ち、近場にある城聖大学に次ぐ偏差値を誇る名門芙蓉女子大学の西門での出来事である。



※※※



「ということが、一週間前の出来事なの」


「…どうしよう、幸希。わたし、女の子に心から同情しちゃった」


「安心していい。あかねは間違ってない」


 至極楽しそうに笑いながら告げる灯に、同じテーブルに座る他校の友人達は何とも言えない表情を浮かべた。


 幸希は首掛かるようになった黒髪に指をからめて、ため息をつく。

 あかねは困ったように微笑み、小さく頭を振っている。


 淡い色のシャツと長い足を惜しげもなくさらしたショートパンツ姿の幸希は、反応に不満らしい灯を半目で見やる。

 ふんわりしたデザインの白いロングワンピース姿のあかねは、二人に見劣りしない美女だ。癒し系、と頭につくタイプ。

 良い所のお嬢様のような柔らかい雰囲気のあるあかねですら、灯に対して複雑そうだ。


「何でよ。勝手に二股とか別れてとか言われた私は被害者よ?」


「そうだけどな」


「そうなんだけどね」


 幸希とあかねはそろってため息をついた。


 三人が集まっているのは道に面したテラス席が人気のカフェ。

 ほんの数ヶ月前、幸希が女子高生に絡まれたのと同じ店である。

 あんな騒動があったが、美女達の来店に目の保養とばかりに客も店員も嬉しそうだ。

 まぁ、幸希は被害者なのだが。


 幸希とあかねは、灯が二股をしているなどありえないと知っている。

 小学校から高校まで同じのあかねは言わずもがな。

 部活関連で知り合い、灯と恋人の光一との仲睦まじさを望まないのに見せつけられてきた幸希も同じく。

 その容姿から勝手に勘違いする男が言い寄ってきたりすることもあるが、灯は非常に一途だ。

 浮気を持ちかけた男を公衆の面前で説教し、ダメ出しをこれでもかとした上で関係性の全てを断ち切り、翌日から存在を無視するくらいには。灯が正論なので、誰も何も言わないどころか、男への態度が灯に習えとなるので三人目のあたりで周辺には知れ渡ったらしく、最早誰も言い寄ってこない。

 ちなみに、普段温厚で鷹揚な光一は灯に関しては沸点が低いので、色々としたらしい。…知らない方が良い事は世の中に多い、と幸希とあかねは心から思った。


 そんな前例がある為、幸希とあかねは加害者である少女に、心から思う。


 もうこれ以上関わるな、と。


 おそらくは、楓君に恋する乙女の暴走、というところだろう。

 今ならばまだ、微笑ましいと思っていられる。これ以上があれば、幸希とあかねは何も言えないし同情もしてあげられない。

 仏の顔も三度まで、と言うが、灯は二度目でとどめを刺す。

 本人の言い分としては、一方的な侮辱に対してチャンスを与えてもらえただけありがたいと思ってほしい、とのことだ。正論である。


「…何うなだれてんの? 幸希さん、あかねさん。何やったの? 灯さん」


 道から三人に声をかけて来たのは、地元の公立中学のジャージを着た長身の中性的な容姿の少年だ。

 幸希とあかねには心配そうに問いかけ、二人が何でもないと手を振ると、灯に胡乱げな眼差しを向ける少年に、灯は眉を寄せる。


「どうして、私が何かやったことが前提になってるの?」


「幸希さんもあかねさんも常識的で良心的な人だから」


 食い気味に反論した少年に、灯はものすごく不満げだ。

 むぅ、と押し黙った灯にも納得できることだったのかもしれない。

 それを放置して、背の低いフェンス越しに少年は幸希とあかねとなにやら談笑し始める。

 灯が割って入り、賑やかになる一角に、眼福眼福、と周囲は満足げである。

 三人に負けないほど少年の容姿が整っているからかもしれない。


「練習、終わったんでしょ? 入ってきなよ」


「お姉さん達がお昼をおごってあげよう」


「今日の日替わりランチは、照り焼きハンバーグプレートだよね」


「やりっ♪」


 いつの間にか機嫌を直していた灯がメニューを見つつ答えると、少年の顔が輝いた。好物らしい。

 思春期の少年が女三人の中に入るのは普通嫌じゃなかろうか、と思った人が居たりしたが少年は何一つ気にしておらず、ふってわいた外食のお誘いに乗り気だ。

 店の入口へと進もうとした時、その腕を引く存在が現れた。


「こ、河野君! そういうのはダメだと思うの!」


「は?」


 腕を引くのは、少年と同じ中学校のセーラー服に身を包んだ少女。

 その姿を見て、灯の背後に般若が浮かんだ。表情は変わらない。

 この時点で、幸希とあかねは察した。少女が、一週間前、灯に喧嘩を売った人物だと。


「ダメって何が?」


「あ、あの人、恋人がいるのよ?」


「? 知ってるけど?」


「だったら、ダメよ。あんまり近づいたら…」


「確かに心狭いけど、オレにまで牽制するほど大人げなくないから、平気だって」


「ふ、二股自体、平気な事じゃないよ?!」


「オレ、付き合ってる奴いないし、二股ってどういうこと?」


 かみ合わない会話に、幸希はテーブルに突っ伏して肩を震わせている。あかねは、可哀想なものを見るような眼差しを少女に向けている。

 灯の表情は変わらない。背後の般若が鬼子母神に変わったくらいだ。


「ふ、藤川 灯さんと付き合ってるんでしょ?! そんな不誠実で不道徳なこと、ダメよ!」


「…叔母と関係持つとか、お前小説の読みすぎじゃない?」


 瞬間、空気が止まった。


 成り行きを野次馬根性でうきうきと見守っていた客や店員も、言われた少女も驚愕に固まり、ゆっくりと灯と少年を見比べた。


 幸希とあかねにとっては既知の事であっても、他人にとってはそうではない。

 何より、少年は中学入学時に隣県から引っ越してきたから、知っている者は限られている。



 妖艶美女・藤川 灯と中性的な美少年・少年こと河野 楓は、血の繋がった叔母と甥である。







 三人兄妹の末っ子である灯は、よく一人っ子に想われがちである。

 上の兄とは17歳、下の兄とは15歳離れているから、最早致し方ない。

 女の子が欲しいと思っていた両親だが、子は授かりもの、と自然に任せていたらこんなに年が離れてしまったとのこと。計画性を持て、と兄妹一同は思った。


 それだけ年が離れているから、灯が物心ついた頃には兄達は家にいなかった。

 上の兄は灯が2歳の時に県外の大学に進学して下宿生活を始め、下の兄は灯が4歳の時に隣県の会社に就職してしまった。

 記憶していろという方が無理な話である。


 下の兄・祭は、両家に挨拶済みの高校からの恋人がいた。彼女は地元に就職していたが、しばらくして妊娠が発覚。

 互いの家が相手を気に入っていたので、ちょっとした騒ぎにはなったが円満に結婚と相成った。彼女が一人娘だったので、祭は婿養子になったが次男だったので問題ない。

 出来ちゃった結婚など今時珍しくもない。

 ただ、当時の灯はまだ4歳だった為、ちゃんと理解できていなかった。

 5歳の時、祭夫妻の元に長男が生まれ、灯は叔母になった。それを理解できるわけもないので、両親は灯には弟みたいな子が出来た、と言った物だから、灯は小学校に上がってしばらくの間、弟が出来た、と思い込んでいた。可愛らしいと微笑んでいられる間違いだ。

 その祭夫妻の長男が、楓である。


 わずか5歳差の叔母と甥。

 灯が勘違いしていたように、楓も姉とは思わずも従兄妹や親戚のお姉ちゃんぐらいに思っていた。

 まさかの叔母、という事実に当時8歳の楓の淡い初恋が砕け散ったのを知るのは母親のみである。

 初恋は憧れの延長とはよくいうが、それでも初めて恋心を抱いた相手が叔母とか後々確実な黒歴史となるだろう。


 黒歴史云々はさておき。

 父親の転勤に伴い、楓は小学校を卒業してこの街に来た。

 灯の上の兄・縁が大学卒業と共に就職したのが外資系であり、海外転勤していたこともあって楓達は灯が暮らす実家に同居することになった。

 なので、近隣の住民は灯と楓の関係性を十分に理解している。

 住宅街なので、同じ中学に通う子供もいるがわざわざ吹聴する話ではない。滅多にない状況なので、面白がる者はいるが楓自身が物静かな性質なので、噂すら埋没していったようだ。


 灯の容姿から想像がつくが、兄二人も非常に端正な顔立ちをしている。名前が少々可愛らしいが、一切違和感がないくらいに。

 楓の母親は可愛らしい部類の平凡な容姿をしているが、楓は9割方父親に似たらしい。その為、灯とも少しばかり似ている。

 男女の差が曖昧な小学生の頃なんかは、姉妹に間違われるほどに。

 現在でも、身長が170にあと一歩という中学生男子としてかなりの高身長であることを除けば、幼い顔立ちは灯と何となく似ている。まじまじと見れば、だが。


 年齢差の所為で、叔母と甥と言ってもまず信じてはもらえないので、基本的に二人は関係を聞かれれば親戚と答える。間違っていない。

 聞いた相手も、どことなく似ている事に気付けば納得し、勝手に従姉弟だろうと推測してくれる。

 幸希の様に親しい友人ならば本当のことを言うが。


 兄との年の差から説明しなくてはならないのを面倒くさがったり、付き合いが浅い人間に深い部分をわざわざ話したくないと思っている灯だが、信頼できる相手ならばちゃんと答えている。

 楓にしても、クラスメイトや部活の仲間に聞かれれば変な噂が流れるのを嫌がって、ちゃんと答えている。友人の事情を早々吹聴する人間がいなかったのは、今回、幸か不幸か今一判断できない。


 諸々を見て、今回の事は少女の完全なる暴走である。


 灯の「お断りします」発言も怒りも致し方ない。

 二股をしていた事実もなければ、叔母と甥の関係にあるのだから別れるも何もない。


 思い込みによる言いがかりをつけて罵られた挙句、家族の縁を切れと言われたようなものだ。

 身内に甘くはないが情が深く言動でわかりやすく大切にしている灯にとって、少女の暴走を「恋する乙女」で片づけることなどできない。


 第三者の幸希とあかねは同情するが、庇わない。


 だって、少女が悪い。







 灯の兄弟事情から説明を受けた少女は、真っ赤になって逃げだそうとした。

 が、その腕を楓がとっさに捕まえる。

 灯が文句の一つでも言いたそうにしていたが、楓の不愉快ですと言わんばかりの表情にいったん口をつぐむ。


「逃げる前に、言うことあるんじゃないのか?」


 当然、謝罪である。

 至極真っ当な要求に、野次馬根性の客も店員も頷いている。店員は仕事しろ。


「大体、男女が二人で歩いてたら全員がカップルか? おっさんと女子高生が歩いてたら即援交か? どこの漫画だよ。普通に考えて、前者はカップルもしくは兄妹の二択が有力。その次に、友人だろ。後者は親子が有力。その次に、親戚のおじさんもしくは友達のお父さんってところだろ」


 良心的に考えるならば、間違っていない。

 悪い方向に考える人間が多いのは事実だが、確認もせずに噂として流したり糾弾したりするのは悪質極まりない。誹謗中傷として名誉棄損になりかねない。


「そもそも、二股とか悪い方向に考えて、安易に結論出したりするとかそんなの自分にもやましいことがあるから、そっちに思考が行くんじゃないのか? 少なくとも、オレはそう思う」


 あぁ確かに、と呟いたのは幸希だが、あかねも周囲も納得して頷いている。

 楓がそう思うのは、灯が対象であるからだ。二股とかありえないと知っている人物だからこそ。別の誰か、幸希やあかねが対象ならばそう思うかどうかは分からない。信頼はしているが、そこまで深い付き合いではないから。

 現時点、灯が被害をこうむっているのだから楓の考え方に特に問題はない。


「というか、一つ聞いていいか?」


 不愉快そうな表情に怪訝な様子を加えた楓に、灯が不思議そうに首を傾げる。


「お前、誰?」


 灯との関係性暴露の時よりも、重く痛い沈黙が下りた。


 制服から、少女が同じ中学の生徒である子、襟に入ったラインの数(ボタンで付け替え可能なタイプ)から同学年であることは察することが出来たが、楓には少女に見覚えが無かった。

 あまり目立たなさそうなタイプだから、知らない人間も同じ学校同学年でもいるかもしれない。


 だが、さすがに楓の発言には、灯も幸希もあかねも驚いた。

 まさか、面識のない相手だとは思わなかったのだ。


「楓、全く見覚えが無いのか?」


 幸希の問いかけに、楓はあっさりと頷く。


「そもそも、オレ、委員会に入ってないし、クラスメイトと部活の奴らしか覚えてない」


「…つまり、クラスメイトではない、と? え、一年の時も二年の時も?」


 現在受験生である楓は、しばし宙に視線をやって考えたが再び頷いた。

 肯定である。


「顔も名前も覚えるのは早いし、得意な方だから。一致するのに時間がかかるけど」


 少々不安な事をのたまっているが、それはまぁ良いとして。


 片思いであるのなら、少女と面識が無くても致し方ない。だが、何かしらのきっかけがあって想いを抱いたのだろうと推測していた灯達にすれば、その事実は拍子抜けしてしまうものだった。


 少女は問いかけられて呆然とした後、ボロボロと泣き出してしまった。

 この場面だけを見れば、少女を泣かせた楓が悪者だ。しかし、事情を明確に知る者しかいないこの場では、何とも滑稽な姿だった。


「しょ、初対面じゃ…」


「あぁ、挨拶はしてるってタイプ?」


 少女が震える声で反論する。

 面倒くさくなって来たのか頬杖をついた幸希のどうでもよさげな問いかけに、少女はしゃくり上げつつ顔を上げる。


「プリントを運んだ時にドアを開けてくれたり、体育の道具を片付けるのを手伝ってくれたり…」


 しばしの黙考の後、ん? と首を傾げたのは楓を含めた全員。

 ふと、何かに気付いた楓が少女の腕を離して、身を引く。ドン引きしているらしい。


「…両手をプリント抱えて立ち往生してる奴がいたら、ドアくらい開けるだろ普通。ボール籠とか結構重いんだから、男がやるだろ普通」


 誰かが物を落とせば、反射的に拾って渡すくらい誰だってしたことがあるだろう。

 その際、相手の事を注目して認識しているかと言ったらそうじゃない。誰だって、通りすがりの他人の詳細を覚え、名前を憶え、何気ない日常的動作を深く考えたりはしないだろう。


 つまり、何から何まで、少女の思い込みによる暴走ということだ。


「…ストーカーみたい」


 嫌悪感をにじませたあかねの呟きは、静まり返っているその場に嫌に響いた。

 おそらく、全員が思い浮かべた事なのだろう。

 誰もが、心もち身を引いている。

 この場合、楓に非はない。

 日常的に自然と行っている善意が悪いなどとのたまう人間はまずいないし、その程度の接触で相手を覚えていない楓が悪いとは誰もいえない。


 ストーカーと呼ばれた少女は、きっとあかねを睨みつける。


「酷いです! わたしは…」


「じゃぁ、どうして私の事を知ってたの?」


 ふいに、灯が口を開いた。

 楓の問答に怒りがいささか削がれたが、つつきどころを見つけたようで愉快気な笑みを浮かべて切り込む。その背後に、どす黒いオーラが見えたのは楓と幸希とあかねの三人だけだった。

 …般若と鬼子母神と黒いオーラ。果たして、どれがマシなのか。


「街で見かけた? それだけじゃ、名前なんてわからないし、通ってる大学なんてわからないよね? 楓と面識がないのに、どうしてわかったの? 楓の友人と面識がある? でも、楓は人の情報を簡単に友人とは言え他人に言い触らすような子じゃないから、その子達が知っている可能性はとても低い。…ねぇ、貴方は、どうして私の事を知ったの?」


 二股、というくらいだから灯が光一と付き合ってるのも知っているということだ。

 三日前から遠征合宿に行っている光一には、すでに話をしているが少女に覚えはないようだった。


 矢継ぎ早に問いかけられて、少女は言葉を失った。

 その様子こそが、どうやって知ったかの証拠だった。


「私の周りは、私の事を名字で呼ばないの。祭兄さんは婿養子になったから、楓とは苗字が違うの。だから、貴方が私の名字を知るには、誰かに聞くか私の事をつけるかするのが一般的だけど、私の後をつけたんだとしたら、楓と一緒の家ってことに気付いて親族だと思うわよね? そうじゃなかったってことは、それらとは違う後ろ暗い方法で調べたってことでしょう?」


 親族だと気付いても従姉弟同士と思われるのが落ちだ、と灯は自覚しているがわざわざそれは言わない。

 誰かに聞いたとしても、女子中学生が大学生に接触したりすれば目立つ。交友関係が意外に狭い灯と違い、幸希は広く浅くがモットーな為友人が多い。そちらから情報が入ってきても良かったのに、それもなかった。幸希は特定に対してだけ深くかかわる。特定がものすごく限定的なだけで。


「まぁ、別にどうだっていいのよ。はっきり言って、私は貴方に興味がないの。どうでも良いの。どうなっても構わないの。無関係だもの」


 どこまでも突き放し、どこまでも存在を否定する灯を咎める者はいない。

 灯の怒りはもっともだから。


「だから、私から言うことはこれだけよ。とっとと消えなさい。そして、私達の前に二度と姿を現さないで」


 私達、ということは、楓を含めた家族と幸希達をふくめた友人達、ということだ。

 それを理解したのかどうかはともかく、少女はそのまま走り去る。

 結局、謝罪はなかった。

 そのことに不満げな楓に、灯は綺麗に笑って吐き捨てる。


「電波的バカの謝罪は耳が腐るだけよ。捨て置きなさい」


 辛辣、と思いつつも反論できない言葉に、楓はただ頷くよりほかなかった。


 その後、さすがに場所を移して灯達は楓にお昼をおごり、それぞれの目的の為に分かれた。

 およそ半月後、楓によって少女が転校したことを知らされた。



※※※



「あの後、ちょっとした興味本位であの女の子の事、友達に聞いてみたんだよ」


「あの女の子?」


「楓君に恋して暴走した電波少女」


「あぁ…」


「で、何かあったの?」


「転校歴がすごかった」


「…どういうこと?」


「通う学校全部で、同じような騒動を起こしてる。ある学校では、文武両道で御曹司な生徒会長と恋人だと吹聴して、生徒会長の婚約者に詰め寄って口論になり、怪我を負わされたと訴え出た」


「よく無事だね、それ。社会的な意味で」


「あの電波自体も、そこそこの資産家だから、金で対処したんだろ。その後、自作自演ってバレて転校。ちなみに、その転校先が楓の中学。中学だけで、八回も変わってる」


「「「八?!」」」


「驚きだよな…」


「確かにね。でも、それよりも驚きの事があるの」


「何だ?」


「…幸希の友達の情報源ってどうなってるのよ」


「……さぁ?」


((確かに、そっちの方も怖い…))








正式タイトル:藤川 灯の(電波的妄想)勘違い(騒動)


※ 灯と幸希は高校時代からの付き合い。

※ 灯とあかねは小学校からで、あかねが灯のいる小学校に転校して来た。

※ 幸希とあかねは灯を介して高校時代に知り合った。

※ 楓の初恋は灯だが、二番目はあかねだったりするが、告白する前に同じ中学の先輩(2歳上)に掻っ攫われた。


どうでも良い蛇足↓

※ 灯の長兄・縁は結婚して海外在住。二人の娘がいる。

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