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第一話-5

 ゆっくりと目が見開かれる。口が開く。だが、言葉は出て来ない。言葉にならないのだ。


「な……な……」


 寸前までは凪だった男の心中では、いまや様々な感情が渦巻いていた。恐れ、憎しみ、謎が混ざりに混ざって、喉元ででつっかえて、だから何も言えなかった。

 数秒そのまま戦慄き続けてからようやく、男は明確な言葉を口にできた。

 そう、言いたかったことはその一言だけ。


「何故、それを」


 それが問いかけに対する肯定の意を含んでるとも気づかぬままにその一言を口にした次の瞬間、男の体は宙を舞っていた。

 いや舞っていたという言葉は適切な言葉でないだろう。

この場合は、宙を『突っ切っていた』とでも表現すべきか。まるで槍投げの槍のように、野球における外野から内野への直接の返球のように、男は一直線に、空気を切り裂いて飛んでいた。


 もちろんいつまでも空中に在る事など敵うはずもない。やがて、重力に引かれて、男の体は地面と接触。土煙を立てながら何メートルか、地上を転がりその後ようやく止まった。


 ピクリとも動かない。どれほどの衝撃を受けたのか、ぐったりとしているその様は、遠目から見るとまるで襤褸切れの様だ。


 投げた張本人である青年は男が止まったのを確認してから再び歩き出した。すぐ近く、まで進み、立ち止まり、見下ろす。そして、再び男の襟首を掴んで――その時だった。


 「待ちなさい‼」


 空気を切り裂くような、激しい声がした。


 男の胸倉から手を離すことなく、青年は声の聞こえてきた方を見る。ややうずたかく積まれたスクラップの上に、月光を背にして人影があった。


 人相は分らない。逆光だからだ。青年は目を細めるが、それでも分らない。分かるのは背丈がそれほど高くはない事と、それと、背中に何か大きくて長い物を背負っていることくらいか。


 だから、無視することにした。

 

 影から男へと再び向き直り、持ち上げる。

 すると。

 「待ちなさいと、言っているでしょう‼」


 声と共に、目の前に光が飛び込んできた。一体何なのか、答えを見極めるより先に、その輝きに目をやられそうになって、反射的に青年は空いてる方の手で顔を庇っていた。


 「その人を下ろしなさい‼」


 またもや声がした。だが、青年には直ちにその姿を確かめる事は出来なかった。

 僅かに作った隙間から差し込んでくる光に眼が慣れるのを待って、それからようやくその正体を確かめることが出来た。

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