プロローグ
近未来。人は二つに分かれていた。異能を持つごく少数派と持たないごく大多数である。
後者に関しては言う事などない。重要なのは、前者だ。そのような因子がいつ、どこで、どうして生まれたのかは、誰にも分かっていない。今までも異能を持った者は存在はしていたが、しかしごくごく少数であった。彼らは山奥や人里の奥深い闇の部分に息を潜めて暮らしていた。
だが、そんな異能者がある日を境にいきなり発生し出したのだ。
それまでは異能者は異能者の両親の下でしかほとんど生まれず、それゆえに数も限られていた。
それが急激に、だ。普通の両親の間に生まれた子供が異能者である割合が、急激に増えたのだ。何かしらの天体の爆発によって特殊な光が地上に届きでもしたのか、あるいは蛇口から落ちる滴がコップにたまるように、遅々とした歩みで何世代もかけて起きつつあった進化が一線を超えた結果なのか、何もかもが不明だ。
ただ確かなのは、物を使わずに空を飛べる人間が、物資の詰まったトラックを軽々と持ち上げられる人間が、弾丸よりも早く走れる人間が誕生したと言う事であった。
とはいえ、ごく少数である。また、これまでの行いを省みて多少賢くなっていたこともあって大多数の人類は、能力の規制と引き換えに、少数派に共存を約束した。
こうして、人類は一つになった――かに見えた。だが、残念なことにそう上手くはいかなかった。
異能を得た者の皆が気の良い善人と言う訳ではなかったのだ。少数派の内の半分は、自らの力を自らのために使うことを決めた。『ヴィラン』の誕生である。
多数派は恐怖した。約束したことを後悔し、弾圧をも辞さない構えを示した。一瞬即発であった。
この流れを止めたのは、ヴィランとならなかった異能者たちだった。彼らは自分達を、ヴィランと常人たちの間に建つ『壁』とした。
常人は彼らを、『ヒーロー』と呼んだ。