彩と鈴のつながり
私は、生まれつき手足がなく、視力もゼロ。つまり私一人では何もできないのだ。でも、両親は私を、こんな身体の私を愛してくれていた。不自由な身体でも、両親の注いでくれる愛さえあれば、なにもいらなかった。
…だが、そんな幸せな毎日はいとも簡単に崩れ去った。
私に、妹ができたのだ。妹が母のなかにいるとわかった途端に両親は…いや、親戚全員が出来損ないの私を見捨てた。つらかった…信じていた、血の繋がった家族にさえ見捨てられてしまった。
そう…私は捨てられたのだ。一人では生きることも、『死ぬ』こともできないこんなクズは捨てられては当然だった。誰だって健康、五体満足がいいに決まってる。私だって、好きでこんな身体で生まれた訳じゃないのに…。だから私はこんな身に産んだ家族を恨んだ。世界が憎い。こんなにも世界…いや、人間を呪った人間がいただろうか…たくさん居たんだろう。世界は理不尽だ。
そんな時…私を救ってくれた人がいた。一人は、私を買った天野博士。もう一人は、村上鈴之介。彼は、誰もが嫌っていた私と居てくれた。当時は小学生だったからか、一緒に居てくれる事がどんなに心強かったか。たぶん、その時に私は初めて人を好きになった。いや、恋に落ちたんだと思う。見ることも、触れることもできない彼に恋したのだ。恥ずかしかったが私は心に渦巻く思いのままに告白した。何気ない会話の途中に…
「ねぇ…村上くん」
「なに?どうしたの?」
「あのね…私、村上くんの事が好きなの!」
「そうなんだ…俺も、渡瀬のこと好きだぜ?」
「ううん。そういうんじゃなくて、異性として好き…なの」
「俺もそのつもりだったんだけど」
そんな風に思いを告げることはできたのだ。私は生まれて初めて理不尽だと思っていた世界に感謝した。
もっと嬉しい出来事もあった。博士が新しい身体をくれると言ったのだ。無邪気に喜んだ。村上くんの顔が見れる。触れられる。と思うと自分の顔が赤くなるのがわかった。
「でね、彩乃ちゃん。新しい身体になったらさ…元の身体はいらないよね?」
いらないに決まっている。
「だから、元の身体は私が預かろうと思うんだけど、どう?」
「全然いいよ!」
「あともう一つ。彩乃ちゃんが新しい身体に移ったら、私が指定した人を回収してくれないかな?私の言ったとうりにすればいいからさ」
「もちろん、構わないよ?」
「よし、交渉成立だね…じゃあさっそく」
博士が用意したのは万能物質と呼んでいる、ゼリー状の黒い物体を取り出して、私に
「ちょっと、血を採らせてね…」
といって、血を抜き取っていく。そして、その血を万能物質に混ぜると、本来の私の身体になるはずだったモノが完成する。あとのプロセスは秘密らしい…。次に目が覚めたとき、私の世界はがらりと変わった。
初めて見る自分の姿。自分で言うのもおかしいんだけど、かわいかった。視線を部屋の端にあるベッドに向ける。確か、さっきまでそこにいたのだ、私の身体が…あった。私は現実を知った。我ながら思う。よくこんな身体で生きてこれたと思った。
「さっそくだけど、この一家を回収してほしい。」
どんなに一家かと思い見る。名字は………渡瀬、私を捨てた奴らだった。どうやら博士は、私に復讐の機会を与えてくれたのだ。
「わかりました。いってきます」
数時間後…私は博士に渡されたキットを使って、あの一家を惨殺してきた。初めて人を殺したがこんなにゾクゾクするとは…はらわたを引きずり出し、首をかっ切ってやった。そしてその肉塊を研究所に持ち帰る。
「ありがとう、彩乃」
「ありがとうございます、博士。復讐の機会を与えてくださって」
こうして、私の第二の人生は始まる。
あれから、数ヶ月と経たない内に事件は起きた。どうやら、王城で会食をしている王族たちが、ウイルスによって消滅したというのだ。そんな事があって、大変だなぁ~と人事のように思っていると、一通の電話がかかってきた。
博士がでる。
「え!?なんだって?生存者?有り得ない。跡形もなく消える代物なんだぞ。とりあえずこっちに運んで来て」
「はかせ~、どうしたんですか?」
王族の内の一人が生き残っていたらしい…ここに運んでもらってる。」
「ふーん」
そして、運ばれてきたのは、村上くんだった。村上くんは、王族だったらしい。それより!
「博士!!彼を助けてください!」
「わかってる。あのウイルスに耐えるような人間だからな。何としてでも助ける!」
そう言って、取り出したのはいつかの万能物質だった。それを、無理やり口に突っ込んで食べさせたのだ。すると村上くんの身体が大きく痙攣する。暴れないように抑えつけていると、落ち着いたようだ。
「ふぅ…適合したようだな…」
「博士…彼は…村上くんは?どうなるんですか?」
「私にも、わからない…様子を見てみないことにはな…」
「…博士、気になったんですが万能物質っていったいなんですか?」
「………万能物質っていうのはね、生きていたモノを一度、私の作ったウイルス…《グラン》を混ぜると、生命エネルギーを塊として取り出せるの」
「………それで」
「患者、村上鈴之介は《グラン》に感染しながらも、粒子化せずに耐えるような人間。救う価値はある」
「………」
「ちょっとした副作用はあると思うけど…」
「どういうことですか?」
「この研究はまだ未完成なの…彩乃みたいに万能物質だけで構成されているならまだしも…生身の身体だから…」
なんとなく、気になってベッドをみると
「あの…ここどこですか?」
「村上くん、目が覚めたの?」
「ん?君は誰ですか?」
「え…渡瀬です。忘れたんですか?」
「ああ…渡瀬さんか、びっくりしたよ。どうしたんだい?その身体」
「博士に作ってもらったの」
「そうなんだ…!?そうだ、母は?家族はどうな…って…………」
テレビの報道を目にした村上くんの瞳から光が消えた。私にはわかる。雰囲気からして、昔の私と一緒の感じ…絶望してしまった。
「みんな、きえちゃった…俺はどうしたら…」つらくてどうしようもない。死にたい…そう呟いた。博士は
「ねぇ?村上くん、つらいかもしれないけど、その時なにがあったのか教えてくれない?」
「はい…父が、親戚を集めて会食をしようと言ったんです。肝心の父は弟と一緒にどこかへ行きました。きえてなくなるちょくぜんの母の言ったことは忘れられません。『鈴之介を残して死ねるわけがない!!』と叫んで…きえてなくなりました」
「ありがとう、教えてくれて」
「村上くん、つらいかもしれないけどいつか絶対生きてて良かったって思える日が来るから。だから、絶対に死のうなんて思わないで!!」
「ありがとう、渡瀬さ…ん…」
それが、私の記憶の中にある村上くんと交わした言葉だった。彼はそれから、約3ヶ月も目を覚まさなかった。
約3ヶ月後…無事に目を覚ましたものの、記憶の大半は残ってなく、私のことも忘れてしまった。つらいといえばそれが一番つらい…。
はい…どうも、鵺織深尋です。どうでしたか?急に、彩乃視点の話になって驚かれたと思います。すみません。
天野博士の作ったウイルス《グラン》
安達創平が研究していた万能物質
天野博士はなぜ、とりついた生物を粒子化してしまう脅威のウイルスをつくったのか…
創平さんはなぜ、万能物質を作ろうといたのでしょうか?
それは神のみぞ知る!!!
次回は普通?の日常をお送りするはずです!
ではでは、ばいにゃら~