鈴之介という存在
「さて、どうしようかなぁ…」
「なにが?」
「ん?いやー…このあと学校に行くのめんどいなーって思って」
「ふーん」
今、時刻は九時を過ぎたくらいの朝だ。学校では、一時限目の科目をやっている頃だろう。
「さやかは、どうすんだ?学校あるだろ?」
「ないよ」
「休校日か…」
「そう。でも学校行かないと…」
「休みなのに?ナンデー?」
「いろいろ…手続きとか」
「ほぉー。そうかそうか…んじゃ学校行ってこい。ほれ、スペアキー渡しとくから」
「うん…じゃいってくる!」
「いってらー………」
最近どうも調子が悪い。心臓の鼓動がやたら速くなったりするし……。
ブブーッ、ブブーッ、ブブーッ…
お?電話か…誰だろう…コイツか…
「何の用だ。早く言え」
『相変わらずヒドいな~、鈴之介くん』
「用がないなら切るぞ」
『待って待って、切らないで!用はあるから!!』
「さっさと、しゃべれ」
『もうすぐ、1ヶ月たつでしょ。検査受けに来なさい』
「今日はそっちに行くつもりだから」
『わかった。待ってるね~』
うーむ…とりあえず学校行こう。真璃に行くってメールも送っちゃったし…うそつき、ダメ、ゼッタイ。
「なんで昼からなの?昼から来るなら昼食、家で食べてから来ればいいじゃない…」
「しかも、肝心の弁当持ってきてないとか…大丈夫か?スズ」
「大丈夫、シニソウ…ヘルプミー!」
てなわけで、昼休み真っ最中なんですが…弁当を忘れるという失態を犯してしまった…腹減った。
「小花衣の所にでも行ってみたらどうだ?」
おい竜成、俺が尋問を永遠受け続けることになるかもしれないんだぞ。恐ろしい…。
「お?噂をすれば…スズ、お客さんだ」
「ん?客ってだ…れ…………」
昨日のドス黒いオーラで真璃の姿が見えないんだが…!?
「スズ…む、村上くん。お腹空いてたりする?」
「めっちゃ空いてる。もしかして、その弁当俺に?」
「そう…だよ?」
「ありがとう!まり…小花衣さん」
俺は喜んで弁当を受け取る。真璃もうれしいようだ。ソースは、ドス黒いオーラが消えていること。
「愛妻弁当かぁ~、いいなぁスズは」
「なによ…私に対する侮辱かしら?」
今までほとんど口を開かず、黙々と弁当を食べていた雫が言った。
「違います!雫さまぁ…」
何これ。新しいごっこ遊びかなにかなの?コレ
「いいわ…竜成なんて知らない」
「ひでぇ!?そんなこと言わないで!」
「ふんっ!…ねぇ、スズ。私と付き合ってくんない?」
…………………。
「…………………ムリデス。許容量ノ限界ヲ越エマシタガガガアガガガアアアアア」
「ふざけないで。私は真剣よ」
「ちっ……ダメだ。雫は知ってるだろ。だからダメだ」
「知ってるからこそ言ってるんじゃない!」
雫が机を思いっきり叩く。若干机がへこんでいるように見える。
「わかった…」
そう言ったあと、俺は雫の耳元で「あくまで形だけだからな。狙いは竜成を困らせることなんだろ?おおいに参加させてもらうぜ」と告げた。すると雫はウインクをしてきた。意志の疎通は出来たようだ。
「じゃ…いっただっきまーす」
俺は何事もなかったかのように、真璃に貰った弁当を広げる。唐揚げや玉子焼き、タコさんウインナーも入っている。めちゃ美味しそう!
「うん…うまい」
美味しすぎてぺろりと食べてしまった。
放置していた竜成の様子をうかがうと…案の定フリーズしていたので、さらに放置することにした。そしてあのシステムを思い出した。恋人がいる生徒は午前の授業だけで帰ることができる。
と、いうわけで自宅に帰ってまいりました。そりゃあもちろん、真璃と帰って来ましたよ?
「なぁ…真璃」
「なに?スズ」
「ちょっと用ができてな…たこ焼きパーティーはまた今度にしてくれないか?」
「えー…楽しみにしてたのに…」
しょぼくれる真璃。
「そもそもたこ焼き器が家にはないんだけど?どうやってパーティーすんだよ…」
「確かに…では、また今度でいいですよ」
「ありがとう、んじゃ俺は用を済ましてくるわ」
といって、俺は住宅街にある、病院と言うには小さく、診療所というわけでもない個人で運営している奴に検査されに来た。
「やっはー!!待ってたぞ」
「待たしてやったぞ~…天野せんせい」
「瑞穂先生と呼びなさい」
「やだね。それよりとっとと検査始めようぜ」
「いいじゃん、兄姉なんだし…」
そう、俺と瑞穂は義理の兄姉だ。正確には、俺の弟、帝翔と瑞穂の妹、美亜が婚約を結んでいるからな。何度も言うが俺は、血のつながり以外は帝翔と何の関係もない。で、思ったんだが
「何でテメェがいるんだよ!?クソ親父!!」
「え、なんでって…いやー、天野博士がもうすぐお前が来るって聞いたからな。それで来たんだ」
「知らねぇよ!!なぜ来たし…」
「お前に話しておかなければならん事があってな…」
「なんだ?」
「王位を帝翔に譲ろうと思ってな…」
「なんだよ…それか。知ってる」
「ええぇぇぇぇぇえええぇぇえ!?なんで知ってるんだよ!」
王様らしからぬ大声とオーバーリアクションで反応する。
「帝翔から聞いた。あとあんた今失踪中ってことになってるよな?」
「……そう、だが…」
俺はおもむろにケータイを取り出し、
「あ、もしもし…ここに王様が…ちょ」
「やめぇぇぇい!!通報するな!」
ちっ…あとちょっとだったのに…。
「ねぇ、鈴之介くん。検査しない?」
「早く始めろよ…じゃあ」
もう、親父は知らん。無視で。
「前回から今回までになにかあった?」
「…いろいろあったなぁ…」
「例えば…告白されちゃった、とか?しかも3人に、とか?」
「何で知ってるんだよ…まぁいい。そんなとこだ」
「ふむ…ふむふむ…」
「なにいってんだよ…」
「んじゃ、採血しま~す」
注射器に採られていく血を見る。血が黒い。その採ったばかりの血をよくわからん機械に突っ込む。結果がでるまでしばし…お!結果がでたようだ。
「ふむ…なるほど。あれだね、最初と比べてホルモンが異常に分泌されてる…特に男性ホルモンが急激に上昇しているしね。これじゃない?モテる原因って」
そうだったのか…だから?と目だけで訴える。
「ま、男らしくなったってゆーことだね」
「そうか…でウイルス本体は?」
「………なんとも。鈴之介くんの言ったことが本当なら、なにがトリガーになるかわかんないし…」
「なら問題ないな。そこまで異常は感じないしな。大丈夫だろう」
「じゃあ、最後に確認させて」
俺は瑞穂に左手を差し出す。差し出した左手に黒い物体、万能物質と呼ばれる塊を露出させる。
「…よし、特に問題ないな。帰ってもいいよ」
「あざーっす…んじゃ帰りますわ」
万能物質を体内に戻し、帰る。
◇ ◇ ◇
鈴之介が帰った後…瑞穂は一徹に話しかける。
「もう三年経つんだし…ほんとのこと言ったらどう?」
「まだダメだ。今は、その時じゃない」
「そう……ならいいわ」
「天野博士、回収してきました…そちらの方は?」
「おかえり、彩乃。こちらは、安達一徹…この国の王様だ」
「この方が…」
「そう、私の研究に関わっている方。私の研究は彼のお父さん…安達創平さんの研究を引き継いだんだ」
「そうだったんですか、博士」
「まぁ、創平さんとは目的は違うけどね…」
どこか虚空を見つめる瑞穂。その顔には悲しみが混ざっているようにも見えた。
「博士、どうして彼だけは回収してはいけないのですか?」
「彼?…ああ、鈴之介くんね。それは絶対にダメ」
「理由を聞かせてください!博士!!」
「じゃあ、少しだけ…彼はこの世界の重要な人間なの…いや、人間ではないわ。彼は世界の秩序そのものだと思われる」
「……どうして彼なんですか?」
「さぁ…それは、神にでも聞かないとわからないわ。一つだけ言えるのは、神様というものは私達にとって理不尽なものなんだ」
「………そう、ですか」
彩乃はそういい残して、再び回収に向かった。
どうも、鵺織深尋です。今回は重要なキーワードを少し…万能物質…この世界における神…鈴之介が世界の秩序…回収…意味深なワードがたくさん出てきました。これからのこの世界はいったいどうなっていくのか、鈴之介という存在はなんなのか。今後の展開をお楽しみに~。
…読者のみなさま、こういう話をしてほしい、こんなキャラを出して欲しい、などありましたら、コメントしてください。なるべく話の中に出せたらいいな~とおもっています。